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第1章  思い出は夢の中へ

第9話 秘密の本と妻の思い出

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 不可解ふかかい面持おももちでいると、ニコライが教えてきた。

「いや~っ!
夫人がもしかしたら、プリムローズ様の秘密の本を持っていたとはねぇ?!」

秘密、前にニコライが盗見た本か。

「秘密の本って、あのカバーをした本か?!
お前が女性って、怖いと話をしていた!」

足音をたてて戻って来た妻は、まるで少女のような顔付きである。

「これよー!!
これに違いないわー!
あぁ~、とても懐かしい。
もし、これが無かったら。
今の私たちは、存在しなかったのよぉ~!!」

2人の目の前に本を突き出していい放つ、マーガレット夫人!

「真実の愛を求めて」

目に入ったタイトルは、純愛小説としか思えない本。

いわく、中味は逆だけど純愛だそうだ。
マーガレット夫人の言葉に、よく理解できないがうなづく男性陣であった。
 
 そして妻はページを開くと、いきなりポーズをとった。

まさかと思った、一瞬だ!

「貴女たち、いいことぉーっ!
今日はあの生意気なまいきな令嬢を、人前に出れなくなるほど恥をかかせるのよぉー」

座っている私たちに指を指した。
その姿に圧倒された。  何が起きたのだろう。
私たちは、息が止まりそうになる。

妻は、生き生きと本を読み続けた。

「おまかせ下さい。
カサンドラ様!
カサンドラ様は、王子様や王妃様のお側で高みの見物をなさって下さい。
私たちが、きっとキッチリ地獄に落としてみせますわぁー!!
ウフフー!」

紅茶のカップを持ち立ったままは一口飲んで、カップを置きながらニコライに笑みを向けた。

「ねぇ、これではない?!」

ニコライは、少し考えながら答える。

「ん~?!もう少し後かなぁ。
それっぽいんだけど?
しかし、夫人は演技がお上手ですねぇー!!」

ニコライは、余計な一言を妻に言ってしまった。

最後まで夫として見守ろうと、リンドールは自分に誓った。

本をジーっと読み、席に座った。
終わりかと思ったら…。

「んまぁ!
私のドレスに紅茶をかけるおつもり?!
酷いわぁ、貴女!!」と、私を見た。

テーブルは、そのままだよなぁ。
私はとっさに妻に言う!

「えっ、なんだ?!
どうかしたのかぁ?!」

妻は私をにらんだ。
まるで、夫婦喧嘩ふうふげんかのような気分だ。

とぼけるおつもり?
私にかけるつもりが、自分にかかって言い掛かりをつけるつもりなの!
なんて、お人なの?!」

誰もいない隣に話しかける。

「そんな!
貴女が私にお茶をかけたのよ。
ねーぇ、隣の貴女は見たわよね?!」

また、私たちの方へ顔を向ける。

「ええ、見ましたわ!
トレーバー伯爵令嬢が、キャサリン様にカップをかたむけて失敗して自分の胸に紅茶をかけた瞬間をねぇ?!」と、ニャーっと笑う。

「嘘!嘘よー!!」と、頭を左右に揺らし前のニコライを見ながら必死の形相ぎょうそうで!

「ねぇ、貴女は見たわよね?!
私ではないでしょうー!!」と、叫ぶ!

「それだ!夫人ー!!」

ニコライは、目を輝かせ嬉しそうに叫んだ!

満足げにゆっくりと椅子に座ると、マーガレットは紅茶を優雅に飲んだ。

「凄い迫力はくりょくでしたね。
夫人、夫人はまるで大女優のようだー!!」

前に座る妻に、盛大に拍手するニコライ。

私は唖然あぜんとして、妻を見ながらつい言ってしまった。

「なぁ、お前?!
まさか、実際にしてないよなぁ?!
違っていたらすまないが、余りにも現実味があるので…」

片眉を上げながら不満そうにする。

「あらっ、旦那様!
私が、そのような女だと思いまして?!
そんな事、神に誓ってもしてません」

おもむろに、本の最終ページをぬくると見せながら説明し始めた。

「私は学生時代に、読書会のメンバーでしたの。
だから、ほらこのページをご覧下さいな?」

妻の旧姓を先頭に、5人の令嬢の名が順に書かれていた。

「私の生涯の友人たちよ!
私とこの令嬢は婚約破棄になったけど、とても幸福になったわ」

妻は私に、ニッコリと微笑ほほんで言った。

「マーガレット、この本は君が学生時代の頃の本だって言ったな。実は、今回の担当のお嬢様は姉上のお下がりの本だと伺っている。
しかし、それでは年代が合わないんだ?!」

夫の言葉に首をかたむける、妻マーガレット。

「そのお嬢様は、お幾つにおなりですか?!」

リンドールはニコライに、同意を求める表情をして見る。

「リンドール!夫人を信じろよ。夫人、誰にも他言無用たごんむようでお願いしますよ!」

マーガレットは目を大きくしてから、口角を上げた。

勿論もちろんよ!ニコライ!、ダニエル!!」

リンドールは不安げな顔をしながら伝える。

「その子、3歳なんだ」

マーガレットは、口をポカーンと開けた。

「ちょ、ちょっとー!
嘘でしょう?!!
えっ、それ冗談よね?
その子は、ほんとうに文字が読めるの?!」

2人は、夫人に細やかにプリムローズの事を説明した。

「それは、規格外なお嬢様ですわねぇ!ハァ~」

3人はため息を同時につきながら、その本を眺めた。

「絶対に年齢からして、母親の本よ!
きっと、まぎれ込んだのね。
全部読んだとしたら、かなりのおませさんね」

マーガレットは、口元を隠してクスクス笑っている。

「そんなに大人びた本なのか?
お前は全部読んだんだろう!
その、言えない描写びょうしゃとか書いてあるのか?!」

リンドールは、顔を赤らめて夫人に聞いていた。

「そんなのないわ!
ただ、愛する人に捨てられた。
女心や相手に対する嫉妬心!
心の葛藤かっとうを書いた本よ。
当時こんなにも赤裸々せきららに婚約破棄された女性を、題材にして書いた作家は彼女しかいないわ!」

マーガレットは、明日の私たちの仕事があるかを問う。

2、3日は休暇を取ると話すと、妻は若き頃の思い出話を2人に始めたのだった。

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