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第2章 エーレンタール侯爵家
第4話 分かち合う喜び
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困惑した表情をして、侯爵家の家族のいる居間に急ぎ入っていった。
理由はひとつしかない、グレースからの侯爵夫人への伝言。
いつも冷静で慌てることのない彼女の表情を見て、侯爵家の3人は不思議そうに様子を見ている。
主人たちに、グレースのやり取りとり顛末を詳しく伝えた。
「グレース嬢がそんな事を仰ったの?
部屋を、使用人が使う様な小さな部屋にしたいと」
これには、流石に侯爵夫人は戸惑った。
親友ジョセフィーヌ様の手紙には、グレースの人柄や家の状況がわかる範囲で書かれていた。
だが、ここまで謙虚とは思っていなかったのだ。
「母上、彼女は子爵令嬢ですよね。
使用人として、雇われた訳ではないですよね?」
息子カルロスもメリッサの話を聞き、自分の知る貴族令嬢と比べて落差を感じた。
「本当にそうなのか?
彼女はワザとしてるかも知れんぞ。
私たちに印象をよくする為に、様子を覗いてみないか?!」
エーレンタール侯爵は貴族の世界で生きてるせいか、人を疑うことに慣れてしまっていた。
「貴方は、ジョセフィーヌ様の事を信じられませんか?
あの方は、人を見る目は確かですわ」
夫人は、夫のグレースを疑う発言を許せなかった。
こんな話をしても拉致があかないと、今は隣の部屋の扉を少し開けて様子を覗き伺っているのである。
グレースは満足感漂う表情をして食べていたら、メイドがデザートを持ってきてくれた。
お腹一杯だったが美味しそうで、少しだけ食べてみたい。
一緒に食べないかと、誘う会話をし始める。
「いけませんわ!
これはお嬢様の食べ物ですので、ご遠慮致します」
もっともな返事にグレースは、メイドに質問をしてきた。
「でも、残したらこれはどうなるの?」
「それはもちろん、廃棄をさせていただきます」
グレースは、明らかに不満顔をしてデザートを睨む。
「ほら!捨てるなら、半分貴女のお腹に入れた方がデザートも喜ぶわよ。
もし怒られたら、私がそうしろと言った事にすればいいわよ」
グレースは食べ終わった食器に半分デザートを分けて、自分はそれにして綺麗な方をメイドに渡した。
「駄目です!私は食べれません!!」
メイドは、テーブルに置かれたデザートを突き返した。
「侯爵家のメイドだけあるわね!躾は行き届いているわ。
でもね、これも勉強と考えてよ。もし、お客様にデザートはどんな味って聞かれたから貴女は答えられる?!」
グレースの変な質問はメイドだけではなく、隣の部屋で盗み見している侯爵一家も首を傾げていた。
メイドは、迷い顔でただ黙る。
「私は王宮で、おもに貴人方にお茶をお出ししていたの。
どんな味わいがするかとか、それは意地悪な質問をされたわ。
だから、王宮で使用された茶葉の入れ方や味は全て調べたの!」
聞いていた人たちは、グレースの言葉の意味が理解できなかった。
「あの、それとデザートとは関係ありますか?!」
グレースは、笑いながら返事を返した。
「飲まなきゃ味は、わからないでしょう?
デザートも同じよ、食べなきゃ味が説明出来ないじゃない!クスクス」
この屁理屈には、隣の部屋の侯爵も吹き出しそうになった。
メイドは静かに座ると、グレースにいただきますと言い食べ始めた。
「嬉しいわ!美味しい物は、1人より誰かと共にした方がいいと思わない?
侯爵家の料理人は腕がいいわ。凄くどれも美味よ、私には贅沢過ぎるけどね?!」
「お嬢様は変わっておられますね。使用人と御一緒に食べるなんて」
「私はお嬢様って呼ばれる、歳はとうに過ぎてるわ。
実はね、私はここの使用人になりたいの。
部屋も、使用人の使う方へ移りたい」
このグレースの願いを、部屋で聞いていた他の者たちは呆気にとられる。
「し、使用人になりたいのですか?!
私共はお客人として丁重に接するように、奥様に言われております」
「それは侯爵夫人のお考えですが、私はタダで寝る場所や食事は頂けません。
働いた分だけ頂きます。
ここには長居はしませんし、あまり御迷惑をおかけしたくありません」
メイドは食べ終えると礼を言い、グレースにお辞儀して片したものと部屋を後にした。
食べ終えたら急に眠くなってきたが、ここで眠ることも出来ない。
「ふぁ~、なんだか眠いわ。
早くメイド長様が来てくれないかしら?!
どんな部屋でもいいから横になりたい。
もう、納屋でも構わないわ」
隣の部屋から、複数の笑い声が聞こえてきた。
他の使用人たちが部屋の掃除をして、自分の独り言を聞かれと思った。
まだここに着いて、一日も経ってないのに~!
隣の部屋の扉に目線を送った。
こんな時は、知らぬ存ぜぬが一番ね。
王宮に居た時は、よくしていたわ。
使用人なんて、居ないに等しい空気みたいな存在だもの。
鞄からメモを出すと、料理の感想を書き出した。
そんな様子に隣の侯爵一家も、どう話しかけるべきか悩んだ。
ノックをしてメイド長が、グレースの部屋に入り話しかける。
「グレース嬢、お一人でいらっしゃいますか?!」
「ええ、食事をいただきましたわ。
とても美味しかったと、料理人にお伝え下さい。
どなたかいらっしゃいますの?
お部屋はどちらに移りますか?!」
グレースは鞄を手にして、立ち上がってメリッサに近づく。
同時に隣の部屋から、侯爵一家が気まずそうに部屋にぞろぞろと入ってきたのだった。
理由はひとつしかない、グレースからの侯爵夫人への伝言。
いつも冷静で慌てることのない彼女の表情を見て、侯爵家の3人は不思議そうに様子を見ている。
主人たちに、グレースのやり取りとり顛末を詳しく伝えた。
「グレース嬢がそんな事を仰ったの?
部屋を、使用人が使う様な小さな部屋にしたいと」
これには、流石に侯爵夫人は戸惑った。
親友ジョセフィーヌ様の手紙には、グレースの人柄や家の状況がわかる範囲で書かれていた。
だが、ここまで謙虚とは思っていなかったのだ。
「母上、彼女は子爵令嬢ですよね。
使用人として、雇われた訳ではないですよね?」
息子カルロスもメリッサの話を聞き、自分の知る貴族令嬢と比べて落差を感じた。
「本当にそうなのか?
彼女はワザとしてるかも知れんぞ。
私たちに印象をよくする為に、様子を覗いてみないか?!」
エーレンタール侯爵は貴族の世界で生きてるせいか、人を疑うことに慣れてしまっていた。
「貴方は、ジョセフィーヌ様の事を信じられませんか?
あの方は、人を見る目は確かですわ」
夫人は、夫のグレースを疑う発言を許せなかった。
こんな話をしても拉致があかないと、今は隣の部屋の扉を少し開けて様子を覗き伺っているのである。
グレースは満足感漂う表情をして食べていたら、メイドがデザートを持ってきてくれた。
お腹一杯だったが美味しそうで、少しだけ食べてみたい。
一緒に食べないかと、誘う会話をし始める。
「いけませんわ!
これはお嬢様の食べ物ですので、ご遠慮致します」
もっともな返事にグレースは、メイドに質問をしてきた。
「でも、残したらこれはどうなるの?」
「それはもちろん、廃棄をさせていただきます」
グレースは、明らかに不満顔をしてデザートを睨む。
「ほら!捨てるなら、半分貴女のお腹に入れた方がデザートも喜ぶわよ。
もし怒られたら、私がそうしろと言った事にすればいいわよ」
グレースは食べ終わった食器に半分デザートを分けて、自分はそれにして綺麗な方をメイドに渡した。
「駄目です!私は食べれません!!」
メイドは、テーブルに置かれたデザートを突き返した。
「侯爵家のメイドだけあるわね!躾は行き届いているわ。
でもね、これも勉強と考えてよ。もし、お客様にデザートはどんな味って聞かれたから貴女は答えられる?!」
グレースの変な質問はメイドだけではなく、隣の部屋で盗み見している侯爵一家も首を傾げていた。
メイドは、迷い顔でただ黙る。
「私は王宮で、おもに貴人方にお茶をお出ししていたの。
どんな味わいがするかとか、それは意地悪な質問をされたわ。
だから、王宮で使用された茶葉の入れ方や味は全て調べたの!」
聞いていた人たちは、グレースの言葉の意味が理解できなかった。
「あの、それとデザートとは関係ありますか?!」
グレースは、笑いながら返事を返した。
「飲まなきゃ味は、わからないでしょう?
デザートも同じよ、食べなきゃ味が説明出来ないじゃない!クスクス」
この屁理屈には、隣の部屋の侯爵も吹き出しそうになった。
メイドは静かに座ると、グレースにいただきますと言い食べ始めた。
「嬉しいわ!美味しい物は、1人より誰かと共にした方がいいと思わない?
侯爵家の料理人は腕がいいわ。凄くどれも美味よ、私には贅沢過ぎるけどね?!」
「お嬢様は変わっておられますね。使用人と御一緒に食べるなんて」
「私はお嬢様って呼ばれる、歳はとうに過ぎてるわ。
実はね、私はここの使用人になりたいの。
部屋も、使用人の使う方へ移りたい」
このグレースの願いを、部屋で聞いていた他の者たちは呆気にとられる。
「し、使用人になりたいのですか?!
私共はお客人として丁重に接するように、奥様に言われております」
「それは侯爵夫人のお考えですが、私はタダで寝る場所や食事は頂けません。
働いた分だけ頂きます。
ここには長居はしませんし、あまり御迷惑をおかけしたくありません」
メイドは食べ終えると礼を言い、グレースにお辞儀して片したものと部屋を後にした。
食べ終えたら急に眠くなってきたが、ここで眠ることも出来ない。
「ふぁ~、なんだか眠いわ。
早くメイド長様が来てくれないかしら?!
どんな部屋でもいいから横になりたい。
もう、納屋でも構わないわ」
隣の部屋から、複数の笑い声が聞こえてきた。
他の使用人たちが部屋の掃除をして、自分の独り言を聞かれと思った。
まだここに着いて、一日も経ってないのに~!
隣の部屋の扉に目線を送った。
こんな時は、知らぬ存ぜぬが一番ね。
王宮に居た時は、よくしていたわ。
使用人なんて、居ないに等しい空気みたいな存在だもの。
鞄からメモを出すと、料理の感想を書き出した。
そんな様子に隣の侯爵一家も、どう話しかけるべきか悩んだ。
ノックをしてメイド長が、グレースの部屋に入り話しかける。
「グレース嬢、お一人でいらっしゃいますか?!」
「ええ、食事をいただきましたわ。
とても美味しかったと、料理人にお伝え下さい。
どなたかいらっしゃいますの?
お部屋はどちらに移りますか?!」
グレースは鞄を手にして、立ち上がってメリッサに近づく。
同時に隣の部屋から、侯爵一家が気まずそうに部屋にぞろぞろと入ってきたのだった。
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