親友のために悪役令嬢やってみようと思います!

はるみさ

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第二章 

21.大事な人

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 「え…。お兄様…な、なんでここなの?」

 ジョシュア様が私たちを連れて来たのは、ルフト先生の研究室だった。思わぬ展開にソフィアは後ずさる。

 「ここが一番、人に話を聞かれないで済むからな。」

 「だ、だけどー」

 ジョシュア様は反対しようとするソフィアを無視して、ノックすると返事を待たずに扉を開いた。

 「ルフト先生。」

 ルフト先生は机に向かっていた。

 「ジョシュアか。例の件はー」

 椅子を回してこちらに向いた先生は目を丸くした。

 「ーーって、こんな大所帯でどうした?」

 「ちょっと場所借ります。
 ルフト先生も一緒に聞いて下さい。」

 そう言うと、ジョシュア様は私たちに部屋にあるソファに座るように言う。ジョシュア様に呼ばれ、ジョシュア様の隣に私。向かい側のソファにユーリとソフィアが座る。
 …なんだか変な座り順。

 ルフト先生は腕を組み、不満そうに溜息を吐く。

 「…ったく。面倒ごとは勘弁しろよな。」

 「…可愛い妹が虐められてても、黙ってられますか?」

 ジョシュア様の声はどこか冷ややかだ。ルフト先生から漂う雰囲気がピリッとしたものに変わる。

 「……いじめ?」

 「…だろ。ソフィア。」

 ジョシュア様は、ソフィアに視線を投げた。
 ルフト先生にもじっと見つめられ、ソフィアは表情を硬くする。

 「………そんな事実はありません。」

 ジョシュア様は珍しくイライラした様子で長い前髪をかきあげ、溜息を吐いた。

 「そうか。ソフィアにとっては、中庭でバケツの水をかけられたり、やってもいない嫌がらせの犯人として陰口を叩かれたり、物が時々無くなったりすることは……いじめとは言わないんだな。」

 「本当に虐められてるっていうのか……?」

 ルフト先生はどうも信じられないようで、ソフィアの顔を凝視している。

 「それに…アンナもです。」

 ……ジョシュア様はなんで知っているんだろう。私達が嫌がらせを受けているのは確かだが、一年と二年はフロアが違う。日常生活で交流することはほとんどないので、細かな嫌がらせなんて気付くはずがない。。唯一の交流の場である食堂に私たちは行っていなかったしー。

 「はぁ?!この国の二大公爵家の令嬢に嫌がらせってどういうことだ。この学園の生徒はおかしくなったのかよ?!」

 ルフト先生が舌打ちをする。

 「同感です。一年と二年はフロアが違うから、不甲斐なくも私も最近まで気付かなかったんですがー。

 ……ソフィア、なんで言わなかった。」

 そう問うジョシュア様はどこか寂しげだった。

 「お兄様や先生の手を煩わせるようなことではないと思いました。自分の問題は自分で解決します。」

 ソフィアは毅然と言い放つ。
 それを聞いたジョシュア様は眉を顰めた。

 また、ソフィアが怒られてしまうと思った私は、慌ててジョシュア様に頭を下げた。

 「ごめんなさい!!わ、私のせいなんです……。
 ソフィアは止めようとしてたんですけど、私が関わらないでって頼んで…。全部私のせいで……ソフィアまで巻き込んじゃってー」

 次の瞬間、ユーリが声を荒げる。

 「アンナのせいじゃない!虐める奴が悪いんだ。
 それに、きっと全部リィナが仕組んだことだろ!!」

 「ユーリ!」

 私はユーリを止めようとした。

 どんなに私達が彼女に何もしていないと言っても、彼女はヒロインだし、ジョシュア様はリィナの幼馴染だ。リィナの言葉を信じるに決まっている。それに彼女がやったなんて証拠がない。

 それでも、ユーリは止まらない。

 「全部あの女が仕組んだことに違いない!!
 猫ばっか被りやがって…!!」

 その時、ルフト先生が呟いた。

 「リィナ…か。なら、納得だな。」

 「はい。」

 それに同意するようにジョシュア様も頷く。

 え?は?……な、納得?
 ルフト先生だけじゃなく、ジョシュア様までー

 「ん?どした?」

 キョトンとする私にルフト先生とジョシュア様の視線が刺さる。

 「あ、あの……
 リィナさんがやったなんて証拠は無いんですよ?」

 「今はな。探せば出てくるはずだ。」

 ジョシュア様が即答する。

 「彼女がそんなことするはずない、とか言わないんですか?」

 「特に不思議はないな。
 アンナには前に言っただろ、嫌な感じの魂だって。」

 ジョシュア様も何ら疑問は持っていないようだ。

 「で、でも、ジョシュア様はリィナさんの幼馴染でー」

 「そうだな。今まではそのこともあって気にかけていたが……リィナは私の大事な人を傷つけた。許すつもりはない。」

 そう話すジョシュア様の目は鋭い。
 そうだよね…妹のソフィアが嫌がらせを受けていたんだもの。怒らないはずがない。

 ジョシュア様は言葉を続ける。

 「それに……リィナは変わった。」

 「変わった?」

 ユーリが首を捻る。

 「あぁ。幼馴染として仲良くしていた頃とは人が変わったようだ。昔のリィナは人の気持ちをよく考えられる奴だったのに…。」

 それをルフト先生が遮る。

 「ジョシュア。昔話に浸るのは止めにして、本題に入ろう。今、何が起こってる?なんで、ソフィアとアンナが標的になっているんだ?」

 ジョシュア様の無言の圧力が私とソフィアに向けられる。どこからどう説明したらいいのかと悩む私より、先に口を開いたのはソフィアだった。

 「はぁ……もうお兄様がそこまで知っているなら、隠している意味もありませんね。話さなければ調べるでしょうし。

 …アンナ、私から説明するわ。いいわね?」

 「……うん。」

 ソフィアは資料室でリィナが私に手を上げた日のことから話し出した。そして、その後、リィナを中傷するメッセージが書かれた日から私達が犯人として疑われたことがきっかけで、いじめの標的となっていることを。

 ジョシュア様は怖い顔をしながら話を聞いていた。
 ルフト先生は首を傾げている。

 「…なんでリィナはそんなにアンナを目の敵にしてるんだ?」

 「それは……。」

 何で説明したらいいのか、言葉を続けられないでいる私を助けてくれたのは、またしてもソフィアだった。

 「アンナが殿下の婚約者だからではないでしょうか。
 リィナさんは、魔力もあり、容姿端麗なので、もしかしたら自分が殿下のお相手になれるのではと夢を見たのでしょう。」

 「じゃあ、嫉妬ってことか…。醜いな。」

 ルフト先生が吐き捨てるように言うと、ソフィアがそっと俯いた。しかしー

 「嫉妬することは至極真っ当な人間らしい感情だろ。
 問題はリィナのやり方だ。」

 そう言ったのは意外にもユーリだった。
 
 次にジョシュア様が口を開いた。

 「とにかくこれ以上、ソフィアとアンナに手出しをさせるわけにはいかない。二人とも俺に任せてくれるか?」

 「ありがとうございます。お兄様。」

 「ごめんなさい…ジョシュア様…。私のせいでー」

 ジョシュア様は優しく私の頭を撫でてくれる。

 「アンナのせいじゃない。
 それに、頼ってって言っただろう?

 ……私は、アンナを傷つけた者を許すつもりはない。」

 「……わ、私?」

 「あぁ。……私の大事な人、だ。」

 私をじっと見つめるジョシュア様の目は真剣で…
 その美しい紺碧の瞳に囚われたように私は動けなかった。

 …ジョシュア様の大事って、どう言う意味でー
 
 その時、向かい側でコソコソとソフィアとユーリが会話をするのが聞こえた。
 
 「おい、ソフィア。お前忘れられてねぇか?」

 「お兄様は私が話さなかったことを怒ってますから。」

 「それにしたってー」

 ジョシュア様が呆れたような顔をユーリに向ける。

 「煩い。心配しなくても、ちゃんとソフィアの分もお返ししてやるさ。
 ですよね、先生?」

 「あぁ。可愛い妹を泣かせた報いは受けてもらわなきゃな。」

 ルフト先生がそう言うと、今度はソフィアが膨れる。

 「な、泣いてませんけど!!
 大体私はルフト様の妹じゃー……」

 「は??先生の妹?ソフィアが?どう言うことだ?」

 そこからは、ユーリにソフィアとルフト先生のことを説明したり、ツンツンするソフィアを宥めたり、なんだか賑やかに過ごした。

 ジョシュア様とルフト先生という心強い味方を得て、問題は解決していなくても、私は久し振りに心から安心して笑うことが出来た。
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