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第1章

7 待合室での再戦

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 学生たちは帰宅の馬車待ちで、この待合室で迎えが来るまで談笑だんしょうをしている。
普段とは違う、学期末の帰省きせいねてた馬車待合室はいつもとは違っていた。
夏の長期休みに入る喜びと、別れを惜しむ友人たち。

王族の第一王子エドワード殿下が、1番に馬車に乗って頂くのを全員がこうして待っている。
貴族たちによる、暗黙のおきてであった。

 その部屋に、エドワード殿下がマティルダを支えて入室してきた。
無論、2人きりではない。
5人の第一王子のエドワードの婚約者候補たちも後に続いて入る。
優雅に気品漂う彼と彼女らが、部屋の中へ足を進めた。
 
 だが…、そこにはー。

「マズい、よりによって!なんで、タイミング悪く居るんだ!?
あの者たちがー」

殿下の狼狽うろたえている声に、マティルダも自然と視線をそちらへ移す。

『うげぇ~、うざい奴らがいる!
どうして?アンタたちが先に図々ずうずうしく、平然と椅子いすに腰掛けてんのよ!』

エドワード殿下の様子の原因を知ると、彼女本人も反応し同じ気もちになる。
声こそ出さないが、同意見であるに違いない。

自分たちの後から楽しげにお喋りしていた令嬢たち3人は、前が急に立ち止まり不思議になる。

「エドワード殿下、サンダース伯爵令嬢?
立ち止まり、どうなさりましたの?」

3人のうちの身分が1番上のブルネール侯爵令嬢が当然のようにお声がけをしてきた。
残りの2名の伯爵令嬢たちも、立ち止まるマティルダたちの先を探るように体を動かす。

「やだぁ、あの二人?」

「誰ですか?ウソぉ~?」

伯爵令嬢たちが順々に気づき、最後に侯爵令嬢が前の人の壁から確認した。

「……、またまたですね。
私たちよりも、先に居ましたのね」 

前の出来事を鮮明せんめいに思い出し、似た感じの椅子に座って話す姿に言葉を失う。
絶望感ある侯爵令嬢のつぶやきに、4人は心うちで返事を返している。

「あぁ…、本当に申し訳ないですわ!
なんでまた、どうしてこうなるのですか…」

「サンダース伯爵令嬢。
落ち着き給え!
ココは…、まだ学園内だ。
あの者たちが居ても、仕方ない。
我々が居るから、平気だ」

力強い支援表明に、マティルダは軽く殿下と彼女たちには頭を下げる。


 エドワード王子のお出ましに、話し声がピタリと静かになった待合室。
視線は王子よりも、支えられていたマティルダに向けられていたのだ。

「アリエールとハロルド様」

つい口にしてしまった、気まずい2人の名。

「チッ!マティルダか…」

「マティルダお姉様。
婚約者たちがいらっしゃるエドワード殿下に、色目をお使いになるなんて淫乱いんらんですわ!」

舌打ちするのは、まだ私の婚約者。
姉を淫乱扱いするのは、その婚約者と浮気した実の妹。

「淫乱…?は~ぁ?!
淫乱は貴女ですよ!?
あの時は倒れてしまい。
なにがあったかは覚えておりませんけど、アリエール!」

痴話喧嘩ちわげんかが再び開戦されるのか…。
待合室は、熱気と寒気が同時にやってきた。

知っている者、知らぬ者。

突如とつじょ勃発ぼっぱつするケンカ腰の会話にザワつく部屋にいる学生たち。

「こんな大勢の前で、淫乱などの言葉を出してはいけませんよ!
サンダース伯爵家の名に、キズが付きます」

「なにを今さら…。
あんなに恥ずかしい事を言って、お姉様こそ恥知らずでしょう!」

「そうだぞ!独りで倒れやがって、無責任な奴だ!
俺たちが、アレからどうなったか知らんだろう!」

激しい言葉の激突に、一歩も二歩も遅れを取る間近にいたエドワード。
平和主義の彼には苦手な場面であるが、そうは言ってはいられない。

『私がしっかりとこの場を収めなくては、ここは王族として!』

「コホン、こんな場で争いは良くない!
君たちは頭を冷やして、これからの事を話し合わなくてはならないと思うぞ!」

「おお~!人格者であられるエドワード殿下だ!」

1人の男子学生の声に賛同する生徒たちは、この面倒な痴話喧嘩を終わらせて欲しいようだ。
仲裁ちゅうさいに割って入った勇敢ゆうかんな彼に、学生たちから湧き上がる称賛しょうさんの声。

三者三様の思いがあるが、ここは大人しく殿下に従わなくてはと深く頭を下げる。

「サンダース伯爵令嬢は、休暇中は王宮で預かる。
姉妹がいがみ合うのは良くないし、離れてみて相手の気持ちが理解できるだろうからな。ハハハ…」

ヨシこれで良い、三者を軽くにらんで牽制けんせいしてエドワードだけが納得する。

『それ、違いますよ!
どう考えたら、アリエールと私が同等になるの!?
逃げるためには仕方がない、ココは折れて我慢するか……』

「はい、エドワード殿下。
殿下のおっしゃる通りですわ。
アリエール!お父様に手紙を送ります。
全部洗いざらい書くから、そのつもりでいなさい!」

「フン!先にお父様やお母様に、綺麗さっぱり話してやるから!
手紙より会って話したほうが信頼あるわ」

「なんと、可愛かわいげない!
どう考えてみても、貴女の方が分が悪いのに!
どうしたら、そんな事を言えるのよ!」

「2人ともいい加減に、静かにしろよ!
エドワード殿下の話しを聞いてなかったのか!?」

「「……!!」」

ピタリと口を閉じる、似ていない双子の姉妹。

「エドワード殿下、サンダース伯爵令嬢!
馬車が参りましたわ!」

ブルネール侯爵令嬢が近寄り、助け船を出す言葉を仰って下さった。
これを聞き、部屋にいた全員がホッとする。

マティルダはアリエールたちをこれでもかと鋭く見ては、嫌う態度できびすを返して部屋を出ていくのであった。

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