親友に彼女を寝取られて死のうとしてたら、異世界の森に飛ばされました。~集団転移からはぐれたけど、最高のエルフ嫁が出来たので平気です~

くろの

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第3章 勇者の足跡とそれぞれの門出

第48話 女の拷問はエロいけど男の拷問は爪の間抉るくらいしかすることないよね

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「きろ……いい加減起きろ、下郎!」

 叱責と共に冷水をぶっかけられ、俺は一気に目を覚ます。

「あ……? ここは……?」

 恐る恐る目を開ける。
 だが、視界に映るのは暗闇だけ。
 更に、身動きも出来ない。

「ようやく起きたか。さあ、我々の質問に答えてもらおう」

 前の方からどこかで聞いたようなボイスチェンジャーを噛ませたみたいな低い声が響いて来る。
 
「……そうだ。確か俺、あの女に奇襲を受けて……」

 声を聞いて思い出した。
 黒ポンチョの女共を相手取り、意識の外の5人目からの攻撃で意識を失ったのだ。
 どうやら俺は彼女たちによって捕らえられてしまったらしい。

「まだ混乱しているようだな。まあいい、すぐに喋りたくなる」

 女が俺の近くを離れて何やら作業を始めた。
 少し遠くで、どう考えても不吉な金属が擦れる音が響いている。
 
 え、なにこれもしかして拷問とかされるやつ?
 爪の間に針を差し込むとか、爪を剥がすとか。
 いやだって俺男だし。 
 女の子相手なら服脱がすだの触手に襲わせるだの色々と楽しい拷問生活が思いつくけど、男のくっころなんてエロくも何ともない。一部の層がウホってなるだけである。
 
 とまあ何故か俺の中の拷問のイメージは爪に寄っているが、そんなことは問題ではない。 

 そんなことよりも……え、痛いのとかマジで無理なんだけど!?!?

 考えてみれば、この世界に来て俺が痛みを感じたのはメアにちょっかい掛けて軽い電撃を喰らった時くらいだ。
 命の危機は何度もあったけど、痛みへの耐性は一般的な日本人レベルのままである。
 拷問されるとか、考えるだけで気が狂いそうだ。

 ……というか、こいつらはなんで俺を捕まえたんだ?
 邪魔なだけならあの場で殺せば済んだはずだ。
 
 目覚めてから時間が経ったおかげか、俺は少し冷静さを取り戻してきた。

 そういえば、こいつらは勇者の遺品に、というか勇者そのものにやたらと執着していた。襲って来たのだって、俺が勇者の話をした直後だ。
 それに確か、図書館で仁科に聞いた話じゃ勇者の歴史だけが綺麗に消されていたって言ってた気がする。
 
 ……もしかして。

「さて。さっさと質問に答えてもらおうか」

 そこまで考えたところで、女が俺の近くへと戻ってきた。
よく聞くと歩く度にカチャカチャと金属音が鳴っている。

 え、それで何する気なのめちゃくちゃ怖いんだけど!?

「貴様、どこの組織の所属だ? あるいはどこかの国家の回し者か?」

 質問は俺の予想外の角度から切り込んできた。
 何と言うか、思ったより話のスケールが大きくなってきたな……

「組織とか、一体何の話だ? というか一体俺がなにしたってんだよ!」

 ひとまず困惑した風を装っておく。
 今は僅かでも情報が欲しい。
 何とかしてこの場を切り抜けられなければ、待っているのは拷問の末の処刑だ。
 
 俺が死ねば、きっとメアは後を追うだろう。
 あるいは自暴自棄になって国の為に魔族の大貴族とやらに嫁ぐかもしれない。
 逆の立場であれば俺も正気を保っていられる自信がないので、気持ちが分かる

 ——だから、絶対にここで死ぬわけにはいかない。

「ふん、痴れたことを。歴史の真実を口伝している馬鹿ども以外、勇者の実態を知っているわけがないだろう」
「真実? 勇者の実態? さっきから一体何の話をしている!?」
「誤魔化そうとしても無駄だ。相当な規模の組織でなければ我々による歴史消却の影響下からは逃れられん。勇者が世界を救ったということを知っていた貴様は、それだけで異端なのだ」

 俺が更に喚くと、女は存外あっさり話してくれた。

 なるほど、そういうことだったのか。
 
 この世界の歴史書から勇者の記述が消されていたのはこいつらの仕業だったのだ。 
 そりゃ、俺が勇者の事を知っていたら逆上して襲い掛かって来るわな。

 というかメアさん、さも常識みたいに国家機密を話さないでくれよ……
 元の世界の知識のせいで、当然勇者=世界を救う存在だと思って疑わなかった俺も悪いけどさ。
A級冒険者だからその辺の社会常識もしっかりしてるかと思っていたけど、意外と箱入りのお嬢様なのかもしれない。いや実際エルフのお姫様なんだけども。

 ……さて、こいつらの実態はなんとなく掴めた。
 何故勇者の歴史を消しているのかとか、まだまだ聞きたいことは山ほどあるが、ここらが潮時だろう。
 これ以上は『この秘密を知ったからには生きて帰すわけにはいかない!』っていうお決まりにして最悪の展開になりかねない。
 一応、魔剣ブラフのおかげか魔法自体は今も使える状態なので無抵抗で殺されるってことにはならないが、風魔法の索敵だけでは戦って安全なのか分からないので、解放してもらうに越したことはない。

「さあ吐け、貴様、どこの所属だ!」

 女の態度に勢いがつく。
 と同時に俺の指先に鋭い痛みが走る。
 
「ぐああああああっ!?」

 想定通りと言っていいのか、右手の人差し指の爪の間に針が差し込まれる。
 人体の触れてはいけない部分に痛みが走り、俺はあまりの痛みに思わず大声を上げる。

「こ、殺さないでくだせぇ! あの時は調子に乗ってただけで、ほんとはただ金が欲しかっただけなんですぅ!」

 そしてそのまま俺は自分に出来る最大限情けない演技で思いっきり泣き喚いた。

「ふん、なんだ。気でも触れたか?」

 女は拷問の効果が出たことにご満悦だ。

 だがこれはあくまで演技。
 今までの情報から、助かる為にこうするべきと判断してのことだ。
決して、拷問がめちゃくちゃ怖いので半分は演技じゃなく本気で泣いているということはない。決してだ。大事な事なので二回言いました。

「本当は俺、ただ金が欲しいだけの盗賊なんです! ただあの時は結構頑張って警備体制とか調べてたから獲物を横取りされるのが悔しくて反抗しちゃっただけで……こんなに強い人が相手だとは思わなかったんですぅ!」
「そんな嘘が通じるとでも? それでは貴様が勇者のことを知っていた理由に説明がつかんだろう! もう一本刺されたいのか!?」

 女が凄んで、今度は右手の中指に冷たい感触がやって来る。
 
「違うんです、あれは昔知り合ったエルフの王族からそんなような話を聞いたってだけで……勇者の遺品も、エルフの王族なら高く買ってくれると思ったから盗もうとしていただけなんでさ!」

 そう、この場で俺に出来る最大限の抵抗、それは俺がただの盗賊なのだとアピールする事だ。
 今思えばこの女は最初は警告して関わらせないようにしてくれていたし、相手が秘密を知る関係者でないと分かれば逃がしてくれるかも、と思ったのだ。
 なので口調もさも三下の盗賊みたいにしている。

「確かにあの森の馬鹿どもは偶にそういうことをするし、貴様は大組織の所属にしてはあまりに体運びが素人臭かったが……」

 女が何やら考え込むように呟く。
 右手の中指から恐ろしい感触が消える。

「だが、あの魔剣はどうだ。貴様程度の者があのような剣を持っているのは組織に属しているからではないのか?」
「見て貰えれば分かると思いますが、あれは魔剣じゃねえです。ただちょっと光沢の強い鋼の剣でさぁ」
「な、本当に……? だが、貴様は確かに私の部下を斬ってみせたではないか!」

 女が剣を確認し驚き、再び俺に詰め寄って来る。

「あれは俺の魔法です。金も学ぶ機会もない盗賊風情なので、みんなが使うのとは違う変な魔法ですが……」
「——っ、感覚派か! 確かに、それなら起こりを消して魔剣のように見せることも出来るだろうが……」
 
 なんか思ったよりも動揺してくれていてこのまま押し切れそうだったので、思い切ってここで魔法の存在を明かしてしまう。
 
「……確かに、話に筋は通っている。恐らく貴様は他の組織の回し者ではないのだろうな」

 どうやら信じて貰えたらしい。
 少し柔らかくなった声音に、俺はほっと胸を撫でおろす。

「それじゃあ解放して――」
「だが違ったとはいえ、貴様は私の部下を傷付けた。やられたらやり返す、それが裏稼業の暗黙のルールであることは、盗賊の端くれでも理解しているだろう?」
「そ、それは……」

 女の声音に怒りが滲む。
 もしかして、あの一撃で殺してしまったのだろうか。
 だとすればどうやっても解放されることはない。
 やはり、戦う以外に道は――

「なんてな、冗談だ。あの程度の傷は治癒魔法で治る範疇だし、目くじらを立てる程のものではないさ」

 女の声に柔らかさが戻る。

「よ、よかった……」

 それに俺が心から安堵を漏らすと、女は快活に笑っていた。
 
「だが、我々のことを知った以上このまま解き放つわけにはいかない。命は助けてやるが、解放するのは街の外、そして少なくとも我々が去るまではこの街に近づくな。分かったか?」
「は、はい! 命が助かるでしたら喜んで!」

 最後の最後まできっちりと三下の盗賊の演技は忘れずに。
 
 そうして俺は再び意識を奪われ、次に目を覚ますと街から10キロくらい離れた真夜中の荒野に置き去りにされていた。

「命が助かったのはいいけど、メアたちの事どうするかなぁ……」

 明るく輝くノルミナの街を遠くに眺めながら、俺は呆然と呟いた。
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