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二章 復讐と集団転移編
第29話 親友と真実①
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翌日、俺とメアは朝一番で転移者たちの拠点へと向かった。
正直まだ疲れは抜けていないし、頭の整理もついていない。
けど、ここが踏ん張りどころだ。
因みにナナは置いて来た。
魔法も使えないのに、手枷をした状態であの檻から逃げるのは無理だし。
というか、逃げても行く当てもないだろう。
とにかく、修司と会って話をしよう。
そうしなければ何も進まないし、俺は過去に決着がつけられない。
そう意気込んできたはずだったのだが……
「修司様でしたら、狩りに出ていて不在ですよ。あ、こちらお約束の角です」
拠点について、出迎えたインテリ坊主に修司はいるかと尋ねるとにべもなくそう返されてしまった。
ナナに存在をバラされた以上、流石に観念して出てくるかと思っていたのだが……どうやらあいつはとことん俺を避ける気らしいな。
だがこうなった以上、修司の事は後回しだ。
なぜなら、
「葛西、メアさん……」
昨日のうちに事情は聞かされたのだろう。
インテリ坊主の後ろから不安そうな顔をした石紅が顔を出した。
「これで取るものも取ったわけですし、さっさと帰ってもらえますか?」
インテリ坊主はまるで物乞いでも追い払うかのようにしっし!と俺たちを拠点から追い出そうとする。
『悪いな、事情は説明した通りだ。俺たちは今後あからさまにこっちには来れない。……静さん、浅海たちのことよろしくお願いしますね』
『あー、うん。まあ私が一番年上だしねぇ……なるようになるさ』
適当そうな返事をしてくるのが、俺の弟子の一人、スーツに眼鏡でバリキャリっぽい見た目なのに、中身が超絶適当な八坂 静(やさか しずか)さん。自称24歳。
4人の弟子たちには、インテリ坊主と話している間にメアに事情を説明してもらった。
静さんはずぼらだし多分年齢もっと上だし酒なんてないのに常に酔っ払いみたいなテンションの変な人だが……まあ、他の3人よりは任せられるだろう。一応、唯一の社会人だし。
『葛西君、あたしもがんばる……! 魔法、も、上手くなってるから……!』
そういう決意表明とか苦手だろうに、浅海がたどたどしくも言葉を伝えてくれる。
目をぎゅっと瞑って肩を震わせてる姿が目に浮かぶ。
『ああ。実際浅海の腕には期待してるよ。……それじゃあな』
『みんな……絶対助けるから、待っててね!!!』
そう念話で別れを告げ、俺たちは転移者たちの拠点を後にした。
「ううっ、みんなの事が心配だよ~」
拠点が見えなくなるまで歩いたところで、石紅が涙目で嘆き始めた。
「というか、私だけ安全圏にいるってのも結構罪悪感あるし……」
「私も悲しいです。オウガイさんと二人きりの逢瀬が、こんなにも早く終わってしまうなんて……私たちはこれからどうやってえっちなことをすればいいんですか……?」
「ねえ、それずっと気になってたんだけど、二人は普段どんなことしてるの……?」
「あ、聞きたいですか? ベッドの上のオウガイさんはそれはそれはもう、とろけた顔で必死に甘えてきて可愛いくて……」
「石紅お前実は結構余裕あるだろ!?」
いつの間にか恥ずかしい秘密をバラされそうになっていたので、俺は慌てて止めに入る。
「まあ、一応みんなのことは信用してるから。葛西たちがいない間に、それぞれ得意魔法の熟練度もⅢまで上がったし。奏ちゃんに至っては風魔法Ⅳだからね」
「え待っていつの間にか追い付かれてるんだけど」
俺たちがいない間は練習効率も落ちてたはずなのに……
連日のマラソンと夜の練習で、俺も今は風と土がそれぞれⅣまであがっている。
それでとりあえず師匠としての面目は保てたかと思っていたのに、弟子の成長が怖い。
追われる立場は辛いね。
「それで、この後はどうするの? 二人の家に戻る?」
「いや……一人、会わなきゃいけない奴がいるんだ。メア、頼めるか?」
「任せてください。私、エルフですから」
メアがふふんと、その平らな胸を張ってみせる。
「え、待ってどういうこと?」
困惑する石紅をそのままに、俺はメアの後をついて行った。
***
「いましたね」
目的の人物は、結構あっさり見つかった。
視界の奥で、ダチョウのような魔物と戦っている6人の男たち。
その内の1人、一歩も動くことなく指示だけを飛ばしている銀髪のセンターパートの男だ。
「あれって、錦戸さん?」
「ああ……錦戸 修司(にしきど しゅうじ)。俺の、かつての親友だよ」
石紅の疑問に俺は答える。
その間に男たちは妙に統率された機械めいた連携で、ダチョウをあっさりと仕留めていた。
「あ、葛西の友達だったんだ。良い人だよねぇ。綾小路さんと違って変な威圧感もないし」
どうやら石紅も面識があったらしい。おまけに評判もいい。
「ああ……ずっと、俺もそう思っていた。けど違ったんだ」
そう、違った。
経緯は知らないが、あいつは間違いなく俺を裏切ったのだ。
あークソ、そう考えると無性にイライラしてきた。
いっそやっちまうか。こいつに関しては出会い頭にぶん殴っても文句言われる筋合いはないだろ。
「オウガイさん……遠慮はいりませんからね」
「分かってる。昨日ので俺も色々吹っ切れたからな」
復讐でしか癒えぬ傷があると、メアに教えてもらった。
そして俺自身、容赦はしないと覚悟を決めた。
なら、後は行動に移すだけだ。
「悪いな石紅、お前にはあんまり関係ない事だけど、少し時間をくれ」
気配を消してギリギリまで近づいて、掲げた右手に魔力を込める。
使うのは風魔法。といっても斬撃では殺してしまいかねないので、圧縮空気弾だ。
ナナの件を確かめるまでは殺せない。
「——っらぁ!」
俺は全身の怒りを右手に集めて、渾身の空気弾を放つ。
……あ、待ってやばい。ちょっと強くなりすぎた。
威力自体は調整したが、怒りで圧縮の方につい力が入ってしまった。
このままあれが当たると――
「うおああああああああぁぁっぁあああっ!」
ドン、と肩パンくらいの音で空気弾が当たったと同時、修司は変な悲鳴を上げて遥か上空へと吹っ飛んだ。
……あれ、もしかして殺しちゃった?
「兄貴!?!?」
「なんだ、新手の魔物か!?」
それを見て慌てた男たちが、犯人を捜す。
そして、茂みに隠れた俺と目が合う。
「てめえは拠点で暴れた……!」
どうやら初日に暴れた奴、として覚えられているらしい。
あの後いっぱい食料とか渡したのに……
「あのかわいい子に支えられてた情けない奴!」
おっと違ったらしい。
嫌な覚えられ方だが、事実だから何も言い返せない。
「てめえら、やっぱり俺たちの邪魔をしようってのか!」
後ろのメアたちも見つかって、男たちが臨戦態勢に入る。
まずいな。というか修司が死んでたら言い訳の余地もなく叛逆者だ。
仕方ない、とりあえずこいつらを黙らせて――
「いやー、全く酷い目に遭ったよ」
一触即発の空気の中、緊張感のない声が頭上から響き渡る。
と同時に、修司が木の上から飛び降りて来た。
髪には木の枝やら葉っぱやらがいっぱいついている。
「運よく木に掴まれたからよかったけど、森の中じゃなかったら死んでたよあれ」
そのまま飄々とした様子で、非難めいた視線を俺に向けてくる。
「今のお前はなにされても文句言える立場じゃねえだろうが」
「そう言われると、何も言い返せないんだけどさ」
次いで修司は男たちの方に笑みを向けて、
「彼とは古い付き合いでね。これもちょっとした個人的ないざこざなんだ。悪いけど、君たちはこのまま狩りを続けててくれるかい?」
そう言うと、男たちはダチョウを回収してキビキビした動作でどこかへ去って行った。
「はぁ……こうなると思ったから、綾小路には君が来ても追い返してくれって頼んでおいたのに。まさかこんなところまで追いかけてくるとはね」
「そのおかげこっちは無駄に楽しくもない鬼ごっこさせられてんだよ」
そこでようやく俺たちは視線をぶつけ合う。
前会った時は高校の校則を引きずって普通に黒髪だったが、この2年で思い切ったイメチェンをしたもんだ。
しかしイケメンってのはどんな髪形にしても違和感ないな。違う意味で殺したくなってきた。
「つーかお前が指揮官なんだろ。あいつら行かせていいのか?」
「僕は指揮官っていうより指導者みたいな感じなんだよ。戦闘は彼らだけでも問題ないさ」
指導ができるくらいの強さはあるってことか。
まああんだけ吹っ飛ばされてかすり傷で生還してきたわけだしな。
「それで? あんなふうに吹っ飛ばすために、わざわざこんなところまで探しに来たのかい?」
「ま、ボコるつもりではいるが。それより先に聞きたいことがある。顔の形が変わるまでで許してやるか、手足失って生きていくのか……全てはその内容次第だ」
「……おーけー。降参だ、何でも聞いてくれ。流石に3対1じゃ僕も分が悪い」
殊勝にしてみせてる割に、余裕が感じられるというか。
そもそも人数不利にしたのはこいつ自信なのにどういうつもりなのかとか。
前はこんな風に思わなかったが、今はこいつは立ち振る舞いが一々癇に障る。
まあいい、とにかくまずはナナのことを――
「ああ、因みに聞こうとしてるのが七海ちゃんのことなら、答えはイエスだよ。彼女は僕が脅した」
聞こうとしたところで、修司は先にあっさりとそう認めて来た。
「偶々、彼女の昔のパパ活相手が僕の知り合いでね。情報とか写真とか、色々流して貰ったんだ」
変わらず飄々とした態度には、全く悪びれた様子もない。
親友の彼女を脅して寝取っておいてその態度はなんだ?
……もう、いいか。
聞きたいことは聞けた。こいつは100%黒だった。
俺の人生を壊したのはこいつで、こいつがいなければ俺はナナと幸せに過ごせていた。
こいつをぶっ殺して、ナナには誠心誠意謝ろう。
「ちょ、そんな怖い顔しないでよ。これに関しては僕だけが悪いわけじゃない。彼女だって、結構ノリノリだったんだから」
「は……?」
俺は何を言われているのか理解できなかった。
ノリノリ? 誰が? ナナが?
いやだって、彼女は脅されたって言ってて、それをこいつも認めていて、それで終わりじゃないか。
「言っても信じないって顔だね。あーそうだ、いいのがあった。まだ電源入るかな……っと」
修司はおもむろにポケットからスマホを取り出し、電源を入れる。
呑気に「おお動いた動いた」とか言いながらなにやら操作をして、
「ほらこれ、もし君あったら見せようと思って。スマホもこの世界に来てすぐに電源切ったんだよ!」
状況に不釣り合いな、嬉々とした表情で差し出してきた画面には……裸でよがっているナナの姿が映っていた。
『あ、修司っ、それダメっ、そんなのされたら私、修司じゃなきゃダメになっちゃうっ』
『ダメになればいいじゃないか。ほら、僕のと鷗外の、どっちがいいかはっきり言ってみなよ』
『修司、修司がいいっ! だから、もっとしてっ!』
画面の中では、そんな会話が繰り広げられていた。
俺にはそれが、まるで映画かのように遠くぼんやりしたものに感じられた。
内臓を全部アイアンクローされたみたいな圧迫感に襲われ、視界は明滅して何度も白く飛びそうになった。
吐きそうで、泣きそうで、今すぐ死にたかった。
けれどそれなのに、どこかほっとしている自分がいたのだ。
……よかった、昨日ナナを殴ったのは間違いじゃなかった、。
これで、2人とも心置きなくぐちゃぐちゃに壊せる。
「僕が脅したのは最初の数回だけで、後はむしろ彼女の方から僕を求めて嬉しそうに股を開いていたよ。もちろん君と別れた後もね。一緒に転移したのだって、その日も会っていたからだし」
「どういう、ことだ……?」
もはや目の前の男をどう壊すかしか考えられなくなっていたが、聞き逃せない情報を前に理性が機能する。
「あれ、知らなかったの? この転移は、電車の脱線事故が原因で起こったものなんだよ。みんなの話を集めた感じだと、前の方の車両に乗ってた人間だけが即死して転移に巻き込まれたって感じらしいね」
それじゃあなにか? あの日、俺が死のうとしていた時に、近くの車両にはこいつらがいて、俺を尻目にこの後しっぽりお楽しみの予定だったってか?
……なんだよそれ。最悪にも程がある。
もはやイラつき通り越して発狂しそうだ。
やり方はなんでもいい。
とにかく今すぐにこいつを殺して、その後はナナも――
そう、俺が怒りに身を任せて魔力を形成した、その時だった。
「すみませんオウガイさん、奴らが――」
不意に、メアが俺の名前を呼んだ。
と、同時に。
「そこまでにしていただきませんか? 一応、その方はうちの大事なボスなもので」
聞き覚えのある憎たらしい程に丁寧な声が響く。
俺たちを囲むように10人近い男が並び、その後ろからインテリ坊主が現れたのだった。
正直まだ疲れは抜けていないし、頭の整理もついていない。
けど、ここが踏ん張りどころだ。
因みにナナは置いて来た。
魔法も使えないのに、手枷をした状態であの檻から逃げるのは無理だし。
というか、逃げても行く当てもないだろう。
とにかく、修司と会って話をしよう。
そうしなければ何も進まないし、俺は過去に決着がつけられない。
そう意気込んできたはずだったのだが……
「修司様でしたら、狩りに出ていて不在ですよ。あ、こちらお約束の角です」
拠点について、出迎えたインテリ坊主に修司はいるかと尋ねるとにべもなくそう返されてしまった。
ナナに存在をバラされた以上、流石に観念して出てくるかと思っていたのだが……どうやらあいつはとことん俺を避ける気らしいな。
だがこうなった以上、修司の事は後回しだ。
なぜなら、
「葛西、メアさん……」
昨日のうちに事情は聞かされたのだろう。
インテリ坊主の後ろから不安そうな顔をした石紅が顔を出した。
「これで取るものも取ったわけですし、さっさと帰ってもらえますか?」
インテリ坊主はまるで物乞いでも追い払うかのようにしっし!と俺たちを拠点から追い出そうとする。
『悪いな、事情は説明した通りだ。俺たちは今後あからさまにこっちには来れない。……静さん、浅海たちのことよろしくお願いしますね』
『あー、うん。まあ私が一番年上だしねぇ……なるようになるさ』
適当そうな返事をしてくるのが、俺の弟子の一人、スーツに眼鏡でバリキャリっぽい見た目なのに、中身が超絶適当な八坂 静(やさか しずか)さん。自称24歳。
4人の弟子たちには、インテリ坊主と話している間にメアに事情を説明してもらった。
静さんはずぼらだし多分年齢もっと上だし酒なんてないのに常に酔っ払いみたいなテンションの変な人だが……まあ、他の3人よりは任せられるだろう。一応、唯一の社会人だし。
『葛西君、あたしもがんばる……! 魔法、も、上手くなってるから……!』
そういう決意表明とか苦手だろうに、浅海がたどたどしくも言葉を伝えてくれる。
目をぎゅっと瞑って肩を震わせてる姿が目に浮かぶ。
『ああ。実際浅海の腕には期待してるよ。……それじゃあな』
『みんな……絶対助けるから、待っててね!!!』
そう念話で別れを告げ、俺たちは転移者たちの拠点を後にした。
「ううっ、みんなの事が心配だよ~」
拠点が見えなくなるまで歩いたところで、石紅が涙目で嘆き始めた。
「というか、私だけ安全圏にいるってのも結構罪悪感あるし……」
「私も悲しいです。オウガイさんと二人きりの逢瀬が、こんなにも早く終わってしまうなんて……私たちはこれからどうやってえっちなことをすればいいんですか……?」
「ねえ、それずっと気になってたんだけど、二人は普段どんなことしてるの……?」
「あ、聞きたいですか? ベッドの上のオウガイさんはそれはそれはもう、とろけた顔で必死に甘えてきて可愛いくて……」
「石紅お前実は結構余裕あるだろ!?」
いつの間にか恥ずかしい秘密をバラされそうになっていたので、俺は慌てて止めに入る。
「まあ、一応みんなのことは信用してるから。葛西たちがいない間に、それぞれ得意魔法の熟練度もⅢまで上がったし。奏ちゃんに至っては風魔法Ⅳだからね」
「え待っていつの間にか追い付かれてるんだけど」
俺たちがいない間は練習効率も落ちてたはずなのに……
連日のマラソンと夜の練習で、俺も今は風と土がそれぞれⅣまであがっている。
それでとりあえず師匠としての面目は保てたかと思っていたのに、弟子の成長が怖い。
追われる立場は辛いね。
「それで、この後はどうするの? 二人の家に戻る?」
「いや……一人、会わなきゃいけない奴がいるんだ。メア、頼めるか?」
「任せてください。私、エルフですから」
メアがふふんと、その平らな胸を張ってみせる。
「え、待ってどういうこと?」
困惑する石紅をそのままに、俺はメアの後をついて行った。
***
「いましたね」
目的の人物は、結構あっさり見つかった。
視界の奥で、ダチョウのような魔物と戦っている6人の男たち。
その内の1人、一歩も動くことなく指示だけを飛ばしている銀髪のセンターパートの男だ。
「あれって、錦戸さん?」
「ああ……錦戸 修司(にしきど しゅうじ)。俺の、かつての親友だよ」
石紅の疑問に俺は答える。
その間に男たちは妙に統率された機械めいた連携で、ダチョウをあっさりと仕留めていた。
「あ、葛西の友達だったんだ。良い人だよねぇ。綾小路さんと違って変な威圧感もないし」
どうやら石紅も面識があったらしい。おまけに評判もいい。
「ああ……ずっと、俺もそう思っていた。けど違ったんだ」
そう、違った。
経緯は知らないが、あいつは間違いなく俺を裏切ったのだ。
あークソ、そう考えると無性にイライラしてきた。
いっそやっちまうか。こいつに関しては出会い頭にぶん殴っても文句言われる筋合いはないだろ。
「オウガイさん……遠慮はいりませんからね」
「分かってる。昨日ので俺も色々吹っ切れたからな」
復讐でしか癒えぬ傷があると、メアに教えてもらった。
そして俺自身、容赦はしないと覚悟を決めた。
なら、後は行動に移すだけだ。
「悪いな石紅、お前にはあんまり関係ない事だけど、少し時間をくれ」
気配を消してギリギリまで近づいて、掲げた右手に魔力を込める。
使うのは風魔法。といっても斬撃では殺してしまいかねないので、圧縮空気弾だ。
ナナの件を確かめるまでは殺せない。
「——っらぁ!」
俺は全身の怒りを右手に集めて、渾身の空気弾を放つ。
……あ、待ってやばい。ちょっと強くなりすぎた。
威力自体は調整したが、怒りで圧縮の方につい力が入ってしまった。
このままあれが当たると――
「うおああああああああぁぁっぁあああっ!」
ドン、と肩パンくらいの音で空気弾が当たったと同時、修司は変な悲鳴を上げて遥か上空へと吹っ飛んだ。
……あれ、もしかして殺しちゃった?
「兄貴!?!?」
「なんだ、新手の魔物か!?」
それを見て慌てた男たちが、犯人を捜す。
そして、茂みに隠れた俺と目が合う。
「てめえは拠点で暴れた……!」
どうやら初日に暴れた奴、として覚えられているらしい。
あの後いっぱい食料とか渡したのに……
「あのかわいい子に支えられてた情けない奴!」
おっと違ったらしい。
嫌な覚えられ方だが、事実だから何も言い返せない。
「てめえら、やっぱり俺たちの邪魔をしようってのか!」
後ろのメアたちも見つかって、男たちが臨戦態勢に入る。
まずいな。というか修司が死んでたら言い訳の余地もなく叛逆者だ。
仕方ない、とりあえずこいつらを黙らせて――
「いやー、全く酷い目に遭ったよ」
一触即発の空気の中、緊張感のない声が頭上から響き渡る。
と同時に、修司が木の上から飛び降りて来た。
髪には木の枝やら葉っぱやらがいっぱいついている。
「運よく木に掴まれたからよかったけど、森の中じゃなかったら死んでたよあれ」
そのまま飄々とした様子で、非難めいた視線を俺に向けてくる。
「今のお前はなにされても文句言える立場じゃねえだろうが」
「そう言われると、何も言い返せないんだけどさ」
次いで修司は男たちの方に笑みを向けて、
「彼とは古い付き合いでね。これもちょっとした個人的ないざこざなんだ。悪いけど、君たちはこのまま狩りを続けててくれるかい?」
そう言うと、男たちはダチョウを回収してキビキビした動作でどこかへ去って行った。
「はぁ……こうなると思ったから、綾小路には君が来ても追い返してくれって頼んでおいたのに。まさかこんなところまで追いかけてくるとはね」
「そのおかげこっちは無駄に楽しくもない鬼ごっこさせられてんだよ」
そこでようやく俺たちは視線をぶつけ合う。
前会った時は高校の校則を引きずって普通に黒髪だったが、この2年で思い切ったイメチェンをしたもんだ。
しかしイケメンってのはどんな髪形にしても違和感ないな。違う意味で殺したくなってきた。
「つーかお前が指揮官なんだろ。あいつら行かせていいのか?」
「僕は指揮官っていうより指導者みたいな感じなんだよ。戦闘は彼らだけでも問題ないさ」
指導ができるくらいの強さはあるってことか。
まああんだけ吹っ飛ばされてかすり傷で生還してきたわけだしな。
「それで? あんなふうに吹っ飛ばすために、わざわざこんなところまで探しに来たのかい?」
「ま、ボコるつもりではいるが。それより先に聞きたいことがある。顔の形が変わるまでで許してやるか、手足失って生きていくのか……全てはその内容次第だ」
「……おーけー。降参だ、何でも聞いてくれ。流石に3対1じゃ僕も分が悪い」
殊勝にしてみせてる割に、余裕が感じられるというか。
そもそも人数不利にしたのはこいつ自信なのにどういうつもりなのかとか。
前はこんな風に思わなかったが、今はこいつは立ち振る舞いが一々癇に障る。
まあいい、とにかくまずはナナのことを――
「ああ、因みに聞こうとしてるのが七海ちゃんのことなら、答えはイエスだよ。彼女は僕が脅した」
聞こうとしたところで、修司は先にあっさりとそう認めて来た。
「偶々、彼女の昔のパパ活相手が僕の知り合いでね。情報とか写真とか、色々流して貰ったんだ」
変わらず飄々とした態度には、全く悪びれた様子もない。
親友の彼女を脅して寝取っておいてその態度はなんだ?
……もう、いいか。
聞きたいことは聞けた。こいつは100%黒だった。
俺の人生を壊したのはこいつで、こいつがいなければ俺はナナと幸せに過ごせていた。
こいつをぶっ殺して、ナナには誠心誠意謝ろう。
「ちょ、そんな怖い顔しないでよ。これに関しては僕だけが悪いわけじゃない。彼女だって、結構ノリノリだったんだから」
「は……?」
俺は何を言われているのか理解できなかった。
ノリノリ? 誰が? ナナが?
いやだって、彼女は脅されたって言ってて、それをこいつも認めていて、それで終わりじゃないか。
「言っても信じないって顔だね。あーそうだ、いいのがあった。まだ電源入るかな……っと」
修司はおもむろにポケットからスマホを取り出し、電源を入れる。
呑気に「おお動いた動いた」とか言いながらなにやら操作をして、
「ほらこれ、もし君あったら見せようと思って。スマホもこの世界に来てすぐに電源切ったんだよ!」
状況に不釣り合いな、嬉々とした表情で差し出してきた画面には……裸でよがっているナナの姿が映っていた。
『あ、修司っ、それダメっ、そんなのされたら私、修司じゃなきゃダメになっちゃうっ』
『ダメになればいいじゃないか。ほら、僕のと鷗外の、どっちがいいかはっきり言ってみなよ』
『修司、修司がいいっ! だから、もっとしてっ!』
画面の中では、そんな会話が繰り広げられていた。
俺にはそれが、まるで映画かのように遠くぼんやりしたものに感じられた。
内臓を全部アイアンクローされたみたいな圧迫感に襲われ、視界は明滅して何度も白く飛びそうになった。
吐きそうで、泣きそうで、今すぐ死にたかった。
けれどそれなのに、どこかほっとしている自分がいたのだ。
……よかった、昨日ナナを殴ったのは間違いじゃなかった、。
これで、2人とも心置きなくぐちゃぐちゃに壊せる。
「僕が脅したのは最初の数回だけで、後はむしろ彼女の方から僕を求めて嬉しそうに股を開いていたよ。もちろん君と別れた後もね。一緒に転移したのだって、その日も会っていたからだし」
「どういう、ことだ……?」
もはや目の前の男をどう壊すかしか考えられなくなっていたが、聞き逃せない情報を前に理性が機能する。
「あれ、知らなかったの? この転移は、電車の脱線事故が原因で起こったものなんだよ。みんなの話を集めた感じだと、前の方の車両に乗ってた人間だけが即死して転移に巻き込まれたって感じらしいね」
それじゃあなにか? あの日、俺が死のうとしていた時に、近くの車両にはこいつらがいて、俺を尻目にこの後しっぽりお楽しみの予定だったってか?
……なんだよそれ。最悪にも程がある。
もはやイラつき通り越して発狂しそうだ。
やり方はなんでもいい。
とにかく今すぐにこいつを殺して、その後はナナも――
そう、俺が怒りに身を任せて魔力を形成した、その時だった。
「すみませんオウガイさん、奴らが――」
不意に、メアが俺の名前を呼んだ。
と、同時に。
「そこまでにしていただきませんか? 一応、その方はうちの大事なボスなもので」
聞き覚えのある憎たらしい程に丁寧な声が響く。
俺たちを囲むように10人近い男が並び、その後ろからインテリ坊主が現れたのだった。
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ハーレム要素はしばらくありません。
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
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