上 下
25 / 33

第25話 だ、大ピーンチ!?

しおりを挟む

 本当に、僕はバカだった。


 僕は自室のベッドで横になり、自分を責め続けていた。

 もう自分がバカすぎて心底イヤになり、ますます僕は自分が嫌いになった。僕が商会長さんに会ったせいで、ガンザさんやミルテさんをこんな危ない場所に引き入れてしまったんだ。それで実際に、ふたりは今、最悪に危険な状況にあった。
 ミルテさんはどこかへ連れて行かれたままだし、ガンザさんももう、ここにはいないはずだった。ぜんぶ僕が悪いんだ…。


 鉱山長のおばあさんは実は魔女で、商会長に協力しているって言っていた。おばあさんは名前をクイーニー・アマンと僕たちになのった。魔女クイーニーは、ここはジョンズワート商会が管理する鉱山の中に密かに作られた実験施設だと言った。

「実験? なんの?」

「うふふ。だから魔薬じゃよ、魔薬。」

「マヤク?」

 響きからして絶対にろくなもんじゃないって僕はすぐに悟ったけど、それがなんなのかを聞かずにはいられなかった。

「なんなの? 魔薬って?」

「魔法をこめた薬でな、人間以外の異種族に飲ませれば、飲んだ者を意のままに操ることができるのじゃよ。イッヒッヒッヒ。」

「しかも、脳に作用して自制心を奪い、潜在能力を最大限に発揮して凶暴化するのだよ。すごいだろう?」


 商会長さんと魔女クイニーが代わる代わる自慢げに説明してくれたけど、僕にはなんのことやらさっぱりわからなかった。


「そんなあぶない薬を、なにに使うの?」

「おやおや、カズミ君には商才がないんだな。金儲けに決まっているではないか!」

 商会長さんはお金の話になるとひとりで盛り上がり、血走った目で興奮していた。

「この世界ではな、たくさんある人間の国同士はあちらこちらで戦争を繰り返しておるのだ。小競り合いから大規模な戦闘までな。」

「はあ。それで?」

「だから、どの国もいつでも兵士不足だ。だから、人間以外の異種族どもに魔薬を投与して、兵士として売りさばくのだよ。これは儲かりまくるぞ、ワッハッハ!」


 僕は呆れかえってしまって、商会長さんを見ながらまばたきを繰り返した。ガンザさんはもう、見ただけで怒り狂ってるってわかった。


「貴様ら! ふざけるな! 魔女ともあろう者がそんな悪行に力を貸すのか!」

「そうじゃよ。わしら魔女は長らく人間族から差別されて迫害されてきた。少しくらい金を儲けてもバチはあたらんじゃろう。ヒヒヒ。」

 どうやら僕たちは、とんでもなく危ない所に自ら飛びこんでしまったみたいだった。いったい商会長さんは、ガンザさんになにをさせるつもりなんだろう?

「雌オーガ、お前には以前、邪魔をされているからな。お前の村に行き、オーガどもをここに連れてきてもらおうか。」

「誰がそんなことをするものか!」
 
「言う通りにすれば、カズミ君は生きて解放してやろう。だが、聞かないのなら…わかるな?」

 ガンザさんは鉄格子をつかんでブルブルと震えていたけど、やがておとなしくなり、首をたてにふった。

「だめだよ! ガンザさん!」

「カズミ君、余計なことを言うな。怪力のオーガ族どもを兵士にしたいという国は特に多いのだ。今までは不可能だったが、魔薬を使えば簡単に可能だ。」

「ガンザさん!」

「ハッハッハ! カズミ君を使えば雌オーガは言うことをなんでも聞くと思ったが、狙いどおりだな!」

 商会長さんはふんぞりかえって高笑いをしはじめて、ガンザさんは檻の中でうずくまってしまった。僕はもっとガンザさんに呼びかけようとしたけど、商会長さんの手下にめちゃくちゃに縛られて別の部屋に連れていかれてしまった。


 それから数日間は、僕は自室で軟禁状態だった。殴られたりとかひどい目には遭わされなかったけど、扉には厳重に鍵をかけられて、たまに水や食事がだされた。僕はどんどん気が滅入ってきて、ガンザさんやミルテさんに会いたくて会いたくてたまらなくなった。
 いつも自信と力強さに溢れたガンザさんは、僕の持っていないものを全て持っていて、憧れだった。もしも彼女がそばにいてくれたらどれだけ心強いだろう。僕は今まで平気だったはずの孤独に耐えきれなくなり、ベッドに突っ伏して泣きだしてしまった。
 
 しばらくして落ち着いた僕は考えた。僕よりももっとつらいのはガンザさんなのかもしれないと。仲間のオーガを騙して裏切るか、僕を見捨てるか、彼女は激しく悩んだに違いなかった。そして彼女は奴らの言うことを聞くという選択をした。僕と彼女はまだ出会ったばかりなのに…。

 それよりも、泣いているばかりじゃダメだ、僕のほうが彼女のためになにができるのかを考えるべきだ。僕はそう思い直して、涙をふくとベッドから降りた。

 まず、僕はなんとかしてこの部屋から抜け出さなければならなかった。窓はないので、僕は扉をよく調べようと近づいた。

「その扉はあかないよ。魔法で閉じてるからねえ。」

「うわわっ!?」

 僕のうしろから声がして、ビクッとしてふりむくと、そこには鉱山長、おばあさん魔女のクイーニーがいて、僕のベッドに腰かけていた。

「いったいどこから?」

「ふふ、しかしおまえさんは見れば見るほどかわいい顔をしておるねえ。」

 僕の質問を完全に無視して、老婆が僕の方に迫ってきた。


 ど、どうしよう…?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。 突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。 しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。 魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。 英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

オーガ転生~疲れたおっさんが城塞都市で楽しく暮らすようです~

ユーリアル
ファンタジー
世界最強とも噂される種族、オーガ。 そんなオーガに転生した俺は……人間らしい暮らしにあこがれていた。 確かに強い種族さ! だけど寝ても覚めても獣を狩ってはそのまま食べ、 服や家なんてのもあってないような野生生活はもう嫌だ! 「人間のいる街で楽しく暮らしてやる!」 家出のように飛び出したのはいいけれど、俺はオーガ、なかなか上手く行かない。 流れ流れて暮らすうち、気が付けばおっさんオーガになっていた。 ちょこっと疲れた気持ちと体。 それでも夢はあきらめず、今日も頑張ろうと出かけたところで……獣人の姉妹を助けることになった。 1人は無防備なところのあるお嬢様っぽい子に、方や人懐っこい幼女。 別の意味でオーガと一緒にいてはいけなさそうな姉妹と出会うことで、俺の灰色の生活が色を取り戻していく。 おっさんだけどもう一度、立ち上がってもいいだろうか? いいに決まっている! 俺の人生は俺が決めるのだ!

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

処理中です...