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本当の居場所⑴
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無事にプロポーズは成功! ……とはいえ、私には気になることがいくつか残っていた。
あれから一週間は経つが、リルはまだ公爵家にいて、ガイ・オーターの取り調べなどを行っているため、ゆっくり話を聞くこともできていない。
寝室でごろんと仰向けになり、枕を抱きしめる。目を瞑って考えるのは、もちろんリルのこと。
「あぁ。せっかくリルに気持ちを伝えて、婚約者になれたと言うのに……。リル……」
「あら、当主様、拗ねていらっしゃるんですか?」
慌ててベッドから身体を起こすと、そこには明日の支度を整えに来たコディがいた。
「コ、コディ! 入るなら事前に教えろ!」
「私は入室前にノックをしましたが? 当主様も『あぁ』と気力なく答えてくださったじゃないですか。どうせまたリル様のことばかり考えていらしたんでしょう?」
「……う、うるさい……! 当主としてやることはやっている。
その合間にリルのことを考えるくらいいいだろうが!」
「確かにリル様の行方がわからなかった時も、婚約者になって浮かれている今も、仕事だけはちゃんとやってらっしゃいますよね。正直、少し意外でしたよ、仕事に身が入らなくなると思ったのに」
コディはそう話しながらも、てきぱきと準備を進めていく。
しかし、その発言は至極当然で、私のことを理解しすぎている彼女に少し笑みが零れた。
「私も、そう思っていた。もっとリルへの気持ちを認めたら、それだけで頭がいっぱいになって、何も手につかなくなるんじゃないかって。母と同じように恋に溺れて、みんなに迷惑をかけるんじゃないかってな。
でも……リルがいなくなった時、思ったんだ。リルが一緒に良くしてくれたこの領地を守りたいって。リルは私の見えないところで色々と活躍して、領地のみんなを助けてくれていた。私のこともあると思うが、リルも純粋にこの伯爵領が好きだったんだと思ったんだ。であれば、私がその想いを無下にするわけにはいかないだろう?
それに……私はこの領地が、領地のみんなが大好きだ。私のことなど気にせず、みんなにはいつも笑っていてほしいんだ」
「ふふっ。それでこそ、当主様ですわ。とはいえ、屋敷の私たちくらいには心配させてくださいね……」
この屋敷の人間はみんな私に甘いのだ。私は胸のくすぐったさを隠すようにふいと横を向いた。
「勝手にしろ」
「そうします。でも、安心しました。頭がお花畑になっていないようで」
「そんなものになるか! 大体な、こ……婚約者になったのに、一週間も会えていないんだ。考えてしまうのも仕方ないと思わないか!?」
私が必死にそう訴えても、コディはじとっと私を見つめる。
「……当主様……普通の婚約者は月に一度ほどしか会わないと思いますが」
「そっ、そうなのか!?
……それはいくらなんでも少なすぎる……耐えられない」
肩を落とす私を見て、コディは大きく溜息を吐いた。
「大体毎日手紙も花束も届くのに、何が寂しいというのです? こんな婚約者いないですよ! 今までもたいがいだと思っていましたが……はぁ、お二人が結婚したらと思うと、色々と心配ですよ……」
「なにが心配なんだ?」
「……リル様の溺愛ぶりが、です。私、もう甘い紅茶は飲めなくなりそうですよ……」
「なぜだ?」
コディは、どうでもいいと言うようにパタンと閉めたクローゼットに頭を預けた。
「……いいんです……。当主様は何も考えずにあの魔王の思うがままに動いていれば」
「誰が魔王だって?」
「ひっ!」
「リル!!」
気付けばリルは扉の入り口に立っていた。私は、リルに駆け寄って、その身体に抱きついた。
「手紙では今日も来れるかわからないと言っていたのに、どうしたんだ!? あ、もちろん来てくれて嬉しいぞ!
ちょっとはゆっくりできるのか? 公爵家の方は落ち着いたのか? 大丈夫か?」
「ね、義姉さんっ! ちょっ……ち、近……」
何故かリルが狼狽えている。私たちは婚約者だと言うのに。
「婚約者なのに、駄目、なのか?
……今日は抱きしめてくれないのか?」
私はぐりぐりと頭をリルの胸に押し付けた。
「う……あ……。か、可愛すぎるよ、義姉さん……っ!」
リルはそう言うと、私を強く抱きしめてくれた。
やはりこの胸の中は安心する……
「……はぁ……。やはり先ほどの言葉を撤回します。すっかり当主様の頭は花畑ですわ」
あ、コディのことをすっかり忘れていた。
私は急に恥ずかしくなって、リルから離れようとしたが、腰がすっかりリルの腕で固定されていて、離れられない。
「ところでコディ、あとで話があるから」
「…………」
無言のコディ。
それを見つめて微笑むリルはやっぱりかっこいい……
「コディ?」
「か、かしこまりました……」
コディの表情が固い。
「リル。私にはよくわからないが、コディをあんまり虐めては駄目だからな?」
おかしな様子のコディに心配になった私は、リルの目を見て、そう頼んだ。
「もちろんだよ、義姉さん。魔王という言葉の意味を一緒に確認するだけさ」
「ならいいが……」
「では、当主様、リル様、失礼します!」
コディはそう言うと、そそくさと部屋を出て行った。
ようやく2人だけの時間だ。
「リル、会いたかった……」
私がリルの瞳をじっと見つめてそう言えば、リルも甘さが溶けた瞳で私を捉えてくれる。
私たちは見つめ合って、どちらからともなくキスをした。
優しく口づけをした後、リルの柔らかな唇が離れていく……
「ん……リルぅ……」
名残惜しくて彼の名を呼べば、リルは片手で赤くなった顔を隠した。
「義姉さん……そんな初っ端から僕の理性を試そうとしないでくれるかな?」
「理性……? 試す……?」
何を言っているんだろうか? ただ私はリルに触れたいと思っただけなのに……
「はぁ…………この先が思いやられるな」
「嫌だったか……?」
「嫌じゃなくて……義姉さんの全てが悦すぎて、今まで以上に離れられなくなりそうだなって思ったんだよ」
「なんだ! そんなことか! 結婚したらずっと一緒にいればいいだろ」
「ふふっ、義姉さんったら甘えん坊だなぁ」
リルと額をくっつけあって、私たちは笑い合う。なんて幸せなんだろう……
確かに私は今までこんな風に誰かに甘えたことはなかった。父上からの愛情は確かに感じていたが、愛情表現が豊かな方ではなかったし、将来の当主として私を優しくも厳しく育てたから。
リルにこんな風にくっつきたくなるのは、子供の頃からそうしたかったからなのかもしれない。
「ところで今日はこんな遅い時間にどうしたんだ?」
「あぁ……遅くなったけど、義姉さんに全部話そうと思って。義姉さんも気になってること、あるだろ?」
私は素直にコクンと頷いた。
「じゃあ、座って話そう」
私が寝る前だったということもあったので、私たちはベッドのヘッドボードに二人並んで寄りかかった。
「まず、何から話したらいいのかな……」
リルが眉を下げて悩んでいる。
私は、ずっと気になっていたことを聞いた。
「……リルは伯爵家を出て行った後、どこに行ったんだ?
ずっとずっと心配してた……なんで連絡もくれなかったんだ?」
「ここを出て行ってから……ヒューバル公爵家に行ったんだ」
「そ、それは……婿になるため、か?」
そう聞きながらも、手にじんわりと汗が滲む。「そうだ」と言われたらどうしよう……
「あー……そういうわけじゃなくて……。僕、知ってたんだ。自分が公爵家の血筋だってこと。
だから、正式にあそこの養子にしてもらおうかと思ったんだよ」
「……えぇっ!?」
「ははっ……義姉さん、驚きすぎ」
まさかリルが自分が公爵家の血筋だと知っていたなんて、考えもしなかった。公爵家の血筋ならこんな田舎の伯爵家の養子になる必要もないし、元平民だと笑われて、耐える必要もなかったはずだから……
「な、なんでここの養子なんかになったんだ?」
「言っただろ? 初めて会った時に義姉さんに囚われたって。
公爵家に行くより、この女性といっしょにいたい……と思っちゃったんだよ」
「そ、それでも、普通公爵家に行くだろ……」
呆れて開いた口が塞がらない。いくら私に好意を抱いたからと言って、そんな特権を放棄してしまうなんて。
「あの時すでに義姉さんは十八歳だったろ? 近くにいればなんとかすることもできるけど、公爵家なんかに行ったら、僕が社交界に出るまでに誰かと結婚しちゃうかもしれないじゃないか」
「あの年齢で……しかも、平民として育ったのによく貴族の結婚やら社交界やら知ってたな……
というか、父親の死を知ったあの瞬間に、よくそこまで考えて……」
「貴族の話はよく母さんがしてたから。まぁ、父さんのことは子供だったから悲しかったけど、愛してくれてたわけじゃないし。僕には公爵家に行くという選択肢もあったから、割と落ち着いていられたのかも」
「そ、そうか……」
淡々とそう話すリルは、また私の知らない彼の一面で。それにもまたドキドキしてしまう私は、本当にすっかり彼にはまっているのだろう。
「でも、なんであの日、出て行ってしまったんだ?」
「逆に義姉さんはあの日、あのまま僕が伯爵邸に留まっていたら、気まずかったんじゃない?」
「そ、それはそうだが……」
「色んなことをして意識はしてもらえてると思ったけど、義弟って立場のままじゃ義姉さんが頷いてくれないと思ったんだ。だから、姉弟って関係から脱して、改めてアタックしようと思った。そのために公爵家に行ったんだ」
「言ってくれたらよかったのに……」
「あのまま僕が話してたら、公爵家と伯爵家の結婚なんてとんでもないって断らなかった? 僕と義姉さんは近すぎたんだ。だから、あえて突き放した。義姉さんが僕と離れている間も僕を忘れないように……深く深く刻み付けてから、ね」
リルは私の手を取って、キスを落とした。……そんな目をされたら、あの夜のことを思い出してしまう。
それを知られるのが恥ずかしくて、私はリルから目線を外した。
あれから一週間は経つが、リルはまだ公爵家にいて、ガイ・オーターの取り調べなどを行っているため、ゆっくり話を聞くこともできていない。
寝室でごろんと仰向けになり、枕を抱きしめる。目を瞑って考えるのは、もちろんリルのこと。
「あぁ。せっかくリルに気持ちを伝えて、婚約者になれたと言うのに……。リル……」
「あら、当主様、拗ねていらっしゃるんですか?」
慌ててベッドから身体を起こすと、そこには明日の支度を整えに来たコディがいた。
「コ、コディ! 入るなら事前に教えろ!」
「私は入室前にノックをしましたが? 当主様も『あぁ』と気力なく答えてくださったじゃないですか。どうせまたリル様のことばかり考えていらしたんでしょう?」
「……う、うるさい……! 当主としてやることはやっている。
その合間にリルのことを考えるくらいいいだろうが!」
「確かにリル様の行方がわからなかった時も、婚約者になって浮かれている今も、仕事だけはちゃんとやってらっしゃいますよね。正直、少し意外でしたよ、仕事に身が入らなくなると思ったのに」
コディはそう話しながらも、てきぱきと準備を進めていく。
しかし、その発言は至極当然で、私のことを理解しすぎている彼女に少し笑みが零れた。
「私も、そう思っていた。もっとリルへの気持ちを認めたら、それだけで頭がいっぱいになって、何も手につかなくなるんじゃないかって。母と同じように恋に溺れて、みんなに迷惑をかけるんじゃないかってな。
でも……リルがいなくなった時、思ったんだ。リルが一緒に良くしてくれたこの領地を守りたいって。リルは私の見えないところで色々と活躍して、領地のみんなを助けてくれていた。私のこともあると思うが、リルも純粋にこの伯爵領が好きだったんだと思ったんだ。であれば、私がその想いを無下にするわけにはいかないだろう?
それに……私はこの領地が、領地のみんなが大好きだ。私のことなど気にせず、みんなにはいつも笑っていてほしいんだ」
「ふふっ。それでこそ、当主様ですわ。とはいえ、屋敷の私たちくらいには心配させてくださいね……」
この屋敷の人間はみんな私に甘いのだ。私は胸のくすぐったさを隠すようにふいと横を向いた。
「勝手にしろ」
「そうします。でも、安心しました。頭がお花畑になっていないようで」
「そんなものになるか! 大体な、こ……婚約者になったのに、一週間も会えていないんだ。考えてしまうのも仕方ないと思わないか!?」
私が必死にそう訴えても、コディはじとっと私を見つめる。
「……当主様……普通の婚約者は月に一度ほどしか会わないと思いますが」
「そっ、そうなのか!?
……それはいくらなんでも少なすぎる……耐えられない」
肩を落とす私を見て、コディは大きく溜息を吐いた。
「大体毎日手紙も花束も届くのに、何が寂しいというのです? こんな婚約者いないですよ! 今までもたいがいだと思っていましたが……はぁ、お二人が結婚したらと思うと、色々と心配ですよ……」
「なにが心配なんだ?」
「……リル様の溺愛ぶりが、です。私、もう甘い紅茶は飲めなくなりそうですよ……」
「なぜだ?」
コディは、どうでもいいと言うようにパタンと閉めたクローゼットに頭を預けた。
「……いいんです……。当主様は何も考えずにあの魔王の思うがままに動いていれば」
「誰が魔王だって?」
「ひっ!」
「リル!!」
気付けばリルは扉の入り口に立っていた。私は、リルに駆け寄って、その身体に抱きついた。
「手紙では今日も来れるかわからないと言っていたのに、どうしたんだ!? あ、もちろん来てくれて嬉しいぞ!
ちょっとはゆっくりできるのか? 公爵家の方は落ち着いたのか? 大丈夫か?」
「ね、義姉さんっ! ちょっ……ち、近……」
何故かリルが狼狽えている。私たちは婚約者だと言うのに。
「婚約者なのに、駄目、なのか?
……今日は抱きしめてくれないのか?」
私はぐりぐりと頭をリルの胸に押し付けた。
「う……あ……。か、可愛すぎるよ、義姉さん……っ!」
リルはそう言うと、私を強く抱きしめてくれた。
やはりこの胸の中は安心する……
「……はぁ……。やはり先ほどの言葉を撤回します。すっかり当主様の頭は花畑ですわ」
あ、コディのことをすっかり忘れていた。
私は急に恥ずかしくなって、リルから離れようとしたが、腰がすっかりリルの腕で固定されていて、離れられない。
「ところでコディ、あとで話があるから」
「…………」
無言のコディ。
それを見つめて微笑むリルはやっぱりかっこいい……
「コディ?」
「か、かしこまりました……」
コディの表情が固い。
「リル。私にはよくわからないが、コディをあんまり虐めては駄目だからな?」
おかしな様子のコディに心配になった私は、リルの目を見て、そう頼んだ。
「もちろんだよ、義姉さん。魔王という言葉の意味を一緒に確認するだけさ」
「ならいいが……」
「では、当主様、リル様、失礼します!」
コディはそう言うと、そそくさと部屋を出て行った。
ようやく2人だけの時間だ。
「リル、会いたかった……」
私がリルの瞳をじっと見つめてそう言えば、リルも甘さが溶けた瞳で私を捉えてくれる。
私たちは見つめ合って、どちらからともなくキスをした。
優しく口づけをした後、リルの柔らかな唇が離れていく……
「ん……リルぅ……」
名残惜しくて彼の名を呼べば、リルは片手で赤くなった顔を隠した。
「義姉さん……そんな初っ端から僕の理性を試そうとしないでくれるかな?」
「理性……? 試す……?」
何を言っているんだろうか? ただ私はリルに触れたいと思っただけなのに……
「はぁ…………この先が思いやられるな」
「嫌だったか……?」
「嫌じゃなくて……義姉さんの全てが悦すぎて、今まで以上に離れられなくなりそうだなって思ったんだよ」
「なんだ! そんなことか! 結婚したらずっと一緒にいればいいだろ」
「ふふっ、義姉さんったら甘えん坊だなぁ」
リルと額をくっつけあって、私たちは笑い合う。なんて幸せなんだろう……
確かに私は今までこんな風に誰かに甘えたことはなかった。父上からの愛情は確かに感じていたが、愛情表現が豊かな方ではなかったし、将来の当主として私を優しくも厳しく育てたから。
リルにこんな風にくっつきたくなるのは、子供の頃からそうしたかったからなのかもしれない。
「ところで今日はこんな遅い時間にどうしたんだ?」
「あぁ……遅くなったけど、義姉さんに全部話そうと思って。義姉さんも気になってること、あるだろ?」
私は素直にコクンと頷いた。
「じゃあ、座って話そう」
私が寝る前だったということもあったので、私たちはベッドのヘッドボードに二人並んで寄りかかった。
「まず、何から話したらいいのかな……」
リルが眉を下げて悩んでいる。
私は、ずっと気になっていたことを聞いた。
「……リルは伯爵家を出て行った後、どこに行ったんだ?
ずっとずっと心配してた……なんで連絡もくれなかったんだ?」
「ここを出て行ってから……ヒューバル公爵家に行ったんだ」
「そ、それは……婿になるため、か?」
そう聞きながらも、手にじんわりと汗が滲む。「そうだ」と言われたらどうしよう……
「あー……そういうわけじゃなくて……。僕、知ってたんだ。自分が公爵家の血筋だってこと。
だから、正式にあそこの養子にしてもらおうかと思ったんだよ」
「……えぇっ!?」
「ははっ……義姉さん、驚きすぎ」
まさかリルが自分が公爵家の血筋だと知っていたなんて、考えもしなかった。公爵家の血筋ならこんな田舎の伯爵家の養子になる必要もないし、元平民だと笑われて、耐える必要もなかったはずだから……
「な、なんでここの養子なんかになったんだ?」
「言っただろ? 初めて会った時に義姉さんに囚われたって。
公爵家に行くより、この女性といっしょにいたい……と思っちゃったんだよ」
「そ、それでも、普通公爵家に行くだろ……」
呆れて開いた口が塞がらない。いくら私に好意を抱いたからと言って、そんな特権を放棄してしまうなんて。
「あの時すでに義姉さんは十八歳だったろ? 近くにいればなんとかすることもできるけど、公爵家なんかに行ったら、僕が社交界に出るまでに誰かと結婚しちゃうかもしれないじゃないか」
「あの年齢で……しかも、平民として育ったのによく貴族の結婚やら社交界やら知ってたな……
というか、父親の死を知ったあの瞬間に、よくそこまで考えて……」
「貴族の話はよく母さんがしてたから。まぁ、父さんのことは子供だったから悲しかったけど、愛してくれてたわけじゃないし。僕には公爵家に行くという選択肢もあったから、割と落ち着いていられたのかも」
「そ、そうか……」
淡々とそう話すリルは、また私の知らない彼の一面で。それにもまたドキドキしてしまう私は、本当にすっかり彼にはまっているのだろう。
「でも、なんであの日、出て行ってしまったんだ?」
「逆に義姉さんはあの日、あのまま僕が伯爵邸に留まっていたら、気まずかったんじゃない?」
「そ、それはそうだが……」
「色んなことをして意識はしてもらえてると思ったけど、義弟って立場のままじゃ義姉さんが頷いてくれないと思ったんだ。だから、姉弟って関係から脱して、改めてアタックしようと思った。そのために公爵家に行ったんだ」
「言ってくれたらよかったのに……」
「あのまま僕が話してたら、公爵家と伯爵家の結婚なんてとんでもないって断らなかった? 僕と義姉さんは近すぎたんだ。だから、あえて突き放した。義姉さんが僕と離れている間も僕を忘れないように……深く深く刻み付けてから、ね」
リルは私の手を取って、キスを落とした。……そんな目をされたら、あの夜のことを思い出してしまう。
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