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プロローグ

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 石畳に広がる血だまりの中に僕は倒れていた。

 このままだと確実に死ぬだろう量の血が僕の四肢に刻まれた傷口から流れだしていて、傷あとは焼けるように熱かった。

 刀傷を押さえる僕の手はまっ赤に染まり、止血の効果はあまりなさそうだった。肝心の応急手当てのキットはバックパックの中だったけど、それが置いてあるわずか数メートル向こうは絶望的に遠かった。

 うす汚い路地裏で荒い呼吸をしながら仰向けで倒れている僕は、せめて最期に相手の顔をもう一度よく見ようと首だけを起こそうとしたが、もうその力もほとんど残っていなかった。

 こんな時なのに、僕はなぜかうす笑いを浮かべてしまった。僕の頭の中で、オンラインゲームの戦闘中の音楽が鳴り響いているからだった。
 もうすぐそれはエンディングの曲に変わるのか、と僕は思った。


(どうしてこんなことになったのだろう。僕以外の誰かのせい?
 いや、今まで真剣に生きてこなかった僕のせいかもしれない。)


 ゆっくりと相手が全く足音を立てずに僕のほうへ近づいてきた。
 その口元に冷たい微笑を浮かべながら、血がしたたる細身の剣を持って、相手は僕を凍てつくような眼で見おろしていた。

 仰向けのまま、僕は見ることができた。
 全身黒ずくめの姿のこの世の者とは思えないほど美しい少女の顔を、長い黒髪を、満月のように丸い瞳孔を。

 僕は自分の状況を忘れて相手に見惚れてしまった。
 見ていて身ぶるいするほど美しいのに、獣のような印象を受けるのは何故だろう、幻覚かなと僕は思った。

 相手は、死にかけながら笑みを浮かべる僕を無表情に見つめていた。僕を蔑んでいるのか憐れんでいるのかわからないが、どちらでも無いような気がした。

 僕ひとりがいなくなっても、この世界では誰も悲しまないにちがいなかった。
 それどころか僕の存在自体を誰ひとりとして気にもしていない。
 それはどちらの世界でも同じだと僕は思った。

 少女がゆっくりと剣を振り上げたので、僕はゆっくりと目を閉じた。


 幻聴かもしれないが、舌なめずりの音が聞こえたような気がした。
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