俺と吸血鬼

クローバー

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落ち着こう

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「っ...」
電気の眩しさで目を覚ます。
...なんで俺生きてるの?
なんか手が勝手に動いて首をかき切って状況的に死んだはずだよね。
「は?え、は!?」
無意識で首を触ると、肌ではなく冷たくて硬いなにかに手が当たった。
意味がわからなくてガバッと起きるとジャラジャラという音が聞こえた。
周りを確認すると、鎖で繋がれていた。
真っ先に逃げなきゃという考えが頭をよぎったけど、鎖に繋がれてる以上逃げることは絶対にできない。
全く意味がわからない。
ジャックが暴走したかと思ったら、謎の声に蔑まれ、挙句の果てに自分で首をかき切って意識を失った。
そして目が覚めたら鎖で繋がれていた。
...いや暴走したというのは俺の願望なんだけど。
首を締められて、耳を引き千切られて、しかも消えろと言われて...
その時の満足そうに嗤う邪悪な顔が頭にこびりついて離れない。
思い出しただけで息が荒くなる。
これ以上思い出すのが怖くて、強引に違うことを考えて意識をそらす。
とりあえずここどこ?
見渡してみれば、高級ホテルのような豪華な部屋だということが分かった。
今俺が座っているベットも、物凄く柔らかくて、肌触りも物凄くいい俺の知る中で最高のもの。
ハッキリ言って場違い感が半端ない。
今みたいな異常事態じゃなければ、もっとはしゃいでいると思う。
うん、異常。
俺今首輪で繋がれてるからね。
あはは、マジウケる。
...
恐怖をどうにかしようと内心だけでもと軽く考えてみたけど、効果はまったくなかった。
余計なことしないで恐怖を押し殺しつつ周りを観察しよう。
どうせ脱出なんてできないし。
首を繋がれてて行動できないっていうのもあるけど、この部屋扉も窓もない。
あるはずのものがないというだけで怖くなる。
それに、この部屋が豪華すぎるということも恐怖に拍車をかける。
いや監禁されてるならどんな部屋でも怖いけど。
けどなんか裏がありそうで怖くない?
てか絶対ある。
だって監禁するなら普通の部屋に突っ込んどくだけでいいじゃん?
...俺解剖されるとかないよね。
ジャックと契約してなんか半分人外になってるから解析したいとかの理由で解剖されるとかないよね!?
...とりあえずそんなことは無いと信じておこう。
さて、とりあえずどうしよう。
マジでどうしよう。
「トモヤ、遅くなって悪かった。大丈夫か?」
「体は起こせるみたいだね。しばらく起きなかったから安心したよ兄ちゃん」
「は...?」
突然哲生とジャックが現れてこっちに駆け寄ってきた。
「や、やだ、こっち来るな!ジャック、ごめん、もう二度と会わないから、許して!」
ジャックの顔を見るとさっきの記憶がフラッシュバックして恐怖に支配される。
ベットから降りて逃げようとしたけど、ある程度の距離を離れると首を引っぱられた感じがして尻もちをついた。
鎖に繋がれていたということを忘れてた。
「ごめ、なさい、ごめんなさい...!」
うずくまって泣きながら必死に謝る。
さっきの対応からして無駄なのは分かりきってたけど、他にどうしたらいいのか分からなかった。
目と耳を塞いで恐怖に耐える。
この時どうして両耳あるのか疑問は湧かなかった。
「兄ちゃん大丈夫!?ジャック、ちょっとどっか行ってて。ジャックが悪くないのは分かってるけど、兄ちゃんのパニックが治まらないから」
「...ああ」
息ってどうやってやるんだっけ。
吸っても吸っても息が苦しい。
「兄ちゃん、大丈夫。ほら、息吸って、吐いて。吸って、吐いて...」
声に言われるままに深呼吸して、少しずつ落ち着いてきた。
「ごめん...」
「こんな時は謝るんじゃなくてお礼の方がいいな」
「ありがとう」
なんなんだろう...
弟に頼って、兄らしいこと全く出来てないし、迷惑しかかけてないし。
そう考えたら涙が出てきた。
「うわ、なに今度は何!?」
「俺ってなんなんだろう」
「そんな哲学めいたこと言われても」
こんな風にちょっとふざけて笑わせようとしてくる。
俺にはこんな気遣いは出来ない。
やっぱり俺っていなくてもいいのかもしれない。
本当に俺ってなんなんだろう。
「...もう帰って」
「やだ」
「てつ...へ?」
突然抱きつかれた。
めっちゃ重い。
「1人でいたら見当違いの方向に思考が飛ぶでしょ?どうせ今も俺は居なくてもいいみたいなこと考えてるだろうし」
「...別に」
「当たっちゃった?兄ちゃんって考えてることがすぐ顔に出るからわかりやすいんだよ」
「分かりやすくて悪かったね」
「悪いとは言ってないよ。逆に裏表が無いって意味でいいところだよ」
「あっそ」
そういうところが俺が傷付くところなんだよ。
八つ当たりがすごいけど...
それにしてもなんでこんなに慕ってくれるんだろう。
普通こんな兄だったら幻滅して離れそうなもんだけど。
「うーん...兄ちゃんはもうちょっと顔に出さない努力はした方がいいよ?合ってるか分からないけど、その疑問については、兄ちゃんが好きだからと答えておくね」
「なっ!?」
こいつ絶対エスパーだろ!
今は落ち込んでて顔に出やすいっていうのもあるだろうけど、それにしたって綺麗に当ててるのはもう心読んでるだろって言いたくなる。
「それじゃあ落ち着いてきたみたいだし、真面目な話しよ」
哲生の雰囲気がガラリと変わる。
それにつられて俺も気を引きしめる。
「じゃあまずは俺から話せる事実から話すから、その後兄ちゃんの考えを教えて」
「わかった」
「と言ってもあんま話すことないけどね。まず兄ちゃんは、獏であるフレイに悪夢を見せられていた。そしてそれを見つけたジャックがここ、陰陽師の本拠地に兄ちゃんを連れてきてくれた。で今に至るって感じ」
「え、この高級ホテルみたいなところが陰陽師の本拠地!?」
「ここは医務室...うん医務室...だよ?多分」
「んなわけあるかい!?てかお前もわかってないじゃねーか!」
「医務室なのは確か」
「俺拘束されてるのに?」
首から伸びる鎖を弄りつつちょっときつめに聞く。
「...それに関してはどうしようもなかった。ごめん」
「まあいいけど。どうせ、っ...」
どうしてもジャックの名前を出そうとすると本能的にブレーキを掛けてしまう。
「...そのへんも克服しないといけないかもね。アイツは悪くないから怖がらないであげて」
「うん...ていうか仲悪そうだったのに仲を取り持つくらいはするんだね」
「まあ、ね...善意からじゃなくて必要にかられてだけどね」
「どういうこと?」
「いや、取越苦労ならいいけど、もしこの一件が原因でジャックが暴走したら困るから...それに気持ちはわからないでもないし。俺だったら、兄ちゃんに嫌われたら物凄く落ち込む」
「あんな対応したのに俺のこと捨てないのかな。二度と会わないって言っちゃったけど」
「絶対に捨てない。断言できる。今までに見たことないレベルで執着してるからね」
「...」
なんとなく煮えきらない。
いや、哲生に説明されてあの光景が悪夢だったって分かった。
さっきのジャック出てってって言われたとき悲しそうな顔してたし。
だけど飲み込めない。
離れたいのに離れたくない。
そんな感じ。
「とりあえず今日は休んで。首輪繋げっぱなしにしないといけないのは申し訳ないけど...」
「大丈夫だよ」
「本当にごめん。アイツの眷属ってことで最初はこんなふうにしないといけなかったんだ。一応アイツの対応を見て明日には外そうって結論に落ち着いたから」
「話しつけたの?」
「そうだよ。兄ちゃんが寝てる間に上の人達で話し合い。もう二度とあの場には居たくないね」
「なんかごめんね...偉い人ばっかだと胃が痛くなるよね」
「いやそうじゃなくて。俺結構上の方の立場だし。実はジャックがちょっと暴走したんだよね。兄ちゃんのことを拘束しないといけないって言ったらね。気持ちはわからないでもないけど」
「え...大丈夫だったの?」
「ふふふ、ちょっとだけ喧嘩しちゃったけど、丸く収まったよ」
喧嘩、喧嘩かぁ...
Kが介入したこの前のアレを思い出した。
あー...
なんか察してしまった。
場に居合わせたお偉い様方、ご愁傷様です。
「はいじゃあおしゃべりはお終い!肉体的には全く問題ないけど、獏のせいで精神がボロボロになってるから早く休んで」
「はいはい...て、なんで入って来るの?」
「いや、俺も一緒に寝ようと思って」
「寝る...隠語じゃないよね?」
「兄ちゃんのスケベ!」
「うるせえ!!元はと言えばお前が...」
「ごめんごめん。流石にしないって」
そう言いながらあっという間にベットに侵入。
ここで寝るのは決定事項らしい。
「ま、いいや...それじゃあおやす、み!?」
「おやすみー」
「おい、バカ、離せ」
何を思ったのか、俺のことを後ろから抱きしめてきた。
うわー逞しい腕ですねー、じゃなくて。
俺って兄じゃないのかな。
本当は俺が弟じゃないよね?
...まあいいや。
考えるのがめんどくさい。
物凄く寝にくいけど寝よう。
「もうちょっと抵抗するかと思ったのに」
「もう諦めた。ひゃう!?」
「兄ちゃんはもうちょっと信用しすぎないようにもしないといけないね」
「や、やめっ...はぁ、てつお...ちくびやめろ...」
「分かった止める」
パッと離された。
「...あのさあ、いやなんでもない」
もっとしてほしかったなんて死んでも言えない。
悶々としてたら俺の内心が分かったのか後ろから押し殺した笑いが聞こえてきた。
「本当に可愛い」
「うっさい。お前はもうちょっと兄に敬意を持つようにしろ」
多分今の俺の声は今まで一番低いと思う。
「ふふ、わかったよ、お兄様」
「気色悪いからやめて」
それなのに特に怖いとか感じられなかったみたい。
それどころか茶化してくる始末。
全く...まあいいや。俺自身兄っぽくないって思ってるし。
「はぁ、もう何言っても平行線を辿りそうだからやめよう」
「ふふふ、そうだね」
「それじゃあおやすみ」
「うん、おやすみ、兄ちゃん」
そうして俺たちは眠りについた。
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