スキルガチャはずれた不遇のおっさん、酔った勢いで最難関ダンジョンをクリアする〜欲望のままに生きてたはずが、いつの間にか聖人と呼ばれてました〜

くろの

文字の大きさ
4 / 12

4話

しおりを挟む
*おっさんが泥酔して意識がなくなってしまった為、しばらく神視点でお送り致します。
─────────────

 『獄炎竜の試練』
 それは、この世界に5つある『竜の試練』ダンジョンの1つだ。
 その全てがどんなチート持ちでも泣いて逃げ出すと言われている、世界最難関のダンジョンである。

 そんな超危険なダンジョンに今、死ぬほど酔っぱらったおっさんが足を踏み入れた――

「うい~~、なんだァ? 随分と暗くなったじゃねえかよぉ……やんのかおらっ!」

 壁に喧嘩を売りながら、ダンジョンの中を千鳥足で進むおっさん。
 
 服は仕事で着ていた作業着のまま。
 当然武器もなく手ぶらで、ダンジョン攻略の必需品であるマジックバッグや食料等も持ち合わせていない。
 怪しいバーから大事に持っている一升瓶と、使っちゃいけないお金まで使い切ってすっからかんの安財布だけが唯一の持ち物。
 ──はっきり言って舐め腐っている。
 世界最難関ダンジョンどころか、初心者向けの最下級ダンジョンですら瞬殺されそうな酷い状態だ。

 獄炎竜の試練・第一層。
 その内容は『即死罠の無限地獄』である。
 
 1分も歩けば古今東西のすべての即死罠が経験できると言われているほどに、とにかく危険な罠がそこら中に設置されている。
 しかも隠され方もかなり巧妙で、熟練の斥候ですら泣いて逃げ出すと言われている程である。
 事実、獄炎竜の試練に挑んだパーティの殆ど全てが第1層でリタイアするか全滅していた。

 当然そんなところにただの日雇い労働者であるおっさんが迷い込めばひとたまりもない……はずなのだが。

「けっ! なーにがチートだコノヤロー! 俺だって妄想の中じゃチートで追放されたお姫様助けたりして美少女ハーレム作ってんだからな!? ハーレム作りながら風俗通いまくってるんだからな!!!」

 おっさんは右へふらふら、左へふらふら。
 手に持った一升瓶からちゃぽちゃぽと間抜けな音を鳴らしながら、一切罠を踏むことなく、安全な床だけをずんずんと進んでいた。
 運スタータス『F』のおっさんのどこに、これだけの幸運が眠っていたのだろうか。
 もし誰かがこの光景を見ていたら「あり得ねー」と絶句する事だろう。それくらい、おっさんのやっていることは異常だった。

 とはいえ偶々だけでクリア出来るほど生易しいものじゃないからこその、世界最難関ダンジョンだ。
 第一層。その最奥に広がっていたのは、全ての床がびっしりと罠で埋め尽くされた廊下だった。
 見える罠と見えない罠が入り混じっていて、もう何が何だかわからない。

 こうなればもうどれだけおっさんの運がよかろうが関係ない。
 解決方法は罠の無い場所まで跳躍するか、壁でも走るかしかない。まあ実際、壁にも空中にも罠はたっぷり仕込まれているのだが。
 だが、泥酔状態のおっさんはそもそもここが危ない場所だという認識すら持っていない。
 全面に即死罠が敷かれた廊下を、何のためらいもなく相変わらずの千鳥足で進み始める。
 1歩目で床が光り、壁の隙間からゾウも一撃で殺す強力な毒矢が射出された。

「お、100円落ちてんじゃん!」

 が、おっさんは矢が当たる寸前で頭を下げてそれを神回避。

「……んだよ、ただの靴ひもじゃねえかクソ!」

 酔ってぼやけまくった視界では、靴ひもの固いところが硬貨に見えたらしい。
 おっさんは悪態を吐くと一瞬前に死が横切った場所にガバッと顔を上げ、再びふらふらと歩き出す。

 その後もおっさんの神回避は続いた。
 ちょうどよく転んで頭上を焼いた超高温の炎を避け、1トンくらいある石の塊が転がって来たのも、よろけて壁の隙間に収まり回避。剣山の待つ落とし穴が開くも、石の塊が橋となり堂々とその上を歩かれる始末。
 まさにアニメとかで見る酔拳のような感じで、ふらふらしながらも全ての罠を紙一重でよけ続ける。
 そうして気付けば罠の敷かれた廊下は終わり、次の階層へと続く下り階段が現れた。

「あ……? この村にこんな階段なんかあったか……?」

 長い階段に流石に違和感を覚えたのか、おっさんはふと立ち止まる。

「まあいっか。この長い長い下り坂を~♪ ってそれは坂じゃねえかあはははっ」

 だが立ち止まったのは一瞬で、すぐに泥酔状態のハイテンションが花開く。というか何も面白くないのに爆笑していてちょっと怖い。

 とまあそんな風に、おっさんはノリと運だけでA級冒険者ですら泣いて逃げ出す最難関ダンジョンの第1層をクリアしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

処理中です...