親友のために悪役令嬢やってみようと思います!

はるみさ

文字の大きさ
上 下
32 / 99
第二章 

5.魔力検査

しおりを挟む
 今日は魔力検査の日だ。

 新入生一人一人が水晶に触れ、魔力の有無を確認していく。魔力の有無は国の発展にも大きく関わることから、国の重鎮も参加するほど、検査というより厳かな儀式とも言える。

 ゲームの記憶によると、今年の魔力持ちはライル様、ウィルガ、そしてヒロインのリィナの三人だ。

 魔法の属性は四つ、火・水・風・土なのだが、確かライル様が火、ジョシュア様が風、ウィルガが土、リィナが水、魔法の天才とも言われるルフト先生は驚くべきことに二つの属性を有しているらしい、何の属性かは知らないが。

 名前を呼ばれ、一人一人が水晶に触れていく。

 まずはウィルガ。

 ゲームは別として、大きくなった姿を見たのはこれが初めてだ。ウィルガは私のような中途半端な赤茶色ではなく、綺麗な赤髪だ。瞳は焦茶色の深い色をしている。
 まさに見た目はゲームのまま。

 ウィルガが水晶に手を翳すと、水晶の中には緑の大地が映し出される。

 「土属性の魔力を確認しました。」

 国家魔法使いのお爺さんが厳かに告げる。
 会場がおぉ…っとざわめく。

 ウィルガは大して表情を変えることなく降壇する。

 また十何人か水晶に手を翳し、次はリィナだ。今日もとても可愛い。

 緊張した表情で水晶に手を翳す。
 水晶の中には、美しい川が映し出された。

 リィナはそれを見て、嬉しそうに頬を緩めた。

 「水属性の魔力を確認しました。」

 またしても会場がざわめく。属性持ちにざわめいたのか…彼女の可愛すぎる笑顔にざわめいたのか…。
 中には「なんであの子が…」と恨めしそうな声が混ざっていたが。

 次はソフィアだ。

 緊張したように水晶に手を翳すが、水晶は他の生徒と同じように反応しない。ソフィアは毅然としながらも、どこか悲しそうだった。

 ……そんなに魔力が欲しかったのかな?

 私はソフィアがそんなに残念がるのが不思議だった。どこかに嫁ぐだけなら、魔力なんてなくても大して問題は無いと思うのだけど…。

 「ーアンナ・クウェス!」

 ソフィアのことを考えているうちに名前を呼ばれていたらしく、少しきつい口調で名前を呼ばれる。

 「は、はいっ!!」

 慌てて壇上に向かうのを、ユーリがクスクスと笑うのが、横目に見えた。そして、それを面白くなさそうな顔で睨みつけるライル様も。

 私は水晶の前に立ち、手を翳す。何かが映るはずもないと分かってはいるが、緊張する一瞬だ。

 …と、信じられないことに、水晶の中にはメラメラと燃える炎が映った。

 「いや…っ!」

 反射的に炎が怖くて、声を上げて手を引いてしまった。
 不思議な顔をして、皆が注目しているのが分かる。

 国家魔法使いが告げる。

 「…火属性の魔力を確認しました。」

 会場からの反応はない。私は、急いで壇上から降り、席についた。

 ……まさか自分に魔力があるなんて思わなかった。
 それによりによって火属性なんてー。

 頭に先日、炎に囲まれた時の光景が浮かんで、私はそれをかき消したくて、ぎゅっと目を瞑った。身体が震えているのが分かる。

 すると、目の前から声がして、ぎゅっと手を握られた。

 「アンナ。大丈夫?」

 ライル様だった。

 「アンナ、ちょっと休んだ方がいい。ひどい顔色だ。
 すぐに連れて行くからちょっと待ってて。」

 ライル様はそう言うと、待っている人にお願いをして、先に検査をやらせてもらうことにしたらしく、素早く壇上に上がった。

 ライル様は水晶に手を翳すとすぐに引っ込めた。
 水晶の中には一瞬だが炎の海が映った。

 「あ…火属性の魔力を確認しました…!」

 ライル様は私に炎を見せないよう配慮して、すぐに手を引いてくれたのかもしれない。

 ライル様は大して喜びもせず、壇上を降りて、私の元へ戻ってきた。そうすると、お姫様抱っこで抱き上げた。

 「ラ、ライル様…!!」

 「そんな顔色じゃ歩かせるのも心配だ。行くよ。」

 そう言って、私を抱いて、会場を後にする。
 会場中から突き刺さるような視線を感じて、私は顔を隠すようにライル様の肩に顔を埋めた。

 保健室に向かいながら、ライル様が私に尋ねる。

 「……火が怖かった?」

 私はコクンと頷いた。

 「……この前、炎に囲まれた時からなんだか怖くて。
 あと、最近よく夢でも火事に遭うんです。」

 火事に遭うのは決まって知らない場所だ。しかし、恐らくあれは杏奈の家なような気がする。それにこの前、侑李の声が頭の中で響いたのは、杏奈の記憶だったんじゃ無いかと思っている。……杏奈は火災で亡くなったのかも。

 とはいえ、そんなことをライル様に話せないので、夢の話だけすることにした。

 「そうか……。
 嫌な夢を封印する魔法があったらいいのにね。」

 ライル様が冗談を言って、私を落ち着かせてくれる。
 その優しさが嬉しい。

 「……いつも、ありがとうございます。
 でも、こんな風に抱っこまでしてくれて……ライル様はちょっと私に対して過保護ですよね。」

 「アンナに対してはね。大事だから、仕方ない。」

 平然と言いのけるライル様に私は顔に熱が上る。
 ……何度言われても慣れない。それにー

 「私、ライル様に好かれるようなこと、何もしてないのに……。」

 「ふふっ。僕はアンナが何かをしてくれるから、好きなわけじゃないよ。アンナはアンナのままでいいんだ。」

 「私は私のまま……。」

 ライル様の言葉を繰り返してみるものの、ありのままの私のどこがいいのか分からない。

 険しい表情の私を見て、ライル様はクスクスと笑う。

 「いつか話せる時が来たら、ゆっくり聞かせてあげるよ。」

 ライル様はそう言って、チュッとリップ音を立てて、私のこめかみにキスをした。

 「…っもう。」

 ……ライル様は、いつだって優しくて、揺るがずに私を好きだって言ってくれて、大切にしてくれる。この気持ちに私も好きだって返せたら、どんなに幸せだろう…と思う。

 だけど、ライル様を大切だと思う私のこの気持ちさえ悪役令嬢として作られたものかもしれないと思うと…怖い。

 そんなはずないと思っても、私の頭にはいつも愛おしくリィナを見つめて、寄り添うライル様のゲームのラストシーンの表情が浮かぶ。

 そして、同時に落ちた馬車の光景もー。

 好き…だなんて思っちゃいけない。
 私のライル様でいて欲しいなんて思っちゃいけない。

 今はどんなに優しくても、きっとライル様が愛するのはヒロインであり、悪役令嬢ではないのだから。

 私は溢れ出しそうになる自分の気持ちにぐっと蓋をしながらも、ライル様により強くしがみついた。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

処理中です...