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28.愛を交わす
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結論から言うと、何一つ夢ではなかった。
私はあの日、治癒術師として覚醒したらしい。
レティシアに宿るはずだった能力が私の中に残されていて、それがあのタイミングで発現したのではないかと言われた。あの時、心の底からアレス様を助けたいと思ったことでなのか、何がきっかけでそうなったのかは分からない。
でも、結果的にはあの日部屋の中にいて、私が放った光を浴びた人は、全ての怪我が治ったそうだ。だから、ルゥ君も、アレス様も、ゼノアも無事だったし、死傷者は一人も出なかった。
イリルも結局は身柄を拘束され、私が目覚めたときにはもう刑が執行された後だった。
私は治癒術を発動してから二週間も眠りについていたらしい。それだけ治癒術の使用は身体に大きな負担がかかるようだった。
そして、何故私が目覚めた時に裸でアレス様と寝ていたかと言うと……
「クレア、そんなに怒るなって。仕方ないだろ?
クレアが起きるのを待っていられる状況じゃなかったんだから」
ゼノアが面倒そうに頭を掻く。
私は頬を膨らませて、それに抗議した。
「わかってる! わかってるけど……
寝てる間に……その、やってたなんて、恥ずかしいに決まってるじゃない!! 私が眠ってる間に、三人とも私の身体を好き勝手してたってことでしょう?!」
アレス様が困ったように私を宥める。
「そんな……クレア、好き勝手だなんてーー」
「クレア、大丈夫だよ! 寝ててもクレアは最高に可愛かったし、寝てるのにちゃんと喘いで、締め付けて、すごい気持ち良かったよ!」
ルゥ君がそう言ってウインクを送ってくるが、私はそれを睨み返した。
「そういう問題じゃないっ!!
寝てる間に、あ……喘いだりなんかしないわ!!」
「いや、喘いでたぞ」
「だよねぇ?」
「そうだね、気持ちよさそうに」
三人して……ひどい! 私は三人からふいっと顔を背けた。
「……も、もう知らない!!」
「ご、ごめん、クレア! でも、私たちからしたら、クレアが感じてるのを見ることで生きてるって実感できて本当に嬉しかったんだよ。この二週間、ずっと不安だったから……」
「そうだぞ。どれだけ心配かけたと思ってんだよ。
無茶ばっかしやがって!」
「本当だよ! もう二度とあんなことしないでよね!!
クレアに何かあったら、僕たちだけじゃなくて、レティシアも悲しむんだからね!!」
……確かにまたたくさん三人に心配をかけてしまった。
それは素直に反省だ。
「うん……ごめんなさい。
でも、また三人の誰かが同じ目に遭ったら……私、同じことすると思う。だって、三人とも大好きなんだもの。傷つくのを見てなんていられない……」
三人は困ったように笑い、顔を見合わせた。
「じゃあ、クレアに守られないよう、もっと強くならなきゃね」
アレス様が笑顔でそう言うと、ルゥ君がうんうんと頷く。
「だね! まず僕は団長と副団長に勝って、騎士団一にならなきゃ!」
「は? なんでそこに俺は入ってないんだよ」
ゼノアがそう不満を漏らせば、ルゥ君は挑発するように下から顔を覗き込む。
「だってゼノアさんはまだ騎士団に復帰してないじゃん。この前やった総当たり戦にいなかったから、ランクは最下位、だよ?」
「はぁ?!
もう目が治ったんだから、すぐに一位になるっつーの!!」
「それはどうかな?
剣を握ってない期間があったから、鈍ってんじゃないのー?」
「ルゥシャ、てめぇ!
次の総当たり戦でボロボロにしてやるからな!!」
「できるもんならね! 僕は若いから成長スピードも早いよ?」
そんな二人の掛け合いを見て、思わず笑みが溢れる。
「本当によかった……」
「あぁ……全部クレアのおかげだよ。
私やルゥシャの傷も、ゼノアの目も治してしまうなんて」
「あんなことが出来るなんて思わなかったけど。
みんなの役に立てたことが嬉しい。ずっと何もできない自分が悔しかったからーー」
「ふふっ。クレアは何もできなくなんてないでしょ?」
アレス様がそう言えば、ルゥ君も私を褒めてくれる。
「そうだよ。クレアはすごいよ。
王妃様を守ったし、僕たちをこんなに変えた。一人でレティシアを守って産んで、最終的にはみんなの怪我まで治しちゃってさ」
いつの間にかゼノアが近くに来ていて、後ろからハグをしてくれた。甘えるように私の肩に顔を置いて、耳元にキスを落とす。
「いつも守られてるのは俺たちの方だ。
ありがとな、クレア……」
「ゼノア……」
「これからは僕たちが守るからね!」
「ルゥ君……」
「ちゃんと守られてね? クレア」
「アレス様……」
その時、レティシアが泣き始めた。お昼寝から目覚めたようだ。
ゼノアがベッドに行き、勢いよく彼女を抱き上げる。
「ほら、父さんだぞ! レティシア」
レティシアはキョトンとした後、微かに笑ったように見えた。
「クレア! レティシアが笑った!!
俺に笑いかけたぞ!!」
レティシアは何故かゼノアに抱かれるといつも泣いてしまっていた。ルゥ君や、アレス様は割と中性的な顔つきだが、ゼノアは男らしい顔つきだから怖いのだろうか? もしかしたら少し荒っぽい扱いが苦手なのかな?
でも、今日は笑いかけてもらえたからか、ゼノアは大興奮だ。
レティシアもなんだか嬉しそう。
「ふふっ、良かったわね」
レティシアの小さな笑い声と、ゼノアの嬉しそうな声。
その喜びように呆れるルゥ君と、優しく見守るアレス様。
今、間違いなく私は幸せだな……と思った。
◆ ◇ ◆
あれから三年が経ち、その間に色々なことが変わった。
隠された後宮の主であったはずの私は、今は国唯一の治癒術師として働いている。とは言え、体力の消耗が激しいため、治療にあたるのも週に二度だけだし、医師たちがどうしようもできない重症の患者さんを診るのが私の役目だ。
それでも、私の存在はたちまち国中に広まり、いつの間にか「聖女」なんて大層な呼び名が付けられていた。
私たちが住んでいた後宮も陛下に聖宮と新たに名付けていただき、その中の一室で治療も行なっている。
ただ一つ残念なのは、治療を進めるにつれて上手く力を使えるようになってきたものの、自分の呪いだけは治すことが出来なかったことだ。呪いの核を自分で感じ取ることは出来るが、自分の力は自らに及ぼせないようで、私は未だに呪われた身であり、定期的に精液を受ける必要があった。
でも、以前ほど不安になることはなかった。
私には愛する三人の夫が出来たから。
本来、この国では重婚が認められていない。しかし、今回は聖女の力を維持する必要性と、四人全員がそれを望んでいることを鑑み、特例で重婚が許可されたのだ。
騒ぎになるといけないので、式はささやかなものだったが、とてもあたたかく心地の良い時間をみんなと過ごすことが出来た。
三人は相変わらずだ。
アレスは団長として、時に厳しく変わらず騎士団をまとめ上げている。しかし、家である聖宮に戻ると、私とレティシアをベタベタに甘やかしてくる。最近なんて食堂から部屋まで歩くのは大変だろうと、レティシアはともかく、私まで抱っこで部屋まで連れて行こうとする。流石に恥ずかしいと訴えても、落ちるよ?と笑顔で言われれば、黙るしかない。そして、結局アレスは私をそのままベッドに沈めるのだ。
ルゥシャはメキメキと実力を付け、時々アレスに勝つまでに成長した。もう私より小さかった頃が思い出せないほど、背丈も大きくなった。可愛い可愛いと言われていた彼の顔つきもすっかり大人っぽくなって、今では大人の色気が漂っている。以前遊んでいたこともあってか、一晩でいいから抱いてほしいと多くの女性が彼にアプローチをかけるらしいが、それを容赦なく切り捨てているらしい。そのクールぶりがまた堪らないと言われているのを、彼は知らない。そんな彼もレティシアを溺愛している。でも、私には夜になると少し意地悪なところも相変わらずだ。
ゼノアは無事に騎士団一の称号を取り戻し、生き生きと剣を振っている。一時期、目が見えなかったことで、より感覚が研ぎ澄まされ、腕力や技術だけに囚われない剣が振るえるようになったと、過去の出来事も前向きに捉えているところがゼノアらしい。ゼノアも例に漏れず、親バカで今からレティシアは嫁にやらないと無駄な宣言をしている。伯爵との仲も良好だ。伯爵も孫たちをとても可愛がってくれていて、月に一度、わざわざ聖宮まで会いに来てくれる。
レティシアもすくすく元気に育っている。弟が出来たせいなのか、甘えん坊により拍車がかかり、最近私を独占しようとするのは困ったものだが、そんなところも含めて可愛くて堪らない。
レティシアが私にべったりなので、弟のオルトゥスは三人の父親に代わる代わる抱かれている。彼は多少の雑な扱いも平気なのか、男同士がいいのか、三人に抱かれている時の方が機嫌が良いくらいだった。
オルトゥスは赤髪に紫の瞳とゼノアとアレス様の特徴を引き継いでいるにも関わらず、不思議なくらい顔の造形はルゥ君に似ていた。
でも、もうそんなことは三人には関係ないようだった。どんな子が産まれても三人なら深く愛してくれるだろうと思う。
「レティシア、これは誰?」
「ママ!」
「上手だな! レティシアは天才だ!!」
目の前ではお絵描きをアレスとゼノアに褒められて嬉しそうにレティシアがにこーっと笑った。その笑顔が移ったようについ頬が緩む。
私の隣ではルゥシャが私の腰を抱きながら、オルトゥスの顔を覗きこむ。
私たちの家族の形は、他の人たちとは違う。
でも、私の幸せはここにしかない。
とんでもない呪いから始まった関係だったけど、今ではこうなるのが必然だったのだろう……とさえ思える。いつ、この呪いがこの身から消えるかはわからないけど、三人がいてくれるなら怖くない。
私の耳元でルゥシャが囁く。
「今日は僕だからね?」
「わかってるわよ……もう。レティシアもいるのに……」
コソコソと話してたら、レティシアがこちらを睨みつけていた。
「いつもパパ達ばっかずるい!」
レティシアが向かいの席を降り、私とルゥシャの間にぐいっと割り入ってきた。
「おいおい、レティシアーー」
「レティもママと一緒に寝るの!!」
「いや、今日ママはパパと一緒に寝るんだ。ごめんね」
ルゥシャがレティシアを諭すように頭を撫でる。
「なんで?! なんでパパ達ばっかりママと寝るの?」
ルゥシャが少し考えてから、口を開く。
どう説明するのかと、私は緊張する。
「んー……パパ達はママと一緒に寝てるだけじゃなくて、ママの疲れを取ったりもしてるんだよ」
「ママのつかれ……? それって、この黒いモヤモヤ?」
「え?」
三人は意味がわからないようで、唖然としている。
だが、レティシアが言う意味が私にはわかった。患者の悪いところがあると、そこには黒いモヤがかかったように見えることがあるのだ。
……もしかしたら、レティシアにも治癒能力が? でも、もし覚醒したら、この小さな身体にどれだけ負担がかかるかわからない……
「レティシアがモヤモヤ取ったら、ママと寝られるよね!!」
戸惑う私を他所にレティシアはやる気満々の様子で、椅子から勢いよく立ち上がると腕まくりをした。
「レ、レティシア!?」
「モヤモヤなんて、消えちゃえー!!」
元気よくレティシアがそう唱え、私のお腹に手を向けると、じわっと下腹部が熱を持つ。しかし、それはほんの一瞬でーー
「出来たよ!」
周りにいた三人は、レティシアがふざけただけだと思ったらしく、レティシアの頭を撫でている。
「レティシアは優しいな。ママもきっと嬉しいと思うぞ」
「うん! だから、今日はママと寝ていいでしょ?」
三人は困ったように顔を見合わせ、ルゥシャがレティシアを膝の上に乗せた。
「あのね、レティシアーー」
下腹部に手を当てて、私は目を見開いた。どれだけ気配を探しても、今まで感じていた禍々しい核がなくなっている。
……私の身体から、呪いは完全に消えていた。
「消えた……」
私が言うと、三人は動きを止めた。
「「「は?」」」
「レティシアが……呪いを、消してくれた……」
驚きのあまり三人は固まっている。
一方でレティシアは「今日はママと寝れるー!!」と騒ぎながら、元気いっぱいに部屋の中を走り回っている。
奇跡を起こしたのに能天気な娘と、それについていけない三人の夫の唖然とした表情を見ながら、私は苦笑するしか無かった。
後日、遠くの魔法大国から呼び寄せた貴賓にレティシアの能力を見てもらったところ、レティシアには私の数倍の治癒能力とそれを操るのに十分な魔力があることがわかった。
それに加え、オルトゥスには魔法大国でも珍しいくらい多くの魔力量が備わっていて、ここまで魔力量があるなら、訓練を受ければ、火や水、風などを操る元素魔法を使うことも可能だろうと言うことだった。
我が子たちの規格外の才能に私たちは驚きつつ、苦笑するしかなかった。
◆ ◇ ◆
「あっ♡ひゃんっ♡♡こっ、こわれりゅ♡♡♡」
「すっげー締めつけてんぞ?」
「ほんと。嬉しそうにぎゅうぎゅう僕のを舐め上げてくる……っ」
「あっ♡はっ♡あっ♡あん♡♡♡」
蜜口にルゥシャのを、お尻にゼノアのを深く挿れられてズンズン揺さぶられる。もう何回イったかわからない。頭が真っ白に塗りつぶされ、何も考えられない……
その時、ガチャっと扉が開く音が遠くで聞こえた。
「あ、先に始めてたの? ずるいなー」
「団長、おつかれー」
朦朧とする意識の中、アレスの声が聞こえたと思ったら、優しく頭を撫でられる。
顔を上げると、優しく私を見つめてくれる紫色の瞳があった。
「ただいま、クレア。私も混ぜてくれるかな?」
私は、嬌声を上げることしか出来なかったが、それをアレス様は肯定と捉えたらしい。彼は、美しく妖艶に微笑んだ。
「ありがとう。愛してるよ、クレア」
アレス様がそう言えば、ルゥシャは私を下から揺さぶる。
「僕も。愛してる、クレア」
その攻めにまた目の前がチカチカしてくる。示し合わせたように私の弱いところをルゥシャとゼノアが両壁から責めてくれば、私は一際高い声を上げて、イく。
「クレア、好きだ……愛してる。
俺たちの愛を一生涯クレアだけに……っ」
ゼノアがそう言うのと同時に、私の中に入りきらないほどの白濁を吐き出す。その温かさに幸せを噛み締める。
こうして今夜も私はただ愛を交わすだけとなったその行為に、愛する三人の夫と溺れるのだった。
◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆
最後までお読みいただき、ありがとうございました(^^)
私はあの日、治癒術師として覚醒したらしい。
レティシアに宿るはずだった能力が私の中に残されていて、それがあのタイミングで発現したのではないかと言われた。あの時、心の底からアレス様を助けたいと思ったことでなのか、何がきっかけでそうなったのかは分からない。
でも、結果的にはあの日部屋の中にいて、私が放った光を浴びた人は、全ての怪我が治ったそうだ。だから、ルゥ君も、アレス様も、ゼノアも無事だったし、死傷者は一人も出なかった。
イリルも結局は身柄を拘束され、私が目覚めたときにはもう刑が執行された後だった。
私は治癒術を発動してから二週間も眠りについていたらしい。それだけ治癒術の使用は身体に大きな負担がかかるようだった。
そして、何故私が目覚めた時に裸でアレス様と寝ていたかと言うと……
「クレア、そんなに怒るなって。仕方ないだろ?
クレアが起きるのを待っていられる状況じゃなかったんだから」
ゼノアが面倒そうに頭を掻く。
私は頬を膨らませて、それに抗議した。
「わかってる! わかってるけど……
寝てる間に……その、やってたなんて、恥ずかしいに決まってるじゃない!! 私が眠ってる間に、三人とも私の身体を好き勝手してたってことでしょう?!」
アレス様が困ったように私を宥める。
「そんな……クレア、好き勝手だなんてーー」
「クレア、大丈夫だよ! 寝ててもクレアは最高に可愛かったし、寝てるのにちゃんと喘いで、締め付けて、すごい気持ち良かったよ!」
ルゥ君がそう言ってウインクを送ってくるが、私はそれを睨み返した。
「そういう問題じゃないっ!!
寝てる間に、あ……喘いだりなんかしないわ!!」
「いや、喘いでたぞ」
「だよねぇ?」
「そうだね、気持ちよさそうに」
三人して……ひどい! 私は三人からふいっと顔を背けた。
「……も、もう知らない!!」
「ご、ごめん、クレア! でも、私たちからしたら、クレアが感じてるのを見ることで生きてるって実感できて本当に嬉しかったんだよ。この二週間、ずっと不安だったから……」
「そうだぞ。どれだけ心配かけたと思ってんだよ。
無茶ばっかしやがって!」
「本当だよ! もう二度とあんなことしないでよね!!
クレアに何かあったら、僕たちだけじゃなくて、レティシアも悲しむんだからね!!」
……確かにまたたくさん三人に心配をかけてしまった。
それは素直に反省だ。
「うん……ごめんなさい。
でも、また三人の誰かが同じ目に遭ったら……私、同じことすると思う。だって、三人とも大好きなんだもの。傷つくのを見てなんていられない……」
三人は困ったように笑い、顔を見合わせた。
「じゃあ、クレアに守られないよう、もっと強くならなきゃね」
アレス様が笑顔でそう言うと、ルゥ君がうんうんと頷く。
「だね! まず僕は団長と副団長に勝って、騎士団一にならなきゃ!」
「は? なんでそこに俺は入ってないんだよ」
ゼノアがそう不満を漏らせば、ルゥ君は挑発するように下から顔を覗き込む。
「だってゼノアさんはまだ騎士団に復帰してないじゃん。この前やった総当たり戦にいなかったから、ランクは最下位、だよ?」
「はぁ?!
もう目が治ったんだから、すぐに一位になるっつーの!!」
「それはどうかな?
剣を握ってない期間があったから、鈍ってんじゃないのー?」
「ルゥシャ、てめぇ!
次の総当たり戦でボロボロにしてやるからな!!」
「できるもんならね! 僕は若いから成長スピードも早いよ?」
そんな二人の掛け合いを見て、思わず笑みが溢れる。
「本当によかった……」
「あぁ……全部クレアのおかげだよ。
私やルゥシャの傷も、ゼノアの目も治してしまうなんて」
「あんなことが出来るなんて思わなかったけど。
みんなの役に立てたことが嬉しい。ずっと何もできない自分が悔しかったからーー」
「ふふっ。クレアは何もできなくなんてないでしょ?」
アレス様がそう言えば、ルゥ君も私を褒めてくれる。
「そうだよ。クレアはすごいよ。
王妃様を守ったし、僕たちをこんなに変えた。一人でレティシアを守って産んで、最終的にはみんなの怪我まで治しちゃってさ」
いつの間にかゼノアが近くに来ていて、後ろからハグをしてくれた。甘えるように私の肩に顔を置いて、耳元にキスを落とす。
「いつも守られてるのは俺たちの方だ。
ありがとな、クレア……」
「ゼノア……」
「これからは僕たちが守るからね!」
「ルゥ君……」
「ちゃんと守られてね? クレア」
「アレス様……」
その時、レティシアが泣き始めた。お昼寝から目覚めたようだ。
ゼノアがベッドに行き、勢いよく彼女を抱き上げる。
「ほら、父さんだぞ! レティシア」
レティシアはキョトンとした後、微かに笑ったように見えた。
「クレア! レティシアが笑った!!
俺に笑いかけたぞ!!」
レティシアは何故かゼノアに抱かれるといつも泣いてしまっていた。ルゥ君や、アレス様は割と中性的な顔つきだが、ゼノアは男らしい顔つきだから怖いのだろうか? もしかしたら少し荒っぽい扱いが苦手なのかな?
でも、今日は笑いかけてもらえたからか、ゼノアは大興奮だ。
レティシアもなんだか嬉しそう。
「ふふっ、良かったわね」
レティシアの小さな笑い声と、ゼノアの嬉しそうな声。
その喜びように呆れるルゥ君と、優しく見守るアレス様。
今、間違いなく私は幸せだな……と思った。
◆ ◇ ◆
あれから三年が経ち、その間に色々なことが変わった。
隠された後宮の主であったはずの私は、今は国唯一の治癒術師として働いている。とは言え、体力の消耗が激しいため、治療にあたるのも週に二度だけだし、医師たちがどうしようもできない重症の患者さんを診るのが私の役目だ。
それでも、私の存在はたちまち国中に広まり、いつの間にか「聖女」なんて大層な呼び名が付けられていた。
私たちが住んでいた後宮も陛下に聖宮と新たに名付けていただき、その中の一室で治療も行なっている。
ただ一つ残念なのは、治療を進めるにつれて上手く力を使えるようになってきたものの、自分の呪いだけは治すことが出来なかったことだ。呪いの核を自分で感じ取ることは出来るが、自分の力は自らに及ぼせないようで、私は未だに呪われた身であり、定期的に精液を受ける必要があった。
でも、以前ほど不安になることはなかった。
私には愛する三人の夫が出来たから。
本来、この国では重婚が認められていない。しかし、今回は聖女の力を維持する必要性と、四人全員がそれを望んでいることを鑑み、特例で重婚が許可されたのだ。
騒ぎになるといけないので、式はささやかなものだったが、とてもあたたかく心地の良い時間をみんなと過ごすことが出来た。
三人は相変わらずだ。
アレスは団長として、時に厳しく変わらず騎士団をまとめ上げている。しかし、家である聖宮に戻ると、私とレティシアをベタベタに甘やかしてくる。最近なんて食堂から部屋まで歩くのは大変だろうと、レティシアはともかく、私まで抱っこで部屋まで連れて行こうとする。流石に恥ずかしいと訴えても、落ちるよ?と笑顔で言われれば、黙るしかない。そして、結局アレスは私をそのままベッドに沈めるのだ。
ルゥシャはメキメキと実力を付け、時々アレスに勝つまでに成長した。もう私より小さかった頃が思い出せないほど、背丈も大きくなった。可愛い可愛いと言われていた彼の顔つきもすっかり大人っぽくなって、今では大人の色気が漂っている。以前遊んでいたこともあってか、一晩でいいから抱いてほしいと多くの女性が彼にアプローチをかけるらしいが、それを容赦なく切り捨てているらしい。そのクールぶりがまた堪らないと言われているのを、彼は知らない。そんな彼もレティシアを溺愛している。でも、私には夜になると少し意地悪なところも相変わらずだ。
ゼノアは無事に騎士団一の称号を取り戻し、生き生きと剣を振っている。一時期、目が見えなかったことで、より感覚が研ぎ澄まされ、腕力や技術だけに囚われない剣が振るえるようになったと、過去の出来事も前向きに捉えているところがゼノアらしい。ゼノアも例に漏れず、親バカで今からレティシアは嫁にやらないと無駄な宣言をしている。伯爵との仲も良好だ。伯爵も孫たちをとても可愛がってくれていて、月に一度、わざわざ聖宮まで会いに来てくれる。
レティシアもすくすく元気に育っている。弟が出来たせいなのか、甘えん坊により拍車がかかり、最近私を独占しようとするのは困ったものだが、そんなところも含めて可愛くて堪らない。
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でも、もうそんなことは三人には関係ないようだった。どんな子が産まれても三人なら深く愛してくれるだろうと思う。
「レティシア、これは誰?」
「ママ!」
「上手だな! レティシアは天才だ!!」
目の前ではお絵描きをアレスとゼノアに褒められて嬉しそうにレティシアがにこーっと笑った。その笑顔が移ったようについ頬が緩む。
私の隣ではルゥシャが私の腰を抱きながら、オルトゥスの顔を覗きこむ。
私たちの家族の形は、他の人たちとは違う。
でも、私の幸せはここにしかない。
とんでもない呪いから始まった関係だったけど、今ではこうなるのが必然だったのだろう……とさえ思える。いつ、この呪いがこの身から消えるかはわからないけど、三人がいてくれるなら怖くない。
私の耳元でルゥシャが囁く。
「今日は僕だからね?」
「わかってるわよ……もう。レティシアもいるのに……」
コソコソと話してたら、レティシアがこちらを睨みつけていた。
「いつもパパ達ばっかずるい!」
レティシアが向かいの席を降り、私とルゥシャの間にぐいっと割り入ってきた。
「おいおい、レティシアーー」
「レティもママと一緒に寝るの!!」
「いや、今日ママはパパと一緒に寝るんだ。ごめんね」
ルゥシャがレティシアを諭すように頭を撫でる。
「なんで?! なんでパパ達ばっかりママと寝るの?」
ルゥシャが少し考えてから、口を開く。
どう説明するのかと、私は緊張する。
「んー……パパ達はママと一緒に寝てるだけじゃなくて、ママの疲れを取ったりもしてるんだよ」
「ママのつかれ……? それって、この黒いモヤモヤ?」
「え?」
三人は意味がわからないようで、唖然としている。
だが、レティシアが言う意味が私にはわかった。患者の悪いところがあると、そこには黒いモヤがかかったように見えることがあるのだ。
……もしかしたら、レティシアにも治癒能力が? でも、もし覚醒したら、この小さな身体にどれだけ負担がかかるかわからない……
「レティシアがモヤモヤ取ったら、ママと寝られるよね!!」
戸惑う私を他所にレティシアはやる気満々の様子で、椅子から勢いよく立ち上がると腕まくりをした。
「レ、レティシア!?」
「モヤモヤなんて、消えちゃえー!!」
元気よくレティシアがそう唱え、私のお腹に手を向けると、じわっと下腹部が熱を持つ。しかし、それはほんの一瞬でーー
「出来たよ!」
周りにいた三人は、レティシアがふざけただけだと思ったらしく、レティシアの頭を撫でている。
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「うん! だから、今日はママと寝ていいでしょ?」
三人は困ったように顔を見合わせ、ルゥシャがレティシアを膝の上に乗せた。
「あのね、レティシアーー」
下腹部に手を当てて、私は目を見開いた。どれだけ気配を探しても、今まで感じていた禍々しい核がなくなっている。
……私の身体から、呪いは完全に消えていた。
「消えた……」
私が言うと、三人は動きを止めた。
「「「は?」」」
「レティシアが……呪いを、消してくれた……」
驚きのあまり三人は固まっている。
一方でレティシアは「今日はママと寝れるー!!」と騒ぎながら、元気いっぱいに部屋の中を走り回っている。
奇跡を起こしたのに能天気な娘と、それについていけない三人の夫の唖然とした表情を見ながら、私は苦笑するしか無かった。
後日、遠くの魔法大国から呼び寄せた貴賓にレティシアの能力を見てもらったところ、レティシアには私の数倍の治癒能力とそれを操るのに十分な魔力があることがわかった。
それに加え、オルトゥスには魔法大国でも珍しいくらい多くの魔力量が備わっていて、ここまで魔力量があるなら、訓練を受ければ、火や水、風などを操る元素魔法を使うことも可能だろうと言うことだった。
我が子たちの規格外の才能に私たちは驚きつつ、苦笑するしかなかった。
◆ ◇ ◆
「あっ♡ひゃんっ♡♡こっ、こわれりゅ♡♡♡」
「すっげー締めつけてんぞ?」
「ほんと。嬉しそうにぎゅうぎゅう僕のを舐め上げてくる……っ」
「あっ♡はっ♡あっ♡あん♡♡♡」
蜜口にルゥシャのを、お尻にゼノアのを深く挿れられてズンズン揺さぶられる。もう何回イったかわからない。頭が真っ白に塗りつぶされ、何も考えられない……
その時、ガチャっと扉が開く音が遠くで聞こえた。
「あ、先に始めてたの? ずるいなー」
「団長、おつかれー」
朦朧とする意識の中、アレスの声が聞こえたと思ったら、優しく頭を撫でられる。
顔を上げると、優しく私を見つめてくれる紫色の瞳があった。
「ただいま、クレア。私も混ぜてくれるかな?」
私は、嬌声を上げることしか出来なかったが、それをアレス様は肯定と捉えたらしい。彼は、美しく妖艶に微笑んだ。
「ありがとう。愛してるよ、クレア」
アレス様がそう言えば、ルゥシャは私を下から揺さぶる。
「僕も。愛してる、クレア」
その攻めにまた目の前がチカチカしてくる。示し合わせたように私の弱いところをルゥシャとゼノアが両壁から責めてくれば、私は一際高い声を上げて、イく。
「クレア、好きだ……愛してる。
俺たちの愛を一生涯クレアだけに……っ」
ゼノアがそう言うのと同時に、私の中に入りきらないほどの白濁を吐き出す。その温かさに幸せを噛み締める。
こうして今夜も私はただ愛を交わすだけとなったその行為に、愛する三人の夫と溺れるのだった。
◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆
最後までお読みいただき、ありがとうございました(^^)
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