親友に彼女を寝取られて死のうとしてたら、異世界の森に飛ばされました。~集団転移からはぐれたけど、最高のエルフ嫁が出来たので平気です~

くろの

文字の大きさ
上 下
21 / 73
二章 復讐と集団転移編

第20話 ゴーレム相撲と内通者

しおりを挟む

「東ぃ~石の海~」

 ズシンと音を立てて、2足歩行の巨大な岩の塊が四股を踏む。

「西ぃ~石の山~」

 反対側から殆ど同じ2足歩行の岩がのそのそ動いて地面に引かれた線の上に立つ。

「はっけよ~い、のこった!」

 合図と共に、岩同士が激突した。

 ズガン、ズドンと凄まじい音を立てて、お互い体の一部を飛び散らせながら張手、抱え込み、果てはもう技ですらない突進までして、相手を円の外へと押し出そうとする。
 しばらく激しい打ち合いが続き、砂煙が舞い次第に両者の姿は見えなくなり――

 やがて、ずごごご、と鈍い音が立ち片方が仰向けに倒れた。

「勝者は……えっと、これどっちだ?」

 砂煙の中でくんずほぐれつしてくれちゃったおかげで、すっかりどっちがどっちだかわからなくなってしまった。

「だからもう少し形を変えようって言ったじゃないですか~」

 メアが呆れたように唇を尖らせる。

「仕方ないだろ。見た目凝り過ぎると愛着湧いて壊したくなくなっちゃうんだよ」

 俺は言い訳をしながら軽く手を振り下ろす。
 すると、二つの岩の塊——俺の生み出したゴーレムはさらさらと砂になって消えた。

「今のがオウガイさんの世界の伝統格闘術なんですか? あんまり強そうには見えませんでしたが」
「強いかどうかは俺も良く知らん。実際に見たことないし」

 訝しげな目を向けてくるメアに、俺は肩をすくめてみせる。
 日本人の大半が生で相撲を見たことなんてないはずだ。
 俺だって偶にじいちゃんの家で中継を見たのと、後はバキと火ノ〇相撲で齧ったくらいの知識しかない。
 
 これならレスリングとかを再現した方がまだ解りやすかったか?

「まあ、土魔法のいい練習にはなってるみたいなのでいいですけど。今度は形を変えてもう一回やってみてください」

 メアの要望に、俺は再び土魔法で身長2メートル、横幅力士くらいのゴーレムを作り出し、片方にガンダムみたいな触覚を付け、両者を戦わせる。

 一体なぜこんなことをしているのかというと、それはもちろん土魔法の練習だ。

 3日の猶予期間。
 それを有効活用する為、俺は一種類の魔法を集中的に鍛える事に決めた。
 広く浅く鍛えるより、その方が強くなりやすいと思ったからだ。

 そして悩んだ末、土魔法を鍛えることにした。
 俺の思う強属性、風・土・雷のうち、雷はメアに任せておけばいい。
 そして風は現状の能力で割と満足しているし、これ以上を目指すとなると、3日では形にならない気がする。
 よって、消去法で土魔法に決まった。

 それでまあ、3日間なんだかんだと試行錯誤をした後、でかいゴーレムを作り出せるようになったのだ。
 ゴーレムはいい。男のロマンが詰まっている。
 後は単純に魔力操作が俺の優位なポイントということで、それを活かせる魔法を練習したってのはあるが。

 因みに相撲させていたのはメアからの、オウガイさんの世界の格闘技が見て見たい、という要望に応えての事だ。
 メアは結構俺の世界の話題に食いついて来る。
 俺のことで、知らないことがあるというのが不満らしい。
 いずれは念写魔法とか作って往年の名作をこの世界に布教したりしたいものだが、今はそんな余裕もないからなぁ。

 まあ、この3日で起きた事といえばそのくらいだな。
 後は2回くらいインテリ坊主の所に獲物を届けに行ったり、宣言通り甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるメアにたっぷり甘やかされ、そのまま毎晩絞り尽くされていたというくらいだが……まあそれはいいだろう。
 挑み続けたものの、結局俺は一度も反撃する事は出来なかった、とだけ言っておく。
 全く、情けなくて涙が出てくるよ。

「しかし、この生活も今日で終わりか……」

 今は3日目の朝。
 昼過ぎにはここを発ち、石紅のところに向かわなくてはならない。
 助けると決めたのは俺自身だ。それに後悔はない。
 
 だけど……

「そんなに私との夜が名残惜しいんですか? もう。心配しなくても今夜も可愛がってあげますよ」
「ちが……くないかもな。正直、この森のこの家で、一生二人で居れたら。それだけで幸せなのにって思いはまだあるから」

 いつか。
 いつかこの生活を守る為に修羅となり、さっさとインテリ坊主たちを殲滅しておけば。
 そう後悔する日がくるかもしれない。

 あるいは女子たちを見捨てて、俺たちの生活への不可侵を約束させるのもいいかもな。
 石紅だけ解放してもらって、残りの犠牲には目を瞑るのだ。

 ……だがそれは、この生活が永遠ならの話だ。

 いずれ、終わりは来る。
 この幸せは、ラスダンを乗り越えられなければ消えてしまう。
 このままここにいても、エルフ国から、もしかしたら魔族からも追われる全国指名手配犯になってしまうのだ。

 まあ、そのままずっと愛の逃避行を続ける、というのも悪くはない。
 だが、それをしようとメアは一度も言わなかった。

 きっと俺たちが逃げれば、エルフの国は大変なことになる。
 内乱だけでは収まらず、魔族の手で本当に滅びるかもしれない。

 彼女にも王族としての責任感とか、申し訳なさとか、思う所があるのだろう。
 それなら、たとえそこが死地だとしても、俺はついていくだけだ。

 もう、メア無しで生きるなんて考えられないからな。

「……行くか」

 込み上げる思いを飲み込んで、俺は歩き出す。
 
 ま、今生の別れみたいな感じの言い方をしたが、今日もここには普通に帰って来るんだけども。
 ちょっとおセンチな気分に浸ってみたかったのだ。

 よし、ここからは切り替えていこう。


***


 転移者たちの拠点に着いたのは昼頃だった。

 俺とメアは再び木の上から近づき、様子を探っている。

 ん?もちろんここまではメアにお姫様抱っこで運んでもらったけどなにか?
 ……嘘です、いい加減恥ずかし過ぎてこの3日土魔法じゃなくて木の上を移動する練習をすればよかったと本気で後悔しました。

「いました、石紅さんです。今は……食事中みたいですね」

 メアが囁くように告げる。
 前回は魔力探知をしているのかと思ったのだが、単純にエルフというのは目がいいらしい。
 俺も小学生の頃は両目2.0とかあったが、今ではゲームのやり過ぎてギリギリ1.0くらいだ。
 元の世界ではメガネ要らないくらいあればなんでもいいと思っていたが、今になって明るく離れたところでゲームをしなかったのを後悔するとは思わなかった。

「飯の最中なら好都合だ。繋いでくれ」

 咀嚼していれば仮に無言になっても怪しくないしな。

 それに、石紅ならきっと、

『石紅さん、お久しぶりです。メアです』
『おお! 久しぶり! いつ声掛けてくるかなぁって朝からそわそわしちゃってたよ~』

 やっぱり、ずっと待っていてくれたらしい。

『3日間、いっぱいイチャイチャ出来た?』
『ええ、それはもう。オウガイさんの可愛い姿をいっぱい堪能しました』

 からかうように聞いて来る石紅に、メアが恍惚とした様子で言う。

『メア、頼むからこいつにばらすのはやめてくれ。俺死んじゃう……』

 同級生に毎晩骨抜きにされてるのをバラされるとか、本当にきつい。
 一瞬でSUN値が空になりそうだ。

『へぇ、それはそれは。是非とも詳しく聞きたいなぁ』

 あ、ダメだこれ。
 石紅のやつ完全に悪ノリスイッチが入ってやがる。

『それはいいから! まずはそっちの成果を聞かせろよ。内通者、分かったのか?』

 俺は話を無理やり遮って、本題を尋ねる。

『あー、一応分かった、とは思うんだけど』

 石紅は何故か気まずそうに言葉を濁した。

『何か不味いことでもあるのか?』
『いやぁ、何というか、確証が持ちきれない半分、言い辛い半分って感じで……』
『お前にしては珍しいな』

 石紅はやると言ったら絶対にやるやつだ。
 だから3日と言われた時も確実に結果を出すのに必要な日数なのだろうと思った。

 だからこそ、今の反応が意外だった。
 
『一応、動きから推定は出来たんだけどさ。その人が向こうに協力する理由が見つからないんだよね』
『そんなの、自分だけ逃がしてもらうとか、待遇を良くしてもらうとか、そういうのじゃないんですか?』
『そう、なのかなぁ』

 メアの言う事はもっともなのだが、石紅の中では腑に落ちない部分があるらしい。

『で、結局内通者は誰だったんだ?』

 理由を考えるにせよ、それを聞かなければ始まらない。

 だが俺は、その名前を聞いて石紅が言いにくそうにしていたわけを理解した。

『七海ちゃんだよ。晴野、七海ちゃん。葛西も知り合いなんでしょ?』


 どうやらあのクソ元カノは、この世界でも俺の邪魔をしたいらしい。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

倒した魔物が消えるのは、僕だけのスキルらしいです

桐山じゃろ
ファンタジー
日常のなんでもないタイミングで右眼の色だけ変わってしまうという特異体質のディールは、魔物に止めを刺すだけで魔物の死骸を消してしまえる能力を持っていた。世間では魔物を消せるのは聖女の魔滅魔法のみ。聖女に疎まれてパーティを追い出され、今度は魔滅魔法の使えない聖女とパーティを組むことに。瞳の力は魔物を消すだけではないことを知る頃には、ディールは世界の命運に巻き込まれていた。

処理中です...