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3.一緒に寝ましょう⑶
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「ウィンディアナ、入るぞ」
「は、はいっ!」
セレーノ様は、全く緊張もしていないようだった。肩にはなにやら大きな荷物を抱えている。
「待たせたな。寝袋取って来た」
「寝袋……ですか?」
「あぁ、安心しろ。勿論使うのは俺だ。
ウィンディアナはベッドで寝ればいい」
「なっ、なんで!? 一緒に寝たらいいじゃないですか!」
気まずそうに目線を外すセレーノ様。
「……嫌だ」
……嫌って、そんな言い方しなくても……。さっきはあんなにたくさんキスしてくれたのに。
私は少し不貞腐れて、セレーノ様が持っていた寝袋を取り上げた。
「それなら、私が寝袋で寝ます!」
「はぁ? 駄目だ、ベッドで寝ろ」
そんな目で睨んだって、怯んでなんかやるもんか!
私はぎゅっと取られないように寝袋を抱きしめた。
「いーやーです! 私が寝袋!」
「そんなの駄目に決まって――」
その時、テントの外からセレーノ様を呼ぶ声がした。
「団長ー。お取り込み中ですか?」
ここは一時休戦だ。私はふんっとそっぽを向いた。
セレーノ様は、渋々と入り口に向かう。
「どうした?」
「余ってる寝袋あります? 実は俺の破れちゃって、もしお持ちだったら――」
私はしっかり聞いていた。
「あります! ここにあります!」
すかさずその騎士に駆け寄り、持っていた寝袋を押し付ける。
「ちょっ、おい!」
セレーノ様が私を制止した時には寝袋は騎士の手元に。
とにかく、それ持って帰って、早く帰ってほしい!
「奥様、ありがとうございます!
でも、団長……本当に大丈夫ですか? もしかして使う予定とかありました?」
なんで聞いちゃうかなーと思ったけど、上司の部屋から寝袋を貰うんだから、そりゃあ確認取るかと一人で納得。
そして、セレーノ様の答えは……
「……ない。持ってけ。今日は寒いから、穴あきじゃ辛いだろう」
やった! 私は一人隠れてガッツポーズ。
きっと私と寝たくないけれど、優しいセレーノ様は部下を見捨てられなかったんだろう。
「ありがとうございます!」
その騎士の帰る背中に私は笑顔で手を振った。彼のおかげで、セレーノ様と一緒に寝れる!
隣のセレーノ様に話しかける。
「寝袋、無くなっちゃいましたね」
「そうだな」
「もう寝袋じゃ寝れませんね。やっぱり一緒にベッドで寝るしかなさそうですよね?」
長い沈黙の後、セレーノ様は一言だけ。
「……そうだな」
「やったぁ!」
嬉しくて、テント内で踊りたくなるが、我慢我慢。
しかし、ここでセレーノ様が思いもよらないことを言い出した。
「だが、俺は仕事がある。先に寝てろ」
「ずるい! もうっ……また逃げるつもりなんですか?!」
「俺は逃げてなんてっ!」
「じゃあ、一緒に寝てくれますね?」
私も覚悟を決めているのだ。
それにあんなキスをした仲なんだから、次に進んでもいいんじゃないかと思う。
「……わかったよ。その代わり、変なことはするな。お願いだから、普通に寝てくれ」
「キス、も駄目ですか……?」
「はぁ……本当にここが辺境騎士団のテントだってわかって言ってんのかよ……」
セレーノ様がそう呟き、大きなため息を吐く。
「変なこと考えてないで、さっさと寝ろ。
……俺もちゃんと寝るから」
「はいっ、寝ます! すぐ寝ます!」
私はいそいそとベッドに向かう。
「おい、待て。その恰好で寝る気か?」
「え……はい。だって、ここには女性ものなんてないですよね?」
「そ、それはそうだが」
「皺だらけにしてしまうのは心苦しいですが、非常事態なので、仕方ないかなと」
「……ちょっと待ってろ」
セレーノ様は私の言葉を聞いて、なにかを思いついたのか、おもむろに部屋の隅に置いてあった鞄を探り出した。
「あった。これを着ろ」
そう言って彼が取り出したのは、一枚のシャツだった。
手渡されて見てみるが、完全に男物だ。
「これを私が着るんですか?」
「あぁ、俺が前に着ていたものだ。少し小さくなった気がして、最近は着ていない。俺のシャツなら、ウィンディアナが着れば膝上くらいまでの長さになるだろうから、寝巻にちょうどいいんじゃないか?」
「なるほど。ありがとうございます!」
「俺は少し出てくるから、その間に着替えておけ」
「はーい!」
私はセレーノ様が出て行ったのを確認して、早速着替え始める。
「別にテント内にいてくれても良かったんだけどなー」
私は上機嫌に着替える。知らぬ間に鼻歌なんか歌っていたりして、やっぱり嬉しい気持ちは隠せない。
結婚してから、広いベッドに一人きりで寝ていた。一人には慣れていたはずなのに、夜になって静かになると、鳥籠に囲われていたあの頃をどうしても思い出してしまう。暗く広い部屋に一人きり……その事実が今でも、怖い。
そんな私でも、セレーノ様と過ごす夜は、恐怖なんて感じずにセレーノ様のことだけを考えて、眠ることができた。本当は毎晩一緒に寝てほしい。今は隣にいてくれるだけでもいい……
でも、いつかは――
「好きになってほしいな……」
身に着けたセレーノ様のシャツをぎゅっと抱きしめる。
それは太陽のような匂いがして、まるで彼に抱きしめられているようだった。
「は、はいっ!」
セレーノ様は、全く緊張もしていないようだった。肩にはなにやら大きな荷物を抱えている。
「待たせたな。寝袋取って来た」
「寝袋……ですか?」
「あぁ、安心しろ。勿論使うのは俺だ。
ウィンディアナはベッドで寝ればいい」
「なっ、なんで!? 一緒に寝たらいいじゃないですか!」
気まずそうに目線を外すセレーノ様。
「……嫌だ」
……嫌って、そんな言い方しなくても……。さっきはあんなにたくさんキスしてくれたのに。
私は少し不貞腐れて、セレーノ様が持っていた寝袋を取り上げた。
「それなら、私が寝袋で寝ます!」
「はぁ? 駄目だ、ベッドで寝ろ」
そんな目で睨んだって、怯んでなんかやるもんか!
私はぎゅっと取られないように寝袋を抱きしめた。
「いーやーです! 私が寝袋!」
「そんなの駄目に決まって――」
その時、テントの外からセレーノ様を呼ぶ声がした。
「団長ー。お取り込み中ですか?」
ここは一時休戦だ。私はふんっとそっぽを向いた。
セレーノ様は、渋々と入り口に向かう。
「どうした?」
「余ってる寝袋あります? 実は俺の破れちゃって、もしお持ちだったら――」
私はしっかり聞いていた。
「あります! ここにあります!」
すかさずその騎士に駆け寄り、持っていた寝袋を押し付ける。
「ちょっ、おい!」
セレーノ様が私を制止した時には寝袋は騎士の手元に。
とにかく、それ持って帰って、早く帰ってほしい!
「奥様、ありがとうございます!
でも、団長……本当に大丈夫ですか? もしかして使う予定とかありました?」
なんで聞いちゃうかなーと思ったけど、上司の部屋から寝袋を貰うんだから、そりゃあ確認取るかと一人で納得。
そして、セレーノ様の答えは……
「……ない。持ってけ。今日は寒いから、穴あきじゃ辛いだろう」
やった! 私は一人隠れてガッツポーズ。
きっと私と寝たくないけれど、優しいセレーノ様は部下を見捨てられなかったんだろう。
「ありがとうございます!」
その騎士の帰る背中に私は笑顔で手を振った。彼のおかげで、セレーノ様と一緒に寝れる!
隣のセレーノ様に話しかける。
「寝袋、無くなっちゃいましたね」
「そうだな」
「もう寝袋じゃ寝れませんね。やっぱり一緒にベッドで寝るしかなさそうですよね?」
長い沈黙の後、セレーノ様は一言だけ。
「……そうだな」
「やったぁ!」
嬉しくて、テント内で踊りたくなるが、我慢我慢。
しかし、ここでセレーノ様が思いもよらないことを言い出した。
「だが、俺は仕事がある。先に寝てろ」
「ずるい! もうっ……また逃げるつもりなんですか?!」
「俺は逃げてなんてっ!」
「じゃあ、一緒に寝てくれますね?」
私も覚悟を決めているのだ。
それにあんなキスをした仲なんだから、次に進んでもいいんじゃないかと思う。
「……わかったよ。その代わり、変なことはするな。お願いだから、普通に寝てくれ」
「キス、も駄目ですか……?」
「はぁ……本当にここが辺境騎士団のテントだってわかって言ってんのかよ……」
セレーノ様がそう呟き、大きなため息を吐く。
「変なこと考えてないで、さっさと寝ろ。
……俺もちゃんと寝るから」
「はいっ、寝ます! すぐ寝ます!」
私はいそいそとベッドに向かう。
「おい、待て。その恰好で寝る気か?」
「え……はい。だって、ここには女性ものなんてないですよね?」
「そ、それはそうだが」
「皺だらけにしてしまうのは心苦しいですが、非常事態なので、仕方ないかなと」
「……ちょっと待ってろ」
セレーノ様は私の言葉を聞いて、なにかを思いついたのか、おもむろに部屋の隅に置いてあった鞄を探り出した。
「あった。これを着ろ」
そう言って彼が取り出したのは、一枚のシャツだった。
手渡されて見てみるが、完全に男物だ。
「これを私が着るんですか?」
「あぁ、俺が前に着ていたものだ。少し小さくなった気がして、最近は着ていない。俺のシャツなら、ウィンディアナが着れば膝上くらいまでの長さになるだろうから、寝巻にちょうどいいんじゃないか?」
「なるほど。ありがとうございます!」
「俺は少し出てくるから、その間に着替えておけ」
「はーい!」
私はセレーノ様が出て行ったのを確認して、早速着替え始める。
「別にテント内にいてくれても良かったんだけどなー」
私は上機嫌に着替える。知らぬ間に鼻歌なんか歌っていたりして、やっぱり嬉しい気持ちは隠せない。
結婚してから、広いベッドに一人きりで寝ていた。一人には慣れていたはずなのに、夜になって静かになると、鳥籠に囲われていたあの頃をどうしても思い出してしまう。暗く広い部屋に一人きり……その事実が今でも、怖い。
そんな私でも、セレーノ様と過ごす夜は、恐怖なんて感じずにセレーノ様のことだけを考えて、眠ることができた。本当は毎晩一緒に寝てほしい。今は隣にいてくれるだけでもいい……
でも、いつかは――
「好きになってほしいな……」
身に着けたセレーノ様のシャツをぎゅっと抱きしめる。
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