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2.ちゃんと話しましょう⑷
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キースが任せてください、と言った翌日に私は初の外出をすることになった。
セレーノ様と一緒に辺境伯の妻として、辺境を守る騎士団に挨拶に行くらしい。
キースが待っていてくれと言うので、馬車に乗り込み、セレーノ様が来るのを待つ。
「ふぅ……落ち着いて、しっかりセレーノ様とお話しなくちゃ」
密かな決意をして、一人馬車の中で待つ。
すると、馬車の扉が開いた。
「なんで馬車でなんか……ウィンディアナっ!?」
「今日はよろしくお願いします、セレーノ様」
「な、なんで……ここに?」
セレーノ様は私が同行するとは聞いていなかったようで、馬車に乗ろうと足を掛けたところで止まっている。
「えっと、それは……」
どう説明するべきかと悩んでいると、セレーノ様の背中をキースが押した。
「はいはい、旦那様お入りください。今日は奥様も同行する予定だったの忘れちゃったんですかー?」
「そ、そんな予定じゃなかったはずだろっ!」
「そうでしたっけ? まぁ、でもいつまでも辺境騎士団の皆に会わせないわけにもいかないでしょう」
「だが、まだ早いんじゃないか?! それに、ウィンディアナも心の準備が必要だろうし――」
「私の準備なら出来ています! 早く行きたいです!!」
意を決してそう叫ぶ。セレーノ様が私を見つめるが、今度こそは目を離さない。
「ほら、ね? 奥様もこう仰っていることですし、ちゃちゃっと顔を見せに行ってきてください」
キースの一押しもあってか、セレーノ様は「仕方ない」と小さく呟き、馬車に乗り込んでくれた。
「では! 行ってらっしゃいませ!」
「おい。キース、お前は行かないのか?」
「はい。今日は、執務が溜まっておりますので、屋敷で待っております。いってらっしゃいませ~」
キースはとてもいい笑顔で、見送ってくれた。
馬車が動き出す。しかし、セレーノ様はこちらを向いてくれない。
でも、めげちゃ駄目だ。キースが作ってくれたこの機会を無駄にするわけにはいかないんだから!
私は前のめりになって、セレーノ様に話しかけた。
「あっ、あの……っ!」
その時、ガタンと大きく馬車が揺れて、バランスを崩した私は、セレーノ様に抱きとめられてしまった。
「おい、危ないだろ。大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい! ありがとう……ございます……」
顔を上げると、セレーノ様の顔が目の前にあった。
この前、あの唇とキスをして、あの唇で名前を呼んでもらった……
駄目なのに、またあの時のことを思い出してしまう。
「悪いな。……今、離す」
セレーノ様は私から目を逸らし、腕から解放しようとした。でも……
「い、嫌ですっ!」
「お、おいっ!」
私はセレーノ様の首にぎゅうっと抱きつき、彼の膝に乗った。
もう……馬鹿な私には上手くなんて話せない! 全部話しちゃえ!!
「セレーノ様がキスをくれたあの日からセレーノ様のことで頭がいっぱいなんです! 初めて会った時から好きだなって思ってたけど、なんかキスして、名前呼んでもらってから、もっともっと胸が苦しくなっちゃって、もうこんな気持ち初めてで、どうしたらいいか分かんなくて! もっとお話ししたいのに、会えば恥ずかしいし、名前を呼ばれると胸がきゅうってなって上手く話せなくて、顔を見れば、もう一度キスしてほしいとか駄目なこと考えちゃうんです! 本当にごめんなさい! こんな私で、ごめんなさいっ!」
とにかく一気に早口で自分の気持ちを伝えたものの、馬車の中に沈黙が漂う。
嫌われ、ちゃったかな……。また涙が溢れ出しそうになった、その時、セレーノ様が口を開いた。
「……駄目なのか?」
「へ?」
思わずセレーノ様の顔を見れば、真剣な瞳で私を見ていた。
「もう一度キスしちゃ駄目なのか?」
「だって、セレーノ様の迷惑になっちゃうから……」
「俺は迷惑だなんて言ってないだろ。それに……
俺もしたかった……」
セレーノ様の顔が徐々に近づき、キスが落とされる
やっぱりセレーノ様とのキスは他のことがどうでもよくなっちゃうくらい気持ち良くて……
離れていく彼の唇。それが寂しくて、私はセレーノ様の橙の瞳に懇願した。
「……もっと欲しいって顔してる」
セレーノ様はそう言って私の意を汲むと、またキスをくれた。
今度のキスは私の唇を全方向から確認するように何度も何度も角度を変えて。
「ん……っ、はぁっ」
「やらしい声だな」
終わりかと思いきやまたしてもキス。今度はより強くセレーノ様の唇を感じる。
なんだか振り落とされそうで、より強く彼の首に手を回せば、セレーノ様も強く抱きしめてくれた。
「ふっ、はぁっ……せれーの、さまぁ」
頭がぼーっとして何も考えられなくて、だらしなく開いた口に今度はセレーノ様の舌が私の口内に侵入してきた。
それでも嫌な感じはまったくしなくて、より彼のことを感じることができて嬉しくなる。
彼は、舌を私の舌に絡ませながら、まるで私を味わうかのように歯列を舐め、上顎を擦った。
あまりの気持ち良さにふわふわとして、身体がどんどん熱くなる。
この前のキスだけでもあんなに気持ち良かったのに、まだ先があるなんて……
舌が擦れ合うだけでピリピリと甘い疼きが全身を襲う。
その疼きをまるで増長するかのように、セレーノ様の右手は私の身体の上を優しく滑っていく。
それに私たちのキスの音が狭い馬車に生々しく響くから、どんどん変な気持ちになってしまう。
それでも、やめたくなくて、やめられなくて……
結局、私たちは飽きるほどキスを堪能したのだった。
セレーノ様と一緒に辺境伯の妻として、辺境を守る騎士団に挨拶に行くらしい。
キースが待っていてくれと言うので、馬車に乗り込み、セレーノ様が来るのを待つ。
「ふぅ……落ち着いて、しっかりセレーノ様とお話しなくちゃ」
密かな決意をして、一人馬車の中で待つ。
すると、馬車の扉が開いた。
「なんで馬車でなんか……ウィンディアナっ!?」
「今日はよろしくお願いします、セレーノ様」
「な、なんで……ここに?」
セレーノ様は私が同行するとは聞いていなかったようで、馬車に乗ろうと足を掛けたところで止まっている。
「えっと、それは……」
どう説明するべきかと悩んでいると、セレーノ様の背中をキースが押した。
「はいはい、旦那様お入りください。今日は奥様も同行する予定だったの忘れちゃったんですかー?」
「そ、そんな予定じゃなかったはずだろっ!」
「そうでしたっけ? まぁ、でもいつまでも辺境騎士団の皆に会わせないわけにもいかないでしょう」
「だが、まだ早いんじゃないか?! それに、ウィンディアナも心の準備が必要だろうし――」
「私の準備なら出来ています! 早く行きたいです!!」
意を決してそう叫ぶ。セレーノ様が私を見つめるが、今度こそは目を離さない。
「ほら、ね? 奥様もこう仰っていることですし、ちゃちゃっと顔を見せに行ってきてください」
キースの一押しもあってか、セレーノ様は「仕方ない」と小さく呟き、馬車に乗り込んでくれた。
「では! 行ってらっしゃいませ!」
「おい。キース、お前は行かないのか?」
「はい。今日は、執務が溜まっておりますので、屋敷で待っております。いってらっしゃいませ~」
キースはとてもいい笑顔で、見送ってくれた。
馬車が動き出す。しかし、セレーノ様はこちらを向いてくれない。
でも、めげちゃ駄目だ。キースが作ってくれたこの機会を無駄にするわけにはいかないんだから!
私は前のめりになって、セレーノ様に話しかけた。
「あっ、あの……っ!」
その時、ガタンと大きく馬車が揺れて、バランスを崩した私は、セレーノ様に抱きとめられてしまった。
「おい、危ないだろ。大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい! ありがとう……ございます……」
顔を上げると、セレーノ様の顔が目の前にあった。
この前、あの唇とキスをして、あの唇で名前を呼んでもらった……
駄目なのに、またあの時のことを思い出してしまう。
「悪いな。……今、離す」
セレーノ様は私から目を逸らし、腕から解放しようとした。でも……
「い、嫌ですっ!」
「お、おいっ!」
私はセレーノ様の首にぎゅうっと抱きつき、彼の膝に乗った。
もう……馬鹿な私には上手くなんて話せない! 全部話しちゃえ!!
「セレーノ様がキスをくれたあの日からセレーノ様のことで頭がいっぱいなんです! 初めて会った時から好きだなって思ってたけど、なんかキスして、名前呼んでもらってから、もっともっと胸が苦しくなっちゃって、もうこんな気持ち初めてで、どうしたらいいか分かんなくて! もっとお話ししたいのに、会えば恥ずかしいし、名前を呼ばれると胸がきゅうってなって上手く話せなくて、顔を見れば、もう一度キスしてほしいとか駄目なこと考えちゃうんです! 本当にごめんなさい! こんな私で、ごめんなさいっ!」
とにかく一気に早口で自分の気持ちを伝えたものの、馬車の中に沈黙が漂う。
嫌われ、ちゃったかな……。また涙が溢れ出しそうになった、その時、セレーノ様が口を開いた。
「……駄目なのか?」
「へ?」
思わずセレーノ様の顔を見れば、真剣な瞳で私を見ていた。
「もう一度キスしちゃ駄目なのか?」
「だって、セレーノ様の迷惑になっちゃうから……」
「俺は迷惑だなんて言ってないだろ。それに……
俺もしたかった……」
セレーノ様の顔が徐々に近づき、キスが落とされる
やっぱりセレーノ様とのキスは他のことがどうでもよくなっちゃうくらい気持ち良くて……
離れていく彼の唇。それが寂しくて、私はセレーノ様の橙の瞳に懇願した。
「……もっと欲しいって顔してる」
セレーノ様はそう言って私の意を汲むと、またキスをくれた。
今度のキスは私の唇を全方向から確認するように何度も何度も角度を変えて。
「ん……っ、はぁっ」
「やらしい声だな」
終わりかと思いきやまたしてもキス。今度はより強くセレーノ様の唇を感じる。
なんだか振り落とされそうで、より強く彼の首に手を回せば、セレーノ様も強く抱きしめてくれた。
「ふっ、はぁっ……せれーの、さまぁ」
頭がぼーっとして何も考えられなくて、だらしなく開いた口に今度はセレーノ様の舌が私の口内に侵入してきた。
それでも嫌な感じはまったくしなくて、より彼のことを感じることができて嬉しくなる。
彼は、舌を私の舌に絡ませながら、まるで私を味わうかのように歯列を舐め、上顎を擦った。
あまりの気持ち良さにふわふわとして、身体がどんどん熱くなる。
この前のキスだけでもあんなに気持ち良かったのに、まだ先があるなんて……
舌が擦れ合うだけでピリピリと甘い疼きが全身を襲う。
その疼きをまるで増長するかのように、セレーノ様の右手は私の身体の上を優しく滑っていく。
それに私たちのキスの音が狭い馬車に生々しく響くから、どんどん変な気持ちになってしまう。
それでも、やめたくなくて、やめられなくて……
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