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二章 復讐と集団転移編
第21話 手の届く範囲
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『ナナが、内通者……』
石紅からの報告に、俺は絶句していた。
いやまあ、俺を裏切って他の男、それも彼氏の親友と寝る女だ。そのくらいしていてもおかしくはない。おかしくはないのだが……
俺の知る彼女は、俺が好きになった彼女は一体何だったのか。
裏の顔を知るたびに、そんなどうしようもない怒りと僅かな悲しみがこみ上げてくる。
『あ、あくまで私の推測だからね? 証拠はないし……』
『けど、石紅はあいつが怪しいと思ったんだろ?』
『それはまあ……七海ちゃん以外気になる動きどころか、絶望しちゃってて自発的な動き自体なかったというか……あんまり葛西の知り合いを悪く言いたくないけどさ』
石紅が気まずそうに言葉を濁す。
まあ、言わんとすることは分かる。
あの女子たちはちょっと見ただけでも戦時下の難民のような、絶望の中、ただ生きる為に与えられる食事と仕事をこなしているだけ。そんな印象を受けた。
石紅のようにまともに考えたり、統率したりしていたのはほんの1~2名だ。
残りは内通や策略など、考える余裕もないだろう。
『ああ、まだ葛西には俺とあいつの関係性を話してなかったな。あいつは付き合ってる最中に俺の親友と寝た上、それを問い詰めたら『仕方なくない?』とか言って開き直った真正のドクズだ。というわけで好き放題悪く言うといい。むしろ言いまくってくれ』
俺は淡々とナナとの関係を告げた。
『あー、葛西って中学の時から女運悪かったもんねぇ……』
もう少し驚くかと思ったが、石紅は納得した様子だ。
『あれ? 俺ってそんなイメージだったの?』
『え? 気付いてなかったの? 1年の時葛西が尻尾ぶんぶん振って懐いていた女バス部の先輩、裏で売春斡旋とかして高校の時捕まってたよ』
『……なにそれ知りたくなかったんだけど』
思い出の中の可憐で面倒見のいい先輩のイメージがガラガラ音を立てて崩れ去る。
嘘でしょ? 今でも偶に思い出すくらい好きだったのに……
『……オウガイさんって昔からチョロかったんですね』
メアが呆れたようにため息を吐いている。
ちょっとメアさん?
あなたまで俺のことそんな風に思ってたの?
流石に傷付くんだけど。
『よかったですね。この世界では変な女の子に騙される前に、私という最高の花嫁に引っ掛かっておいて』
『引っ掛かるって言い方はもう少し何とかなんなかったかなぁ……』
いやまあ、うん。
確かに一晩で陥落したけどさ。
それを言うならメアの方が、俺より先に結婚申し込んできてたしよっぽどチョロいと思うんだけど。
『え……二人って結婚してたの!?』
それに対し、驚きを見せたのは石紅だ。
あー、そういえば何も言ってなかったっけ。
『届けは出してないし式は挙げてないし、まだ婚約レベルだけどな』
『それでもびっくりだよ! この世界に来てまだ二週間も経ってないよ!?』
そう言われればそうだな。
元の世界ならできちゃった婚もびっくりのスピード婚である。
『いいか石紅、世の中には不思議なことがいっぱいある。そういうものだと受け入れるのが大切だ。さ、それより今後どうするかを話し合おう』
俺がさらっと流そうとすると、「ないと思うけど……」と石紅は訝しんでいた。
まあ、メアが可愛すぎたのが悪い。
そんな子が俺の過去まで全部を受け入れて、その上で迫って来てくれたのだ。
理性が持つわけがない。
恋はいつでもハリケーンだ。
『ナナの目を盗んで魔法の練習するのはいいが、お前以外に魔法を学ばせられそうなやつはいるのか?
俺が聞くと、石紅も意識を切り替えたようで、
『一応、そっちも調査済みだよ。あんまり多くは無理だろうし、4人くらいに声を掛けてみるつもり』
4人、つまり石紅を入れて5人か。
そこに俺とメアを足して7人。
インテリ坊主たちが20人近い集団というのを考えると、戦力としてはギリギリといったところか。
奴らとて、他の転移者たちの目を盗んで魔法の練習をしている。
全員が全員優れた使い手ということはないはずだ。
『分かった、俺も人数はそれくらいでいいと思う。あ……そういえば、ステータスって確認したか?』
危ない。
今日会ったら聞こうと思ったのを、うっかり忘れていた。
あれがあるとないとじゃかなり差があるだろう。
『一応、この前言いかけてたし試しては見たけど大したことは分からなかったよ? スキルも純粋無垢とかいうポケモンの図鑑説明みたいなのしかなかったし……』
流石オタク。
思うことは同じか。
とはいえ、
『おいこら純粋無垢さん馬鹿にすんなそれ最重要スキルだぞ』
俺たちの成長を助けてくれている……であろう純粋無垢さんに不敬を働くとはなんたることか。
『……えっと、何の話です?』
俺たちの会話に、メアが不思議そうな顔をしている。
そういえば、スキルの説明はまだしてなかったか。
魔法はともかく、この世界にもスキルがあるのかは知りたいし、後でメアとは詳しく話をしよう。
『後でちゃんと話すよ。とにかく、多分そのスキルのおかげで転移者の成長効率はめちゃくちゃ上がってる。だからこうしよう。石紅たちには、それぞれ一つの属性魔法だけを練習してもらう。そうすれば、短期間でもそれなりのレベルに仕上がるはずだ』
一人が一日で使える魔力には限界があるしな。
ただインテリ坊主たちに対抗する力をつけるだけなら、その方が遥かに効率がいい。
『分かった、その辺りのことは葛西に任せるよ。栄冠ナインやりまくってた腕前を見せてくれ!』
いや、あれは魔法の指導にはあんまり関係ないと思うが……
まあ、任せてくれるというならやってみせよう。
『後は……仮に力で対抗出来るようになったとして、その後をどうするかだね』
『そう、だな……』
こっちも力を持ちました。なのでもう争いはやめましょう!
……って感じで素直に諦めてくれればいいが、そう上手くもいかないだろう。
転移者たちは、インテリ坊主たちDQN男組が20人程度、そこに馴染まず無気力になっている男が僅かにいて、石紅のようにある程度動けている女子が4,5人程度。そして残りの20人ちょっとが無気力な女子、という構図になっている。
圧倒的に女子の絶望比率が高いのは、恐らくインテリ坊主が女子の奴隷化という餌を使い、男子連中を引き入れたからだろう。
これだと仮に力をつけて対抗したとしても、人数的な差は埋まらない。
拮抗している間に無気力な女子たちに魔法を教え込む、という事も出来るが、男共とて成長し続ける。
結局彼らが欲望で動いている以上、恐らくこの先に待つのは血みどろの戦争だけだ。
『ってなるとやっぱ、戦争になる前に逃げるしかないだろうな。あいつらも、流石に異世界の町まで攻め込んで来る覚悟はないだろ』
町まで逃がし、この世界に溶け込ませ、定住させる。
考えられる方法としては、それが一番確実だと思う。
『30人近くを一斉に動かすのは、なかなか大変だと思うけど』
『その辺も一応考えてはある。形になるかは五分五分だがな』
上手くいけば、大人数を素早く逃がすことが出来るはずだ。
だがそれでも、全員をとはいかない。
『だが、やはり限度はある。例えば救出の話をしても尚自ら動こうとしない者。そういう奴まで抱え込む余裕はない』
『……そう、だね』
石紅が絞り出すように同意する。
初日から共に暮らしている彼女は、俺たちよりも強く助けたいと思っているはずだ。
それこそ、彼女たち一人一人が戸惑い、苦しみ、そして気力を失うまでの過程も全て見てきているのだ。
『下手に内通者になられても困るし、女子たちには準備が整った後、出発の直前に男共の計画をばらした上で希望を聞く。付いて来るという者は助け、反応しない者は置いていく。それでいいか?』
自分たちの安全を確保した上で助けられる者については助ける。
全員を平等に救うなんてことはしないし、出来ない。
それをしようと思えば、男衆の中にだって救わなければならない者はいるはずだ。
世の中男色なんて珍しくもなんともない。
動きを悟られたくない女子と違って、今夜にも凌辱される男がいる可能性もある。
だが、そいつらは放っていく。
俺たちは神でも仏でも英雄でも、はたまた正義の味方でもない。
私が来た!と叫んでワンパンで敵を屠るには、実力が足りなさ過ぎる。
『とまあ、そんな感じだな。とりあえずは監視がなくなる時間にまた連絡するよ』
とにかく今後の方針は決まった。
後はまあ、なるようになるだろう。
そうして俺はメアにお姫様抱っこされてその場を後にした。
……ねえやっぱこれクソ恥ずかしいんだけど。
石紅からの報告に、俺は絶句していた。
いやまあ、俺を裏切って他の男、それも彼氏の親友と寝る女だ。そのくらいしていてもおかしくはない。おかしくはないのだが……
俺の知る彼女は、俺が好きになった彼女は一体何だったのか。
裏の顔を知るたびに、そんなどうしようもない怒りと僅かな悲しみがこみ上げてくる。
『あ、あくまで私の推測だからね? 証拠はないし……』
『けど、石紅はあいつが怪しいと思ったんだろ?』
『それはまあ……七海ちゃん以外気になる動きどころか、絶望しちゃってて自発的な動き自体なかったというか……あんまり葛西の知り合いを悪く言いたくないけどさ』
石紅が気まずそうに言葉を濁す。
まあ、言わんとすることは分かる。
あの女子たちはちょっと見ただけでも戦時下の難民のような、絶望の中、ただ生きる為に与えられる食事と仕事をこなしているだけ。そんな印象を受けた。
石紅のようにまともに考えたり、統率したりしていたのはほんの1~2名だ。
残りは内通や策略など、考える余裕もないだろう。
『ああ、まだ葛西には俺とあいつの関係性を話してなかったな。あいつは付き合ってる最中に俺の親友と寝た上、それを問い詰めたら『仕方なくない?』とか言って開き直った真正のドクズだ。というわけで好き放題悪く言うといい。むしろ言いまくってくれ』
俺は淡々とナナとの関係を告げた。
『あー、葛西って中学の時から女運悪かったもんねぇ……』
もう少し驚くかと思ったが、石紅は納得した様子だ。
『あれ? 俺ってそんなイメージだったの?』
『え? 気付いてなかったの? 1年の時葛西が尻尾ぶんぶん振って懐いていた女バス部の先輩、裏で売春斡旋とかして高校の時捕まってたよ』
『……なにそれ知りたくなかったんだけど』
思い出の中の可憐で面倒見のいい先輩のイメージがガラガラ音を立てて崩れ去る。
嘘でしょ? 今でも偶に思い出すくらい好きだったのに……
『……オウガイさんって昔からチョロかったんですね』
メアが呆れたようにため息を吐いている。
ちょっとメアさん?
あなたまで俺のことそんな風に思ってたの?
流石に傷付くんだけど。
『よかったですね。この世界では変な女の子に騙される前に、私という最高の花嫁に引っ掛かっておいて』
『引っ掛かるって言い方はもう少し何とかなんなかったかなぁ……』
いやまあ、うん。
確かに一晩で陥落したけどさ。
それを言うならメアの方が、俺より先に結婚申し込んできてたしよっぽどチョロいと思うんだけど。
『え……二人って結婚してたの!?』
それに対し、驚きを見せたのは石紅だ。
あー、そういえば何も言ってなかったっけ。
『届けは出してないし式は挙げてないし、まだ婚約レベルだけどな』
『それでもびっくりだよ! この世界に来てまだ二週間も経ってないよ!?』
そう言われればそうだな。
元の世界ならできちゃった婚もびっくりのスピード婚である。
『いいか石紅、世の中には不思議なことがいっぱいある。そういうものだと受け入れるのが大切だ。さ、それより今後どうするかを話し合おう』
俺がさらっと流そうとすると、「ないと思うけど……」と石紅は訝しんでいた。
まあ、メアが可愛すぎたのが悪い。
そんな子が俺の過去まで全部を受け入れて、その上で迫って来てくれたのだ。
理性が持つわけがない。
恋はいつでもハリケーンだ。
『ナナの目を盗んで魔法の練習するのはいいが、お前以外に魔法を学ばせられそうなやつはいるのか?
俺が聞くと、石紅も意識を切り替えたようで、
『一応、そっちも調査済みだよ。あんまり多くは無理だろうし、4人くらいに声を掛けてみるつもり』
4人、つまり石紅を入れて5人か。
そこに俺とメアを足して7人。
インテリ坊主たちが20人近い集団というのを考えると、戦力としてはギリギリといったところか。
奴らとて、他の転移者たちの目を盗んで魔法の練習をしている。
全員が全員優れた使い手ということはないはずだ。
『分かった、俺も人数はそれくらいでいいと思う。あ……そういえば、ステータスって確認したか?』
危ない。
今日会ったら聞こうと思ったのを、うっかり忘れていた。
あれがあるとないとじゃかなり差があるだろう。
『一応、この前言いかけてたし試しては見たけど大したことは分からなかったよ? スキルも純粋無垢とかいうポケモンの図鑑説明みたいなのしかなかったし……』
流石オタク。
思うことは同じか。
とはいえ、
『おいこら純粋無垢さん馬鹿にすんなそれ最重要スキルだぞ』
俺たちの成長を助けてくれている……であろう純粋無垢さんに不敬を働くとはなんたることか。
『……えっと、何の話です?』
俺たちの会話に、メアが不思議そうな顔をしている。
そういえば、スキルの説明はまだしてなかったか。
魔法はともかく、この世界にもスキルがあるのかは知りたいし、後でメアとは詳しく話をしよう。
『後でちゃんと話すよ。とにかく、多分そのスキルのおかげで転移者の成長効率はめちゃくちゃ上がってる。だからこうしよう。石紅たちには、それぞれ一つの属性魔法だけを練習してもらう。そうすれば、短期間でもそれなりのレベルに仕上がるはずだ』
一人が一日で使える魔力には限界があるしな。
ただインテリ坊主たちに対抗する力をつけるだけなら、その方が遥かに効率がいい。
『分かった、その辺りのことは葛西に任せるよ。栄冠ナインやりまくってた腕前を見せてくれ!』
いや、あれは魔法の指導にはあんまり関係ないと思うが……
まあ、任せてくれるというならやってみせよう。
『後は……仮に力で対抗出来るようになったとして、その後をどうするかだね』
『そう、だな……』
こっちも力を持ちました。なのでもう争いはやめましょう!
……って感じで素直に諦めてくれればいいが、そう上手くもいかないだろう。
転移者たちは、インテリ坊主たちDQN男組が20人程度、そこに馴染まず無気力になっている男が僅かにいて、石紅のようにある程度動けている女子が4,5人程度。そして残りの20人ちょっとが無気力な女子、という構図になっている。
圧倒的に女子の絶望比率が高いのは、恐らくインテリ坊主が女子の奴隷化という餌を使い、男子連中を引き入れたからだろう。
これだと仮に力をつけて対抗したとしても、人数的な差は埋まらない。
拮抗している間に無気力な女子たちに魔法を教え込む、という事も出来るが、男共とて成長し続ける。
結局彼らが欲望で動いている以上、恐らくこの先に待つのは血みどろの戦争だけだ。
『ってなるとやっぱ、戦争になる前に逃げるしかないだろうな。あいつらも、流石に異世界の町まで攻め込んで来る覚悟はないだろ』
町まで逃がし、この世界に溶け込ませ、定住させる。
考えられる方法としては、それが一番確実だと思う。
『30人近くを一斉に動かすのは、なかなか大変だと思うけど』
『その辺も一応考えてはある。形になるかは五分五分だがな』
上手くいけば、大人数を素早く逃がすことが出来るはずだ。
だがそれでも、全員をとはいかない。
『だが、やはり限度はある。例えば救出の話をしても尚自ら動こうとしない者。そういう奴まで抱え込む余裕はない』
『……そう、だね』
石紅が絞り出すように同意する。
初日から共に暮らしている彼女は、俺たちよりも強く助けたいと思っているはずだ。
それこそ、彼女たち一人一人が戸惑い、苦しみ、そして気力を失うまでの過程も全て見てきているのだ。
『下手に内通者になられても困るし、女子たちには準備が整った後、出発の直前に男共の計画をばらした上で希望を聞く。付いて来るという者は助け、反応しない者は置いていく。それでいいか?』
自分たちの安全を確保した上で助けられる者については助ける。
全員を平等に救うなんてことはしないし、出来ない。
それをしようと思えば、男衆の中にだって救わなければならない者はいるはずだ。
世の中男色なんて珍しくもなんともない。
動きを悟られたくない女子と違って、今夜にも凌辱される男がいる可能性もある。
だが、そいつらは放っていく。
俺たちは神でも仏でも英雄でも、はたまた正義の味方でもない。
私が来た!と叫んでワンパンで敵を屠るには、実力が足りなさ過ぎる。
『とまあ、そんな感じだな。とりあえずは監視がなくなる時間にまた連絡するよ』
とにかく今後の方針は決まった。
後はまあ、なるようになるだろう。
そうして俺はメアにお姫様抱っこされてその場を後にした。
……ねえやっぱこれクソ恥ずかしいんだけど。
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