2 / 18
1. その気にさせてみせましょう⑵
しおりを挟む
こうして私は一目惚れをした方と夫婦になったわけだが……私はベッドの上で首を傾げた。
「なんで来ないのかしら?」
無事に結婚式を終えて、迎えた初夜。
しかし、待っても待ってもセレーノ様は来ない。
時計の針も真上を指し、諦めたその時、ようやく扉が開いた。
「セレーノ様!」
遅れるような人にはそっけない対応でもしてしまおうかと考えていたのに、つい嬉しさのあまり、駆け寄ってしまう。
しかし、彼は、信じられないものを見るかのように固まってしまった。
「……どうか、されましたか?」
私が下から覗き込むようにそう尋ねると、彼はわざとらしく咳払いをして、目を逸らした。
「どうかしてるのは姫さんの方だろうが。窓から灯りが見えたから、まさかと思って来てみたが……
なんでこんな時間まで起きてる?」
「なんでって……今日は初夜ですよね?」
「……俺と初夜を過ごすつもりだったなんて言わないよな?」
なんでそんなことを言うのだろうか……私は唇を噛んだ。
政略結婚でも、夫婦は夫婦だし、初夜は初夜だ。
それを期待することさえ許されないのだろうか。
「そんなに……私が嫌ですか?」
『嫌じゃない』と彼が一言言ってくれるだけで良かったのに、私の耳に届いたのは、いかにも面倒くさそうな彼の溜息だった。
「はぁ……姫さんが嫌だとか、そういう話をしているんじゃなくだな……」
「話を逸らさないでください!
私のことが……嫌い、なんでしょ……っ」
「だから、そんなことじゃなく――」
眉間に皺を寄せて、機嫌の悪そうな声。
まるで怒っているみたいで……
「う……グスっ……。……ふぇ、グスっ」
運命の人だと思ったのに、素敵な人だと思ったのに!
抱きしめてもくれないどころか、怒られるだなんて。
私はあまりの悲しさに、気付けば泣いていた。
彼は困った顔をしながらも、私をソファまで誘導して隣に座り、背中にそっと手を置いた。
「明日、目が腫れちまうぞ?」
彼が優しく背中をさすってくれる。面倒そうにはするくせに、私のことを放置して帰ったりしない。
やっぱりセレーノ様は、優しい人なんだろう。
暫くして、ようやく涙が止まってくる。
「すみません……泣くなんて」
「ほんとだよ……ったく。まじでお子ちゃまだな、姫さんは」
呆れたような溜息が頭上から聞こえて、また泣きそうになるけど、私は唇を噛みしめた。
「だから……、ですか?」
「は?」
「私が子供っぽいから、初夜を過ごしてもくれないんでしょう?」
「また、訳のわからんことを……」
顔を上げて彼をキッと睨むと、また面倒そうな顔をしている。でも、ここで引き返すわけにはいかない。
「そうじゃないなら、初夜を過ごしたくない理由を教えてください!」
ぐいっと身体を近づけ、彼を問いただすと、彼は身体をのけ反らせて、私から距離を取ろうとする。
「わかった! わかったから近づくな!
お、俺は十五も下の子供に手を出す趣味はないんだ!」
両手をあげて、降参するようなポーズをする彼。
「やっぱり……!」
「というわけだから、諦めろ。な?
それに姫さんもいつか俺に感謝する日が来るって」
「そんな日は来ません! なんで……私たち夫婦なのに……
ねぇ? どうやったら……抱いてくれますか?」
「抱いてって……。全く姫さんは欲求不満なのか?
なら、愛人でもなんでも囲えばいい」
ありえないっ! 初夜でそんなことを言うなんて!!
私は頬を膨らませて抗議した。
「酷いっ! あまりにも酷すぎます!私は欲求不満なんかじゃないですし、それどころか経験もありません!
私の旦那様はセレーノ様なんだから、セレーノ様と結ばれたいと思うのは普通でしょう?!」
「結ばれたいって……何馬鹿なことを……」
いよいよセレーノ様は頭を抱えてしまった。
「とりあえず、私が子供だから抱けないというのはわかりました」
「なら、話は終わり――」
「終わらせません!
私が子供で抱けないと言うなら、私が大人になればいいんですよね?」
「そんなことしなくていい」
「嫌です。私にも努力する余地があってしかるべきです」
セレーノ様の瞳をじっと見つめる。ここで引き下がるつもりなんてない。
だって、せっかく一目惚れした人と夫婦になれたんだもの。
私だって……誰かに愛してもらいたい……
そして、その相手は他でもないセレーノ様がいい。
セレーノ様はそんなに私が嫌なのか、なんとか顔を背けようとするが、私は距離を詰め、見つめ続けた。
「や、やめてくれ。わかったから、それ以上こっちを見るな。
じゃあ、こうしよう。俺をその気にさせたら抱いてやる」
「その気……?」
その気……ってセレーノ様が私を抱きしめたいと思うようにってことよね?
とは言っても、帝国では女性側が閨教育を受けることはない。
もちろん私も何も知らず、結婚が決まってから付けられた家庭教師から聞いたことと言えば……
『夜のことは男性にお任せすればよろしいのです』の一言のみ。
だから、どのようにそういう流れに持っていくのかなどわかるはずもない。
「俺は、週に一度だけこの夫婦の寝室に来るようにする。
俺からは何も手出しはしないが、姫さんは好きなようにやればいい。出来るもんならな」
ニカッと笑う顔が憎たらしい……けど、かっこいい。
そして、きっとセレーノ様は私みたいな帝国の姫にそんなことできないと思ってこの提案をしているに違いない。
でも……
諦めてなんてやるもんか。
「本当に、私がセレーノ様をその気にさせたら抱いてくれるんですね?」
こうして私はセレーノ様を誘惑することに決めたのだった。
「なんで来ないのかしら?」
無事に結婚式を終えて、迎えた初夜。
しかし、待っても待ってもセレーノ様は来ない。
時計の針も真上を指し、諦めたその時、ようやく扉が開いた。
「セレーノ様!」
遅れるような人にはそっけない対応でもしてしまおうかと考えていたのに、つい嬉しさのあまり、駆け寄ってしまう。
しかし、彼は、信じられないものを見るかのように固まってしまった。
「……どうか、されましたか?」
私が下から覗き込むようにそう尋ねると、彼はわざとらしく咳払いをして、目を逸らした。
「どうかしてるのは姫さんの方だろうが。窓から灯りが見えたから、まさかと思って来てみたが……
なんでこんな時間まで起きてる?」
「なんでって……今日は初夜ですよね?」
「……俺と初夜を過ごすつもりだったなんて言わないよな?」
なんでそんなことを言うのだろうか……私は唇を噛んだ。
政略結婚でも、夫婦は夫婦だし、初夜は初夜だ。
それを期待することさえ許されないのだろうか。
「そんなに……私が嫌ですか?」
『嫌じゃない』と彼が一言言ってくれるだけで良かったのに、私の耳に届いたのは、いかにも面倒くさそうな彼の溜息だった。
「はぁ……姫さんが嫌だとか、そういう話をしているんじゃなくだな……」
「話を逸らさないでください!
私のことが……嫌い、なんでしょ……っ」
「だから、そんなことじゃなく――」
眉間に皺を寄せて、機嫌の悪そうな声。
まるで怒っているみたいで……
「う……グスっ……。……ふぇ、グスっ」
運命の人だと思ったのに、素敵な人だと思ったのに!
抱きしめてもくれないどころか、怒られるだなんて。
私はあまりの悲しさに、気付けば泣いていた。
彼は困った顔をしながらも、私をソファまで誘導して隣に座り、背中にそっと手を置いた。
「明日、目が腫れちまうぞ?」
彼が優しく背中をさすってくれる。面倒そうにはするくせに、私のことを放置して帰ったりしない。
やっぱりセレーノ様は、優しい人なんだろう。
暫くして、ようやく涙が止まってくる。
「すみません……泣くなんて」
「ほんとだよ……ったく。まじでお子ちゃまだな、姫さんは」
呆れたような溜息が頭上から聞こえて、また泣きそうになるけど、私は唇を噛みしめた。
「だから……、ですか?」
「は?」
「私が子供っぽいから、初夜を過ごしてもくれないんでしょう?」
「また、訳のわからんことを……」
顔を上げて彼をキッと睨むと、また面倒そうな顔をしている。でも、ここで引き返すわけにはいかない。
「そうじゃないなら、初夜を過ごしたくない理由を教えてください!」
ぐいっと身体を近づけ、彼を問いただすと、彼は身体をのけ反らせて、私から距離を取ろうとする。
「わかった! わかったから近づくな!
お、俺は十五も下の子供に手を出す趣味はないんだ!」
両手をあげて、降参するようなポーズをする彼。
「やっぱり……!」
「というわけだから、諦めろ。な?
それに姫さんもいつか俺に感謝する日が来るって」
「そんな日は来ません! なんで……私たち夫婦なのに……
ねぇ? どうやったら……抱いてくれますか?」
「抱いてって……。全く姫さんは欲求不満なのか?
なら、愛人でもなんでも囲えばいい」
ありえないっ! 初夜でそんなことを言うなんて!!
私は頬を膨らませて抗議した。
「酷いっ! あまりにも酷すぎます!私は欲求不満なんかじゃないですし、それどころか経験もありません!
私の旦那様はセレーノ様なんだから、セレーノ様と結ばれたいと思うのは普通でしょう?!」
「結ばれたいって……何馬鹿なことを……」
いよいよセレーノ様は頭を抱えてしまった。
「とりあえず、私が子供だから抱けないというのはわかりました」
「なら、話は終わり――」
「終わらせません!
私が子供で抱けないと言うなら、私が大人になればいいんですよね?」
「そんなことしなくていい」
「嫌です。私にも努力する余地があってしかるべきです」
セレーノ様の瞳をじっと見つめる。ここで引き下がるつもりなんてない。
だって、せっかく一目惚れした人と夫婦になれたんだもの。
私だって……誰かに愛してもらいたい……
そして、その相手は他でもないセレーノ様がいい。
セレーノ様はそんなに私が嫌なのか、なんとか顔を背けようとするが、私は距離を詰め、見つめ続けた。
「や、やめてくれ。わかったから、それ以上こっちを見るな。
じゃあ、こうしよう。俺をその気にさせたら抱いてやる」
「その気……?」
その気……ってセレーノ様が私を抱きしめたいと思うようにってことよね?
とは言っても、帝国では女性側が閨教育を受けることはない。
もちろん私も何も知らず、結婚が決まってから付けられた家庭教師から聞いたことと言えば……
『夜のことは男性にお任せすればよろしいのです』の一言のみ。
だから、どのようにそういう流れに持っていくのかなどわかるはずもない。
「俺は、週に一度だけこの夫婦の寝室に来るようにする。
俺からは何も手出しはしないが、姫さんは好きなようにやればいい。出来るもんならな」
ニカッと笑う顔が憎たらしい……けど、かっこいい。
そして、きっとセレーノ様は私みたいな帝国の姫にそんなことできないと思ってこの提案をしているに違いない。
でも……
諦めてなんてやるもんか。
「本当に、私がセレーノ様をその気にさせたら抱いてくれるんですね?」
こうして私はセレーノ様を誘惑することに決めたのだった。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話
象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。
ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
【R18】愛するつもりはないと言われましても
レイラ
恋愛
「悪いが君を愛するつもりはない」結婚式の直後、馬車の中でそう告げられてしまった妻のミラベル。そんなことを言われましても、わたくしはしゅきぴのために頑張りますわ!年上の旦那様を籠絡すべく策を巡らせるが、夫のグレンには誰にも言えない秘密があって─?
※この作品は、個人企画『女の子だって溺愛企画』参加作品です。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜
まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください!
題名の☆マークがえっちシーンありです。
王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。
しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。
肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。
彼はやっと理解した。
我慢した先に何もないことを。
ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。
小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる