親友のために悪役令嬢やってみようと思います!

はるみさ

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第二章 

33.チーム【sideジョシュア】

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 卒業パーティーは、大きな混乱なく終わった。

 会場に戻った後、殿下とリィナが踊ったと嫌味な令嬢がわざわざアンナの耳に入るように噂話をしていたが、アンナはそう大きく動揺していないように見えた。

 先ほど久しぶりに腰を据えて話せたようだから、アンナの気持ちも安定したのかもしれない。ずっと殿下の気持ちに振り回されていたようだから、純粋に良かったと思う。

 アンナが辛そうにしていれば、胸が苦しくなる。
 彼女には笑っていて欲しいのだ。
 そうさせるのが、自分だけの役目だったらどんなに良いかとは思うが……。

 いつの間にか愛しくて堪らない存在になっていたアンナ。
 彼女は、あっという間に私を虜にした。

 私だけではない。今や晩餐の時間には私とソフィアがアンナのことばかり話すので、両親もすっかりアンナのファンだ。

 アンナのおかげで、私もソフィアも変わったし、兄妹仲も格段に良くなった。屋敷内の空気も明るくなったような気がする。両親がアンナを好くのも当然の流れだ。

 母上なんて不敬だと父上から注意をされても「アンナさんがもう一人の娘になってくれたらいいのに…」なんて言っている。口には出さないが、ソフィアも父上も…そして勿論私も心の底からそう思っている。

 アンナが殿下の婚約者と言うことは変えようの無い事実だ。
 
 それでも、私は諦めるつもりなどなかった。

 確かにライル王子殿下は素晴らしいお方だ。努力家で、剣術や魔法の才能もあり、必要であれば冷酷な判断を下すことも出来る。万が一、あの方が国の頂点に立つことがあれば、より大きく我が国は発展するだろう。

 それに対し、王太子殿下は婚約者の姫が亡くなるまでは、まともな人物だと思っていたが…姫を亡くしてからは人が変わったようになってしまったらしい。

 それでも陛下は王太子殿下を厚遇していると聞く。王太子という立場もあるが、何より自分に似た息子が可愛いのだろう。
 ライル王子殿下は先代の王によく似た見事な金髪で美しい顔立ちなのに対し、陛下と王太子は髪色が茶色で男らしい顔立ちだ。タイプは違うにせよ、十分に人目を引く容姿ではあるが。

 それに加えて、陛下と王太子殿下は魔力がない。魔力がない王族は今までもいたが、陛下はそれに対し強いコンプレックスをお持ちだと聞いたことがある。それもあり、ライル様への風当たりが強いのかもしれない。

 そんな中で育ったライル王子殿下がアンナに執着するのも分かる気がするが……。

 私は…私に光をもたらしてくれたこの恋を……
 どうしても諦めることが出来ない。
 
 それに、相手がどんな境遇であっても、自分の気持ちを押し殺して、他人に欲しいものを譲るほど私は優しくない。


   ◆ ◇ ◆


 あと三日で、再び学園が始まる。

 寝る前に本を読んでいると、コツコツと窓の扉を叩くものがあった。

 「紙飛行機?」

 窓を開けてやると、その紙飛行機は意志を持ったように私の机の上に滑り込み、ぴたりと動かなくなった。

 これは風魔法だ。風魔法を使える者は私の周りでは多くないのだが……。不思議に思いながらも、手紙を開き確認すると、それは殿下からの手紙だった。

 「……なぜこんな手紙を…?」

 一瞬何かの罠かとも思ったが、その手紙には確かにライル王子殿下の魔力が漂っていた。でも、殿下の魔力は火だったはずなのに…。

 私は、その手紙を読むと、すぐに燃やした。

 深夜、屋敷の者が殆どが眠りに付いた時間に私はベッドを抜け出し、窓から庭へ降りた。風魔法を使えば、三階の自室から飛び降りて着地することなんて訳ないことだ。

 誰にも気付かれないように外へ出る。外套を目深に被り、指定された店へ向かう。指定されたのは、この時間には開いているはずもない書店だ。

 案の定閉まっている書店の扉を叩くと、老人が出てきた。髪が長く、性別さえ分からない。開けられた扉にスッと体を滑り込ませ、外套を取る。

 「もう来ておるぞ。」

 そう言って、老人は店の奥に私を案内する。
 すると、地下に進む階段が出てきた。

 「ここを降りろ。二人が待ってる。」

 老人の言う通り、恐る恐る階段を降りていくと、真ん中にランプを一つ置いただけの小さな部屋に殿下とユーリが座っていた。

 ユーリは笑いながら、手を上げる。

 「ジョシュア先輩、こんばんわ~。」

 「来てくれてありがとう。」

 殿下はそう言って微かに口角を上げた。

 「いえ……突然のことで驚きましたが……。
 それにこの場所と時間に呼び出すとは、何事でしょうか?」

 「その辺りも含めて、説明しよう。
 椅子にかけてくれ。」

 「はい。」

 殿下が一つ咳払いをする。

 「時間がないので端的に話す。
 今、僕は軟禁状態に置かれている。」

 「はぁ?ライルを軟禁って…どういうことだよ?
 お前、王子だろうが。」

 確かにそんな話は父上からも聞いたことがない。殿下を軟禁できるほどの人物となると限られてくるが……。

 「最後まで聞け。

 軟禁状態と言っても、最近では部屋から全く出れないわけではないんだ。ただ僕の言動や交友関係を全て把握され、報告されているということだ。僕をそのような状態に置いているのは、兄上だ。」

 「王太子殿下が?」

 「あぁ。このように集まっている理由も兄上に見つからないためだ。ジョシュア、ユーリ…どうか、僕に力を貸して欲しい。」

 ユーリが口を開く。

 「なんで俺たちなんだ?優秀な奴ならライルの周りにうじゃうじゃいるだろ。」

 私もそれは思った。何も学生である自分たちに頼まなくても、と。殿下は私とユーリを交互に見ると言った。

 「……自分のことは何とでも出来る。でも、僕が守りたいのはアンナなんだ。僕一人の力じゃ守れそうにないから、学園内で動ける協力者が必要だった。

 君たちに声を掛けたのは、たとえ僕のことを快く思っていなくても、アンナのためなら力を貸してくれるだろうし、絶対に裏切ったりしないと思ったからだ。それに、協力者には僕よりアンナを優先して欲しかった。」

 「私たちのことを快く思っていないのは、殿下でしょう?」

 私の指摘に殿下の言葉が詰まる。

 「……自分の愛してやまない婚約者にアプローチする男を快く思える人間なんているのか?アンナがどれだけ可愛らしい生き物か、お前たちは知っているだろう?」

 開き直りのようにも聞こえるが、まぁいいか。
 確かにあの可愛さなら仕方ない。私は素直に肯定した。

 「まぁ、それもそうですね。」

 ライル様は私の返答を受けて、フッと笑ったが、すぐに顔を引き締めた。

 「僕は今回ただの嫉妬でアンナを傷付けた。僕はそのことで、本当にアンナを守るためなら、プライドなど捨て、助けを乞うことが必要だと学んだんだ。
 でも、今の状況で本当に信じられる人間は少ない。魔力持ちで、アンナを大切に想っている者だけだ。そう考えると、君たちの顔が浮かんだんだ。」

 ユーリが笑顔で殿下の背中をバンバンと叩く。

 「いい判断だぜ、ライル!もちろん協力する。」

 「ありがとう。」

 殿下が本当に嬉しそうに笑う。

 一人でアンナを守りきれないのは少し寂しいが、何よりも大事なのはアンナだ。…私の答えもすっかり決まっていた。

 「私も協力しないわけには行かないでしょう。
 アンナを守る役目を殿下から賜れるなんて、光栄です。」

 「ありがとう…。アンナが君たちを頼りにするのも納得だ。」

 「俺ってば、強いし、格好いいからなー!」
 
 殿下はそれに気づかないフリをして、話を進める。

 「じゃあ、早速本題に入りたいと思う。」

 「おい!スルーすんなよ!!」

 ユーリはブーブーと文句を言っているが、先を促す。

 「殿下、どうぞ本題に。」

 「あぁ。
 ……分かっていると思うが、問題はリィナだ。
 あの女は何故かアンナを酷く嫌っていて、何かと貶めようとしてくる。最悪…醜聞を作り上げて、この国から追放しようとしているのかもしれない。」

 部屋には重々しい空気が流れる。改めて聞くと、リィナがいかに非道な行為をしているか…重々しく胸に響く。

 すると、ユーリがおもむろに口を開いた。

 「あー……。あの女は、アンナを殺そうとしてると思う。」

 「……まさか…っ!」

 思わず否定するような言葉が出る。流石に殺すなんておぞましいことをリィナが考えるとは思えないが、いや…リィナが変わったことを考えると…。

 ユーリが話を続ける。

 「前にアンナが言ってたんだ。頬を叩かれた時にリィナに『この世から消してやる』って言われたって。」

 ……そんなことを言われていたなんて、どんなにアンナは傷ついたことだろう。自分が傷つけられたように胸が痛い。

 「アンナ……ッ。」

 殿下に至っては怒りすぎて、不穏な魔力が滲み出てしまっている。この人はどれだけ魔力を秘めているのか……。
 持っていないはずの風魔法を使うことを考えても、そのポテンシャルは計り知れない。

 ユーリがライルを宥める。

 「怒りは尤もだけど、抑えろって。
 恐ろしい魔力が漏れ出してんぞ?」

 「すまない……。だが、あの女、ただでは生かさん…!」

 そう言う殿下の目は、射殺さんばかりに鋭い眼光だった。

 私たちはその後、自分たちが持っている情報を出し合い、今後について話し合った。

 最後にライル様は立ち上がると、私たちに握手を求めた。

 「ジョシュア、ユーリ。改めて…感謝している。
 どうか、宜しく頼む。」

 「はい、殿下ー
 では、なく…ライル、でしたね。」

 ライルが微笑み、頷く。

 「これから俺たちはチームだな!信頼してるぜ、二人とも!」

 ユーリがそう言って私たちと肩を組み、笑う。
 その温もりは…私の心をほんの少しだけ軽くさせた。
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