8 / 207
第1章
7 待合室での再戦
しおりを挟む
学生たちは帰宅の馬車待ちで、この待合室で迎えが来るまで談笑をしている。
普段とは違う、学期末の帰省を兼ねてた馬車待合室はいつもとは違っていた。
夏の長期休みに入る喜びと、別れを惜しむ友人たち。
王族の第一王子エドワード殿下が、1番に馬車に乗って頂くのを全員がこうして待っている。
貴族たちによる、暗黙の掟であった。
その部屋に、エドワード殿下がマティルダを支えて入室してきた。
無論、2人きりではない。
5人の第一王子のエドワードの婚約者候補たちも後に続いて入る。
優雅に気品漂う彼と彼女らが、部屋の中へ足を進めた。
だが…、そこにはー。
「マズい、よりによって!なんで、タイミング悪く居るんだ!?
あの者たちがー」
殿下の狼狽えている声に、マティルダも自然と視線をそちらへ移す。
『うげぇ~、うざい奴らがいる!
どうして?アンタたちが先に図々しく、平然と椅子に腰掛けてんのよ!』
エドワード殿下の様子の原因を知ると、彼女本人も反応し同じ気もちになる。
声こそ出さないが、同意見であるに違いない。
自分たちの後から楽しげにお喋りしていた令嬢たち3人は、前が急に立ち止まり不思議になる。
「エドワード殿下、サンダース伯爵令嬢?
立ち止まり、どうなさりましたの?」
3人のうちの身分が1番上のブルネール侯爵令嬢が当然のようにお声がけをしてきた。
残りの2名の伯爵令嬢たちも、立ち止まるマティルダたちの先を探るように体を動かす。
「やだぁ、あの二人?」
「誰ですか?ウソぉ~?」
伯爵令嬢たちが順々に気づき、最後に侯爵令嬢が前の人の壁から確認した。
「……、またまたですね。
私たちよりも、先に居ましたのね」
前の出来事を鮮明に思い出し、似た感じの椅子に座って話す姿に言葉を失う。
絶望感ある侯爵令嬢の呟きに、4人は心うちで返事を返している。
「あぁ…、本当に申し訳ないですわ!
なんでまた、どうしてこうなるのですか…」
「サンダース伯爵令嬢。
落ち着き給え!
ココは…、まだ学園内だ。
あの者たちが居ても、仕方ない。
我々が居るから、平気だ」
力強い支援表明に、マティルダは軽く殿下と彼女たちには頭を下げる。
エドワード王子のお出ましに、話し声がピタリと静かになった待合室。
視線は王子よりも、支えられていたマティルダに向けられていたのだ。
「アリエールとハロルド様」
つい口にしてしまった、気まずい2人の名。
「チッ!マティルダか…」
「マティルダお姉様。
婚約者たちがいらっしゃるエドワード殿下に、色目をお使いになるなんて淫乱ですわ!」
舌打ちするのは、まだ私の婚約者。
姉を淫乱扱いするのは、その婚約者と浮気した実の妹。
「淫乱…?は~ぁ?!
淫乱は貴女ですよ!?
あの時は倒れてしまい。
なにがあったかは覚えておりませんけど、アリエール!」
痴話喧嘩が再び開戦されるのか…。
待合室は、熱気と寒気が同時にやってきた。
知っている者、知らぬ者。
突如、勃発するケンカ腰の会話にザワつく部屋にいる学生たち。
「こんな大勢の前で、淫乱などの言葉を出してはいけませんよ!
サンダース伯爵家の名に、キズが付きます」
「なにを今さら…。
あんなに恥ずかしい事を言って、お姉様こそ恥知らずでしょう!」
「そうだぞ!独りで倒れやがって、無責任な奴だ!
俺たちが、アレからどうなったか知らんだろう!」
激しい言葉の激突に、一歩も二歩も遅れを取る間近にいたエドワード。
平和主義の彼には苦手な場面であるが、そうは言ってはいられない。
『私がしっかりとこの場を収めなくては、ここは王族として!』
「コホン、こんな場で争いは良くない!
君たちは頭を冷やして、これからの事を話し合わなくてはならないと思うぞ!」
「おお~!人格者であられるエドワード殿下だ!」
1人の男子学生の声に賛同する生徒たちは、この面倒な痴話喧嘩を終わらせて欲しいようだ。
仲裁に割って入った勇敢な彼に、学生たちから湧き上がる称賛の声。
三者三様の思いがあるが、ここは大人しく殿下に従わなくてはと深く頭を下げる。
「サンダース伯爵令嬢は、休暇中は王宮で預かる。
姉妹がいがみ合うのは良くないし、離れてみて相手の気持ちが理解できるだろうからな。ハハハ…」
ヨシこれで良い、三者を軽く睨んで牽制してエドワードだけが納得する。
『それ、違いますよ!
どう考えたら、アリエールと私が同等になるの!?
逃げるためには仕方がない、ココは折れて我慢するか……』
「はい、エドワード殿下。
殿下のおっしゃる通りですわ。
アリエール!お父様に手紙を送ります。
全部洗いざらい書くから、そのつもりでいなさい!」
「フン!先にお父様やお母様に、綺麗さっぱり話してやるから!
手紙より会って話したほうが信頼あるわ」
「なんと、可愛げない!
どう考えてみても、貴女の方が分が悪いのに!
どうしたら、そんな事を言えるのよ!」
「2人ともいい加減に、静かにしろよ!
エドワード殿下の話しを聞いてなかったのか!?」
「「……!!」」
ピタリと口を閉じる、似ていない双子の姉妹。
「エドワード殿下、サンダース伯爵令嬢!
馬車が参りましたわ!」
ブルネール侯爵令嬢が近寄り、助け船を出す言葉を仰って下さった。
これを聞き、部屋にいた全員がホッとする。
マティルダはアリエールたちをこれでもかと鋭く見ては、嫌う態度で踵を返して部屋を出ていくのであった。
普段とは違う、学期末の帰省を兼ねてた馬車待合室はいつもとは違っていた。
夏の長期休みに入る喜びと、別れを惜しむ友人たち。
王族の第一王子エドワード殿下が、1番に馬車に乗って頂くのを全員がこうして待っている。
貴族たちによる、暗黙の掟であった。
その部屋に、エドワード殿下がマティルダを支えて入室してきた。
無論、2人きりではない。
5人の第一王子のエドワードの婚約者候補たちも後に続いて入る。
優雅に気品漂う彼と彼女らが、部屋の中へ足を進めた。
だが…、そこにはー。
「マズい、よりによって!なんで、タイミング悪く居るんだ!?
あの者たちがー」
殿下の狼狽えている声に、マティルダも自然と視線をそちらへ移す。
『うげぇ~、うざい奴らがいる!
どうして?アンタたちが先に図々しく、平然と椅子に腰掛けてんのよ!』
エドワード殿下の様子の原因を知ると、彼女本人も反応し同じ気もちになる。
声こそ出さないが、同意見であるに違いない。
自分たちの後から楽しげにお喋りしていた令嬢たち3人は、前が急に立ち止まり不思議になる。
「エドワード殿下、サンダース伯爵令嬢?
立ち止まり、どうなさりましたの?」
3人のうちの身分が1番上のブルネール侯爵令嬢が当然のようにお声がけをしてきた。
残りの2名の伯爵令嬢たちも、立ち止まるマティルダたちの先を探るように体を動かす。
「やだぁ、あの二人?」
「誰ですか?ウソぉ~?」
伯爵令嬢たちが順々に気づき、最後に侯爵令嬢が前の人の壁から確認した。
「……、またまたですね。
私たちよりも、先に居ましたのね」
前の出来事を鮮明に思い出し、似た感じの椅子に座って話す姿に言葉を失う。
絶望感ある侯爵令嬢の呟きに、4人は心うちで返事を返している。
「あぁ…、本当に申し訳ないですわ!
なんでまた、どうしてこうなるのですか…」
「サンダース伯爵令嬢。
落ち着き給え!
ココは…、まだ学園内だ。
あの者たちが居ても、仕方ない。
我々が居るから、平気だ」
力強い支援表明に、マティルダは軽く殿下と彼女たちには頭を下げる。
エドワード王子のお出ましに、話し声がピタリと静かになった待合室。
視線は王子よりも、支えられていたマティルダに向けられていたのだ。
「アリエールとハロルド様」
つい口にしてしまった、気まずい2人の名。
「チッ!マティルダか…」
「マティルダお姉様。
婚約者たちがいらっしゃるエドワード殿下に、色目をお使いになるなんて淫乱ですわ!」
舌打ちするのは、まだ私の婚約者。
姉を淫乱扱いするのは、その婚約者と浮気した実の妹。
「淫乱…?は~ぁ?!
淫乱は貴女ですよ!?
あの時は倒れてしまい。
なにがあったかは覚えておりませんけど、アリエール!」
痴話喧嘩が再び開戦されるのか…。
待合室は、熱気と寒気が同時にやってきた。
知っている者、知らぬ者。
突如、勃発するケンカ腰の会話にザワつく部屋にいる学生たち。
「こんな大勢の前で、淫乱などの言葉を出してはいけませんよ!
サンダース伯爵家の名に、キズが付きます」
「なにを今さら…。
あんなに恥ずかしい事を言って、お姉様こそ恥知らずでしょう!」
「そうだぞ!独りで倒れやがって、無責任な奴だ!
俺たちが、アレからどうなったか知らんだろう!」
激しい言葉の激突に、一歩も二歩も遅れを取る間近にいたエドワード。
平和主義の彼には苦手な場面であるが、そうは言ってはいられない。
『私がしっかりとこの場を収めなくては、ここは王族として!』
「コホン、こんな場で争いは良くない!
君たちは頭を冷やして、これからの事を話し合わなくてはならないと思うぞ!」
「おお~!人格者であられるエドワード殿下だ!」
1人の男子学生の声に賛同する生徒たちは、この面倒な痴話喧嘩を終わらせて欲しいようだ。
仲裁に割って入った勇敢な彼に、学生たちから湧き上がる称賛の声。
三者三様の思いがあるが、ここは大人しく殿下に従わなくてはと深く頭を下げる。
「サンダース伯爵令嬢は、休暇中は王宮で預かる。
姉妹がいがみ合うのは良くないし、離れてみて相手の気持ちが理解できるだろうからな。ハハハ…」
ヨシこれで良い、三者を軽く睨んで牽制してエドワードだけが納得する。
『それ、違いますよ!
どう考えたら、アリエールと私が同等になるの!?
逃げるためには仕方がない、ココは折れて我慢するか……』
「はい、エドワード殿下。
殿下のおっしゃる通りですわ。
アリエール!お父様に手紙を送ります。
全部洗いざらい書くから、そのつもりでいなさい!」
「フン!先にお父様やお母様に、綺麗さっぱり話してやるから!
手紙より会って話したほうが信頼あるわ」
「なんと、可愛げない!
どう考えてみても、貴女の方が分が悪いのに!
どうしたら、そんな事を言えるのよ!」
「2人ともいい加減に、静かにしろよ!
エドワード殿下の話しを聞いてなかったのか!?」
「「……!!」」
ピタリと口を閉じる、似ていない双子の姉妹。
「エドワード殿下、サンダース伯爵令嬢!
馬車が参りましたわ!」
ブルネール侯爵令嬢が近寄り、助け船を出す言葉を仰って下さった。
これを聞き、部屋にいた全員がホッとする。
マティルダはアリエールたちをこれでもかと鋭く見ては、嫌う態度で踵を返して部屋を出ていくのであった。
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
見捨てられたのは私
梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。
ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。
ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。
何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる