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第五章

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 「あぁ、本当に許せないことだ」

 「あと……パーティの時にクライ伯爵があることないこと話したというのも聞きました。私が男性と休憩室に入って行ったとかそういう嘘もついたと話してました」

 「そんな馬鹿馬鹿しい話を信じていた自分を殴ってやりたいよ」

 「……でも、私も軽率でした。アヴィス様を見たいがためにパーティに参加して、マナーとはいえ、名前も知らない男性とダンスを踊って……。アヴィス様がそれを見てどう思うかなんて考えてもいませんでした」

 私が下を向くと、アヴィス様は頭を撫でてくれる。

 「メロディアは、悪くないって言っているだろ。私を心配してパーティで様子を伺ってくれていたんだろう?」

 「ん……心配っていうのもあったし……、アヴィス様を見ていたくて……」

 「まったく……可愛すぎるな。ずっと見ててくれて……ありがとう。気付けなくて悪かった」

 私は涙を堪えて、ぶんぶんと首を横に振った。『ありがとう』の一言だけで、今までの想い、全てが報われる気がした。確かにあの日々は辛かったけれど、アヴィス様に恋をして、幸せだったのも事実だもの。

 「私こそ、たくさん待たせて……たくさん傷つけて、ごめんなさい。私、今こうやってアヴィス様と結婚できて、本当に幸せです。ずっと、ずっと一緒にいてください……」

 「……あぁ」

 しかし、ほんの少しアヴィス様の返答がぎこちない気がした。


 そこから、アヴィス様に促され、私は昨晩の続きを話した。屋敷にやってきた馬車に乗ったところ途中で伯爵が乗ってきたこと、伯爵から奴隷になるよう言われ拘束されたこと、奴隷商人に引き渡される直前でリュシーが助けてくれたこと。

 「すごい剣さばきだったんです。目にも止まらぬ速さで、二、三十人の奴隷商人をあっという間に制圧してしまって……」

 「調べたところによると、リュシアン王太子殿下は剣術のギフト持ちなんだそうだ。彼は護衛を付けずにふらっと出かけてしまうと聞いたが、そこまでの実力者とはすごいものだな。……だから、護衛も付けずに王都を歩き回っていたのか」

 「でも、私、彼が王太子殿下だとは知らなかったんです。前にうちに来た時も、『アンドリュー・マイシス伯爵』って名乗ってましたよね?」

 「それがマイシス伯爵は、後ろに護衛のように立っていた方だったんだ。王太子殿下は身分を隠すために、彼に護衛のように振る舞うよう命じたんじゃないかと思う。私はマイシス伯爵という名前が視察団の中に入っていることは確認していたが、外交大臣が面会を担当していたから、容姿まではチェックできていなかったんだ」

 アヴィス様によると、リュシーはフォード国の王太子であることを隠し、ここ数ヶ月王都に滞在していたらしい。アヴィス様もその事実を把握したのはごく最近で、それがまさかリュシーだとは思っていなかったようだった。しかし、王太子との会談に際し、絵姿を視察団から渡されたことで、今日リュシーが王太子であることに気付いたそうだ。

 「だが、正直リュシアン王太子殿下には癒しのギフトだとばれている可能性が高いな……。大国には他の国に比べ、ギフトに関する研究も進んでいるようだから、あの光が何か勘付いたのだろう」

 「どうなっちゃうんでしょうか……?」

 「それは……」

 アヴィス様は物音に気付き、窓際に立った。彼に付き従うように窓から外を覗くと、馬車が到着したのが確認できた。中からリュシーが出てくる。

 リュシーはこちらをじっと見つめている。私は怖くなって、アヴィス様の服の裾をキュッと握る。

 「絶対にギフト持ちだとは、言わないでくれ」

 アヴィス様は私の手を強く握った。


   ♪


 
 リュシーは、今までのリュシーとは違っていた。庶民に混ざって快活な笑顔を浮かべていた彼は、今は王太子然としていて、私を……私たちを厳しい目で見ていた。

 まず、昨晩の奴隷商人に関する出来事をアヴィス様が順を追って話していく。私がなぜ狙われたのか、どのようにあの晩、港に行くことになったのかまで、リュシーに伝えていく。ずっと厳しい目で見ていたリュシーが私が伯爵にどのように扱われたか聞いている時は、悲しみの色を浮かべていて、心配してくれているんだな……ということが分かった。

 リュシーは、厳しい王太子殿下の顔をしていても優しい人なんだわ……

 「分かった。情報を共有いただき、感謝する。後ほどこちらも詳細をまとめて送るとしよう。宰相夫人の前でこれ以上、この件については触れない方が良いだろうから」

 「ご配慮いただき、ありがとうございます」

 私とアヴィス様は二人揃って頭を下げた。

 「では……本題に移りたいと思うが、良いだろうか?」

 人払いをして、部屋には私たち三人だけになった。

 「まず……この堅苦しい話し方を辞めていいか? もうこないだ話したんだから、オレがどういう人間か分かってるよな?」

 「……かしこまりました」




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