親友に彼女を寝取られて死のうとしてたら、異世界の森に飛ばされました。~集団転移からはぐれたけど、最高のエルフ嫁が出来たので平気です~

くろの

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第3章 勇者の足跡とそれぞれの門出

第59話 混合魔法

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「浅海、お前なんで……!」

 毒ナイフ使いを吹っ飛ばして、俺の命を救った浅海。
 
 けれど俺は、感謝よりも先に当惑が湧き上がって来た。

「なんで来た! 今俺と関われば、お前らがやって来たことが全部無駄になるんだぞ!?」

 彼女たちを巻き込まないようにと、ずっと警戒してきた。
 それがここに来て崩れたことに、それを崩さざるを得ない状況に追い込まれた自分自身の不甲斐なさに、俺はつい声を荒げてしまう。

「……?」

 けれど、当の浅海自身はイマイチピンと来ていない様子だ。

「あー、やっぱり先に来てた!」

 そんな状況で、更に俺を困惑される聞き慣れた声が背後から響く。

「石紅まで……お前は浅海と違って俺たちに関わるリスクくらい分かるだろうが!」

 土魔法ばかり練習させたせいで弱い移動強化しか使えない石紅は、ぜぇぜぇと息を切らして額に汗を滲ませている。

「あー……やっぱりメアさん説明してなかったかぁ」

 石紅は嘆息し、現在進行形で敵を捌き続けているメアにジト目を向ける。

「えっと、色々やばそうだから簡単に言うね。私と奏ちゃんは最初から葛西たちに付いて行くつもりだったんだよ。一応それによってあの子たちに影響が出ないようにもしてあるから大丈夫。……それよりも、今は」

 石紅が表情を引き締め、目の前の敵に視線を向ける。
 だが、

「……ねえ葛西。あの変態はなんなの?」

 耐えきれなくなって、石紅が俺に視線を向けてくる。

「知らん。俺に聞くな」
「……とにかく、あれを倒せばいいんじゃないの?」

 浅海は相変わらず本気なのか冗談なのかよく分からない声音をしている。
 声はやたらと可愛いんだけどなぁ。

「倒せるならそれに越したことはないが……正直、俺とメアでも防ぐのが精いっぱいだったぞ。早いし固いし、攻撃力いかれてるし」
「でも、葛西君なら何とか出来るでしょ?」

 曇りのない瞳で見つめられ、俺は思わずたじろぎ――

「少しでいい、時間を稼いでくれ。そうしたら俺がどでかいのを叩き込む」

 弟子の手前もあり、俺はそう宣言してしまった。

「あ、それなら多分、50秒後に大きな隙が出来ると思う。その時を狙って」

 石紅からやたらと具体的な数字を貰って、俺たちは散開する。
 
「メア! なんであいつらのこと黙って……いやいい、それは後回しだ。それより念話繋ぐ余裕はあるか!? ずっとじゃなくていい。40秒後に少しだけ繋がればそれでいい!」
「よく分かりませんが、分かりました!」

 俺はメアの傍に寄り、再び変態さんと対峙する。

 念話も魔法だ。燃費の良い部類ではあるが、これほどの激戦の最中、メア一人に全員と繋ぐ役割を背負わせるべきではないからな。

 とはいえ、ここ一番の状況で石紅が打ち立てた策だ。
 中学1の時、入学からたった半年で公立なのに合唱コンじゃなくて模擬店まで出せるガチの文化祭を開催させたあいつが言うんだ。
 疑う理由なんて、俺には一つもない。

「10、20……クソ、ガチで戦いながら数数えるの意外とキツイなおい!」

 途中からよく分からなくなってしまったので、とにかく何かが起こるまで俺たちはひたすら変態さんのヘイトを買い続ける。
 それでも部下の黒ポンチョ共方は浅海たちが引き受けてくれるようになったのでだいぶ楽になった。

 そして、事態は起こった。

「あ、あれです! 衛兵さん! あのでっかい変態をどうにかしてください!」

 叫びと共に、どこからか悲鳴のような声が幾つも上がる。
 
 見れば、いつの間にか街の人たちが結界の範囲ギリギリのところにわらわらと集まってきていた。
 そして、その中心で衛兵を呼んだのは見知った顔。

 仁科に、静さん、三宮に空ちゃん。
 共にこの世界に転移し俺たちが救った女子たち全員がそこにいた。

「あいつら……」

 危険な場所に来て欲しくなかったという気持ちと、駆け付けてくれた嬉しさが入り混じる。
 まああそこで民衆に紛れている分には、黒ポンチョ共に目をつけられる心配はないだろうが。

「な、なんだあれは。魔物か!? とにかく変態だ!」

 衛兵たちも徐々に集まって来てはいるものの事態を飲み込めてはいない。
 だが間違いなく、変態さんの方が悪だと認定されていた。

「そうか。衛兵が敵になるかもしれないとビビっていたが、さっき領主と話をつけたばかり。メアの手配書は下っ端まで回っていないのか」

 まあそれが無くても見た目のインパクトで向こうが敵認定される気がするが。

 そして、100人を超える野次馬たちから口々に漏れたのは一つの言葉。

「うわ、なんだあれ変態じゃん」
「あの格好はどう見ても変態だろ」
「ママー! 変態さんがいるー!」
「しっ! 見ちゃいけません! あれは確かに変態だけど!」

 『変態』と、女を見た全員が戦っている俺たちに聞こえてくる程までそう口にしたのだ。
 その言葉は、当然元ビキニアーマーさんの耳にも届いていた。

「——っ」

 民衆に視姦され、変態と揶揄された事で遂に己の格好に耐えられなくなったらしい。
 顔を火が出そうな程真っ赤に染めあげて、羞恥で固まり攻撃の手が止まった。

「今だ、メア!」

 小さく呼びかけ、俺たちは動き出す。

『2人で陽動を仕掛けてくれ。その隙に俺たちが決める!』

 念話で浅海たちに指示を出し、そして――俺とメアはその場から姿を消した。

 透明化。
 目の前で使っては効果がないとの事だったが、俺たちから意識が逸れ、その隙を突くように浅海たちが攻撃を仕掛けている今なら使えるはずだ。

 そうして変態さんの死角に回り込んだ俺たちは、俺は、全力の魔法を行使する。

 使う魔法は森で開発したパイルバンカー。
 土魔法で作った重く鋭い杭を火魔法の火力で爆発的な加速で押し出す、混合魔法。
 
 だが俺はそれに更なる改良を施していた。

「もっとだ……もっと魔力を圧縮しろ……!」

 限界まで硬くした土の杭の後ろに接続されているのは、土魔法で出来た縦長の炉。
 その中で限界まで火魔法を圧縮し、火力を叩きだす。
 
 と、そこに更に一工夫。
 
 俺はその炉の中を、風魔法を使って完全な真空状態にした。

 通常真空状態では酸素がなくなり火が燃える事はない。
 けれど火魔法は、文字通り魔力を燃料に燃える。
 よって、射出する前、魔力を供給し支配下に置いている状態に限り、真空状態でも変わらず燃え続ける事が出来る。

 ずっと考えていた。
 俺が一番得意な土魔法と風魔法を合体させる方法を。
 けれど、その二つだけでは壊滅的に相性が悪くてどうしても形にならなかった。
  
 だから、使う属性を3つに増やしたのだ。

「その分暴発しないように制御するの滅茶苦茶キツいんだけどなこれ。ちょっとでも気ぃ抜いたら炉が爆発に耐えられなくて散弾みたいに俺の方まで飛んでくるし」

 それでも、このクソ変態女を倒すためには必要だと思った。

 時間にしてたっぷり10秒ほど魔力を制御し続け、そして魔法が完成した。

「オラ……ブチかませッ!!!」

 叫びと共に炉を形成する分厚い土魔法以外の全ての魔力を解き放つ。

 ズゴゴゴゴ、と天変地異みたいな凄まじい爆裂音がして、土杭が異常な速度で射出され変態さんを襲う。

「よし!」

 死角から襲い来るその杭を防ぐ手段はきっとこの世のどこを探してもないだろう。
 そう思って俺は、着弾を見届けもせずにガッツポーズをした。してしまった。

「——どれ程の痴情を受けようと、敵前で剣筋の鈍る私ではないっ!」

 変態さんが叫び、当たる寸前のところで土杭と己の間に無理やり大剣を差し入れる。

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 もはや気品の欠片も無い野太い雄叫びを上げ、変態さんは全ての魔力を大剣に注ぎ込み己の体躯をも超える大きさまで巨大化させ――ズガン、と凄い音を響かせながら大剣を振り切り俺の最高の一撃を防ぎ切った。

 土杭は大剣を貫通しヒビを入れ、真っ二つに叩き折った。
 けれども変態さんの方は無事生きている。
 魔力を使い過ぎたのか若干縮んでるし、剣を構えていた右腕はプランと垂れ下がり潰れているが、その程度。
 粉々に消し飛ばずくらいのつもりで放った攻撃の成果としては、散々な結果だろう。

「詰めが甘かったな」

 そして、全力の一撃を放った後隙に折れた大剣の刺突が飛んでくる。
 今までのようなリーチはないが、素の速度だけで今の俺を仕留めるには十分だった。

「オウガイさんッ!」

 メアが悲鳴を上げ、防御魔法を展開する。
 1,2,3。今まで見た事のない3重の防御壁だ。

「ほぅ、あのじじぃにくれてやるには惜しい才能だな」

 防御魔法が1枚割れ、2枚割れ、それでもメアは鼻血を流しながら、変態さんの一撃をギリギリのところで防ぎ切った。
 だが、

「ならば、こうするまでだ」
 
 変態さんは刺突を中断し、その巨大な剣の腹で思い切り地面をぶっ叩いた。
 
 それは奇しくも俺が見つけた対処法と同じ。 
 大剣の生み出した衝撃波で、俺はメアを何とか抱き留め、二人して20メートル以上も吹っ飛ばされる。

「ぐっ」

 強烈に背中を打ち付けたが、何とか無事生き残ったらしい。

「メア、大丈夫か?」
 
 ゆっくりと立ち上がり腕の中のメアに問いかけるも、返事はない。
 メアは鼻血を流したまま、ぐったりと動かなくなっていた。

「……メア? おいメア!」

 慌てて彼女の薄い胸を探ると、そこには確かな鼓動があった。
 恐らくは魔力の使いすぎとダメージの蓄積で意識を失ったのだろう。

 それでも、いつもなんだかんだで危機を乗り越えていたメアの初めて見る苦悶に歪んだその寝顔に、俺の中でプツンと何かが切れる音がした。

「あ、ああ……」

 ゆっくりとメアを地面に下ろし、声ともつかない声を上げながら俺は立ち上がる。

 何をすればいいのかは、不思議と解っていた。
 
 俺は真っすぐ変態さんに向かって駆けながら腰にぶら下げた鋼の剣を引き抜く。
 
 ——その剣には、太陽に光にも似た青白い強烈な輝きが宿っていた。



―――――――――――――――――――――
次号、鴎外覚醒!

ということで、今話がカクヨムコン期間内の最終更新となります!
3章完結までいけなかったのは悔しいですが、皆様の応援のおかげで何とかここまで走り切ることが出来ました!

読者選考の対象期間は明日2月8日までとなっております!
もし☆評価がまだの方いましたら、選考突破の為にお力を貸して頂けると非常に嬉しいです。
よろしくお願いいたします。

(なおカクヨムコンが終わっても今まで通りのペースで更新していきますのでご安心を!)
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