20 / 26
20.情報
しおりを挟む
「まずは、おかえり。エアロ。」
シーラ様がエアロに微笑み掛けると、エアロもそれに笑顔を返した。
「シルヴィにも母上にもご心配お掛けしました。」
「本当よ!三日もあれば戻ってくると思ったのに、全然戻らないんだもの!……何かあったんじゃないかって本当に心配したんだから。」
話していてエアロがいない時期のことを思い出し、思わず視界が滲む。隣に座っているエアロは優しい笑顔で私の頭を撫でてくれた。
「すみませんでした、シルヴィ。
でも、もう二度とシルヴィが危険な目に会わないようにこれで終わらせたかったんです。そう出来る力が自分にあるかもしれないと思ったので。」
シーラ様が首を傾げる。
「力?情報屋の話?」
今度は私が首を傾げる。
「情報屋?」
エアロが笑う。
「あ、まだシルヴィには話してなかったんですけど…
私、周辺国で情報屋をやっているんです。」
「え?!何それ?
そんな活動してる素振りなんてちっとも…。」
「私はほとんど依頼人との接触と取りまとめしてるだけですからね。情報は友達が。」
「友達?」
シーラ様までクスクス笑う。
「エアロはね、鴉に変身できるだけじゃなくて、鴉と話せるのよ。正しくは鴉に変身できるようになってから、そのお友達とやらに鴉とのコミュニケーションを教えてもらったらしいけど。」
「…へぇ。」
驚きすぎてコメントが見つからない。
「なので、情報を集めるのは得意なんです。
そして、私が最近集めていた情報は三つ。
まず一つ目は、ストラ国王家を黙らせるような情報。
二つ目は、胡椒が豊富に採れ、かつ輸出に応じてくれそうな国の情報。
三つ目は、攫われた妹の行方。」
私とシーラ様は黙ってエアロの話を聞く。
「隣国の姫に会いに行く前、私は隣国に関する醜聞を掴んでいました。
姫が父親である国王と関係を持ち、過去に子供を妊娠したこと。そして、国王がそれを薬を使い、堕胎させたことで、姫は子供が産めないこと。にも関わらず、二人はそれ以降も身体を重ねていること。
国王は亡くなった王妃を深く愛していたらしいんです。その代わりだったんでしょう…王妃に似た姫を大層可愛がっていたそうで。それが姫が大きくなるにつれて、情欲まで抱くようになってしまったのではないかと思います。」
先程も聞いたが、本当に聞いていて身体がゾッとした。
「しかし、約一年前、二人の関係が変わる出来事がありました。国王が他の娘を姫に内緒で自室で囲うようになったのです。その娘は、隣国の町娘でした。
私は情報屋として、数ヶ月前にその娘の捜索を依頼されていました。依頼者にその情報を伝えると、なんとか助け出してくれないかと泣きながら頼まれました。国に言っても行方不明だと処理され、全く動いてくれないのだと。私はあくまでも情報屋なので、そういうことはしていないのですが…実はその依頼者に以前、鴉姿の時に助けられたことがありまして。今回に限り、引き受けることにしました。
しかし、よく深く調べるにつれ、国王がその娘に深く執着し、監視体制を強化したことが分かりました。特に王宮に入るには、厳しい審査がありました。
だから、今回姫に夜の王宮に招かれたのは、彼女を救い出す良い機会だと思ったのです。」
「言ってくれたら、何か手伝えたかもしれないのに…。」
私が少し俯きがちに言うと、エアロは笑った。
「そう言うと思ったから黙っていたんですよ。騎士団副団長が隣国の王宮に忍び込む手伝いなんてしたら、大問題でしょう?」
確かにそれは大問題だけど…。
「それに中に入れさえすれば、一人助け出すくらいどうってことないですよ。
まぁ、そういう訳もあり、姫からの呼び出しに応じることにしたのです。
それから、二人も知ってる通り、私は姫の呼び出しに応じ、隣国の王宮に行きました。特に問題なく、姫の部屋に案内されました。
案内された私に姫は果実酒を出しました。案の定、その果実酒には大量の媚薬が仕込まれていました。正直、あの量だとおかしくなってしまう人もいると思います。まぁ、私は大丈夫でしたが。
姫は私が持って行ったお酒を飲みました。ここらへんでは手に入らない貴重な物です。警戒するかと思ったのですが、目の前で毒見だと言って私が飲むと、安心して飲みましたね。そのお酒には事前に睡眠薬を仕込んでおいたので、すぐに姫は眠りました。」
本当に姫とは何もなかったんだ…。分かってはいたけど、本人の口からしっかり聞けて、ほっとした。私は安心して息を吐いた。
エアロはそれを横目で見て、笑う。
「こうして指一本触れられることなく、私は姫の部屋を出ました。そして、王の部屋に向かいました。」
私は尋ねた。
「流石に王宮内にも監視の衛兵がいるでしょ?」
「あぁ、それは鴉の姿で移動すれば、大抵は見つかりませんでしたよ、廊下も暗かったので。どうしてもバレそうな時は手刀で気絶してもらいました。」
簡単なことの様に言うけど、これが平然とできるエアロは本当に強いのだと、改めて感心する。
「それで王の部屋へ着いて、騒がれると厄介なので扉の下から睡眠薬の香を入れました。暫くして、扉を開けると、王と町娘が寝ていました。町娘は足を紐で繋がれ、監禁されていたようでした。姫のような服を着せられ、傷一つありませんでしたが…何をされていたのかは分かりません…。私は紐を切り、眠ったままの町娘を抱いて、窓から飛んで、逃げました。」
…拉致して、監禁するなんて最低だ。先ほどあったストラ国王の顔を思い出し、腹の底から怒りが込み上げてくる。
シーラ様が口を開く。
「…その、彼女は大丈夫なの?」
エアロは首を振る。
「分かりません。その後、私が依頼者にその子を引き渡す時もまだ寝ていましたから。もしかしたら、心に大きな傷を負っているかもしれないし、身体も見えないだけで酷く乱暴されているかもしれません…。」
「…そう。」
部屋には沈黙が流れる。
エアロが口を開く。
「その子の様子は、また今度見に行くつもりです。とりあえずは家の奥に隠し、何を言われても帰って来てないと言うように依頼者である彼女の父には言っておきました。」
シーラ様は何かを考えているようだった。
エアロは言う。
「話を続けますね。
彼女を引き渡した私は、一旦シルヴィに無事だと顔を見せに行こうかと思いました。しかし、その時、鴉たちが新たな情報を持ってきました。
王の薬の効きが弱かったらしく、もう起きて、町娘と私を探していると。そして、ある暗殺者にシルヴィを見張るよう指示を出したと。」
暗殺者?そんな殺気を感じる人は、近くにいなかったはずだけど…。私は考え込んだ。そんな私を見て、エアロは微笑んだ。
「その暗殺者は私も何回かやり取りしたことがあるのですが、すごい腕利きでしてね。言われたことを完璧に遂行するんです。ただ暗殺者なのに、他の同業者に比べて、暗殺を依頼すると恐ろしくお金が掛かるので、殆ど暗殺の依頼はないそうです。第一、今のストラ国にそんな余裕はないですし。
だから、今回見張るようにだけ指示が出たということは、シルヴィに危害を与えることはないだろうと思いました。ただ私が近づけば、私もシルヴィも面倒なことになると思い、一旦離れることにしたのです。」
私は尋ねる。
「それなら、ここに戻ったら良かったんじゃないの?」
エアロは頷く。
「そうですね。でも、その時、別の鴉がまた一つ情報を持って来ました。
それがアクアに関する情報でした。
コティーズ国王家に隠された姫がいて、その姫が紫の瞳で黒髪の絶世の美女だと。
鴉の話では名前まで分かりませんでした。しかし、母上からアクアの話を聞いて、情報を集め始めて、初めて掴んだ有力な情報だったので、すぐに確かめに行きたいと思いました。
同時にコティーズという国名は、事前に調べていた胡椒が豊富に採れる国の一つでした。ただコティーズ国に関しては情報が少なくて…。もしアクアが王家に何らかのパイプを持つ人物ならば、交渉も可能かもしれないと思い、すぐに飛ぶことにしたのです。
前から母上にはアクアを探しているから、居場所が遠くであれば、長く戻らないことが今後あるかもしれないと伝えていましたしね。」
シーラ様は頷く。私は少し寂しくなった。
「私にも教えて欲しかった…。」
エアロは困ったように笑った。
「すみません。遠くに飛ぶ前に言えばいいかと思っていただけなんです。それが言えない状況になってしまっただけで。」
「うん。分かってる。
ちょっと寂しくなっちゃっただけよ。
大丈夫、話を続けて。」
エアロは頷くと、再び話し始めた。
「コティーズ国に着き、鴉の姿のまま王宮近くを観察しました。すると、王宮の奥に石造りの小さな家があることに気付きました。
中には、鴉の言った通り、紫の瞳に、黒髪の女性がいました。…彼女は瞳こそ紫ですが、母上によく似ていました。私は一目見て、彼女がアクアだと気付きました。」
シーラ様の瞳にぶわっと涙が溜まる。
「…生きて、たのね…」
シーラ様はハンカチで目を押さえつつ、言う。
「ごめんなさい。続きを聞かせて。」
エアロは、笑顔でシーラ様には頷く。
「はい。
アクアが見つかったはいいものの、私はどうコミュニケーションを取ろうかと悩みました。急に人間になっても、不審者や悪魔と騒がれるのではないかと思いましたし。どうしようか考えたまま、窓の下に鴉姿のまま立っていると、窓から話しかけられました。『鴉さん』と。
私は呼ばれるがまま窓枠に飛び乗りました。すると、アクアは『赤い目なんて珍しい。私のお兄様だったらいいのに。』と言いました。私は驚き、固まりました。まさか兄がいる事実を知っているとは思いませんでしたから。
固まった私を見て、アクアは首を傾げ、『まるで人間みたい。本当の姿があるなら見せて』と言いました。私は鴉姿のまま部屋に入り、人間の姿を見せました。
人間に変身した私を見て、アクアは驚いた様子でしたが、急に泣き始めました。怖かったのかと問うと、首を振って『家族に会えて嬉しい。ずっと会いたかった』と。
アクアが泣き止んだ後、私たちはお互いに自己紹介しました。」
シーラ様の涙は止まり、エアロの話に聞き入っていた。エアロはシーラ様をしっかり見つめて、言った。
「母上…。私達の父親は、コティーズ国の前国王です。」
シーラ様は唖然とする。
「……こく、おう?」
エアロは、ゆっくりと頷いた。
「…アクアは言いました。『この石造りの家からなかなか出してもらうことは出来なかったけど、国王であった父は多忙ながらもしっかり愛情を注いでくれた。お母様のこともずっと愛していた。』と。」
「う、うそ…よ。
だって、この城から…アクアを攫って…。」
シーラ様は混乱しているようだった。
「…母上、誤解なんです。」
「そんなはずないっ!!じゃあ、ロイは今どこで何をしてるの?!なんで、私に会いに来ないのよっ?!」
エアロは悲しそうに、シーラ様を見つめた。
「母上…父上は三年前に亡くなっています…。」
「……亡くなった?死んだの…ロイが?」
シーラ様は呆然とする。
「えぇ。病死だそうです。
そして、亡くなる間際にアクアにこの手紙を託したそうです。この手紙に母上から離れることになった事情も全て書いてあります。」
エアロはそう言って、机の上に水色の封筒を置いた。
シーラ様がエアロに微笑み掛けると、エアロもそれに笑顔を返した。
「シルヴィにも母上にもご心配お掛けしました。」
「本当よ!三日もあれば戻ってくると思ったのに、全然戻らないんだもの!……何かあったんじゃないかって本当に心配したんだから。」
話していてエアロがいない時期のことを思い出し、思わず視界が滲む。隣に座っているエアロは優しい笑顔で私の頭を撫でてくれた。
「すみませんでした、シルヴィ。
でも、もう二度とシルヴィが危険な目に会わないようにこれで終わらせたかったんです。そう出来る力が自分にあるかもしれないと思ったので。」
シーラ様が首を傾げる。
「力?情報屋の話?」
今度は私が首を傾げる。
「情報屋?」
エアロが笑う。
「あ、まだシルヴィには話してなかったんですけど…
私、周辺国で情報屋をやっているんです。」
「え?!何それ?
そんな活動してる素振りなんてちっとも…。」
「私はほとんど依頼人との接触と取りまとめしてるだけですからね。情報は友達が。」
「友達?」
シーラ様までクスクス笑う。
「エアロはね、鴉に変身できるだけじゃなくて、鴉と話せるのよ。正しくは鴉に変身できるようになってから、そのお友達とやらに鴉とのコミュニケーションを教えてもらったらしいけど。」
「…へぇ。」
驚きすぎてコメントが見つからない。
「なので、情報を集めるのは得意なんです。
そして、私が最近集めていた情報は三つ。
まず一つ目は、ストラ国王家を黙らせるような情報。
二つ目は、胡椒が豊富に採れ、かつ輸出に応じてくれそうな国の情報。
三つ目は、攫われた妹の行方。」
私とシーラ様は黙ってエアロの話を聞く。
「隣国の姫に会いに行く前、私は隣国に関する醜聞を掴んでいました。
姫が父親である国王と関係を持ち、過去に子供を妊娠したこと。そして、国王がそれを薬を使い、堕胎させたことで、姫は子供が産めないこと。にも関わらず、二人はそれ以降も身体を重ねていること。
国王は亡くなった王妃を深く愛していたらしいんです。その代わりだったんでしょう…王妃に似た姫を大層可愛がっていたそうで。それが姫が大きくなるにつれて、情欲まで抱くようになってしまったのではないかと思います。」
先程も聞いたが、本当に聞いていて身体がゾッとした。
「しかし、約一年前、二人の関係が変わる出来事がありました。国王が他の娘を姫に内緒で自室で囲うようになったのです。その娘は、隣国の町娘でした。
私は情報屋として、数ヶ月前にその娘の捜索を依頼されていました。依頼者にその情報を伝えると、なんとか助け出してくれないかと泣きながら頼まれました。国に言っても行方不明だと処理され、全く動いてくれないのだと。私はあくまでも情報屋なので、そういうことはしていないのですが…実はその依頼者に以前、鴉姿の時に助けられたことがありまして。今回に限り、引き受けることにしました。
しかし、よく深く調べるにつれ、国王がその娘に深く執着し、監視体制を強化したことが分かりました。特に王宮に入るには、厳しい審査がありました。
だから、今回姫に夜の王宮に招かれたのは、彼女を救い出す良い機会だと思ったのです。」
「言ってくれたら、何か手伝えたかもしれないのに…。」
私が少し俯きがちに言うと、エアロは笑った。
「そう言うと思ったから黙っていたんですよ。騎士団副団長が隣国の王宮に忍び込む手伝いなんてしたら、大問題でしょう?」
確かにそれは大問題だけど…。
「それに中に入れさえすれば、一人助け出すくらいどうってことないですよ。
まぁ、そういう訳もあり、姫からの呼び出しに応じることにしたのです。
それから、二人も知ってる通り、私は姫の呼び出しに応じ、隣国の王宮に行きました。特に問題なく、姫の部屋に案内されました。
案内された私に姫は果実酒を出しました。案の定、その果実酒には大量の媚薬が仕込まれていました。正直、あの量だとおかしくなってしまう人もいると思います。まぁ、私は大丈夫でしたが。
姫は私が持って行ったお酒を飲みました。ここらへんでは手に入らない貴重な物です。警戒するかと思ったのですが、目の前で毒見だと言って私が飲むと、安心して飲みましたね。そのお酒には事前に睡眠薬を仕込んでおいたので、すぐに姫は眠りました。」
本当に姫とは何もなかったんだ…。分かってはいたけど、本人の口からしっかり聞けて、ほっとした。私は安心して息を吐いた。
エアロはそれを横目で見て、笑う。
「こうして指一本触れられることなく、私は姫の部屋を出ました。そして、王の部屋に向かいました。」
私は尋ねた。
「流石に王宮内にも監視の衛兵がいるでしょ?」
「あぁ、それは鴉の姿で移動すれば、大抵は見つかりませんでしたよ、廊下も暗かったので。どうしてもバレそうな時は手刀で気絶してもらいました。」
簡単なことの様に言うけど、これが平然とできるエアロは本当に強いのだと、改めて感心する。
「それで王の部屋へ着いて、騒がれると厄介なので扉の下から睡眠薬の香を入れました。暫くして、扉を開けると、王と町娘が寝ていました。町娘は足を紐で繋がれ、監禁されていたようでした。姫のような服を着せられ、傷一つありませんでしたが…何をされていたのかは分かりません…。私は紐を切り、眠ったままの町娘を抱いて、窓から飛んで、逃げました。」
…拉致して、監禁するなんて最低だ。先ほどあったストラ国王の顔を思い出し、腹の底から怒りが込み上げてくる。
シーラ様が口を開く。
「…その、彼女は大丈夫なの?」
エアロは首を振る。
「分かりません。その後、私が依頼者にその子を引き渡す時もまだ寝ていましたから。もしかしたら、心に大きな傷を負っているかもしれないし、身体も見えないだけで酷く乱暴されているかもしれません…。」
「…そう。」
部屋には沈黙が流れる。
エアロが口を開く。
「その子の様子は、また今度見に行くつもりです。とりあえずは家の奥に隠し、何を言われても帰って来てないと言うように依頼者である彼女の父には言っておきました。」
シーラ様は何かを考えているようだった。
エアロは言う。
「話を続けますね。
彼女を引き渡した私は、一旦シルヴィに無事だと顔を見せに行こうかと思いました。しかし、その時、鴉たちが新たな情報を持ってきました。
王の薬の効きが弱かったらしく、もう起きて、町娘と私を探していると。そして、ある暗殺者にシルヴィを見張るよう指示を出したと。」
暗殺者?そんな殺気を感じる人は、近くにいなかったはずだけど…。私は考え込んだ。そんな私を見て、エアロは微笑んだ。
「その暗殺者は私も何回かやり取りしたことがあるのですが、すごい腕利きでしてね。言われたことを完璧に遂行するんです。ただ暗殺者なのに、他の同業者に比べて、暗殺を依頼すると恐ろしくお金が掛かるので、殆ど暗殺の依頼はないそうです。第一、今のストラ国にそんな余裕はないですし。
だから、今回見張るようにだけ指示が出たということは、シルヴィに危害を与えることはないだろうと思いました。ただ私が近づけば、私もシルヴィも面倒なことになると思い、一旦離れることにしたのです。」
私は尋ねる。
「それなら、ここに戻ったら良かったんじゃないの?」
エアロは頷く。
「そうですね。でも、その時、別の鴉がまた一つ情報を持って来ました。
それがアクアに関する情報でした。
コティーズ国王家に隠された姫がいて、その姫が紫の瞳で黒髪の絶世の美女だと。
鴉の話では名前まで分かりませんでした。しかし、母上からアクアの話を聞いて、情報を集め始めて、初めて掴んだ有力な情報だったので、すぐに確かめに行きたいと思いました。
同時にコティーズという国名は、事前に調べていた胡椒が豊富に採れる国の一つでした。ただコティーズ国に関しては情報が少なくて…。もしアクアが王家に何らかのパイプを持つ人物ならば、交渉も可能かもしれないと思い、すぐに飛ぶことにしたのです。
前から母上にはアクアを探しているから、居場所が遠くであれば、長く戻らないことが今後あるかもしれないと伝えていましたしね。」
シーラ様は頷く。私は少し寂しくなった。
「私にも教えて欲しかった…。」
エアロは困ったように笑った。
「すみません。遠くに飛ぶ前に言えばいいかと思っていただけなんです。それが言えない状況になってしまっただけで。」
「うん。分かってる。
ちょっと寂しくなっちゃっただけよ。
大丈夫、話を続けて。」
エアロは頷くと、再び話し始めた。
「コティーズ国に着き、鴉の姿のまま王宮近くを観察しました。すると、王宮の奥に石造りの小さな家があることに気付きました。
中には、鴉の言った通り、紫の瞳に、黒髪の女性がいました。…彼女は瞳こそ紫ですが、母上によく似ていました。私は一目見て、彼女がアクアだと気付きました。」
シーラ様の瞳にぶわっと涙が溜まる。
「…生きて、たのね…」
シーラ様はハンカチで目を押さえつつ、言う。
「ごめんなさい。続きを聞かせて。」
エアロは、笑顔でシーラ様には頷く。
「はい。
アクアが見つかったはいいものの、私はどうコミュニケーションを取ろうかと悩みました。急に人間になっても、不審者や悪魔と騒がれるのではないかと思いましたし。どうしようか考えたまま、窓の下に鴉姿のまま立っていると、窓から話しかけられました。『鴉さん』と。
私は呼ばれるがまま窓枠に飛び乗りました。すると、アクアは『赤い目なんて珍しい。私のお兄様だったらいいのに。』と言いました。私は驚き、固まりました。まさか兄がいる事実を知っているとは思いませんでしたから。
固まった私を見て、アクアは首を傾げ、『まるで人間みたい。本当の姿があるなら見せて』と言いました。私は鴉姿のまま部屋に入り、人間の姿を見せました。
人間に変身した私を見て、アクアは驚いた様子でしたが、急に泣き始めました。怖かったのかと問うと、首を振って『家族に会えて嬉しい。ずっと会いたかった』と。
アクアが泣き止んだ後、私たちはお互いに自己紹介しました。」
シーラ様の涙は止まり、エアロの話に聞き入っていた。エアロはシーラ様をしっかり見つめて、言った。
「母上…。私達の父親は、コティーズ国の前国王です。」
シーラ様は唖然とする。
「……こく、おう?」
エアロは、ゆっくりと頷いた。
「…アクアは言いました。『この石造りの家からなかなか出してもらうことは出来なかったけど、国王であった父は多忙ながらもしっかり愛情を注いでくれた。お母様のこともずっと愛していた。』と。」
「う、うそ…よ。
だって、この城から…アクアを攫って…。」
シーラ様は混乱しているようだった。
「…母上、誤解なんです。」
「そんなはずないっ!!じゃあ、ロイは今どこで何をしてるの?!なんで、私に会いに来ないのよっ?!」
エアロは悲しそうに、シーラ様を見つめた。
「母上…父上は三年前に亡くなっています…。」
「……亡くなった?死んだの…ロイが?」
シーラ様は呆然とする。
「えぇ。病死だそうです。
そして、亡くなる間際にアクアにこの手紙を託したそうです。この手紙に母上から離れることになった事情も全て書いてあります。」
エアロはそう言って、机の上に水色の封筒を置いた。
0
お気に入りに追加
370
あなたにおすすめの小説
年下騎士は生意気で
乙女田スミレ
恋愛
──ずっと、こうしたかった──
女騎士のアイリーネが半年の静養を経て隊に復帰すると、負けん気は人一倍だが子供っぽさの残る後輩だったフィンは精悍な若者へと変貌し、同等の立場である小隊長に昇進していた。
フィンはかつての上官であるアイリーネを「おまえ」呼ばわりし、二人は事あるごとにぶつかり合う。そんなある日、小隊長たちに密命が下され、アイリーネとフィンは一緒に旅することになり……。
☆毎週火曜日か金曜日、もしくはその両日に更新予定です。(※PC交換作業のため、四月第二週はお休みします。第三週中には再開予定ですので、よろしくお願いいたします。(2020年4月6日))
☆表紙は庭嶋アオイさん(お城めぐり大好き)ご提供です。
☆エブリスタにも掲載を始めました。(2021年9月21日)
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる