上 下
7 / 91
第1章  思い出は夢の中へ

第6話 宰相の苦悩

しおりを挟む
 王宮の侍従長じじゅうちょうが、玄関入口で2人を待っていた。
互いに挨拶すると、宰相さいしょうのいる場所に案内してくれるようだ。

「リンドール伯爵、ラッセル男爵令息。
こちらございます」

そう、ラッセルは一応いちおう男爵の三男である。
俺ほぼ平民、平民のように生きていた。
かなりの自由人である。

それは美しい庭園を見ながら、外廊下そとろうかを歩き。
目的の場所である部屋の前へ着いた。
とびらの前でノックすると、中から開かれた。

2人は、部屋の人物を見てかたまってしまう。

このお方が何故?
目の前にこの国の最高権力者であられる王が、ドーンと座っておられた。

さすがは王宮の部屋、豪華絢爛ごうかけんらんであった。
侍従長に名を告げられ、臣下の礼をして頭をれた。
しばらくすると、王が2人に話しかける。

「今は、私的な時間だ。
気を遣うな、空いてる席に座りなさい」

何と威厳いげんのあるお言葉に2人は感動したが、その思いは直ぐに終了することになる。

王は1人用の椅子に座り、右側の長椅子に今回の相手が座っていた。

2人は前のこの方に目礼もくれいをすると、公爵も礼を返してきた。
その目付き悪さに、娘のプリムローズ嬢も会話をする気も起きんと感じる。

とっとと終わらせて帰ろうと、リンドールは書類を公爵に渡す。
これから話す内容を書いたものだ。
下に記名する空欄もある、言った言わないの誤解ごかいふせぐためだ。

リンドールによる、プリムローズ嬢の件の説明が始まるが関係ない人たちがいる。

「公爵様、こちらの方々に聞かれてもよいのでしょうか?」

「よい!こうなったのも、原因はたちの責任もある。
こやつに職をまかせ過ぎたのだ。
今後のこともある、気にするな」

王が、黙っている公爵の代わりに言う。

嵐の予感がする2人であった。

「食事の件ですが、朝食のみ家族全員でされておられます。
プリムローズ嬢は幼く、食べるのに大人の方より時間がかかるのです。
皆様が食べ終わっても、彼女は半分も食べられない。
これでは、栄養が不足してしまいます」

クシャって何か音がしたような。
王が、公爵に渡した書類を軽く握った。

「本人いわく、食べるのに集中して会話はご家族と誰ともしていない。
皆様の楽しげな声や笑い声を聞くと、うらやましいそうです。
孤独感を感じると仰ってました」

リンドールが読むのを終えた時、陛下が公爵の左前のえりを掴んだと同時に侍従長が右手を顔までげる。 

女官たちや侍従たちが、音もたてずに部屋からサーっと去っていった。

現在、王と公爵や侍従長に近衛隊長このえたいちょう
我々の6名である。

「俺が王になる時に言ったよな。家族を大事にしろと何度も。
お前は大事にしてますって言ったよなぁ?!」

ここは何処どこなんだ、王宮の中ですよね。
平民街のチンピラが集まる場所ではありませんよね。

侍従長が窓を少し開けに行った。

「今日は、暑いですね。
少し、窓を開けましょうか。
ほぉ、いい風が入ってきますね」

平然と話す侍従長を、私たちはいつもの日常なのかと考える。

そう言えば第1王子は正室の子で王太子だったが、女性関係でその座から落ちた。
もと王太子は、隣国の第1王女と婚姻こんいんを結んでいる。

この方は側室の生んだ第2王子。
自由気ままに育ったから、この言葉遣いなのか。 

王が席に戻り、優雅に座り直して足を組んだ。

「続けろ」と、一言いう姿は何事も無いような素振り。

「昼や夜はお一人で食されるせいか、あまり食欲がわかないようでして…」

また、王が割り込んできた。進まない、不敬ふけいにあたるのでえる。

「リンドール伯爵、プリムローズ嬢はおいくつか?」

「3歳でございます、陛下!」

「3歳か。我が子アルフレッドと3つ違いか。
可愛い時期だろうにー。
1人で食事か、不憫ふびんだな。
お前は人の親か、ほんとクズだ」

ボソっと、皆が耳に入る大きさでおっしゃった。

「私からは以上ですので、引き続きニコライ・ラッセルよりお話をうかがって下さい」

ホッと息を吐いた、一先ひとまずお役御免ごめんだ。
ニコライが上手く説明さえすれば、無事に終わる。
頑張ってくれ、胸の中で声援せいえんを送った。 

「ラッセルと申します。
私は、児童虐待じどうぎゃくたいを扱ったことがあります。
プリムローズ嬢は、身体ではなく精神的に虐待ぎゃくたいがあったと断言だんげん出来ます」

ニコライは言ったぞと、横にいるリンドールを見る。
リンドールは、そんなニコライに力強くうなづいた。

「精神的とは具体的に、どんなに事柄ことがらでしょうか?食事の件は理解しますし、これから気をつけます」

公爵の地位で宰相でもある人物とは、思えない弱々しい声で話した。

「お嬢様はそんな状態に耐えきれず、疎外感から逃れるために勉学に励んだ結果。
3か国語の読み書きを取得しゅとくしました。
公爵は父親として、これを異常だと思わないのですか?!」

それを聞いた公爵は、かなり衝撃を受けたのかうつむく。
娘の日頃の行動を知らなく、そんな自分にあきれていた。

王は、公爵に渡した書類を見ながら読む。 

「母親は、パーティーやそのドレス作り。
姉も兄も、学園生活や友人たちとの交流とお茶会。
誰も構っていない。
プリムローズ嬢は、まるでいない存在ではないか!
これでは孤独感で、おかしくもなるのではないか?
そうだろう、クラレンス公爵!」

容赦ようしゃのないお言葉、ありがとうございます。
2人は、心から感謝した。

「ここに来る前に、お嬢様と最後に打ち合わせしてきました。
ご家族と距離をおきたいそうです。
辛いけど新しい生活を送りながら心身共に元気になり、もう一度貴殿きでんがたと向き合いそうですよ」

「そ…、そんな?!
娘は離れたいと、私たちは見捨てられたのでしょうか?!」

公爵はすがるような目をして、前の私たちを見つめていた。

金髪の肩上の髪を揺らしながら、ゆっくり動かした薄い水色の目を鋭くして公爵をにらんだ。

「お前は何を言っているんだ?
お前たちが先に娘を捨てたんだ!
何を勘違して、被害者ぶってんだよ。
くそっ、殴るぞ!」

かなり興奮の王、お言葉が乱れていらっしゃる。 

「気になるんだけど。
お前、娘の誕生日を言えるか?
何月何日だ。言ってみろよ!」

話は外れるが、気になるなぁと2人は思う。

「確か8月…、いや。
申し訳ございません。
覚えていませんでした」 

顔には冷や汗をうっすら浮かぶ、少し顔色も悪いような公爵。

「本当に知らないのか。
嘘だろう…、可哀想かわいそうすぎるぞ。
俺の養女にしないか、実は女の子が欲しいんだ」

どんどん論点がずれてきてる。
私は説明して、あの書類に公爵のサインが欲しいだけだ。
なんかもう、帰っていいのでは? 

「犬猫を拾って、この子飼いたいと言う。
子供のおねだりではないのですよ。陛下!」

今まで1度も聞いていない声が、王の側からした。

目が笑っていない。
存在すら隠し、消していたのか。
凄い威圧感だ。まさに近衛隊長。
ここぞと時の、ご意見番いけんばんのようである。

だがこれ以上の人物が、これから現れるとは誰も予想もしなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【★完結★妻シリーズ第一弾】妻は悪役令嬢(?)で押しかけ女房です!

udonlevel2
恋愛
見目麗しい人間が集まる王都、見目麗しくない人間辺境の第二の王都。 その第二の王都の領地を運営する見目麗しくない、輝く光る頭、けれど心はとても優しい男性、ジュリアスの元に、巷で有名な悪役令嬢(?)が押しかけ女房にやってきた! ドタバタ日常をお送りいたします。 ========== なろう、カクヨムでも載せています。

悪女と言われ婚約破棄されたので、自由な生活を満喫します

水空 葵
ファンタジー
 貧乏な伯爵家に生まれたレイラ・アルタイスは貴族の中でも珍しく、全部の魔法属性に適性があった。  けれども、嫉妬から悪女という噂を流され、婚約者からは「利用する価値が無くなった」と婚約破棄を告げられた。  おまけに、冤罪を着せられて王都からも追放されてしまう。  婚約者をモノとしか見ていない婚約者にも、自分の利益のためだけで動く令嬢達も関わりたくないわ。  そう決めたレイラは、公爵令息と形だけの結婚を結んで、全ての魔法属性を使えないと作ることが出来ない魔道具を作りながら気ままに過ごす。  けれども、どうやら魔道具は世界を恐怖に陥れる魔物の対策にもなるらしい。  その事を知ったレイラはみんなの助けにしようと魔道具を広めていって、領民達から聖女として崇められるように!?  魔法を神聖視する貴族のことなんて知りません! 私はたくさんの人を幸せにしたいのです! ☆8/27 ファンタジーの24hランキングで2位になりました。  読者の皆様、本当にありがとうございます! ☆10/31 第16回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。  投票や応援、ありがとうございました!

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))  書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?

柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。 理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。 「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。 だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。 ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。 マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。 そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。 「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。 ──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。 その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。 けれど、それには思いも寄らない理由があって……? 信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。 ※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】婚約破棄されて処刑されたら時が戻りました!?~4度目の人生を生きる悪役令嬢は今度こそ幸せになりたい~

Rohdea
恋愛
愛する婚約者の心を奪った令嬢が許せなくて、嫌がらせを行っていた侯爵令嬢のフィオーラ。 その行いがバレてしまい、婚約者の王太子、レインヴァルトに婚約を破棄されてしまう。 そして、その後フィオーラは処刑され短い生涯に幕を閉じた── ──はずだった。 目を覚ますと何故か1年前に時が戻っていた! しかし、再びフィオーラは処刑されてしまい、さらに再び時が戻るも最期はやっぱり死を迎えてしまう。 そんな悪夢のような1年間のループを繰り返していたフィオーラの4度目の人生の始まりはそれまでと違っていた。 もしかしたら、今度こそ幸せになれる人生が送れるのでは? その手始めとして、まず殿下に婚約解消を持ちかける事にしたのだがーー…… 4度目の人生を生きるフィオーラは、今度こそ幸せを掴めるのか。 そして時戻りに隠された秘密とは……

悪役令嬢に転生かと思ったら違ったので定食屋開いたら第一王子が常連に名乗りを上げてきた

咲桜りおな
恋愛
 サズレア王国第二王子のクリス殿下から婚約解消をされたアリエッタ・ネリネは、前世の記憶持ちの侯爵令嬢。王子の婚約者で侯爵令嬢……という自身の状況からここが乙女ゲームか小説の中で、悪役令嬢に転生したのかと思ったけど、どうやらヒロインも見当たらないし違ったみたい。  好きでも嫌いでも無かった第二王子との婚約も破棄されて、面倒な王子妃にならなくて済んだと喜ぶアリエッタ。我が侯爵家もお姉様が婿養子を貰って継ぐ事は決まっている。本来なら新たに婚約者を用意されてしまうところだが、傷心の振り(?)をしたら暫くは自由にして良いと許可を貰っちゃった。  それならと侯爵家の事業の手伝いと称して前世で好きだった料理をしたくて、王都で小さな定食屋をオープンしてみたら何故か初日から第一王子が来客? お店も大繁盛で、いつの間にか元婚約者だった第二王子まで来る様になっちゃった。まさかの王家御用達のお店になりそうで、ちょっと困ってます。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆ ※料理に関しては家庭料理を作るのが好きな素人ですので、厳しい突っ込みはご遠慮いただけると助かります。 そしてイチャラブが甘いです。砂糖吐くというより、砂糖垂れ流しです(笑) 本編は完結しています。時々、番外編を追加更新あり。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...