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第3章  学園生活

第5話 逃げたわね

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 食堂から教室に戻る、4人は注目のまとだ。
もう、すっかり有名人扱いである。

「ごめんなさいね?!
フローラ様にマリー様!そして、リザ様!
わざわざ誘ってくれたのに、ゆっくりお話が出来なくて!
明日は皆さまと、同じランチを食べて宜しいかしら?!」

首を傾げて見る姿は、誠に愛らしい。

勿論もちろんですとも、明日こそは自己紹介を致しましょうね!」

3人は複雑な感情を隠しつつも、明るくプリムローズに返事する。
なかなか、心の広いご令嬢たちのようだ。

教室に入ると重たい空気の中、黒髪の友人が緊張した面持ちでプリムローズの前に現れた。

「赤毛とはいつ戦うの!
私は、いつでも良くってよ。
彼はどこ?腕の1本を折らないと、私は祖父に報告できなくて困るのよ。
やられたら、それ以上に!
我が家の家訓かくんなの」

クラス全員が思う、どんな家訓だよと!
戦の神のいる家だ、普通ではないのだと考えて納得する者たち。

黒髪の少年を、プリムローズはにらみつける。

「彼は早退しました。
おそらく、クラレンス家に謝罪に訪れるでしょう」

「はぁ、何ですって!
あれほどほざいて、逃げるとは!
クズがぁー、お前逃がしたわね!!」

プリムローズは、黒髪の関係ない少年に怒りをぶつけた。
彼女は敵に背を向けるものを、けして許さない人であった。

友達だけで、彼はとばっちりを受けていた。

「申し訳ございません。
どうか、お許しを!
プリムローズ様、私に出来ることはしますから…」

彼は、何気なく言ったのだろう。

だが知らずとはいえ、相手が悪すぎた。

へぇ、じゃあ!
その友情を試そうか、どれ程かをー。

「良いわよ、腕を出しなさいなぁ!
私がその友情が、どこまでか確かめてあげるわよ!  
フフフン~」

黒毛が青い顔をして、プリムローズを見る。

教室がまるで戦場のようだ。
そして、ここに悪魔がいる。

震えながらも勇気をだし、左腕を差し出した。
なんて、崇高な尊い行為でしょう!

「あぁー、素敵よ!
気に入ったわ。
さぁ、しゃがみなさいな。歯を食い縛って、舌を噛まないでね?!
死んじゃうよ、うふっ!」

それを聞き、女子生徒の数人は失神してしまった。
男子生徒は、その女性たちを必死に震えて支えている様子。

先生が知らないで入ってきた瞬間に、プリムローズが彼の腕の関節を外した。

うっ!ああ~~!!

叫び声と同時に、直ちに関節を戻した。
転がり回る姿を見て、彼に耳元でささやく。

「いいこと、3度目はないからね。
今度したら、その腕を落とすわよん!ふふ~ん」

実に嬉しそうに笑顔で話す顔は、確かに見た目だけは可愛かった。

全女子生徒が失神し、男子生徒もたまらず半数が倒れた。

先生も訳が分からないのか、この惨状に立ちすくむ。

「あ~らっ、集団で倒れたわ!先生、どうしましょうか?!
授業になりませんことよ! 
おっほほほー!」

1人高笑いするプリムローズは、異様に見えた。

「ひとまず、自習で!私は応援を呼んでくる。 
それまでは、大人しく待つようにー!」

慌てて教室を転がるように出ていく先生を見送り、プリムローズは言われた通り大人しく座っている。

 先生たちが集団で入ると、プリムローズは平然と席に座っていた。

残り10名の生徒たちは、その場に立ちすくんでいた。

先生たちは顔を叩いて正気に戻したり、倒れたものはおんぶして運んだりしていた。

学園長は、プリムローズに質問した。

「これは、君がしたのかい?」

温厚篤実おんこうとくじつを他人に言われ。
それに答えようと日々努力している方が、口元をピクピクさせていた。

「私は、たった1人の男子生徒の左腕の関節を外して戻しただけよ。
あの者たちは、それを見て勝手に倒れただけですわ」

冷静に語る態度は、まさに不気味ぶきみそのものだった。

 
 その日、午後の授業はなくなった。
ほとんどのクラスの生徒が、倒れてしまったので無理はない。

学長室には、学園長と一緒に担任の先生とプリムローズの姿。

「どうやら、君は規格外だね。
確かに私たちも、もっと生徒たちに説明すべきであった。
反省するが、君はやりすぎだ」

学園長は、彼の割にはかなり怒っていた。

「私は謝罪しませんわよ!
彼が友人のために、何でもするって頭を下げたのだもの。
その友情に応えただけですよ。本当は腕の1本を折るのを、関節を外して入れてあげたの。
結局は、何もしてなくてよ!」

プリムローズはあれだけの事をしたのに、何故か不満げに言い返した。

「明日、どうしたらいいのか?!
生徒たちに、何を話しせばいいのか?!」

担任は、前で頭を抱えて座っている。

「先生、普通で宜しくてよ!
そのうち忘れますわ。
子供って、そんなものですわよ?!」

助言するプリムローズを、お前が言うのかと2人は思った。

馬車の迎えが来た知らせを聞くと、さっさと帰る用意をする。

「それでは、私は帰宅しても宜しいですか?!
赤毛の問題児がクラレンスに謝罪しに来たら、お前のせいで午後の授業がつぶれたと伝言致します」

責任転嫁せきにんてんかをサラッと言うプリムローズに、呆れている2人であった。

「まぁ!友人の心意気に免じて、今回は許しますけどね。
3度目は許しませんよ。
彼の家に、学園からキチンと伝えて下さいませね?!」

部屋にいる2人を、無視して堂々と出ていった。

最後に項垂れた姿を、シラーと見たプリムローズであった。

 
    あの初日の騒動が嘘のように、5日たった。

ただ1人の女子生徒に、中等部はおびえていた。

赤毛、黒毛は仲良く大人しくしている。
プリムローズをけていたが、たまにお呼び出しを受けていた。

「赤毛ー!黒毛ー!
私、喉が渇いた!
これで、ちょっとオレンジジュース買ってきて頂戴ちょうだいな!」

コントロールよく、赤毛の手に小銭を投げ渡す。

片ひざを折り、両手を差し出す。
この2人は、まさに下僕げぼく扱いである。

中等部3年A組は、プリムローズの恐怖に息を呑んで日々を過ごしていた。

ふっ、野良猫を家猫に飼い慣らした気分ね。つまらないわね。

プリムローズはオレンジジュースを飲みながら、そろそろ引っ越しの日ね。

本当に、平気なのかしら?

家のほぼ全員の使用人たちが、移動していなくなる。
大人が、適当にどうにかするんだけどね。

家具もずいぶんと少なくなって、寂しい家の中にひくわー。
見ていて、かなり笑えるわ。
あれじゃね。
お客様も呼べないわよ。

あぁー、オレンジジュースが美味しいわ! 

実家の衰退すいたいぶりを、本気で喜ぶ娘であった。
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