上 下
15 / 52
第一章 賢者の里

第十五話 勇敢なエルンは立ち向かう!

しおりを挟む
 「すいません、また世話になるなんて思ってもなかったので」

 「いえいえいつでも来てくれて構わないんですよ」

 エルンの母親が心配そうに気を使う。
 アクセルの背中には眠っているフィアナがいた。
 その様子を見て心配そうに困った表情をしていたのはエルンである。

 「お兄ちゃん、お姉ちゃん何があったの?」

 「少しな……大丈夫だ心配ない、フィアナも疲れて寝ているだけだ」

 「ほ、本当のこと話してよ!子供だからって濁さないで」

 母親に視線をやると申し訳なさそうにして頷く。
 
 「わかった、俺たちは大賢者様の家に行って《賢者の石》について話を聞こうとした。そしたら突然奥にある扉に閉じ込められたんだ」

 「少し待ってください、賢者の石について聞きに来たんですか?」

 エルンの母親は何かに心当たりがあるのか、眼を見開いて驚く。
 
 「賢者の石について何か知ってるんですか?」

 「そう……ですね。賢者の石というのを私の夫も探していたんです。探している理由は分かりませんが、探す旅へ行くと何か焦っているかのように何処かへ行ってしまったんです」

 「そうだったんですね」

 「賢者の石については分かりませんが、大賢者様はここのところおかしなところがあり里の人々も不信感を持ち始めています。もう近づかないほうがいいかもしれません」

 母親の貴重な話を聞くと、もう休んだ方がいいと言われるアクセル。
 アクセルは言われた通り、エルンの部屋に行きと横になり休む。
 エルンは横になっているアクセルに話をかける。

 「あのさ……お兄ちゃんはかっこいいね、お父さんみたい」

 「お父さんか、エルンのお父さんはどんな人なんだ」

 そう言うと自慢げに話し出す。

 「私のお父さんはね、少し天然なところもあるけどいざという時は家族を助けてくれてかっこいいんだ。お兄ちゃんみたいに強くはないかもしれないけど、頼りになって正義感のある自慢のお父さんだよ」

 「そうか……エルンのお父さんは凄いんだな」

 「うん、それにね私の夢をって言ってくれたんだ」

 「認めてくれてるんだな、俺も見習いたい部分はいっぱいありそうだ」

 ニコっとしているエルンは幸せそうに笑っていた。
 笑顔を見て疲れ切っていたアクセルの気が抜けていつのまにか寝ていた。

 体を揺らす何かが肩を強く掴んでいる。

 「起きてくれませんか、お願いします起きてください」

 「(声が聞こえる……)」

 「娘が、エルンが……」

 「エルンのお母さん?」

 薄っすらと目を開けると何か急いでいるエルンの母親が目の前にいた。

 何事かと思い飛び起きて何があったのか事情を聴く。

 「外を外を見てください」

 外に出てみると夜の暗闇を里の人々が逃げ惑い叫んでいた。
 騒ぎの元凶に目をやると、巨大な岩の体をゆっくりと動かし里を破壊するゴーレムが姿をみせている。
 頭部には大賢者のパラサスが乗っていた。

 「パラサスか!?」

 「エルンを助けてください……」

 「エルンは何処に?」

 「私が止めるんだって言って、あの巨大な岩の怪物に向かい走って行ってしまいました」

 母親の言葉を聞いて急いでゴーレムのがいる方へと向かう。
 人を掻き分け、ゴーレムの近くまで来ると先にはエルンの姿があった。

 「エルン‼そこは危ない、こっちへ戻ってくるんだ」

 後ろを振り向いたエルンは、アクセルの声を聞くと安心した表情になる。
 だが……アクセルは振り向く瞬間にゴーレムが巨大な手をエルンに振り下ろしているのに気付く。

 「――お兄ちゃッ」

 地面を砕く衝撃が里中に響いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

外れジョブ「レンガ職人」を授かって追放されたので、魔の森でスローライフを送ります 〜丈夫な外壁を作ったら勝手に動物が住み着いて困ってます〜

フーツラ
ファンタジー
15歳の誕生日に行われる洗礼の儀。神の祝福と共に人はジョブを授かる。王国随一の武門として知られるクライン侯爵家の長男として生まれた俺は周囲から期待されていた。【剣聖】や【勇者】のような最上位ジョブを授かるに違いない。そう思われていた。 しかし、俺が授かったジョブは【レンガ職人】という聞いたことないもないものだった。 「この恥晒しめ! 二度とクライン家を名乗るではない!!」 父親の逆鱗に触れ、俺は侯爵領を追放される。そして失意の中向かったのは、冒険者と開拓民が集まる辺境の街とその近くにある【魔の森】だった。 俺は【レンガ作成】と【レンガ固定】のスキルを駆使してクラフト中心のスローライフを魔の森で送ることになる。

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。

真白 悟
ファンタジー
 なんかよくわからないけど、神さまの不手際で転生する世界を間違えられてしまった僕は、好きなものに生まれ変われることになった。  そのついでに、さまざまなチート能力を提示されるが、どれもチートすぎて、人生が面白く無くなりそうだ。そもそも、人間であることには先の人生で飽きている。  だから、僕は神さまに願った。犬になりたいと。犬になって、犬達と楽しい暮らしをしたい。  チート能力を無理やり授けられ、犬(獣人)になった僕は、世界の運命に、飲み込まれていく。  犬も人間もいない世界で、僕はどうすればいいのだろう……まあ、なんとかなるか……犬がいないのは残念極まりないけど

転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢
ファンタジー
アラサー狩りガールが、異世界転移した模様。 神様にも、仏様にも会ってないけど。 テンプレなのか、何なのか、身体は若返って嬉しいな。 でも、初っぱなから魔獣に襲われるのは、マジ勘弁。 異世界の獣にも、猟銃は使えるようです。威力がわやになってる気がするけど。 一緒に転移した後輩(男)を守りながら、頑張って生き抜いてみようと思います。 ※ 一章はどちらかというと、設定話です。異世界に行ってからを読みたい方は、二章からどうぞ。 ******* 一応保険でR-15 主人公、女性ですが、口もガラも悪めです。主人公の話し方は基本的に方言丸出し気味。男言葉も混ざります。気にしないで下さい。 最初、若干の鬱展開ありますが、ご容赦を。 狩猟や解体に絡み、一部スプラッタ表現に近いものがありますので、気をつけて。 微エロ風味というか、下ネタトークありますので、苦手な方は回避を。 たまに試される大地ネタ挟みます。ツッコミ大歓迎。 誤字脱字は発見次第駆除中です。ご連絡感謝。 ファンタジーか、恋愛か、迷走中。 初投稿です。よろしくお願いします。 ********************* 第12回ファンタジー小説大賞 投票結果は80位でした。(応募総数 2,937作品) 皆さま、ありがとうございました〜(*´꒳`*)

レベルカンストとユニークスキルで異世界満喫致します

風白春音
ファンタジー
俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》は新卒で入社した会社がブラック過ぎてある日自宅で意識を失い倒れてしまう。誰も見舞いなど来てくれずそのまま孤独死という悲惨な死を遂げる。 そんな悲惨な死に方に女神は同情したのか、頼んでもいないのに俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》を勝手に転生させる。転生後の世界はレベルという概念がある世界だった。 しかし女神の手違いか俺のレベルはカンスト状態であった。さらに唯一無二のユニークスキル視認強奪《ストック》というチートスキルを持って転生する。 これはレベルの概念を超越しさらにはユニークスキルを持って転生した少年の物語である。 ※俺TUEEEEEEEE要素、ハーレム要素、チート要素、ロリ要素などテンプレ満載です。 ※小説家になろうでも投稿しています。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

追放シーフの成り上がり

白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。 前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。 これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。 ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。 ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに…… 「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。 ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。 新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。 理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。 そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。 ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。 それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。 自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。 そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」? 戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...