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4.ダンス
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あれから何回かお茶会を繰り返し、すっかりエアロと仲良くなった。最近もまた空を飛んでもらったり、手作りのお菓子をもらったりするくらい仲良しだ。いつもしてもらってばかりで何も返せてないけれど…。
そして、今日はジルベルトとマリエルの結婚式。エアロが一人じゃ気まずいと言うので、一緒に会場まで向かうことになっている。
私も珍しくドレスアップした。
自分の瞳の色に寄せた菫色のドレスだ。久しぶりに化粧もして、髪もアップにする。
鏡に映る自分を見て、ため息を吐く。
…今日は一段とめんどくさそうだな。
しかも、ドレスなんて普段着ないから、落ち着かない。
これからエアロと待ち合わせだ。
…他の人はどうでもいいけど、エアロにだけは可愛いと思ってもらえたらいいな…なんて思いながら、いつもの来賓室に向かう。
来賓室への道中も周りが煩い。
ぼーっと見惚れているだけの者もいれば、「今日のダンスは私と…」と早々に申し込んでくる者もいる。この国で適齢期とされる二十歳を五年も前に過ぎてから、こういうのも随分減ったと思ったのにな。
適当にあしらいながら、エアロと待ち合わせをしている来賓室に向かう。
来賓室に着くと、もうエアロは来ていた。
私はその姿を一目見て、言葉を失った。
エアロはいつもの執事服ではなく、タキシードを着ていた。いつも下ろしただけの銀髪は後ろに纏められていた。
いつもの姿は見慣れたけれど、これはまた…美しい。
エアロは固まる私に微笑みかけた。
「シルヴィ。今日は一段と美しいですね。」
私ははっと我に返る。
「あ、ありがとう。
エアロも…す、すごくかっこいいわ…!」
「ふふっ。ありがとうございます。」
エアロは私に歩み寄り、すっと頬を撫でた。
ど、どうしたの…っ?!
「こんなに美しいと色々と心配になりますね…。」
「し、心配…?!なんの?!」
挙動のおかしな私を見て、エアロは笑った。
「こんなに美しいと変な虫が寄ってくるでしょう?」
あ、男が群がることを心配してくれているのか。
「大丈夫!エアロの前では戦ったことないけど、私かなり強いのよ?この国だと私に絶対勝てるのはジルベルトくらいじゃないかな?」
内心パデル爺もいるけどね、と思いながら笑顔で答える。
「そうですか。なら、安心です。」
結婚式を前に私はずっと気になっていたことを聞いてみた。
「…エアロは、マリエルのことが好き…なのよね?
今日の式に出るのは辛くない?」
エアロはフッと笑う。
「今日はとても嬉しい日です。
なんたって妹の晴れ舞台ですから。」
私は首を傾げる。
「いもうと?」
「えぇ。マリエルから聞いてませんか?
シーラがマリエルを娘と言ったので、私はマリエルの兄になろうと決めたのです。今はそのことに迷いも感じていません。…とても愛しい妹ですが、女性として魅力を感じているのは、別の方です。」
「…べつのかた。」
エアロは顎に手を当て、考えるような仕草をする。
「えぇ…結構見込みがあるかな、と思っているんですがね。その方はとても大事にしている仕事がありまして…今のところ恋のライバルは仕事ですね。」
エアロはそう言って私に微笑んだ。
……待って、待って!
そ、それって私…だよね?!
私が知る限り、エアロと仲良くしてるマリエル以外の女性って私だけだし…。でも、プライベートは知らないし、他にも仲良くしてる人がいるのかもしれない…。
私がグルグル考えて固まっていると、エアロはフフッと笑った。
「そろそろ時間ですね。会場へ案内していただけますか?シルヴィ。」
「は、はい…」
会場までさっきの言葉を考えては唸っている私を横目にエアロはとても満足そうな顔をしていた。
◆ ◇ ◆
エアロは私の想像以上にすごかった。
男女問わずエアロの姿を見た者は皆、唖然としていた。確かにエアロは男性なのに美しい。老若男女問わず魅了してしまうのは仕方ない。
会場に私とエアロが入ると、その美貌にみんながざわついた。私の姿に注目する者もいたが、圧倒的にエアロへの注目度の方が高かった。
会場からエアロを噂する声が聞こえる。
「あの麗しい方は誰?」
「見たことない…あんな綺麗な顔…」
「あんな美しい方、今まで見てたら忘れないわ!」
「シルヴィ副団長とはどういうご関係なのかしら?」
「美しすぎて怖いくらい…同じ人間とは思えないわ。」
…ちょっと落ち着いてほしい。
私がエアロを見やると、困ったように笑った。
そして、私の耳元に唇を寄せると、囁いた。
「今日は、ずっとシルヴィの隣にいいですか?」
私は火照った顔で、コクコクと首を縦に振った。
しかし、式が始まると、皆の注目はマリエルとジルベルトに移った。
ジルベルトの愛情を一身に受けたマリエルは本当に美しかった。二人の姿は勿論、シーラ様が作ったというドレスも本当に綺麗だったけど、何より二人がお互いを愛し合っているのが伝わってきて、その光景が美しかった。
ジルベルトの長い片想いを知っている私は、つい感動して、泣いてしまった。
その姿を見たエアロは、私を優しく見つめて、手を握ってくれた。
式の後には舞踏会があった。
私はダンスは出来ないので、壁の花になるだけだ。エアロも長居するつもりは無いって言ってたし、マリエルとジルベルトのファーストダンスを見届けたら、帰ろうかと思っている。
ついでに私は元平民だ。今は一応男爵家の令嬢。
というのも、私の父は研究者で、研究で国に寄与したとして、数年前に一代男爵の爵位を頂いた。父は研究にしか興味がないような人で、私と父は隣に住む叔母さんに面倒を見てもらって生きてきたと言っても過言ではない。母は幼い頃に亡くなっていて、私はほとんど覚えていない。
叔母さんは服屋をやっているが、最近は夜着に力を入れている。貴族からの注文も頂けるようになってきたとこの間、はしゃいでいた。私も騎士団が休みの時にはよく手伝いをしている。私が売り子として出ると売上が良いのだそうだ。ついでにマリエルにもいくつかプレゼントしたことがある。
そんなわけで殆ど平民の私はダンスなんて習ったことも踊ったこともない。今もよくあんな風にクルクル踊れるなぁ…と見ているだけだ。エアロは私の隣にずっと居てくれている。お陰で今日ダンスに誘われる回数はいつもより少ない。近付く男性に鋭い視線を向けて、追い払ってくれているけど、緊張しすぎて気付かない男性もいるのだ。
エアロも女性からダンスに誘ってほしいとすごい秋波を送られているが、完全に無視して、にこやかに私に話しかける。お陰で私はエアロ狙いの女性陣から睨まれることになった。
出来るだけ視線を避けるように人の少ない所へエアロと移動する。私はエアロに話しかける。
「エアロもそれだけの美貌だと大変ね。
…ねぇ、他の御令嬢と踊らなくて良かったの?
若くて綺麗な子も沢山いるわよ?」
すると、エアロの視線が少し鋭くなった。
「シルヴィは私に他の御令嬢と踊ってほしいんですか?」
予想もしていなかった返答に焦る。
なんで、そこで私が出てくるのよ。
「え…。わ、わかんない。」
「そうですか…。
じゃあ、確かめてみましょう。」
そう言ってエアロはツカツカと御令嬢に近づく。
ピンクのドレスを着た御令嬢は私よりずっと若く見える。いかにも庇護欲を掻き立てる可愛らしいタイプだ。
御令嬢がエアロに気付き、キラキラとした期待の眼差しを向ける。
…いやっ!!
「エアロ!!」
私が呼ぶと、エアロはクルッとこちらに振り返った。
「どうしました?シルヴィ?」
必死に声を振り絞る。
「嫌…」
エアロが私の前まで戻ってくる。
「何ですか?聞こえませんでした。」
私は震える声でエアロに伝えた。
エアロの指をキュッと握る。
「…嫌、なの。他の子と踊らないで…。
私の…そばに居て。」
エアロは優しく私に手を重ねた。
「えぇ。私もそうしたいです。
…意地悪してごめんなさい。でも、他の御令嬢を勧められて、少し腹が立ちました。シルヴィにとって、私はそんな存在なのかと。」
「ごめんなさい…。」
私は俯く。エアロは私のは頭を撫でると言った。
「いいんです。ねぇ、シルヴィ?
少し庭に出ませんか?」
「うん…。」
◆ ◇ ◆
庭にはあまり人がいなかった。まだ、ジルベルト達が踊っているのだ、見事なダンスに皆、夢中なのだろう。
庭のベンチに座って、流れてくる曲を聴く。
私達は特に話さず、その音を聴く。
「ねぇ、シルヴィ。踊りませんか?」
私は首を横に振る。
「私、踊れないって言ったでしょ?エアロとなら踊ってみたいけど…無理なの。ごめんなさい。」
「ダンスは何もステップを踏まなくていいんです。音に合わせて、身体を揺するだけでも立派なダンスですよ。」
私は首を傾げる。
「身体を揺するだけ…?」
「えぇ、私がリードしますから。やってみましょう。
おいで、シルヴィ。」
微笑むエアロから手から伸ばされる。
私がゆっくりとその手を取ると、引っ張られ、エアロの胸に飛び込むような形になる。
「きゃっ。」
「ふふっ。これでいいんです。私に身を任せて。
左手はこう、右手はここ。あとは音楽を聴いて、身体を揺するだけです。」
最初は緊張と慣れないダンスで身体がカチカチだったが、慣れてくるとどんどん楽しくなってくる。
「…すごい、私はダンスしてるみたい。」
「上手です。シルヴィは上達が早いですね。素晴らしいです。」
身体を揺らしながら、エアロへ言う。
「ふふっ!エアロは褒め上手ね。ありがとう。
…貴方といると、楽しいことばかりだわ。」
私がそう言うと、エアロはダンスを止めた。
どうしたんだろう?
エアロは私の両手を包み、瞳をじっと見つめて、言った。
「では…これからも私といてくださいませんか?
…シルヴィが好きなんです。」
急な告白に唖然とする。
エアロは真剣な目で私を見つめている。
「シルヴィ…?」
「う、嬉しい…。嬉しいけど、分からないの。
誰かを好きになるなんて久しぶり過ぎて…長い間ずっと私には騎士団が全てだったから。だから…どうしたらいいか分からないの。私から騎士団を取ったら何も無くなっちゃう…」
エアロは少し寂しそうに微笑む。
「騎士団のことは今は言わないで。
シルヴィの気持ちを聞いているんです。
シルヴィは私が好きですか?」
私はゆっくり…コクリと頷いた。
熱くなった顔を隠すように下を向く。
しかし、エアロは私の顎に手を添えると、上を向かせ、目線を合わせてきた。
「シルヴィの口から聞きたい。」
エアロの真っ赤な熱い瞳に見つめられたら…
気持ちが溢れてしまった。
「…好き。エアロが好きよ。」
エアロは、とても優しく笑った。
「嬉しい。私も好きです。」
私たちはどちらからともなく唇を重ねた。
そして、今日はジルベルトとマリエルの結婚式。エアロが一人じゃ気まずいと言うので、一緒に会場まで向かうことになっている。
私も珍しくドレスアップした。
自分の瞳の色に寄せた菫色のドレスだ。久しぶりに化粧もして、髪もアップにする。
鏡に映る自分を見て、ため息を吐く。
…今日は一段とめんどくさそうだな。
しかも、ドレスなんて普段着ないから、落ち着かない。
これからエアロと待ち合わせだ。
…他の人はどうでもいいけど、エアロにだけは可愛いと思ってもらえたらいいな…なんて思いながら、いつもの来賓室に向かう。
来賓室への道中も周りが煩い。
ぼーっと見惚れているだけの者もいれば、「今日のダンスは私と…」と早々に申し込んでくる者もいる。この国で適齢期とされる二十歳を五年も前に過ぎてから、こういうのも随分減ったと思ったのにな。
適当にあしらいながら、エアロと待ち合わせをしている来賓室に向かう。
来賓室に着くと、もうエアロは来ていた。
私はその姿を一目見て、言葉を失った。
エアロはいつもの執事服ではなく、タキシードを着ていた。いつも下ろしただけの銀髪は後ろに纏められていた。
いつもの姿は見慣れたけれど、これはまた…美しい。
エアロは固まる私に微笑みかけた。
「シルヴィ。今日は一段と美しいですね。」
私ははっと我に返る。
「あ、ありがとう。
エアロも…す、すごくかっこいいわ…!」
「ふふっ。ありがとうございます。」
エアロは私に歩み寄り、すっと頬を撫でた。
ど、どうしたの…っ?!
「こんなに美しいと色々と心配になりますね…。」
「し、心配…?!なんの?!」
挙動のおかしな私を見て、エアロは笑った。
「こんなに美しいと変な虫が寄ってくるでしょう?」
あ、男が群がることを心配してくれているのか。
「大丈夫!エアロの前では戦ったことないけど、私かなり強いのよ?この国だと私に絶対勝てるのはジルベルトくらいじゃないかな?」
内心パデル爺もいるけどね、と思いながら笑顔で答える。
「そうですか。なら、安心です。」
結婚式を前に私はずっと気になっていたことを聞いてみた。
「…エアロは、マリエルのことが好き…なのよね?
今日の式に出るのは辛くない?」
エアロはフッと笑う。
「今日はとても嬉しい日です。
なんたって妹の晴れ舞台ですから。」
私は首を傾げる。
「いもうと?」
「えぇ。マリエルから聞いてませんか?
シーラがマリエルを娘と言ったので、私はマリエルの兄になろうと決めたのです。今はそのことに迷いも感じていません。…とても愛しい妹ですが、女性として魅力を感じているのは、別の方です。」
「…べつのかた。」
エアロは顎に手を当て、考えるような仕草をする。
「えぇ…結構見込みがあるかな、と思っているんですがね。その方はとても大事にしている仕事がありまして…今のところ恋のライバルは仕事ですね。」
エアロはそう言って私に微笑んだ。
……待って、待って!
そ、それって私…だよね?!
私が知る限り、エアロと仲良くしてるマリエル以外の女性って私だけだし…。でも、プライベートは知らないし、他にも仲良くしてる人がいるのかもしれない…。
私がグルグル考えて固まっていると、エアロはフフッと笑った。
「そろそろ時間ですね。会場へ案内していただけますか?シルヴィ。」
「は、はい…」
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エアロは私の想像以上にすごかった。
男女問わずエアロの姿を見た者は皆、唖然としていた。確かにエアロは男性なのに美しい。老若男女問わず魅了してしまうのは仕方ない。
会場に私とエアロが入ると、その美貌にみんながざわついた。私の姿に注目する者もいたが、圧倒的にエアロへの注目度の方が高かった。
会場からエアロを噂する声が聞こえる。
「あの麗しい方は誰?」
「見たことない…あんな綺麗な顔…」
「あんな美しい方、今まで見てたら忘れないわ!」
「シルヴィ副団長とはどういうご関係なのかしら?」
「美しすぎて怖いくらい…同じ人間とは思えないわ。」
…ちょっと落ち着いてほしい。
私がエアロを見やると、困ったように笑った。
そして、私の耳元に唇を寄せると、囁いた。
「今日は、ずっとシルヴィの隣にいいですか?」
私は火照った顔で、コクコクと首を縦に振った。
しかし、式が始まると、皆の注目はマリエルとジルベルトに移った。
ジルベルトの愛情を一身に受けたマリエルは本当に美しかった。二人の姿は勿論、シーラ様が作ったというドレスも本当に綺麗だったけど、何より二人がお互いを愛し合っているのが伝わってきて、その光景が美しかった。
ジルベルトの長い片想いを知っている私は、つい感動して、泣いてしまった。
その姿を見たエアロは、私を優しく見つめて、手を握ってくれた。
式の後には舞踏会があった。
私はダンスは出来ないので、壁の花になるだけだ。エアロも長居するつもりは無いって言ってたし、マリエルとジルベルトのファーストダンスを見届けたら、帰ろうかと思っている。
ついでに私は元平民だ。今は一応男爵家の令嬢。
というのも、私の父は研究者で、研究で国に寄与したとして、数年前に一代男爵の爵位を頂いた。父は研究にしか興味がないような人で、私と父は隣に住む叔母さんに面倒を見てもらって生きてきたと言っても過言ではない。母は幼い頃に亡くなっていて、私はほとんど覚えていない。
叔母さんは服屋をやっているが、最近は夜着に力を入れている。貴族からの注文も頂けるようになってきたとこの間、はしゃいでいた。私も騎士団が休みの時にはよく手伝いをしている。私が売り子として出ると売上が良いのだそうだ。ついでにマリエルにもいくつかプレゼントしたことがある。
そんなわけで殆ど平民の私はダンスなんて習ったことも踊ったこともない。今もよくあんな風にクルクル踊れるなぁ…と見ているだけだ。エアロは私の隣にずっと居てくれている。お陰で今日ダンスに誘われる回数はいつもより少ない。近付く男性に鋭い視線を向けて、追い払ってくれているけど、緊張しすぎて気付かない男性もいるのだ。
エアロも女性からダンスに誘ってほしいとすごい秋波を送られているが、完全に無視して、にこやかに私に話しかける。お陰で私はエアロ狙いの女性陣から睨まれることになった。
出来るだけ視線を避けるように人の少ない所へエアロと移動する。私はエアロに話しかける。
「エアロもそれだけの美貌だと大変ね。
…ねぇ、他の御令嬢と踊らなくて良かったの?
若くて綺麗な子も沢山いるわよ?」
すると、エアロの視線が少し鋭くなった。
「シルヴィは私に他の御令嬢と踊ってほしいんですか?」
予想もしていなかった返答に焦る。
なんで、そこで私が出てくるのよ。
「え…。わ、わかんない。」
「そうですか…。
じゃあ、確かめてみましょう。」
そう言ってエアロはツカツカと御令嬢に近づく。
ピンクのドレスを着た御令嬢は私よりずっと若く見える。いかにも庇護欲を掻き立てる可愛らしいタイプだ。
御令嬢がエアロに気付き、キラキラとした期待の眼差しを向ける。
…いやっ!!
「エアロ!!」
私が呼ぶと、エアロはクルッとこちらに振り返った。
「どうしました?シルヴィ?」
必死に声を振り絞る。
「嫌…」
エアロが私の前まで戻ってくる。
「何ですか?聞こえませんでした。」
私は震える声でエアロに伝えた。
エアロの指をキュッと握る。
「…嫌、なの。他の子と踊らないで…。
私の…そばに居て。」
エアロは優しく私に手を重ねた。
「えぇ。私もそうしたいです。
…意地悪してごめんなさい。でも、他の御令嬢を勧められて、少し腹が立ちました。シルヴィにとって、私はそんな存在なのかと。」
「ごめんなさい…。」
私は俯く。エアロは私のは頭を撫でると言った。
「いいんです。ねぇ、シルヴィ?
少し庭に出ませんか?」
「うん…。」
◆ ◇ ◆
庭にはあまり人がいなかった。まだ、ジルベルト達が踊っているのだ、見事なダンスに皆、夢中なのだろう。
庭のベンチに座って、流れてくる曲を聴く。
私達は特に話さず、その音を聴く。
「ねぇ、シルヴィ。踊りませんか?」
私は首を横に振る。
「私、踊れないって言ったでしょ?エアロとなら踊ってみたいけど…無理なの。ごめんなさい。」
「ダンスは何もステップを踏まなくていいんです。音に合わせて、身体を揺するだけでも立派なダンスですよ。」
私は首を傾げる。
「身体を揺するだけ…?」
「えぇ、私がリードしますから。やってみましょう。
おいで、シルヴィ。」
微笑むエアロから手から伸ばされる。
私がゆっくりとその手を取ると、引っ張られ、エアロの胸に飛び込むような形になる。
「きゃっ。」
「ふふっ。これでいいんです。私に身を任せて。
左手はこう、右手はここ。あとは音楽を聴いて、身体を揺するだけです。」
最初は緊張と慣れないダンスで身体がカチカチだったが、慣れてくるとどんどん楽しくなってくる。
「…すごい、私はダンスしてるみたい。」
「上手です。シルヴィは上達が早いですね。素晴らしいです。」
身体を揺らしながら、エアロへ言う。
「ふふっ!エアロは褒め上手ね。ありがとう。
…貴方といると、楽しいことばかりだわ。」
私がそう言うと、エアロはダンスを止めた。
どうしたんだろう?
エアロは私の両手を包み、瞳をじっと見つめて、言った。
「では…これからも私といてくださいませんか?
…シルヴィが好きなんです。」
急な告白に唖然とする。
エアロは真剣な目で私を見つめている。
「シルヴィ…?」
「う、嬉しい…。嬉しいけど、分からないの。
誰かを好きになるなんて久しぶり過ぎて…長い間ずっと私には騎士団が全てだったから。だから…どうしたらいいか分からないの。私から騎士団を取ったら何も無くなっちゃう…」
エアロは少し寂しそうに微笑む。
「騎士団のことは今は言わないで。
シルヴィの気持ちを聞いているんです。
シルヴィは私が好きですか?」
私はゆっくり…コクリと頷いた。
熱くなった顔を隠すように下を向く。
しかし、エアロは私の顎に手を添えると、上を向かせ、目線を合わせてきた。
「シルヴィの口から聞きたい。」
エアロの真っ赤な熱い瞳に見つめられたら…
気持ちが溢れてしまった。
「…好き。エアロが好きよ。」
エアロは、とても優しく笑った。
「嬉しい。私も好きです。」
私たちはどちらからともなく唇を重ねた。
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