上 下
29 / 73
二章 復讐と集団転移編

第28話 可能性と今

しおりを挟む
「……それで、脅されてたってのはどういうことなんだ?」

 メアと共に彼女の元へ戻り、俺は少し戸惑いながら尋ねた。
 メアに治癒魔法を使ってもらい多少マシになったが、ナナはまだ所々に腫れや青あざが残っている。
 思わず目を逸らしたくなるが、必死に堪えた。
 目を背けたら、本当にクズになってしまう気がしたから。

「……私、高校生の頃パパ活をしてた時期があるのよ。おっさんとお金貰って定期的に会うっていうあれ。一応、大学入った時にきっぱり辞めたんだけど、それを何故か修司に知られてて……で、あんたにバラされたくなかったらって体を要求された。あんたに見られたのはその場面だったってわけ」

 ナナは開き直ったのか、諦めたように話し始めた。

 パパ活か……
 まあ、確かに彼氏に知られたい話ではないな。
 定期的に会う、とぼかしてはいたが、俺にバラされたくないくらいだから体の関係もあったのかもしれない。
 気が滅入りそうだから詳細を聞く気はしないが。

「なんで、今まで言わなかったんだ……? 事情があるなら俺だって――」
「言って、あんたは私のことを信じた? 高校の頃からの親友と比べて、付き合ったばかりの私の言葉を」
「それは……」

 確かに、そう言われると分からないかもしれない。
 修司に向こうから誘われたのだと言われたら、そっちを信じてしまった可能性もある。

 だが、もしそうだとしたら、俺はとんでもない間違いをしてしまったのではないか?
 あの時ナナからちゃんと話を聞いていれば、俺の人生は――

「ストップです。オウガイさん、冷静に考えてください。脅したにせよ誘われたにせよ、修司さんがあなたを裏切った事実は変わりません。なので、その女の言い訳は矛盾しています」

 良くない思考に嵌っていく俺に、メアがぴしゃりとそう言い放った。
 同時に、ナナのことを厳しく睨め付ける。

「彼女の言葉が真実である根拠はどこにもありません。命惜しさにでまかせを言っている可能性も十分ある。というか、私はその可能性が一番高いと思います。この女はどうにも胡散臭いです」
「なんで、そこまで言い切れる」

 もし、ナナの言うことが本当なら俺は彼女を恨んだりなんかしなかったかもしれない。
 修司に裏切られたことでは落ち込むだろうが、あいつは元々掴みどころの無いやつだった。3年間誰よりも一緒にいて、趣味もバッチリ合うのにどこか壁のようなものをずっと感じていた。
 だからきっと、隣にナナが居てくれたなら、俺は修司の裏切りからは立ち直ることが出来た。
 そうなったら二年も引きこもって人生を無駄にすることも、死のうと思うことだってなかったはずなのに――

「私も根拠はありませんよ。今までの王女としての経験と……後は、女の勘です」
「え」

 にべもなく、さらっと言われて、俺の思考が一瞬止まる。
 いやだって、リアルで女の勘とか言われたの初めてだし。
 

「それにこんなこと、とは言いますが、オウガイさんは私と一緒にいる今がそんなにご不満なんですか?」

 頬を膨らませて拗ねたように言って来るメアを見て、俺は冷静さを取り戻した。
 
 そうだ。過去はどうあれ今俺は幸せだ。
 なら、既に失ったものに固執しても仕方がない。
 都合のいい過去を提示されて、そうだったらいいな、と無意識に惹かれてしまっていたのだ。

「悪い、少し取り乱しちまった。……ナナの処遇は、とりあえず保留にするか」

 俺は地面に埋め込んでいた両手を解放し、再び土魔法で固めた。
 今度は埋め込みじゃなく、手枷のような感じだ。

 それから土魔法で天井をなくした豆腐ハウスを作って、ナナを閉じ込めた。

「鴎外、これだけは言わせて。……私は今でもあんたのことが好き。これだけは嘘じゃないから」

 姿が見えなくなる直前、彼女はそんなことを言い残した。

「……今更、遅すぎるだろ」

 俺は彼女が見えなくなってから、小さく呟いた。
 
 好きなら、なんでそれを言いに来なかった。
 付き合っている頃家には何度も来ていたはずだ。
 お前の食器とか、歯ブラシとか、化粧水とか、俺がどんな気持ちで処分したと思ってる。

 俯く俺の胸に、不意に優しい衝撃。
 見れば、メアが不安げな顔でこちらを見上げていた。

「……仮にあの女が本当に脅されていたんだとしても、もうオウガイさんは私のですからね」
「分かってる。今の俺が好きなのはメアだけだよ」

 そんな彼女を俺は優しく抱きしめた。
 過去の真実がどうであれ、腕の中の少女を手放す理由にはならない。
 それだけは絶対だと言い切れる。

「というか、あんだけボコられた相手に好きって言ってくるのはメアじゃなくても怪しいって思うわ」

 仮に俺がメアに同じことをされたら許してしまいそうな気がするから、絶対ないとは言わないけども。
 それでも限りなく臭いのは確かだが。

「後はまあ、もう一人に話を聞かないことには何とも言えないだろ」
 
 奴の真意を探るためにも、ナナのことをはっきりさせるためにも、一度修司とは話をしなければならないだろう。

 その後で、あいつが完全に黒だったその時は……俺はもう容赦はしない。
 ナナに復讐して、俺も少し心の整理がついた。
 害意を向けてくる相手には、相応の対処をさせてもらおう。

「とりあえず、今日はもう限界だ……早く、寝よ……」

 ただでさえ一日走りっぱなしだったのだ。
 もう、頭が全く回らない。

 俺たちは寄り添ったまま、倒れ込むように同じベッドで眠った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...