親友のために悪役令嬢やってみようと思います!

はるみさ

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第一章

20.突然の再会

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 今日はいよいよ交流会だ。

 私は鏡の前で気合を入れる。
 その時、扉がノックされた。

 「お嬢様、こちらも準備が整いました。」

 「どうぞ、入って。」

 扉が開き、入ってきたのは、とても可愛らしい令嬢だった。

 「ティナ!!とっても可愛いわ!!」

 「ア、アンナ様…ほ、本当に大丈夫でしょうか?」

 ティナは顔を赤く染めながら、おどおどと手元を弄っている。元々可愛いらしい顔つきをしているとは思っていたが、着飾ることでここまで美しくなるとは…!

 長く目元を隠していた前髪が後ろに撫で付けられたことで、ティナの健康的で滑らかな肌と大きな茶色の瞳が露わになった。普段はウェーブがかっている焦茶色の髪は今日は綺麗に編み込まれて、ワンポイントでピンク色のリボンが飾られている。

 そう、いつかジョシュアがティナ達にプレゼントした、あのリボンだ。

 「大丈夫どころか、期待以上だわ!どこからどう見ても貴族令嬢よ!ティナは本当に可愛らしい顔をしているのね!」

 「そ、そんな…っ!可愛いというのは、アンナ様みたいな方のことですから!!」

 ティナは真っ赤な顔を隠すように顔の前で手をパタパタと振る。

 「いやいや、そんなことないわよ。本当に可愛い。
 昔から可愛いって言われていたでしょう?」

 私がそう笑いかけると、ティナは困ったように笑いながら、首を横に振った。

 「いえ…可愛いと言う言葉はいつも隣にいる姉に送られる言葉でしたから…。」

 「そう、なの?」

 ティナのお姉さんには会ったことがないが、そんなに可愛いのだろうか?

 「はい。姉は私みたいな平凡な髪色ではなく、桃のような綺麗なピンク色の髪なんです。瞳もどこか神秘的なピンクが混ざった茶色の瞳で…。我が姉ながら、本当に可愛いのです。」

 どこか寂しそうに俯くティナに近づき、私はその顎を掴み、顔を上げさせた。

 「へぇ。でも、私はティナの方が好きよ。なんたって、友人のために貴族の中に飛び込むなんて、普通出来ることじゃないもの。
 頑張り屋さんで、優しい貴女が大好きよ。」

 「アンナ様…。」

 ティナは頬を赤らめ、瞳は潤んでいる。

 「私も……私もアンナ様が大好きです!ここまでしてくれたアンナ様のためにも、必ずジョシュアの誤解を解いてみせます!!」

 良かった、元気になってくれたみたい。

 「ふふっ。その意気よ!!

 そう言えば、今日のことをお姉さんには?」

 「……話してないんです。姉にも何度もトマスとジョシュアのことを相談しているのですが、時間が解決してくれるから余計なことをするなと怒られてしまうからー」

 「時間が解決…?」

 「はい。何を根拠に言っているのか教えてくれないんですが、あと数年もすればまた元通りになるから大丈夫…と。

 でも、私は…トマスがずっと寂しそうにしてる姿を見てるのに数年も待てません…。」

 「そうよね…。ティナ。
 今日、絶対成功させましょうね!!」

 「はい!どうぞ宜しくお願いします!」

 私たちは交流会の会場に向かうべく、馬車に乗り込んだ。


   ◆ ◇ ◆


 今日の作戦は、ずばり交流会でティナとジョシュアを会わせることだ!

 交流会に参加する旨は、ティナの身分を明かさないという約束でライル様に許可してもらった。ライル様自身はそんなに上手くいくかと懐疑的だったが。

 ティナを伴って、交流会に参加すると、すぐに人に囲まれた。前回はソフィアに助けてもらったが、今回は自分で対応できる…はず。

 私は「一人ひとり、お話を…」と言って、丁寧に、かつ短く挨拶を交わしていく。私の傍らに立つティナに興味を示し、「そのお綺麗な御令嬢はどちらの…?」と聞いてくる令息も多かったが、「事情があり、まだお伝えできませんの。」と言って、オホホと笑ってみせた。

 …私も随分と貴族令嬢が板についてきた気がする!

 一通り挨拶を終えると、ソフィアが近付いてきた。ソフィアの隣には、ジュリーがいた。

 「アンナ。」

 「ソフィア!ジュリー!

 調子はどう?」

 「えぇ。まだまだみんなから変な目で見られてはいるけど、今日は特にまずいことは言ってない…と思うわ。」

 ソフィアが恐る恐るジュリーをチラッと見る。

 ジュリーは綺麗に口角を上げる。
 ……まるでマナーの先生みたい。

 「そうですわね。なかなか上出来ですわ。お茶会で特訓した甲斐がありました。」

 ジュリー先生も満足の結果らしい。やっぱりソフィアはどんな面においても優秀だ。

 ソフィアが私の隣のティナに気付く。

 「アンナ、そちらの御令嬢は?」

 「え?……えーと。」

 一瞬、ソフィアに本当のことを話すべきか迷う。

 「あ……ティナと申します。」

 ティナは付け焼き刃の礼を取る。

 「貴女ー」

 「ソフィア!」

 ソフィアが何か言おうとした時、その後ろからジョシュア様がやって来て、ソフィアの腕を引いた。

 「さっきからどう言うつもりなんだ?!他の奴らとは馴れ合うなとあれほどー」

 「ジョシュア……」

 ティナがジョシュア様の名を呟いた。

 すると、ジョシュア様の動きが止まり、その紺碧の瞳でティナを捉えると、目が見開かれる。

 「その、リボン……!
 …まさか……ティナ、なのか……?
 
 なんで…ここに……。」

 沈黙がその場を包む。

 ジョシュア様はキッと私を睨み付ける。

 「アンナ嬢…これはどういうことだ?
 何故ティナをここに連れてきた?」

 「私はー」

 私が話そうとすると、ティナが私を庇う。

 「違うの!私がジョシュアに会いたいとアンナ様に頼んだのよ!アンナ様は私を助けてくれただけなの!」

 ティナが声を張り上げたことで、周りに注目されてしまった。周囲からは「ジョシュア様を呼び捨てにするなんて」「誰なの、あの見たこともない娘は?」とざわめき始めてしまった。

 しかし、ジョシュア様は柄にもなく興奮しているようで周りが見えていない。

 「ティナには聞いていない!

 …ティナをこんなところに連れて来るなんて…許さない。」

 ジョシュア様に先ほどから思い切り睨まれて、正直怖い。人にここまで憎らしく見つめられたことは無いと思う。

 でも、私も負けるわけにはいかない。

 「その理由を説明致します。宜しければ、私とティナと共に別室へ来ていただけますか?」

 ジョシュア様は訝しげに私を見つめる。

 「……何を企んでいる?
 ティナを人質にして、私を脅すつもりか?」

 「そんなことをするつもりはございません。ただジョシュア様と腰を据えてゆっくりとお話をしたいだけです。」

 「……お前の言うことなど信じられん。」

 ジョシュア様はふいっと顔を逸らす。

 …こいつー!!どれだけ疑り深いのよ!!
 さっさと付いて来なさいよ!!

 私は今にもキレそうだ。引き攣る顔で、ジョシュア様に再び話を聞いてくれるようお願いする。

 「私の言葉は信じていただかなくて結構です。
 ティナの話を聞いてください。」

 「何が目的だ?……本当に目障りな女め。」

 「今の言葉は聞き捨てならないな。」

 ジョシュア様の物言いに周りが再びざわめいた時、ある人の声が響き、会場に緊張が走った。

 「ライル様…!」

 「アンナ、遅くなって悪かったね。」

 ライル様は私の隣に立ち、腰を抱いた。
 …なんかこの人、どんどん距離が近くなってく気がするんだけど…。でも、今はそれを指摘してる場合じゃない。

 「しかし!殿下、アンナ嬢がこちらの娘をー」

 ジョシュア様が言いつけようとするのを、ライル様が遮った。

 「ジョシュア。ティナ嬢の参加は僕が許可したことだよ。文句があれば僕に。

 それと先程の態度はなんなの?アンナは僕の婚約者であり、未来の妃だよ。それを『目障りな女』などと…。君がこんなに愚かな者だとは知らなかった。これはアンナを婚約者として選んだ僕に対する立派な不敬だと思うんだけど。」

 えー…。そんなこと言っちゃっていいの?!ヒロインがいるから、未来の妃になんてなれないと思うんだけど…。

 温厚なライル様が怒る姿など皆見たことが無かったため、会場の空気は張り詰めている。

 「……申し訳ございません。」

 ジョシュアの謝罪の声が響く。

 「アンナへ謝罪を。」

 ライル様が低い声で命令する。

 「……アンナ嬢、大変失礼致しました。」

 不本意そうにジョシュア様が謝罪する。私はさすがに苦笑いだ。それでも、話を聞いてくれるなら何でも良い。

 「いえ…。あの、お話を聞いてくださいますか?」

 「……かしこまりました。」

 その返答を聞き、ライル様はニコッと笑う。

 「では、行こうか、アンナ。
 ティナ嬢とジョシュアもついて来るように。

 他のみんなは、引き続き交流会を楽しんでくれ。
 私の愛しい婚約者がお騒がせしたね。」

 また最後にライル様が余計なことを言う。それに御令嬢達がキャーと盛り上がる。最近、お茶会ではライル様の私への寵愛がどうのこうのとよく話題に上がるらしい。本当に婚約破棄された時に痛々しいからほどほどにしていただきたい。

 私が溜息を吐いたのをソフィアは心配そうに見つめている。私はソフィアに少しでも安心してもらいたくて、こっそりVサインを送って、会場を後にした。
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