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第4章

第65話 中層攻略!

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 中ボス自体はB級の魔物をでかくしただけの相手だったので、大した手間もなく片付いた。
 むしろ、

「この程度の相手で教育とか言ってるギルドがトップとか……プププ!」

 倒した後、出口に居た蒼の剣狼のメンバーを大声で煽ろうとした石紅を抑える方がよっぽど大変だった。
 
 因みに、中ボスの宝箱からは土魔法を強化する杖が出たので、それはそのまま石紅に使ってもらうことにした。

「石紅……お前流石にアレは恨み過ぎでは。いつものお前ならもっと上手くやるだろ」

 その後で、段々と難易度が上がり始めたダンジョンを進みながら言う俺。

「む、葛西は分かってないよ! 私がギルドを通さずにあのダンジョンの情報を集めて、場所まで特定するのにどれだけ頑張ったと思ってるの!? それを大手だからってあっさりかっさらって……これでも抑えてる方だよ!?」

 荒れた様子で憤慨する石紅。
 どうやら藪をつついてしまったらしい。

「それは……いつもお世話になってますというかなんというか」

 実際ここまでの移動ルートの検討とか、口の堅そうな宿屋や酒場の選定とか、逃亡生活において必要不可欠な要素は石紅に任せてばかりだ。 
 彼女ほどの適任がいないというのはそうだが、少し負担をかけ過ぎていたかもしれない。

「でしょ!? 私頑張ってるでしょ!? だったらあれくらいの憂さ晴らししても許されるでしょ!?」
「……もしかしなくても、あのゴリマッチョと戦わせたのも私怨か?」
「え、うん。高圧的でうざかったし」

 恐る恐る尋ねると、あっけらかんと言われてしまった。

 ……マジか。後のことを考えてますっていう態度の方がブラフだったとは。
 いやまあ俺的には剣士タイプと戦えた上、変態さんとの戦いで起こった謎の”覚醒”を再現する訓練にもなったので、悪い試合ではなかったのだが。
 それだって悪目立ちするリスクを考えたらつり合いは取れていない。
 
 ここ最近、ダンジョン攻略の準備の件といい明らかに石紅のテンションは暴走している。
 色々やってもらってる手前言い辛いが、一言窘めるべきだろうか。
 そんな風に俺が思ったところで、

「大体葛西はね、私に何でもかんでも任せすぎなんだよ! そりゃ、信頼してくれてるからだっていうのは分かるんだけど、もう少し気を付けて貰わないと――」

 そこから、延々と石紅の愚痴に相槌を打つ時間が続いた。
 落とし穴に落ちて死にかけても、炎に焼かれて服が焦げても、刺々のタライが頭に落ちてきても石紅の愚痴は止まらなかった。
 何度もメアと浅海に助けを求めたのだが、メアは完全に面白がっていてわざわざフードを取ってにやけた顔を見せてくるし、浅海は石紅が怖いのか目を逸らすし、散々だった。

 そんな石紅の愚痴が落ち着いたのは、中層のボス部屋に到着してからだった。

「とにかく! 葛西は頑張ってる私をもっと褒めて! 分かった!?」

 そんな一言と共にようやく解放された俺は、ボス部屋の扉を見る。
 
 今回は有力ギルドが扉を占拠しているなんて事はなかった。
 というか無人である。

「……サクッと倒してさっさと帰ろう。俺はもう疲れた」

 心身ともに疲弊した俺はふらふらした足取りでボス部屋へと先陣を切る。
 出現するボスは事前情報で知っていた。
 ゴールド・タイタンという、魔法攻撃に耐性のある一つ目の巨人である。
 実際に見た感想は目がチカチカしてうざい、だったが、侮るなかれ。
 こいつはA級の魔物だ。

「ほんとは石紅と浅海にA級の魔物に慣れてもらおうと思ったが……それは往復しやすい下層でやった方がよさそうだな」

 ダンジョンのボス部屋は反対側からは開かない。
 宝箱の部屋の他に、上・中・下、それぞれ1層のセーフゾーンにクリスタルがあり、ボス攻略後にクリスタルで帰還した者は次の攻略ではそちらに飛ばされる仕組みになっている。
 要するに、下層に挑まず、戻って中層のボスだけを周回し続ける、という事は不可能になっているのだ。

 下層からはB、A級の魔物しか出なくなる。
 戦闘経験を積むなら、中層を突破し疲労している今よりも下層でやった方がいいという判断だ。

「つーわけだ。突っ込むから適当にサポート頼むぞメア」

 俺はメアと軽く視線を交わし、そのまま風魔法を纏って金色の巨人へと突っ込んで行く。
 道中鬼が島の鬼が持ってそうなとげとげの棍棒が何度も俺に襲い掛かったが、その全てを無視。
 俺に当たりそうな攻撃だけを選んで、メアが全て防いでくれる。

 そうして太っとい腕を伝って肩に乗ると、ミスリルの剣を引き抜く。

 ゴリマッチョの剣をへし折った時と同じ。
 変態さんとの戦いを思い出し、剣の中へと潜るようなイメージでひたすら集中。
 すると、徐々にミスリルの剣が淡い青白い光を纏い始める。

 この技の正体は俺もまだわかっていない。
 だが、恐らくは本の勇者が言っていた《純粋無垢》さんの潜在能力なのだろう。それが、メアを失うかもしれないという俺にとって最悪の事態をトリガーに発現したのだ。

「——っらあッ!」

 気合一閃。
 俺の振るった剣は凄まじい速度で金色の巨人の首を一刀両断する。
 その一撃がギリギリ終わるか終わらないかのところで、青白い輝きはすぐに消えてしまった。

 あれから何度も試しているが、今の俺に出来るのは一瞬の出力を引き出すことだけだ。
 だがその一瞬だけは、俺の魔力総量の全てを剣に注いだかのような異常な威力と身体能力を得ることが出来る。
 今みたいに、魔法耐性のあるA級の魔物くらいであればバターのように切り倒すことが可能だ。

「というわけで、一同解散ッ!」

 罠に揉まれ、人に揉まれ、最後には頭の上がらない石紅相手に延々と愚痴を聞かされた俺のSUN値はもう0だ。

 そうして俺はドロップアイテムの確認すらすることなくさっさと地上に戻り、宿屋のベッドで泥のように眠りについたのだった。
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