【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!幼女篇

愚者 (フール)

文字の大きさ
上 下
23 / 91
第1章  思い出は夢の中へ

第22話 領地への出発

しおりを挟む
 最後の朝食を家族全員で済ました後、祖父母と共に領地へ向かう。
初めて馬車に乗っての長旅で、不安と期待で胸がワクワクだ。

普通は家族と別れでワンワン泣いたり駄々だたをこねるのだが、逆に笑顔で祖父母と楽しく食事していた。

他の家族は、沈みがちに無口に料理を口に運んでいた。

使用人たちは、気にせず淡々と業務をこなすのである。

プリムローズが、頃合ころあいをみて家族に話しかけた。

「お父様、お母様、お姉様、お兄様。
私は暫く離れますが、お体に気をつけて下さいね。
お手紙を書きますので、お返事を頂けますか?」

3人はもちろんよ。
直ぐに返事するが、1人だけ違う言葉を返した姉。

「私も努力しますが、学業がありますので書けないと思うわぁ!」

姉の素っ気ない返しに、微妙な雰囲気ふんいきなる部屋。

あんたが勝手に、出て行くんでしょう的な態度である。

 
 立派な公爵家専用の馬車の前に、屋敷の者が全員集合している中で前公爵が皆に向かい話す。

「では領地へ戻るが、暫くしたら儂は王都に来る。
その間、おのおの末娘にしたあやまちをよく反省するのじゃ。よいな!!」

眼光がんこうを鋭くして4人をにらむ姿は、鬼神きしんさながら殺意さついに満ちていた。

「は、はい!
お父上、お待ちしております!
無事に領地へ戻れるようにと思っております!!」

額に汗をかき、答える父クリストファー。

プリムローズの別れの挨拶は、幼い子供とは信じられなかった。

「皆様、元気になり戻って参りますわ。
その時は、仲良くして下さいませね?」

何事もなく、3人は馬車に乗り込む。

見送る4人は手を振るべきか悩みつつ、遠ざかる馬車を見つめるのである。

あとに並ぶ大勢の使用人たちは、涙なしのあっけない別れを茫然ぼうぜんと見送った。


 馬車の中で外を見ながら、あくびを我慢する3歳児。
昨日はお茶会だし朝早く出発でバタバタだし、座ったらなんだか眠くなったわ。

目から涙が出てきたわと顔を背ける姿に、祖母は勘違いをする。

「やはり、幼い子を家族と離すのはこくだったかしら?!」

あ~あ、もう寝ようかなぁ。
やっと領地へ出発して、気が抜けたわよ。

「お祖父様、おばあ様。少し寝てもいいですか?」

王都から領地までは、2日半の長距離の日数である。

「ええ、そうね。長旅ですもの。寝た方がいいわね!」

祖父母も、まだ小さな孫の負担を考えていた。
実際に馬車酔いをしつつの旅は、小さな子にはかなりこたえた。

  領地に入ったのを教えると、プリムローズは少し元気になっていった。

なにもない田園風景から家が増えてくると、祖父が小麦畑だぞぉ!
あちらに馬や牛がおるぞと、説明して退屈しないようにと配慮はいりょをする。

プリムローズは屋敷から一歩も出ていないので、なにもかもが目新しく興味深かった。

町が近くになると、2階建ての家が増えてる。
1階が店舗で2階を住居にしている。
グレゴリーは、家を指差しながら教えている。

広場には噴水があり、ふちに座って話す人たちがいた。

「プリムローズ、あの水は飲めるのよ!
とても冷たくて美味しいわ。
私も飲んで驚いたのよ。
近いうちに行きましょうね?!」

祖母の話す通りに、脇にある場所にコップがあり人々が飲んでいる。

「山からの湧水わきみずうまいんじゃあ!!」

祖父も、2人を見つつ頷く。
公爵の家紋かもんが入った馬車を見つけると、領民たちは大声を出した。

「前公爵様がお戻りだぁー!!」

人々が馬車に手を振っている。

「まぁ、見て!!
皆さまが手を振っていらっしゃいます。
もしかして、歓迎してくれてるのかしら?」

小さな顔を、窓からちょっとだけ出して外を見る。

「そうよ!
貴女も手を振ってご覧なさいな?!」

祖母の言った通りに、私が手を少し振ると大歓声が上がった。

「この領民の姿を、忘れてはならない。
たみの笑顔を泣き顔にするかしないかは、公爵にかかっておる。
儂らが服や美味しい料理を食べられるのも、民のお陰だ!
自分で判断して、導かなくてはならない。
まだ、お前には難しいがなぁ?!」

祖父の言葉を聞き、人々に大きく手を振りながら 民の顔を目に焼き付けた。

 
 それから馬車は、屋敷の近くになってきた。

「お祖父様、おばあ様!
山を背にしている大きなお城みたいなのが、本宅ですの?」

遠くに見える建物を指差す、プリムローズ。

「おお、そうだ!
もう少しで到着だ。
着いたら休むがよい」

祖父は安堵あんどの表情を浮かべた。

「おばあ様!
まだずっと前ですが、女の方が大きなかごを持って歩いてます」

プリムローズの言葉に、祖母ヴィクトリアは窓の外を見る。

「まぁ、メリーよ!
あの子ったら、また畑まで取りに行ったのね。
大変なのに…」

祖母は苦笑して話している。

「あの子は、儂らに新鮮な食材を食べさせるためにしているんじゃ。
良い子だ!!」

祖父母は顔を見
合わせて笑いだした。

「では、転んでダメにならないよう。
馬車に乗せて下さいな。
宜しいでしょうか、お祖父様!」

プリムローズは笑顔でお願いすると、祖父母は大きく頷いた。
そして馭者ぎょしゃに合図をするため、つえで天井を叩いた。

馬車は、メリーのいる少し後ろにまった。

「私が知らせます!
御挨拶もしたいわ!!」

プリムローズは馭者に降ろしてもらい、メリーのところまで元気よく走っていった。

「メリー!初めまして!プリムローズ・ド・クラレンスよ。
宜しくね!一緒に馬車に乗って、屋敷に帰りましょう!」

メリーは可愛い声に気付き、かごを地面に置いた。
薄い茶色の髪を三つ編みにした頭を、声がする後ろに振り返ってみた。
プリムローズをお人形さんだと思った。
お店に飾ってあった、綺麗な可愛いお人形さんを思い出した。

「うわぁ!可愛いー!
お人形さんが走っているわ!」

メリーの水色の目が、大きく開きキラキラと光輝いた。

プリムローズとメリーが、初めてこのとき出会った瞬間であった。
しおりを挟む
第2作目を7月17日より投稿しております。「君はバラより美しく!ドクダミよりもたくましい?」謎の宝石商の秘密を書いております。もし宜しければ、お読み下さると嬉しく思います。宜しく、お願い致します。
感想 5

あなたにおすすめの小説

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」  デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。  彼は新興国である新獣人国の国王だ。  新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。  過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。  しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。  先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。  新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

結婚式当日に私の婚約者と駆け落ちした妹が、一年後に突然帰ってきました

柚木ゆず
恋愛
「大変な目に遭ってっ、ナルシスから逃げてきたんですっ! お父様お姉様っ、助けてくださいっ!!」  1年前、結婚式当日。当時わたしの婚約者だったナルシス様と駆け落ちをした妹のメレーヌが、突然お屋敷に現れ助けを求めてきました。  ふたりは全てを捨ててもいいから一緒に居たいと思う程に、相思相愛だったはず。  それなのに、大変な目に遭って逃げてくるだなんて……。  わたしが知らないところで、何があったのでしょうか……?

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

処理中です...