親友のために悪役令嬢やってみようと思います!

はるみさ

文字の大きさ
上 下
78 / 99
第三章

18.聖女と勇者

しおりを挟む
 「ったく……勇者ってなんだよ。めんどくせぇ。」

 ユーリが不機嫌そうにチキンにフォークを突き刺した。

 「いいじゃない、聖女と勇者なんてまるで夢物語だわ!」

 「ふふっ!アンナったら可愛いこと言うんだから。」

 今日はユーリとソフィアと三人で王都のカフェにランチに来たのだ。ユーリはソフィアの専属騎士なので、二人はずっと一緒だ。最近のソフィアはとても幸せそうな顔をしている。

 「でも、ドラゴンを討伐しちゃうなんて、すごいよねぇ!」

 ユーリは私の言葉に眉を顰める。

 「ん?討伐なんてしてねぇぞ。あのドラゴンはまだ仔竜だ。パニックになってたから気絶させただけ。」

 「え。そうなの?」

 「あぁ。うちの領地では三年に一回くらいはドラゴンが出てくるんだが、殺したことは一度もない。基本的にあいつらは温厚なんだ。今回の仔竜も迷子になってパニックになってただけだからな。あの後、拘束した上で生息地まで移送してもらった。」

 「そうなんだ…。でも剣、突き刺してたのに?」

 「ドラゴンの皮膚は分厚いからな。
 あれくらいの突きじゃ、死んだりしねぇ。」

 ユーリは何でもないことのように話す。
 でも、これは本当にすごいことで、ドラゴンを倒すなんて王都に住む人間からしたら、一大事だ。実際に「黒の勇者」としてユーリの絵姿がライル様とソフィアの間に挟まれて売り出されるようになったし。

 「へぇ。それでも、やっぱりユーリは勇者だよ!
 聖女であるソフィアを二回も救ったんだもん。」

 「ははっ。いつもギリギリだけどな。」

 ユーリがポリポリと頬を掻く。

 「本当よ。もうちょっと早く来てよね。」

 ソフィアがツンと唇を出して不満を漏らせば、ユーリはソフィアの腰に手を回し、ぐっと引き寄せる。

 「今回については悪かったって。もう離れないから。な?」

 ソフィアは上目遣いで、おねだりでもするかのようにユーリを見つめ、それに吸い込まれるかのようにユーリはソフィアとの距離を詰め、二人の額はくっついた。

 「……うん。絶対、よ?」

 「あぁ。絶対だ。」

 二人はクスクス笑い合う。

 ……私は一体何を見せられているんだろうか。仲が良いのは結構だが、見ているこっちが恥ずかしい。

 「あー……、私、帰ろうか?」

 「え?!あ…ご、ごめん!!
 ちょっとユーリ、離れてよ!!」

 ソフィアがぐいーっとユーリと離れようとするが、ユーリはそれを許さない。

 「そう照れるなって。ほら、アンナに報告するんだろ?」

 「報告?」

 私が首を傾げると、ソフィアが頬を染める。

 「うん……。あのね…、私たち婚約することにしたの。」

 「えぇ?!本当に?!」

 「嘘なんかつくかよ。本当だ。来月、正式に発表する。」

 「うわぁー!嬉しい!!大好きなソフィアとユーリが婚約するなんて、夢みたいだわ!すごい、すごい!!
 結婚は?いつするの?」

 嬉しすぎて、私はバタバタと足を踏み鳴らしたいのを必死に我慢した。顔がニヤけて止まらない。ピンク色の頬で、本当に幸せそうに話すソフィアは、すごく可愛かった。

 「卒業したら、すぐにでもしようと思ってる。

 それでね、アンナ……。」

 「ん?」

 ソフィアは一度ユーリと目を合わせると、二人で頷き合った。
 私に向き直ったソフィアは、真っ直ぐに私を見て言った。

 「私たち、卒業して、式を挙げたらー
 ……王都を離れようと思ってるの。」

 「……え。」

 突然の告白に言葉が出てこない。

 「ユーリと話して決めたの。私のこの魔力は王都だけでなく、国内のもっと色んな人に届けたいって。本当にこの力を必要としている人の中には王都まで来れない人も多くいると思う。
 私を必要としてくれる人達のために、純粋に私は力を使いたいの。」

 ……その志は、まさに聖女だ。
 今のソフィアに悪役令嬢なんて見る影もなかった。

 「私が王都にいれば、嫌でもその力の在処を巡って、衝突が起こるわ。だから、私はどこにも属することなく、国内を回りながら、人々を癒していこうと思うの。」

 「でも、国内は安全なところばかりじゃー」

 「そうね。私一人じゃ無理だけど……
 私にはユーリがいてくれるから。」

 ソフィアがユーリを愛おしそうに見つめる。
 ユーリもソフィアの髪を優しく指ですいた。

 「あぁ。」

 ……もうソフィアには最強の味方がいるんだ。
 愛し愛されるべき人が。それなら私はー

 「……分かった!応援する!
 ソフィアとユーリのこと、離れてもずっと応援してるから!!」

 私は精一杯の笑顔を二人に向けた。

 「とは言っても、卒業まで暫くあるけどな。

 まぁ、旅の予行練習を兼ねて、ちょいちょい遠くの街に行こうって話してるんだ。だから、数日から数週間くらい居なくなることもこれからは多くなる。」

 「分かったわ。

 でも、神殿も王家もソフィアを手に入れようとしてたのに、よく二人の婚約を許してくれたわね。」

 「民衆が完全に私たちの味方になってくれたからね。アンナのおかげよ。あそこで提案してくれなかったら、ここまでスムーズに事は運んでなかったと思う。本当にありがとう。」

 ソフィアが私に頭を下げる。

 「いや、いろんな偶然が重なっただけで、私は何も…。
 ドラゴンが来たのだって偶然だったわけだし。」

 しかし、ユーリはその言葉に眉を顰めた。

 「いや、それについては微妙なところだな。可能性が無いわけではないが、あの仔竜が王都の方まで来てしまうこと自体、前例がないほど珍しいことだからな。」

 「え…誰かがまたソフィアを狙って……?」

 「その可能性は否定できないな。」

 沈黙が流れる。

 暫くして、ソフィアが呟いた。

 「………また、リィナさんかしら。」

 「どうだろうな…。今、ライルが調べているが、当日のあいつに怪しい動きはなかったそうだ。しかし、妙に落ち着いた様子だった、と…。」

 その後、飲んだ紅茶はやけに冷めてて、私の身体を芯から冷やした。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

処理中です...