癒しの花嫁は幼馴染の冷徹宰相の執愛を知る

はるみさ

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第二章

2-2

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 一番の不安が解消された私は、そこからまた深い眠りについたが、翌日には起き上がれるほどに回復した。そこで改めてアヴィス様から話を聞き、詳しい状況を知ることになった。

 初夜の日、私は突然気を失い、その直後にアヴィス様も酷い眠気に襲われ、意識を失ったらしい。そして、翌日目を覚ますと、身体の不調が全て改善されていたとのことだった。

 今回話を聞いて初めて知ったのだが、アヴィス様はずっと酷い頭痛と腰痛に悩まされていたらしい。それに加え、目もどんどん悪くなり、眼鏡をかけていても、目を細めないとよく見えなかった。不眠症もあり、目の下の隈も全く消えなかったが、目を覚ました時には驚くほど身体が軽く、目の下の隈も綺麗に消えていた、と話してくれた。

 「鏡に映った自分を見て、そう言えば自分はこのような顔をしていたな、と思い出した。多忙なこともあり、何年もろくに鏡を見ていなかったんだ。貧相な自分の顔も見たくないしな」

 「そんな……もちろん今のお顔も素敵ですが、以前のアヴィス様もお仕事に一生懸命な姿が魅力的でしたよ」

 アヴィスは私の返答にふんっと鼻を鳴らした。どうやら私の誉め言葉は届かなかった模様。

 「令嬢たちから『陰険眼鏡』と呼ばれていた私だ。本当にあの姿が魅力的だと言うのなら、君の趣味は相当特殊だな」

 「と、特殊……」

 そんなんじゃなくて、アヴィス様だから好きだからなんだけど……

 「まぁ、いい。私が元気になっても君が困ることはないだろ」

 「それはもちろんです。以前は見ていて心配になる程疲れておいででしたから」

 「そうか。ならいい」

 そう言って長い前髪を掻き上げる彼は、溜息が出るほど美しい。……見れる顔どころか、とんでもなく美しくなっていることに本人は気づいているのかな?

 「ついでに君がギフト持ちだということは、執事長のパデルにしか伝えていない。この国にいたいのであれば、君も口外しないように」

 「はい、勿論です。でも、私をギフト持ちだと診断したのは……」

 「私だ。あらゆる文献と照らし合わせた限り、そう判断した。また、鑑定石に反応があったことも確認している」

 「すごい、ですね……。早速ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

 「こんなこと造作もない」

 アヴィス様はそう言ってのけるけれど、このような事象が起きて、すぐにギフトだと判断できるその知識量がすごい。それに鑑定石も使ったというが、それはギフト大国であるフォード国がほぼ全てを所有しているはずだから、ルクス王国で入手するのは非常に困難だったはず。それをすぐに秘密裏に行えちゃうってアヴィス様はやっぱり有能。

 「おそらく、ギフトの能力は癒し。約百年前に現れたきり出ていない貴重なギフトだ。ギフトの発動条件は、過去の文献を見る限りは、体液の交換もしくは性交渉だと推測されるが、はっきりしたことはわかっていない。通常であればギフトは初回発動時に反動が大きく、二回目以降の発動からは寝込むこともないはずだが、様子を見たほうがいい」

 じゃあ、中途半端に終わった初夜はお預けかな……
 残念だが、彼の凶暴なアレに対する心の準備も必要だし、少し間が空くのは、ありがたいのかもしれない。

 「とにかく君は何も気にせず、好きなことをしながら、公爵夫人としてこの屋敷にいてくれればいい」

 「あの、公爵夫人としてのお仕事は……」

 「そんなことしなくていい」

 「……え、でも――」

 「母が死んでから、我が公爵家には女主人はいなかった。今更必要ないから、気にするな」

 必要ない……その一言がズンとお腹の底に重い鉛のように沈んだ気がした。

 確かにアヴィス様が一人で全てを切り盛りしてきたのだろうけど、これからは公爵家のお仕事については一緒にやっていけると……彼の負担を軽くしてあげられると思っていたのに。

 私は悔しくて、拳を握りしめた。

 「……余計なことはするなと?」

 「そうは言ってない。何も進んで慣れないことをしなくていいと言っているだけだ。好きなように過ごしたらいい」

 「好きなようにって……一人じゃなにも……」

 侯爵家にいる頃は、いつも屋敷にお母様かフェルがいた。一人で刺繍などを楽しむこともあったが、公爵夫人になるための勉強の他の時間は、二人のどちらかと過ごすことが多かった。

 「……節度ある範囲なら知人をこの屋敷に呼んでも構わない」

 「知人……?」

 私は首を傾げた。誰のことを言っているんだろう? 私には数年前ならともかく、現在の社交界で仲良くしていた令嬢もいないし、家族以外に積極的に呼びたい人はいなかった。

 彼はもう話を終わりにしたいのか、席を立って、扉に向かった。その背中は以前と比べ、丸まっていないのに、どこか小さく寂しそうに見える。

 「アヴィス様……?」

 「煩わしいだろうが、彼らとはギフトが発動しないような接触のみにしてくれ」

 「え?」

 私が言葉の意味を理解する前に、冷たく扉は閉められた。



 

 
 
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