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第1章

4 この暑さは地獄 ②

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   白日はくじつの下にさらされている。
マティルダはギラっく太陽の下で、堂々と浮気している者たちにさばきしていた。

 暑い…、どうしよう?
なんだか…、体調が変になってきちゃったわ。
早く、終わらせなくては!!

「とにかく、ハロルド様とは婚約破棄します!
2人からは、もちろん別々に慰謝料いしゃりょうを請求しますからね!」

彼女は、前々から考え悩み抜いていた。
その言葉を、やっと婚約者に叩きつけてやる。

「俺は、マティルダと婚約破棄しないぞ」

叩かれたほほを手でおお愚妹ぐまいは、目を見開いて横にいる彼に言う。

「ハロルド、お姉様とは形だけの婚約って言っていたよね?
お姉様も身内に慰謝料って、それおかしいでしょう?」

二人は私にどう考えたら、そんな事を言える立場なの。

ハロルド様は、妹と体の関係がすでにある。
そんなアリエールと、婚姻しないのは無理でしょう。

この男は、どういうつもりで言っているの?! 
もしかして、まさか最後まで通じていない?

「ここまで、ハッキリ浮気していて逃げるの?!
ハロルド様、貴方って最低よー!
ここにいる方々は、証人になってくれる筈です」

アリエールが処女なら、私と婚姻できると馬鹿にしているの。
ハァハァ~、無理ダメだ。もう…、限界だわ…。

マティルダはひたいに手を当てて、明らかに調子が悪い。
体がフラフラ揺れだし、倒れる一歩手前。

「二人を…、軽蔑けいべつします。
もう二度と…、顔も見たくない!
あぁ~、暑くてどうにかなりそう…。
すべては、この夏の暑さのせいですわ」

そうハッキリ最後までい終えると、ドサっとその場で倒れてしまった。


「「「マティルダ様」」」

友人たちの私の名を呼ぶ声が微かに聞こえたような気がした。
黙って近くで、私たちのやり取りを聞いていた友人たちの悲鳴が聞こえてくる。

『あっ、柔らかい。
気持ちがいい、このままでいさ…せ…て…』

倒れた場所が芝生の上で良かったと冷静にそう考えながら、ゆっくりと意識が遠のく。

 
 意識を失い倒れ目が覚めた場所は、学園内の救護室きゅうごしつだった。
あれからどうなったのか、想像するのが怖くなる。

少しの間、白い天井を見上げていると驚く声が聞こえていた。

「サンダース伯爵令嬢…。
気分はどうだ?
まだ、具合が悪いのか?」

この声はー、どうしてこの御方がここにいるの?!

「貴方様は、エドワード殿下?
もしかして、私をコチラに運んでくれたのはー。
殿下でございますか?」

なんと、この国の第1王子殿下に運んで貰ったの。
それも、あんな恥ずかしいやり取りを見られていた。
この顔を、隠したい気持ちになる。

「私もあの場に居て、君たちから離れた場で会話を聞いてたんだ。
なかなか、聞き応えあったよ」

これは…。
知らないふりをするしかない。
そうよ、暑さで倒れたのを上手く使うのよ。

「お恥ずかしいのですが、何をしたのか。
さっぱり、私は覚えておりませんの。
殿下に失礼な事を致しましたら、申し訳ございませんでした」

かすれた声をしていたら、女医が水の入ったグラスを手に持って近寄る。

「サンダースさん、貴女は熱中症になりかかっていたのよ。
脱水症状の自覚もなかったみたいね。
まずは、ゆっくり慌てないで水を飲みなさい」

グラスを手渡されて、お礼を述べながらゆっくりと注意されたのに。
ゴクゴクとのどを鳴らし、体が欲しっていたようで水を一気に飲み干す。

「あ~、お水が美味しい!
体内がうるおいました。
先生、有り難うございます」

水の力で普通の声が出せるようになり、スムーズに話せるようになった。

「顔色もだいぶ良くなってきたわ。
ここに運ばれた時は真っ赤
でしたのよ。
その後は急に青白くなって、危険で心配だったわ」

『先生の話だと、危険だった。
意識が、確かになかったもの』

「………、ご心配をおかけしました」

ベッドの中に座って、自分の仕出かした事を振り返る。
暑さも手伝って、心でくすぶるものを一部は吐き出せた。

だがその代償として、中傷の嵐が待ち構えているのだ。
実家に帰れば、両親が私に怒鳴りつけるのを考えたら。

また、ズキズキと頭が痛くなりかかっていた。
    
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