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第12話 新たな自警団員
しおりを挟む「よく聞こえませんでしたわ。もう一度、言ってくださるかしら?」
フロインドラ魔女商会長は、ミサキ団長が肩に置いた手に自分の手をのせた。その目つきはさらに険しくなっていた。
「魔女はあとで、と言ったんだ。」
「それは、自警団の魔女商会に対する宣戦布告、ととらえてよろしいのかしら?」
団長はそれを聞いて、いきなりフロインドラの腰に手をまわして抱き寄せた。
マリーンは信じられない光景を見ている気がしてあぜんとした。
「フロインドラ、私が君にそんなことをするはずがないだろう?」
「あ…いえ…ま、まあ…たしかに…。」
みるみるフロインドラの呼吸は早くなり、顔も手も赤く染まっていった。
しばらくその態勢が続いたあと、フロインドラは団長を突き飛ばし、回れ右して廊下を走り出した。
「み、み、水! どこかに冷たい水はありませんかしら!」
フロインドラがいなくなると、団長は平然と医務室の扉を開けた。
マチルダはのびをしながらあくびをした。
「あニャ~。団長と魔女商会長はなかよしだったのニャ?」
ジーンがマチルダの口を押さえた。
「ムギュッニャ。」
「はは、マリーン、大丈夫か? 気にするな!」
マリーンはまだ呆然としていたが、目の焦点が戻ると慌てて医務室に入った。
医務室のベッドの上には包帯だらけのヨウが寝かされていた。
「ヨウさん!」
マリーンはベッドにかけよりひざまずくとヨウの手を握りしめた。ヨウは顔だけを動かして微笑んでみせた。
「マリーンさん、ケガはなかった? 大丈夫?」
「それ、こっちのセリフだよ!」
「あはは。見た目ほど重症じゃないよ。あのナダってお医者さん、包帯を巻きすぎ。」
団長が目で合図すると、隅に立っていた若い医師はうなずいて部屋を出ていった。
入れ替わりにジーンとマチルダが入ってきてドアを閉めて両側にはりつくと、団長はベッドの横に立った。
「たしか、アワシマさんですね? 私はトマリカノート自警団長のミサキ・フィッシュダンスです。マリーンに代わり、私からもお礼を言います。」
「マリーンさんの上司?」
「はい。」
深々と頭を下げる団長を、ヨウはぼうっとした顔で見上げ、つぶやいた。
「お礼なんていいよ。そんなことより、僕よりも綺麗な人を初めて見たよ。」
「こんな時までそんな事を!」
マリーンは手に思いきり力をいれた。
「あいた! いたい、いたいって、マリーンさん!」
団長は笑いながらベッドの近くにあった簡易な椅子をひきよせて座った。
「その様子なら大丈夫そうだな。フロインドラが戻ってくるまであまり時間がない。単刀直入に聞くが、あなたはいったい何者ですか?」
「え。」
ヨウは戸惑いを見せたが、すぐにいつもの調子に戻った。
「やだなあ、マリーンさんから聞いてない? 僕には記憶がなくてさ。」
「すまないが、本当のことを話してほしい。」
ヨウはマリーンをにらんだ。
「君にだけって言ったのに。ばらしたんだ?」
「ごめんなさい…。でも…。」
マリーンはうなだれながらもヨウの手を離さなかった。
「あたし、ヨウさんの力になりたくて。異世界から来てひとりぼっちで、本当は苦しんでるんじゃないか、早く仲間や友達や…もしかして恋人のいる世界に戻りたいんじゃないかって。だから…。」
「マリーンさん…。」
ヨウは自分でも気づかないうちにマリーンの手を強く握りかえしていた。団長はヨウをまっすぐに見つめた。
「アワシマさん、マリーンは私を信頼して教えてくれました。許してやってほしい。」
「わ、わかったよ。」
「ありがとうございます。話を戻しますが…私にはあなたが軍人には見えません。異世界から来られたというのは本当ですか? なんのために? 魔女とはどのような関わりが?」
ヨウは神妙な顔つきでしばらく考えていたが、あきらめたようにため息をついた。
「ヨウさん?」
「あ、ごめん。なんでそんなに真剣なのかわかんなくってさ。」
ヨウはマリーンから手を離すと天井を見ながら両手を頭の後ろに組んだ。
「爆発があって、気がついたらこっちに来てたって言ったじゃん。来たくて来たんじゃないし、魔女なんか知らない。逆にこっちが聞きたいくらいだよ。」
「アワシマさん、事態はあなたが思うよりはるかに深刻かもしれない。話して頂けないですか?」
「だから、本当になにも知らないってば。」
ヨウは毛布をかぶってしまった。
団長は目をつむり、考えはじめた。
「あ、あの…団長? 深刻な事態って?」
マリーンがためらいながら聞くと、団長は目をあけた。
「マリーン、頼みがある。」
「はい! なんなりと!」
「アワシマ・ヨウ氏を自警団33支部の団員に編入してほしい。」
『えええええっ!?』
マリーンだけではなく、ジーンとマチルダまでもがずっこけた。
「なんでだよ団長!? そりゃ、マリーンを救ったことには感謝するけどよ…。」
「あニャ! 足音がするニャ!」
ドアが乱暴に開いて、フロインドラが入ってきた。マチルダはジーンの背後にササッと隠れた。
落ち着きをとりもどした様子のフロインドラは、毛布から顔を出したヨウを見て妖しく微笑んだ。
「ようやくお会いできましたわね。さあ、われと来て頂きましょうか。尋問のしがいがありそうな方ですわねえ。」
舌なめずりしそうなフロインドラに、ヨウは怯えて恐怖の表情を見せて、体を起こすとマリーンに抱きついた。
「あ、あのひとこわい! 綺麗だけどこわい! やだ!」
「ヨウさん…。」
団長が立ち上がり、フロインドラとベッドの間に立ち塞がった。
「わるいが、それはできなくなりました。」
「は? なにを仰っているのかしら?」
「今回の功績により、アワシマ・ヨウ氏を自警団の団員として採用することになりました。よって、不審人物ではないため、引き渡しはできません。」
フロインドラは目が点になっていたが、すぐに怒りの形相になり手足を振り回した。
「謀りましたわね! く、くやしい!」
フロインドラは団長を切れ長の目でひとしきりにらみつけた。
「かくなる上は強硬手段を…。」
「フロインドラさん、魔女商会が隠していることを教えてくれるのなら自警団も協力しよう。だが、情報なしで命令だけされるのは納得ができない。」
「う…。」
フロインドラは団長に見つめ返されて、勢いを失った。そして、舌打ちすると背を向けた。
「覚えておいでなさい。わが優秀な配下がいつでも見ていますからね。」
壊れるくらい激しくドアを閉める音と共に、魔女商会長は去っていった。
「団長…。ヨウさんを守るためにあんなことを?」
団長はホッとひと息つくとマリーンの頭をなでた。
「フロインドラ相手に無茶をしてしまったな。だが、マリーンの命の恩人を簡単に引き渡すわけにはいかないしな。」
団長は顎に手を当てて考える姿勢になった。
「あの様子だと、ヨウ氏は苛烈な尋問を受けて命も危うかったかもしれない。」
「ヨウさん、あなたはいったい何を隠しているの?」
「本当に知らないってば。」
マリーンが不安げな目でヨウに聞いたが、ヨウは首を振るばかりだった。
ジーンが馬車を手配し、ヨウは第33支部に移送されることになった。
馬車に乗り込む寸前、団長はマリーンを手招きした。
「団長?」
「マリーン、聞いてくれ。君はアワシマ氏に協力して、一刻も早く異世界へ帰る手段を探してあげてほしい。このままでは魔女がずっとあの人をつけ狙うだろう。」
「わかりました。でも、団長はいったい何をご存知なのですか?」
「もう少しはっきりしたら話す。今言えるのは…。」
「団長?」
「マリーン、君には目の前のことばかりではなく、これからはもっと広い視野を持ってほしい。たとえば、この街をとりまく世界情勢などもだ。」
マリーンは不思議そうな顔をした。
「団長? 急になんの話ですか?」
団長は何も言わずに、マリーンの肩をポン、と叩くと去っていった。
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