上 下
5 / 11

第5話 料金システムのご説明

しおりを挟む

 社長はいつのまにか姿を消していた。

 俺は帰ろうかと思ったが、ヒヨコ丸の巨大な砲塔が俺を狙っているような気がして身震いがした。

 仕方なくバックパックを背負うと、俺はヒヨコ丸によじ登った。てっぺんのハッチが音もなく開いて、俺は中に潜り込んだ。

 中は意外にも広く、空調があるのか快適な室温だった。壁はモニターだらけで、操縦桿のようなものもあったが、俺が知っている戦車とは似ても似つかない構造だった。

「説明書は…?」

 座りごごちが最高の操縦席に座り、俺はバックパックの中をかきまわしたが出てきたのはタオルに歯磨きセット、スナック菓子に紙パックのお茶と、冷凍みかん、腕時計、走り書きのあるメモ用紙だった。

「遠足かい!?」

 俺の嘆きに巨大戦車…ヒヨコ丸が反応した。

『ちがいます。株式会社戦車屋の、戦車出張代行サービスです。ちなみに特許出願中です。あ、操縦その他は僕がぜんぶやるから、タケちゃんは寝てていいよ。』

 ここで寝るほど俺は豪胆ではなかった。

「どこへ行くって?」

『だ、か、ら、異世界だってば。お客様のところ。入社説明書を読んでないの?』

「イセカイって…? 三重県の伊勢界隈?」

『ちゃうわっ! 失礼、ちがいます! 異世界とは、僕たちの存在する世界に並行して存在する別次元の世界です。言語も文明も種族も政治形態も貨幣制度も全く異なるところです。』

 鏡があれば、俺はずいぶん呆けた顔になっているのがわかったにちがいない。

『僕たち株式会社戦車屋は、その異世界のお客様からのご依頼で出張して、戦車でお客様のお手伝いや手助けをするサービスを営業している会社です。どう、わかった?』
 
「はあ…。漫画や小説じゃあるまいし。異世界なんて本当にあるのか? だいいち、どうやって行くの?」

『僕は核融合エンジン搭載で異世界間転移跳躍航行ができるので任せておいて。今回のお客様はこの方。あらかわいい! 初仕事、楽しみですね~。』

 前面のモニターに知らない人物の顔と全身像が映し出された。金色に輝く髪をツインテールにした子どもで、ゆったりとしてなめらかなシルクのような衣服を身につけており、耳が少しとがっていた。

「種族…エルフ族? 年齢は…101歳!? 名前は… プラム王女!?」

『エルフだからそんなもんでしょ。ダークエルフの親族と魔王が結託して、王国をのっとっちゃって、王宮から追い出されたらしいよ。』

「で、俺たちは何をしに?」

 ヒヨコ丸の声が呆れた口調を帯びた。

『察しがわるいなあ。決まってるじゃん。お客様のご依頼どおり、プラム王女が王国をとりもどすお手伝いをするんですよ。』

「俺、帰る。」

『もう着きましたよ。』

「ええええっ!?」


 すっかり油断していた俺は、外部を映していると思われるモニターにとびついた。画面いっぱいに、美しい金色の平原が広がっていた。

「いつのまに…。」

 うなだれる俺に、ヒヨコ丸の明るい声が追い打ちをかけた。

『静音モードでしたから。さあ、必ず腕時計を身につけて、なくさないようにしてくださいね。その腕時計が僕との通信機になってるから、なくすと命の保証はできないよ。』

「俺、一歩も外にでないというのはダメかな?」

『お客様対応とか、そーゆーの僕はできないからお願いしますよ。料金システムの説明とかも。』

 俺はメモ用紙を思い出した。汚い字の走り書きを見ると、

『異世界出張費 100万円
 人件費 2万円/1日
    燃料代 1万円/1km
    通常砲弾 90万円/1発
 特殊砲弾 時価
 危険任務手当 応相談
 サービス料金 合計額の10%
 …』

 と書かれていた。その下には

『ただいまキャンペーン期間中、モンスター5匹まで討伐無料と説明すること』

 とも書かれていた。

『さあ、お客様が外でお待ちかねですよ。腕時計は翻訳機にもなっています。はやくご挨拶をしてきてください。』

 俺は漢字で戦車屋と書いてある帽子をかぶると、しぶしぶ梯子をのぼってハッチを開けた。燦々と照りつける日の明るさに一瞬目がくらみ、俺は帽子のつばに手をかけた。

 どこまでも続く美しい平原を見ても、ここが異世界だという実感は全く湧かなかった。俺は顔に風を感じながら、手のこんだいたずらで騙されているのではないか、そんな気がした。
 

 俺が平原に降り立つと、誰かがすすり泣くような声が聞こえてきた。

「あのう、お客さま…?」

 接客業が未経験の俺はかなり遠慮がちに、泣いている子どもの背中に声をかけた。平原と同じ金色の髪がゆれ、相手は俺の方に振り返った。

「はじめまして。俺…私は戦車屋の梅松…いや、ジョニーです。」

 金色の大きな澄んだ瞳が俺を直視していた。
 子どもは泣き止むと、無言で戦車のキャタピラを指差した。

 俺は意味を理解しようとその指の先を見た。そこには、ちいさな木の枝がキャタピラに轢かれて倒れていた。

 俺はそれが理解できず、その子ども(おそらくプラム王女)に無理やり作った笑顔を見せた。

「これは?」

「お墓…だったのに。」

「あっ! ごめんね、小鳥かなにかのお墓かな?」

 王女が次に放った言葉に、俺は全身が凍りついた。

「我の父上と母上の墓じゃ、コラア!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~

ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。 対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。 これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。 防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。 損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。 派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。 其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。 海上自衛隊版、出しました →https://ncode.syosetu.com/n3744fn/ ※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。 「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。 →https://ncode.syosetu.com/n3570fj/ 「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...