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第一章
16.謹慎
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「ティナさん……詳しく話を聞かせてくれるかしら?」
そう私が言うと、彼女は大きくコクリと頷いた。
しかし、その時、遠くで「アンナー!」と大声で私を呼ぶ声が聞こえた。まずい……お父様だ。
お父様が今この状況を見たら、きっと二人にものすごく迷惑を掛けてしまうことになる。下手したら、誘拐とかと勘違いされてしまう。
「ティナさん、また話を聞きにくる!待ってて。
ユーリ、本当に本当に有難う。この恩は忘れないわ!」
それだけ二人に言い残すと、私は足の痛みをなんとか我慢して、走り出した。道の真ん中に出ると、すぐそこまでお父様が来ていた。
「はぁ…はぁ…、お父様…。」
「アンナっ!!」
お父様は私を見つけると、駆け寄り、ギュッと私を抱きしめた。
「良かった…。俺はてっきり攫われたのかと…!」
「ごめんなさい…お父様。平民街を知りたくて、私が一人で逃げ出したの。オルヒも護衛も悪くないの。
本当にごめんなさい…。」
「……その話はまた後だ。まずは馬車に乗りなさい。平民のような格好でこれ以上歩かせるわけにはいかない。」
私はお父様に抱き抱えられて、馬車へ乗せられた。
今日ばかりは流石のお父様もかなりご立腹のようだった。馬車に乗っても、一言も話さない。お父様の発する重苦しい雰囲気に言葉が出てこない。
私はギュッとユーリから買ってもらった平民服のスカートを握りしめた。
◆ ◇ ◆
屋敷に帰ると、オルヒがワンワンと泣いて、私にしがみついてきた。一人にして申し訳ありませんでした!とオルヒは全く悪くないのに、私に謝る。護衛の騎士にも謝られて、私は本当に悪いことをしてしまったんだと思った。
夕食の前に風呂に入れられ、着替えをさせられた。
重苦しい雰囲気のまま、食事を終える。
いつもは楽しい食後のお茶も今はただただ苦いだけだ。
お父様が厳しい表情のまま、私を見つめた。
「アンナ。何故あんなことをした。」
「……平民街に行ってみたかったのです。」
「だとしても、一人で行くことはなかろう。」
「……行きたいと言えば、止められると思いました。」
「それでも一人で行くよりはましだ。」
「……申し訳ありません。」
「アンナ。私はお前に甘すぎたようだ。
今回の件により、オルヒは一年間の減俸。お前の護衛についていた騎士は解雇とする。」
私は思わず立ち上がった。
「お父様っ!!今回の件は私が勝手にやったとこで、彼らに非はありません!!」
お父様は私に厳しい視線を向けた。
「それでも、だ。オルヒはともかく、騎士として十三歳に出し抜かれるとはあまりにも情け無い。」
「そんな…っ、彼らは何も悪くないんです!
お願いです!!私への罰なら何でも受けます!ですから、彼らを解雇させることはどうか…どうかお考え直し下さい!!」
頭を深く深く下げて、お父様に頼む。しかし、お父様の判断は非情なものだった。
「駄目だ。解雇はもう決めたことだ。
自分の行動が周りにどんな影響を及ぼすか、これを機によく考えろ。」
「お父様…!」
「アンナ、お前には今後三ヶ月の間、一切の外出及び他者との接触を禁じる。」
「……っ。」
「私は本気だ。お茶会も禁止だ。」
「お茶会も……。」
交流会まで時間がないのに…!
…せっかくユーリのお陰で手掛かりを見つけたのに。
私は悔しさに唇を噛み締める。
「庭園の散歩のみ許可しよう。
だが、走ることも木刀を持たせるのも止めることにする。お前が身体を鍛えるとろくなことにならんと言うことが今回分かったのでな。」
走るのも駄目だなんて…。
「……交流会は…出れますか?」
「そうか…次はあと三ヶ月後だったか。
分かった。謹慎期間は交流会前日までだ。交流会への参加は許そう。」
「……ありがとう、ございます。」
私はフラフラと自室に戻った。
こんなにみんなに迷惑をかけることなるとは思わなかった。……でも、少し考えたら分かることだったのに。私は馬鹿だ。
ベッドにゴロンと寝転べば、自分の情けなさに涙が出てくる。
「みんな、ごめんなさい……。」
私は知らない間に眠っていた。
◆ ◇ ◆
あれから護衛の騎士が解雇された。私が二人に謝罪をすると、気にしないでくださいと苦笑していた。生活は大丈夫かと尋ねると、新しい職場をお父様に紹介してもらったからと言っていた。その言葉でほんの少しだけ私の気持ちは落ち着いた。
オルヒにも謝罪をしたが、オルヒは「お嬢様の側にいられるだけで幸せです」と言ってくれた。オルヒはあまり休みも取らないし、お金の使い道もないと言い、減俸なんて大した罰じゃないと笑ってくれた。
それでもやはり、私の行動により無関係の人が処罰されたことは、私の中で大きなストッパーとなり、私は言いつけ通りに過ごした。
ティナさんのことは勿論気になったが、私には何も出来なかった。もう一度平民街に行くわけには行かないし、行く手立てもない。
ユーリからは王都を出発したと手紙が届いた。ティナさんの働いている場所を聞いてくれたらしく、そのお店の名前と場所を記して送ってくれた。
勿論もう行けるはずもないのだが。
ソフィアには…この一連のことを伝えられなかった。
きっとものすごく心配してしまうだろうと思ったから。
手紙には屋敷内でボヤ騒ぎを起こしてしまい、謹慎することになったと書いた。
そういう訳で、私は元の生活に戻っていたのだった。
交流会まではあと二週間ほどしかないが、私はジョシュア様の問題を解決することを半ば諦めていた。
しかし、そんな時でもお父様から面会を許されたのが、ライル様だった。
そう私が言うと、彼女は大きくコクリと頷いた。
しかし、その時、遠くで「アンナー!」と大声で私を呼ぶ声が聞こえた。まずい……お父様だ。
お父様が今この状況を見たら、きっと二人にものすごく迷惑を掛けてしまうことになる。下手したら、誘拐とかと勘違いされてしまう。
「ティナさん、また話を聞きにくる!待ってて。
ユーリ、本当に本当に有難う。この恩は忘れないわ!」
それだけ二人に言い残すと、私は足の痛みをなんとか我慢して、走り出した。道の真ん中に出ると、すぐそこまでお父様が来ていた。
「はぁ…はぁ…、お父様…。」
「アンナっ!!」
お父様は私を見つけると、駆け寄り、ギュッと私を抱きしめた。
「良かった…。俺はてっきり攫われたのかと…!」
「ごめんなさい…お父様。平民街を知りたくて、私が一人で逃げ出したの。オルヒも護衛も悪くないの。
本当にごめんなさい…。」
「……その話はまた後だ。まずは馬車に乗りなさい。平民のような格好でこれ以上歩かせるわけにはいかない。」
私はお父様に抱き抱えられて、馬車へ乗せられた。
今日ばかりは流石のお父様もかなりご立腹のようだった。馬車に乗っても、一言も話さない。お父様の発する重苦しい雰囲気に言葉が出てこない。
私はギュッとユーリから買ってもらった平民服のスカートを握りしめた。
◆ ◇ ◆
屋敷に帰ると、オルヒがワンワンと泣いて、私にしがみついてきた。一人にして申し訳ありませんでした!とオルヒは全く悪くないのに、私に謝る。護衛の騎士にも謝られて、私は本当に悪いことをしてしまったんだと思った。
夕食の前に風呂に入れられ、着替えをさせられた。
重苦しい雰囲気のまま、食事を終える。
いつもは楽しい食後のお茶も今はただただ苦いだけだ。
お父様が厳しい表情のまま、私を見つめた。
「アンナ。何故あんなことをした。」
「……平民街に行ってみたかったのです。」
「だとしても、一人で行くことはなかろう。」
「……行きたいと言えば、止められると思いました。」
「それでも一人で行くよりはましだ。」
「……申し訳ありません。」
「アンナ。私はお前に甘すぎたようだ。
今回の件により、オルヒは一年間の減俸。お前の護衛についていた騎士は解雇とする。」
私は思わず立ち上がった。
「お父様っ!!今回の件は私が勝手にやったとこで、彼らに非はありません!!」
お父様は私に厳しい視線を向けた。
「それでも、だ。オルヒはともかく、騎士として十三歳に出し抜かれるとはあまりにも情け無い。」
「そんな…っ、彼らは何も悪くないんです!
お願いです!!私への罰なら何でも受けます!ですから、彼らを解雇させることはどうか…どうかお考え直し下さい!!」
頭を深く深く下げて、お父様に頼む。しかし、お父様の判断は非情なものだった。
「駄目だ。解雇はもう決めたことだ。
自分の行動が周りにどんな影響を及ぼすか、これを機によく考えろ。」
「お父様…!」
「アンナ、お前には今後三ヶ月の間、一切の外出及び他者との接触を禁じる。」
「……っ。」
「私は本気だ。お茶会も禁止だ。」
「お茶会も……。」
交流会まで時間がないのに…!
…せっかくユーリのお陰で手掛かりを見つけたのに。
私は悔しさに唇を噛み締める。
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だが、走ることも木刀を持たせるのも止めることにする。お前が身体を鍛えるとろくなことにならんと言うことが今回分かったのでな。」
走るのも駄目だなんて…。
「……交流会は…出れますか?」
「そうか…次はあと三ヶ月後だったか。
分かった。謹慎期間は交流会前日までだ。交流会への参加は許そう。」
「……ありがとう、ございます。」
私はフラフラと自室に戻った。
こんなにみんなに迷惑をかけることなるとは思わなかった。……でも、少し考えたら分かることだったのに。私は馬鹿だ。
ベッドにゴロンと寝転べば、自分の情けなさに涙が出てくる。
「みんな、ごめんなさい……。」
私は知らない間に眠っていた。
◆ ◇ ◆
あれから護衛の騎士が解雇された。私が二人に謝罪をすると、気にしないでくださいと苦笑していた。生活は大丈夫かと尋ねると、新しい職場をお父様に紹介してもらったからと言っていた。その言葉でほんの少しだけ私の気持ちは落ち着いた。
オルヒにも謝罪をしたが、オルヒは「お嬢様の側にいられるだけで幸せです」と言ってくれた。オルヒはあまり休みも取らないし、お金の使い道もないと言い、減俸なんて大した罰じゃないと笑ってくれた。
それでもやはり、私の行動により無関係の人が処罰されたことは、私の中で大きなストッパーとなり、私は言いつけ通りに過ごした。
ティナさんのことは勿論気になったが、私には何も出来なかった。もう一度平民街に行くわけには行かないし、行く手立てもない。
ユーリからは王都を出発したと手紙が届いた。ティナさんの働いている場所を聞いてくれたらしく、そのお店の名前と場所を記して送ってくれた。
勿論もう行けるはずもないのだが。
ソフィアには…この一連のことを伝えられなかった。
きっとものすごく心配してしまうだろうと思ったから。
手紙には屋敷内でボヤ騒ぎを起こしてしまい、謹慎することになったと書いた。
そういう訳で、私は元の生活に戻っていたのだった。
交流会まではあと二週間ほどしかないが、私はジョシュア様の問題を解決することを半ば諦めていた。
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