上 下
28 / 33

第28話 究極の選択ふたたび

しおりを挟む
 暗い通路はどこまでも続いていて、物音ひとつしなかった。注意深く歩くガンザさんのあとについていきながら、僕は彼女の脚にしがみつきたい衝動を必死でおさえていた。

 あいかわらず僕は弱虫で、こわくてこわくてたまらなかったからだ。
 でも、こわいのはなぜなんだろう、とよく考えてみた。

 僕がこわいのは、今までは自分が傷つくことだった。でも、今はちがう。僕はなによりもガンザさんがケガをしたり、彼女を永遠にうしなってしまうことを恐れるようになっていた。
 ガンザさんは並大抵の強さじゃないし、いつも自信と威厳に満ち溢れていて、そんな彼女だからこそ僕は憧れているんだけど、なにか僕たちの想像をこえるまがまがしいものが彼女を奪ってしまうんじゃないかって、僕は不安でならなかった。

「どうした、カズミ。なにを震えている?」

 ガンザさんはたちどまって、僕をやさしい目で見おろしてきた。僕はことばが出てこなくて、うつむいてしまった。彼女はゆっくりとかがみこみ、切れ長の美しい目を僕と同じ高さに合わせてくれた。

「いいか、カズミ。よく聞け。何度でも言うが、私はぜったいにカズミを守る。だから、心配するな。」

「でも、それじゃガンザさんは?」

 彼女は微笑みながら僕の髪をくしゃくしゃとなでてくれた。

「私はこんな所で死ぬつもりは全くないぞ。みんなで生きて帰るんだ。もちろんミルテもな。カズミもそのつもりでいろ。」

「うん。わかった。」

 僕はすこし安心して、彼女に微笑みかえした。自信たっぷりの彼女の言葉に勇気づけられた僕は、再び歩きはじめた。


 しばらく進むと、妙な空間に出た。そこは円形の広大な空洞になっていて、反対側のはるか向こうに扉が見えた。扉までは人がひとり通れるくらいの細い幅の橋みたいな通路がかかっていた。僕はこわごわ下をのぞきこんだけど、下は真っ暗でぜんぜん見えなかった。

「うわあ。ガンザさん、底が見えないよ。」

「ひき返すか。だが、他に道はなかったな。」

 僕たちが躊躇していると、背後で大きな金属音がして、ふりむくといつの間にやら頑丈そうな鉄格子があらわれていた。どうやら僕たちは退路を絶たれたらしかった。

「ふん。わかりきってはいたがやはり罠か。おもしろい。受けてやろう。」

 ガンザさんは不敵に笑うと、巨大な斧をかまえて細い通路に向かって大またに一歩を踏み出した。僕は慌てて彼女にとりすがった。

「ガンザさん、大胆すぎるよ。」

「いいから、離れずに私にしっかりとついてこい。」

 僕はその言葉に甘えて彼女の腰につかまりながら、下を見ないようにしてついていった。すこし進んだとき、前方の扉が開いて、中から何かが出てきた。それを見たとたんに、ガンザさんの体がこわばるのが僕にはわかった。

「おまえたち!?」

 ガンザさんが驚いたのも無理はなかった。扉からわらわらと出てきたのは巨体ばかりで、それがなんなのかは僕にもすぐにわかった。

 そう、彼らはガンザさんと同じ、オーガ族の戦士たちだった。防具は軽装だけど、みんな手には棍棒や棘のついた金槌や幅広の大剣を持っていて、なにより不気味なのはなにも喋らずに目がうつろなことだった。
 オーガたちは武器をかまえて、狭い橋の通路を一列に並んでこちらに迫ってきた。

「おまえたち! しっかりしろ! わたしだ、ガンザだ。わからないのか?」

「だめだよ、ガンザさん。きっとみんな、魔薬であやつられているんだよ。」

 僕はガンザさんの腕を引っ張って後退させようとしたけどびくともしなかった。どうせ後ろは鉄格子で行きどまりだけど、前方よりはマシだと僕は思った。
 進退きわまった僕たちの頭上に、声が響いてきた。


『ヒヒヒヒヒ。こりゃみものじゃのう。さあ、どうするね、オーガ族の女戦士ガンザや。恋人を守って仲間と戦うかいね? それとも、仲間を選んで恋人を見捨てるかねえ?』
 
 おばあさん魔女、クイーニーの声だったけど、僕は動転しすぎていて大事なことをガンザさんに言うのをすっかり忘れていたことを今ごろ思い出した。

「ガンザさん! あのおばあさん魔女は、実はグ…。」

「カズミ! できる限りさがっていろ!」

 ガンザさんはふりかえらずに叫び、僕は目を疑ったんだけど、なんと彼女は手にしていた大きな斧をポイっと捨ててしまった。

『ヒッヒッヒ、そうきたかい。じゃが、素手でどこまで戦えるかいのう?』

『クイーニー! これでは武器での戦いの記録がとれんではないか、遊びがすぎるぞ!』

 ジョンズワートさんの声も聞こえてきて、どうやらふたりはどこかから僕たちの様子を見ているみたいだった。僕はガンザさんの気持ちを考えると激しい怒りを感じたけど、なにもできることがなかった。それにしてもガンザさんは武器を捨ててどうするつもりなんだろう。まさか?

「目を覚ませ! おまえたち、それでも誇り高きカラス岩山のオーガ族戦士か!」

 ガンザさんは素手になり牙をむき、武装したオーガ族たちにとびかかっていった。彼女はこの狭い橋の上で、彼らの命を奪わずに倒す無謀な戦いに身を投じたのだった。
 クイーニー、いや、グロリアさんはいったいどんな気持ちでこの光景を見ているのだろう。

「僕に…僕になにかできることは…ないのかな、どうしよう…?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...