57 / 73
第3章 勇者の足跡とそれぞれの門出
第56話 指名手配犯は俺の嫁
しおりを挟む
「貴様……どうやって街に入った?」
黒ポンチョのボス改めビキニアーマーの女が、驚いたように俺を睨む。
「さあ。オタクの監視がザルなんじゃないか?」
俺も負けじと、胸元に視線がいかないよう必死に女の顔を睨みつける。
黒い肌をして額に二本の角が生えた女。
メアからチラっと話は聞いていたが、これがこの世界の魔族というやつなのだろう。
「まあ、この際貴様の事はどうでもいいのだ。それよりも――」
女の視線がメアの方を向く。
「エルフの姫よ、貴方には我々と共に来ていただこう」
「え、嫌ですけど」
女の言葉に、メアが即答する。
「ここまで来ておてんばなのは感心しないな。冒険者をやっているらしいが、我々と戦えば怪我では済まんぞ?」
「えっと、とりあえずその痴女みたいな恰好辞めてから言ってくれます?」
尚も食い下がる女の意見に、メアは聞く耳も持たない。
「……お、おい貴様、そこのエルフの姫をこちらに渡せ。そうすれば、命だけは助けてやろう」
「は? 死んでも嫌だけど」
俺もまた女の言葉に即答する。
「な――貴様、一度我々に負けて酷い目に遭ったのを忘れたのか?」
「いやめっちゃ覚えてるし、超恨んでるよ?」
「ならば何故——!」
「だからこそ、お前の言う事なんて聞くわけないだろうが。というか何言われてもメアは渡さん俺の嫁だ」
俺がそう捲し立てると、女は額の角と角の間に怒りマークが浮かべる。
「そうか……ならば仕方ないな。少し痛い目をみていただこう」
そして、再び長剣を上段に構え――
「いいのか? こんなところで戦って。仲良しの領主サマに怒られるぞ?」
俺は顎先で領主の屋敷を示す。
当然そこには屈強な門兵が待機している。
「ふん、それならば何も問題はない。我々は祖国の命に従い指名手配の逃亡犯を捉えに来ただけだからな」
「……指名手配?」
何やら不穏な流れを感じて、俺は聞き返す。
「これを見ろ」
そう言って、女がビキニアーマーの胸元から一枚の紙を取り出す。
そのあまりにテンプレ的なエロを感じる仕草に目を奪われ――メアに足を踏まれ何とか踏み止まる。
紙の正体は絵だった。
描かれているのは、この世界で一番の美少女。
ていうか俺の嫁だった。
「貴様はエルフ及び魔族の国より正式に指名手配されている。つい先ほど、こちらの領主殿にも協力を要請したところだ。よって、この場で戦うことに何の問題もない」
してやったり、という顔でどやる女。
それを見て俺たちは――
「ちょ、おいメア! エルフは時間にルーズだから数年は追われないって言ってたよな!?」
「えっと……エルフはルーズなんですけど、魔族は違ったみたいですね。同じ長命種だから似たようなものだと思ったのですが……」
「みたいですね、じゃねえ! やばいやばいやばい、ラスダン攻略計画がだいぶ狂うぞこれ」
予想外に事態に分かりやすく慌ててしまった。
話に聞いていたメアの婚約者候補の魔族のジジイが遂に本気を出して来たのだ。
それでもって、エルフとしても王権争いから逃亡中のメアを魔族と揉めてまで擁護はしてくれなかったと。
結果として、指名手配犯として追われる事となったのだ。
やっだ~俺の嫁ったら指名手配になっちゃったわ。
いや割とほんとにマジでどうしようこれ……
などと、俺が頭を抱えていると、
「痴話喧嘩は後にしてもらおうか。私も早く仕事を済ませたいのでな」
身体に魔力を纏った女が、長剣を構えて突進してくる。
不味い不味い不味い不味いっ!
指名手配って事はつまり領主どころかこの街全部が敵で? 単体でもだいぶやばい黒ポンチョの親玉に襲われてると!?
しかも、貴族街だから人は少ないとはいえ白昼堂々街中だ。
状況は最悪と言っていい。このままじゃ死角も刺客も沸き放題だ。
であれば、答えは一つ。
「よし、逃げるぞメア!」
俺とメアは連れ立って全速力でその場を逃げ出した。
風と雷を体に纏った俺たちは屋根伝いにノルミナの街をビュンビュンと駆け抜け、一気に街の外へと向かう。
当然女もそれを追って来て、一瞬後ろを見ると黒ポンチョの部下達が女と一緒に追って来ていた。
全部で6人。以前奇襲してきたやつも含めての勢ぞろいである。
彼女たちが走りながら飛ばしてくる魔法を避けながら、俺たちは更に進む。
「クソ、領主の傍を離れたのは失敗だったか?」
さっきは魔族の国、と名乗っていたが、俺を拷問した時は組織がどうとか言っていた。
もし彼女が公的な立場の裏で組織に加入している二重スパイ的な立ち位置なのだとしたら、全力を出せない領主の前で戦っていた方がよかったのかもしれない。
とはいえあの場では混乱し過ぎてそんなところまで読み切れなかった。
死角から複数人に命を狙われる恐怖が、俺の中に刻み込まれていたのだ。
「この後どうします!?」
走りながら、メアが叫ぶ。
彼女も彼女で念話を使おうと考える余裕すらないらしい。
「とにかく森に逃げ込むしかないだろ!」
森の中なら、メアの能力で奇襲は喰らわなくなる。
迷わず進める彼女がいれば、巻くのだって容易だろう。
そんなこんなで走り続け、遂に街を出る。
高い城壁でもあれば厄介だったが、この街は勇者の結界のおかげでどこからでも出ることが出来るからな。
「とりあえずこれで、最悪奇襲は避けれるか」
そう、安心した瞬間だった。
「——っ」
唐突に放たれる魔法の手数が増え、俺は大きく体勢を崩した。
「なるほど、どうやら街の出入り口を監視してるって読みは当たってたわけだ」
見ると、黒ポンチョを着た女の部下の姿が10人にまで増えていた。
黒ポンチョ共はそのまま失速した俺たちをぐるりと取り囲み、
「気が済んだか? 追いかけっこは終わりだ。大人しくしてもらおうか」
にやけた顔で、女が剣を構える。
そうして俺たちは絶体絶命の状況に追い込まれたのだった。
黒ポンチョのボス改めビキニアーマーの女が、驚いたように俺を睨む。
「さあ。オタクの監視がザルなんじゃないか?」
俺も負けじと、胸元に視線がいかないよう必死に女の顔を睨みつける。
黒い肌をして額に二本の角が生えた女。
メアからチラっと話は聞いていたが、これがこの世界の魔族というやつなのだろう。
「まあ、この際貴様の事はどうでもいいのだ。それよりも――」
女の視線がメアの方を向く。
「エルフの姫よ、貴方には我々と共に来ていただこう」
「え、嫌ですけど」
女の言葉に、メアが即答する。
「ここまで来ておてんばなのは感心しないな。冒険者をやっているらしいが、我々と戦えば怪我では済まんぞ?」
「えっと、とりあえずその痴女みたいな恰好辞めてから言ってくれます?」
尚も食い下がる女の意見に、メアは聞く耳も持たない。
「……お、おい貴様、そこのエルフの姫をこちらに渡せ。そうすれば、命だけは助けてやろう」
「は? 死んでも嫌だけど」
俺もまた女の言葉に即答する。
「な――貴様、一度我々に負けて酷い目に遭ったのを忘れたのか?」
「いやめっちゃ覚えてるし、超恨んでるよ?」
「ならば何故——!」
「だからこそ、お前の言う事なんて聞くわけないだろうが。というか何言われてもメアは渡さん俺の嫁だ」
俺がそう捲し立てると、女は額の角と角の間に怒りマークが浮かべる。
「そうか……ならば仕方ないな。少し痛い目をみていただこう」
そして、再び長剣を上段に構え――
「いいのか? こんなところで戦って。仲良しの領主サマに怒られるぞ?」
俺は顎先で領主の屋敷を示す。
当然そこには屈強な門兵が待機している。
「ふん、それならば何も問題はない。我々は祖国の命に従い指名手配の逃亡犯を捉えに来ただけだからな」
「……指名手配?」
何やら不穏な流れを感じて、俺は聞き返す。
「これを見ろ」
そう言って、女がビキニアーマーの胸元から一枚の紙を取り出す。
そのあまりにテンプレ的なエロを感じる仕草に目を奪われ――メアに足を踏まれ何とか踏み止まる。
紙の正体は絵だった。
描かれているのは、この世界で一番の美少女。
ていうか俺の嫁だった。
「貴様はエルフ及び魔族の国より正式に指名手配されている。つい先ほど、こちらの領主殿にも協力を要請したところだ。よって、この場で戦うことに何の問題もない」
してやったり、という顔でどやる女。
それを見て俺たちは――
「ちょ、おいメア! エルフは時間にルーズだから数年は追われないって言ってたよな!?」
「えっと……エルフはルーズなんですけど、魔族は違ったみたいですね。同じ長命種だから似たようなものだと思ったのですが……」
「みたいですね、じゃねえ! やばいやばいやばい、ラスダン攻略計画がだいぶ狂うぞこれ」
予想外に事態に分かりやすく慌ててしまった。
話に聞いていたメアの婚約者候補の魔族のジジイが遂に本気を出して来たのだ。
それでもって、エルフとしても王権争いから逃亡中のメアを魔族と揉めてまで擁護はしてくれなかったと。
結果として、指名手配犯として追われる事となったのだ。
やっだ~俺の嫁ったら指名手配になっちゃったわ。
いや割とほんとにマジでどうしようこれ……
などと、俺が頭を抱えていると、
「痴話喧嘩は後にしてもらおうか。私も早く仕事を済ませたいのでな」
身体に魔力を纏った女が、長剣を構えて突進してくる。
不味い不味い不味い不味いっ!
指名手配って事はつまり領主どころかこの街全部が敵で? 単体でもだいぶやばい黒ポンチョの親玉に襲われてると!?
しかも、貴族街だから人は少ないとはいえ白昼堂々街中だ。
状況は最悪と言っていい。このままじゃ死角も刺客も沸き放題だ。
であれば、答えは一つ。
「よし、逃げるぞメア!」
俺とメアは連れ立って全速力でその場を逃げ出した。
風と雷を体に纏った俺たちは屋根伝いにノルミナの街をビュンビュンと駆け抜け、一気に街の外へと向かう。
当然女もそれを追って来て、一瞬後ろを見ると黒ポンチョの部下達が女と一緒に追って来ていた。
全部で6人。以前奇襲してきたやつも含めての勢ぞろいである。
彼女たちが走りながら飛ばしてくる魔法を避けながら、俺たちは更に進む。
「クソ、領主の傍を離れたのは失敗だったか?」
さっきは魔族の国、と名乗っていたが、俺を拷問した時は組織がどうとか言っていた。
もし彼女が公的な立場の裏で組織に加入している二重スパイ的な立ち位置なのだとしたら、全力を出せない領主の前で戦っていた方がよかったのかもしれない。
とはいえあの場では混乱し過ぎてそんなところまで読み切れなかった。
死角から複数人に命を狙われる恐怖が、俺の中に刻み込まれていたのだ。
「この後どうします!?」
走りながら、メアが叫ぶ。
彼女も彼女で念話を使おうと考える余裕すらないらしい。
「とにかく森に逃げ込むしかないだろ!」
森の中なら、メアの能力で奇襲は喰らわなくなる。
迷わず進める彼女がいれば、巻くのだって容易だろう。
そんなこんなで走り続け、遂に街を出る。
高い城壁でもあれば厄介だったが、この街は勇者の結界のおかげでどこからでも出ることが出来るからな。
「とりあえずこれで、最悪奇襲は避けれるか」
そう、安心した瞬間だった。
「——っ」
唐突に放たれる魔法の手数が増え、俺は大きく体勢を崩した。
「なるほど、どうやら街の出入り口を監視してるって読みは当たってたわけだ」
見ると、黒ポンチョを着た女の部下の姿が10人にまで増えていた。
黒ポンチョ共はそのまま失速した俺たちをぐるりと取り囲み、
「気が済んだか? 追いかけっこは終わりだ。大人しくしてもらおうか」
にやけた顔で、女が剣を構える。
そうして俺たちは絶体絶命の状況に追い込まれたのだった。
0
お気に入りに追加
425
あなたにおすすめの小説

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

倒した魔物が消えるのは、僕だけのスキルらしいです
桐山じゃろ
ファンタジー
日常のなんでもないタイミングで右眼の色だけ変わってしまうという特異体質のディールは、魔物に止めを刺すだけで魔物の死骸を消してしまえる能力を持っていた。世間では魔物を消せるのは聖女の魔滅魔法のみ。聖女に疎まれてパーティを追い出され、今度は魔滅魔法の使えない聖女とパーティを組むことに。瞳の力は魔物を消すだけではないことを知る頃には、ディールは世界の命運に巻き込まれていた。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる