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第1章
9 王宮暮らしは天国
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マティルダは女官に連れられて、従事する人たちの屋敷へ案内された。
個室の部屋で、机と椅子にベッド。
クローゼットの中には、女官用の制服が2枚吊るされていた。
学園の制服から、この女官服に着替える。
夕食時間に呼びに来てくれると教えられ、それまでは休むように勧められた。
椅子にボンヤリとして、この先をどうするかを少し考える。
「ハロルド様と私の婚約は…、破棄で決定ね。
破棄ではなく解消になりそう。
アリエールに差し替えて、何もなかったようにするつもりだわ。
今頃は、私の悪口で馬車の中で二人は盛り上がってるんではない」
学園の寮から来たあの二人は、仲良く手を取り合って帰省中。
目で見なくても、想像だけで分かる。
我が家サンダース伯爵領と、婚約者ハロルドの領地は隣同士。
婚約話は5歳の時に顔合わせをして、両親たちの間で勝手に決められた。
所詮、お決まりの政略結婚だ。
「まぁ、生まれて性別を知ってから結ぶ婚約もあるけど。
たった5歳で、婚姻する意味さえ分からない子供たちに約束させるなんてね。
普通は会わせてから、2人を仲のようすを見てから婚約を結ぶでしょうがー」
子供に対して愛があるなら。
王家のそれも未来の王太子妃を選ぶのでさえ、こんなに時間をかけているのに!
「二人でお茶したり遊んだりすると、双子の妹は絶対に金魚のフ○みたいに後ろに付いて来ていたわ。
それが今では金魚でなく、まさに発情期の猫みたいになっている」
『どうせなら、私より先にアリエールが生まれてくれば良かったのに。
10年間、ずっとそう思って育ってきた』
「コンコン……」
扉を叩く音がして、我に返った。
「はぁーい、いま開けます!」
ガチャリとドアノブを回して、マティルダは扉を開ける。
「サンダース伯爵令嬢、初めまして。
私は案内と相談役を頼ませました、ベッキーと申します」
「コチラこそ、宜しくお願いします。
ベッキーさん、私をマティルダと呼んで下さい」
まだ、未婚で成人してないかもね。
黒に近い茶色の髪を、左右でキッチリ三つ編み。
真面目って、一発で分かる外見をしていた。
「ですが、伯爵のご令嬢をそのように呼べません。
マティルダ様と呼ばせて頂きます」
「それでは私も、ベッキー様と呼びます。
将来は王宮で働きたいと考えていますので、居る間は色々と教えて下さい。
宜しくお願いします!」
こう言ってみて、思い付いたわ。
これは悪くない考えだ。
実際、貴族の出身の令嬢たちはたくさん従事してるって聞くわ。
「夕食を食べに行きましょう。
今日は、晩餐会がなかったみたいで残念だわ。
茹でた肉料理とかが、用意してあるといいけど…」
「……?晩餐会?お肉?」
「晩餐会で残った食べ物が、私たちに貰えることもあるの。
お金があれば、外に食べに行ったり買いに頼んだりするわ」
食生活は質素になりそう。
お肉は実家でも学園の寮でも、毎日出されていたから。
「好きなものを食べたければ、お金が必要なのですのね」
「フフフ。まぁ、そういうことよ。
でも、お茶は好きなだけ飲めるわ」
周りを見るとお茶を飲んで寛ぎ、談笑する人たちでいっぱい座っている。
「ここには、茶葉がたくさんあるの。
王族の方々が飲むのとは、質は全然違うけどね。
下働きは生きて働いて、お腹を満たすのは大変よ」
貴族であり続けたいと、強く願うのは当然。
長女で相続権利のある私を、アリエールが羨ましがるのは理解できる。
「だからハロルドに固執しないで、ちゃんとした嫡男の婚約者を探せばいいのに…」
「何か言いました?マティルダ様?」
「いいえ、独り言ですわ」
首を振って用意された夕食を静かに食べると、肉になんの味もしない。
「私たちには、香辛料は滅多に口にできないわ。
女官長なると、独り部屋でローストビーフにワインよ。
これでも慣れてくれば、美味しく感じてくるから」
「お肉も野菜もアッサリが好きだから、慣れると思います」
今までは、ちょっと良い食事をしていたのね。
寮生活の料理は、この中間だったようだ。
実家を出て独りで生きるには、これからは贅沢は敵ってことだ。
料理を一口入れて味をあじわい、それを飲み込み感じていた。
マティルダの王宮での夏休暇が始まる。
個室の部屋で、机と椅子にベッド。
クローゼットの中には、女官用の制服が2枚吊るされていた。
学園の制服から、この女官服に着替える。
夕食時間に呼びに来てくれると教えられ、それまでは休むように勧められた。
椅子にボンヤリとして、この先をどうするかを少し考える。
「ハロルド様と私の婚約は…、破棄で決定ね。
破棄ではなく解消になりそう。
アリエールに差し替えて、何もなかったようにするつもりだわ。
今頃は、私の悪口で馬車の中で二人は盛り上がってるんではない」
学園の寮から来たあの二人は、仲良く手を取り合って帰省中。
目で見なくても、想像だけで分かる。
我が家サンダース伯爵領と、婚約者ハロルドの領地は隣同士。
婚約話は5歳の時に顔合わせをして、両親たちの間で勝手に決められた。
所詮、お決まりの政略結婚だ。
「まぁ、生まれて性別を知ってから結ぶ婚約もあるけど。
たった5歳で、婚姻する意味さえ分からない子供たちに約束させるなんてね。
普通は会わせてから、2人を仲のようすを見てから婚約を結ぶでしょうがー」
子供に対して愛があるなら。
王家のそれも未来の王太子妃を選ぶのでさえ、こんなに時間をかけているのに!
「二人でお茶したり遊んだりすると、双子の妹は絶対に金魚のフ○みたいに後ろに付いて来ていたわ。
それが今では金魚でなく、まさに発情期の猫みたいになっている」
『どうせなら、私より先にアリエールが生まれてくれば良かったのに。
10年間、ずっとそう思って育ってきた』
「コンコン……」
扉を叩く音がして、我に返った。
「はぁーい、いま開けます!」
ガチャリとドアノブを回して、マティルダは扉を開ける。
「サンダース伯爵令嬢、初めまして。
私は案内と相談役を頼ませました、ベッキーと申します」
「コチラこそ、宜しくお願いします。
ベッキーさん、私をマティルダと呼んで下さい」
まだ、未婚で成人してないかもね。
黒に近い茶色の髪を、左右でキッチリ三つ編み。
真面目って、一発で分かる外見をしていた。
「ですが、伯爵のご令嬢をそのように呼べません。
マティルダ様と呼ばせて頂きます」
「それでは私も、ベッキー様と呼びます。
将来は王宮で働きたいと考えていますので、居る間は色々と教えて下さい。
宜しくお願いします!」
こう言ってみて、思い付いたわ。
これは悪くない考えだ。
実際、貴族の出身の令嬢たちはたくさん従事してるって聞くわ。
「夕食を食べに行きましょう。
今日は、晩餐会がなかったみたいで残念だわ。
茹でた肉料理とかが、用意してあるといいけど…」
「……?晩餐会?お肉?」
「晩餐会で残った食べ物が、私たちに貰えることもあるの。
お金があれば、外に食べに行ったり買いに頼んだりするわ」
食生活は質素になりそう。
お肉は実家でも学園の寮でも、毎日出されていたから。
「好きなものを食べたければ、お金が必要なのですのね」
「フフフ。まぁ、そういうことよ。
でも、お茶は好きなだけ飲めるわ」
周りを見るとお茶を飲んで寛ぎ、談笑する人たちでいっぱい座っている。
「ここには、茶葉がたくさんあるの。
王族の方々が飲むのとは、質は全然違うけどね。
下働きは生きて働いて、お腹を満たすのは大変よ」
貴族であり続けたいと、強く願うのは当然。
長女で相続権利のある私を、アリエールが羨ましがるのは理解できる。
「だからハロルドに固執しないで、ちゃんとした嫡男の婚約者を探せばいいのに…」
「何か言いました?マティルダ様?」
「いいえ、独り言ですわ」
首を振って用意された夕食を静かに食べると、肉になんの味もしない。
「私たちには、香辛料は滅多に口にできないわ。
女官長なると、独り部屋でローストビーフにワインよ。
これでも慣れてくれば、美味しく感じてくるから」
「お肉も野菜もアッサリが好きだから、慣れると思います」
今までは、ちょっと良い食事をしていたのね。
寮生活の料理は、この中間だったようだ。
実家を出て独りで生きるには、これからは贅沢は敵ってことだ。
料理を一口入れて味をあじわい、それを飲み込み感じていた。
マティルダの王宮での夏休暇が始まる。
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