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第1章

11 見破られた悪戯

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  メアリー王女付きの女官に案内されて、マティルダは部屋を目指す。
その手には、数学の教科書が渡されていた。

「この部屋が、メアリー殿下の勉強部屋です。
王女殿下は気難しく、気性が少しだけ激しいお方です。
ですか…。とても、とても!
素直なお心を、お持ちの方でございます!」

参考にならない人物評価。

なにを言いたいか分からないが、振り幅が地面から空まで広そう。
側にいる方々も大変ね。

子供はそんなもんだし…。
あのアリエールと比べたら、いくらかはマシだろう。

「……、はい。気をつけて、王女殿下にお仕えします」

そうは言ってもね。
想像するに扉を開けたら、上から水が降ってきたり。床に油でもられて、足をすべらしたりするんではと思うのよ。

過去に妹にされた悪戯いたずらだ。

「扉を開けるのは、先に中の方ですよね。
私たちかららズカズカと王女様のお部屋には、恐れ多くて入室なんて出来ませんわ」

なかなかお立場を理解していると、案内係の女官は満足そうな態度をしめす。

「お声掛けしてから、入室許可をしてから入ります。
私が声をかけますので、マティルダ様は後から付いてきて下さいませ」

そうなると、彼女が1番先に被害者になってしまう。
覚悟の上の玉砕ぎょくさいか、はたまた知らないのか。
または、何も起こらないのか…。

ぐるぐると頭の回転を、忙しく働かせるのであった。

こんなに暑いのに、ストールを羽織はおってるのには理由がある。
これは、わなける道具になる。
ストールのせいで変態へんたいに見えるが、熱中症で体調悪くて寒気がするって嘘をついていた。

体まで張って初出勤をする、まだ15歳の伯爵令嬢。

かんがいい方々は、ストールの使い方がもうお分かりだろう。

「コンコン…、メアリー王女殿下。
本日よりお勉強を共にする。
マティルダ・サンダースをお連れ致しました」

部屋の中では、何やら子供らしい高い話し声がしていた。
間違いなく、メアリー殿下。

「お入りなさい。
サンダース先生お一人で!
先に入るようにしなさい」

やはり予想していた通りに、彼女は私に何が仕掛しかけるつもりなんだわ。

「マティルダ様。
メアリー王女殿下は、ああおっしゃっていますので……」

「そんな、お顔をしないで下さいな」

彼女は案内してくれた人に、大丈夫的な微笑みを返す。

マティルダが扉を開けると、上からびっしょりと濡れた布の塊が降ってきた。
水が直接でないだけ、マシだと瞬時に考える。
頭をショールでおおい、落ちてくるとそれを手で叩き捨てる。

下を良く見ると、床下が濡れているように見えた。
そこをけて部屋に入りたくても、結構な範囲で無理そうだった。
ショールを今度は床にひくと、その上を優雅に歩いて行く。
サッと素早く、ショールを片手で持ち上げる。

   奥の部屋に居たメアリー王女は、女性たちの驚く悲鳴があがらないのを不思議に思った。

「なんで、こんなに静かなのよ」

隣に控える女官に伝えると、黙って顔を下に向けるだけ。

「もういいわ!私が、行って見てくるからー」

我慢できないのか王女は、奥の勉強部屋から出て行くと平然と立っている二人の女性がー。

「貴女が、新しい家庭教師ね!
此方に来なさいって呼んでいるのに、どうして言うことに従わないのよ!?」

隣の部屋が筒抜けな会話に、マティルダの後ろに控える案内人は困惑の表情になる。

「ちょっとー!
貴女なんで、側にこな!
あぁーーーー~っ!!」

ドタンバタンって派手な音が本当にして、綺麗に片足を挙げてスッ転ぶ。
先が読めていたためマティルダは大声で笑いたかったが、それはあまりに不敬ふけいにあたるので途中でやめてえていた。

これが不本意にもマティルダとメアリーの出会いの初めとなってしまった。

部屋に入室して、王女を静かにお待ちしていただけ。
突然飛び出してきて、転んだ王女様は間抜けな状態に…。

一人で大騒ぎして痛い痛いを、ただひたすら叫び続ける。
私以外の女官たちは、あわわして声がけをして必死だった。

シラーって冷たい視線をしていたら、メアリーはマティルダのその態度が気に入らないようだ。

「貴女が、悪いのです!
素直に来ないから、びちょ濡れにならないし転びもしない。
どうして、私がお尻を痛くさせるのよ!!」

アホか…。誰が好き好んで、すってんころりんするのよ。
はぁ~、アリエールに似てるわ。
自己中で意味不明なのが…。

「……、はぁ~。……」

「ため息付いてないで、何か言いなさいよ。
無礼者、私を誰だと思ってるの!
この国の第2王女よ!」

自己主張激しいのまで、妹にソックリとは…。
エドワード殿下も、ご苦労されていそう。

「言わせて頂きますが……。
この悪戯は、メアリー王女が仕掛けたのですね?!」

「そうよ、私がしたの!
今までは、上手く掛かってくれたわ!」 

事実を知りつくくしているが、渋い表情をする女官。
命じられて準備をしたのは、実行犯は間違いなく彼女だろう。

「メアリー王女、この件は母上の王妃様にお伝えします。
過去の余罪が、数件あることもです」

「告げ口をするって、私を脅すの?!」

「そりゃあ、本人から聞かされて黙る人はいませんよ。
私はお人好しではないので、過去にさんざん……。
妹に実行されて、見破るのお手の物です」

相手が一枚上と知ると、彼女は痛がっていたお尻をさすり立ち上がる。

「面倒かけるけど、ここをかたして頂だい。
貴女は、私と奥の部屋に来なさい!」

「貴女ではなく、マティルダ・サンダースですわ。
初めてお目にかかります。
メアリー王女殿下」

カーテシーをしての挨拶に、彼女も軽く挨拶をしてくれた。
私に対して、関心がある証拠だ。

王女の後をついていくが、奥の部屋にまだ仕掛けはないとはいえない。
緊張を残しつつ、マティルダは勉強部屋に足を踏み入れる。

   
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