鳥籠の姫は初恋の旦那様を誘惑する

はるみさ

文字の大きさ
上 下
8 / 18

2.ちゃんと話しましょう⑷

しおりを挟む
 キースが任せてください、と言った翌日に私は初の外出をすることになった。
 セレーノ様と一緒に辺境伯の妻として、辺境を守る騎士団に挨拶に行くらしい。

 キースが待っていてくれと言うので、馬車に乗り込み、セレーノ様が来るのを待つ。

 「ふぅ……落ち着いて、しっかりセレーノ様とお話しなくちゃ」

 密かな決意をして、一人馬車の中で待つ。

 すると、馬車の扉が開いた。

 「なんで馬車でなんか……ウィンディアナっ!?」

 「今日はよろしくお願いします、セレーノ様」

 「な、なんで……ここに?」

 セレーノ様は私が同行するとは聞いていなかったようで、馬車に乗ろうと足を掛けたところで止まっている。

 「えっと、それは……」

 どう説明するべきかと悩んでいると、セレーノ様の背中をキースが押した。

 「はいはい、旦那様お入りください。今日は奥様も同行する予定だったの忘れちゃったんですかー?」

 「そ、そんな予定じゃなかったはずだろっ!」

 「そうでしたっけ? まぁ、でもいつまでも辺境騎士団の皆に会わせないわけにもいかないでしょう」

 「だが、まだ早いんじゃないか?! それに、ウィンディアナも心の準備が必要だろうし――」

 「私の準備なら出来ています! 早く行きたいです!!」

 意を決してそう叫ぶ。セレーノ様が私を見つめるが、今度こそは目を離さない。

 「ほら、ね? 奥様もこう仰っていることですし、ちゃちゃっと顔を見せに行ってきてください」

 キースの一押しもあってか、セレーノ様は「仕方ない」と小さく呟き、馬車に乗り込んでくれた。

 「では! 行ってらっしゃいませ!」

 「おい。キース、お前は行かないのか?」

 「はい。今日は、執務が溜まっておりますので、屋敷で待っております。いってらっしゃいませ~」

 キースはとてもいい笑顔で、見送ってくれた。

 馬車が動き出す。しかし、セレーノ様はこちらを向いてくれない。

 でも、めげちゃ駄目だ。キースが作ってくれたこの機会を無駄にするわけにはいかないんだから! 
 私は前のめりになって、セレーノ様に話しかけた。

 「あっ、あの……っ!」

 その時、ガタンと大きく馬車が揺れて、バランスを崩した私は、セレーノ様に抱きとめられてしまった。

 「おい、危ないだろ。大丈夫か?」

 「ご、ごめんなさい! ありがとう……ございます……」

 顔を上げると、セレーノ様の顔が目の前にあった。

 この前、あの唇とキスをして、あの唇で名前を呼んでもらった……
 駄目なのに、またあの時のことを思い出してしまう。

 「悪いな。……今、離す」

 セレーノ様は私から目を逸らし、腕から解放しようとした。でも……

 「い、嫌ですっ!」

 「お、おいっ!」

 私はセレーノ様の首にぎゅうっと抱きつき、彼の膝に乗った。

 もう……馬鹿な私には上手くなんて話せない! 全部話しちゃえ!!

 「セレーノ様がキスをくれたあの日からセレーノ様のことで頭がいっぱいなんです! 初めて会った時から好きだなって思ってたけど、なんかキスして、名前呼んでもらってから、もっともっと胸が苦しくなっちゃって、もうこんな気持ち初めてで、どうしたらいいか分かんなくて! もっとお話ししたいのに、会えば恥ずかしいし、名前を呼ばれると胸がきゅうってなって上手く話せなくて、顔を見れば、もう一度キスしてほしいとか駄目なこと考えちゃうんです! 本当にごめんなさい! こんな私で、ごめんなさいっ!」

 とにかく一気に早口で自分の気持ちを伝えたものの、馬車の中に沈黙が漂う。

 嫌われ、ちゃったかな……。また涙が溢れ出しそうになった、その時、セレーノ様が口を開いた。

 「……駄目なのか?」

 「へ?」

 思わずセレーノ様の顔を見れば、真剣な瞳で私を見ていた。

 「もう一度キスしちゃ駄目なのか?」

 「だって、セレーノ様の迷惑になっちゃうから……」

 「俺は迷惑だなんて言ってないだろ。それに……

 俺もしたかった……」

 セレーノ様の顔が徐々に近づき、キスが落とされる

 やっぱりセレーノ様とのキスは他のことがどうでもよくなっちゃうくらい気持ち良くて……

 離れていく彼の唇。それが寂しくて、私はセレーノ様の橙の瞳に懇願した。

 「……もっと欲しいって顔してる」

 セレーノ様はそう言って私の意を汲むと、またキスをくれた。
 今度のキスは私の唇を全方向から確認するように何度も何度も角度を変えて。

 「ん……っ、はぁっ」

 「やらしい声だな」

 終わりかと思いきやまたしてもキス。今度はより強くセレーノ様の唇を感じる。

 なんだか振り落とされそうで、より強く彼の首に手を回せば、セレーノ様も強く抱きしめてくれた。

 「ふっ、はぁっ……せれーの、さまぁ」

 頭がぼーっとして何も考えられなくて、だらしなく開いた口に今度はセレーノ様の舌が私の口内に侵入してきた。

 それでも嫌な感じはまったくしなくて、より彼のことを感じることができて嬉しくなる。

 彼は、舌を私の舌に絡ませながら、まるで私を味わうかのように歯列を舐め、上顎を擦った。

 あまりの気持ち良さにふわふわとして、身体がどんどん熱くなる。

 この前のキスだけでもあんなに気持ち良かったのに、まだ先があるなんて……

 舌が擦れ合うだけでピリピリと甘い疼きが全身を襲う。
 その疼きをまるで増長するかのように、セレーノ様の右手は私の身体の上を優しく滑っていく。

 それに私たちのキスの音が狭い馬車に生々しく響くから、どんどん変な気持ちになってしまう。

 それでも、やめたくなくて、やめられなくて……
 結局、私たちは飽きるほどキスを堪能したのだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

最後の女

蒲公英
恋愛
若すぎる妻を娶ったおっさんと、おっさんに嫁いだ若すぎる妻。夫婦らしくなるまでを、あれこれと。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...