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16.卑怯者
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伯爵は帰っていった。
応接室には私とゼノアだけが残された。
ゼノアは何も言わず、俯いていた。
どれくらい経っただろうか……。
すっかり紅茶が冷めた頃、私は口を開いた。
「……ゼノアのお母様はどんな方だったの?」
ゼノアは、顔を上げて、ゆっくりと話し出す。
「……優しい人、だった。身体が弱くて、ベッドに横になってばかりだったけど……。
小さな頃の俺は一日の出来事を母さんに報告するのが日課でさ。それを母さんはいつも笑いながら聞いてくれた……俺の頭を撫でながら。一緒に遊ぶことなんて出来なかったけど、それでも俺は母さんが大好きだった。……きっと親父も」
そう話すゼノアの表情は柔らかくて、お母様と過ごした時間があたたかなものだったことが伝わってくる。
「そう……伯爵は奥様のことをとても大事にされてたのね」
「あぁ……。親父は政略結婚でうちの家に入った婿だったけど、二人はすごく仲が良かったよ。母さんを見つめる親父は本当に幸せそうで……母さんも親父を心から愛してた。
俺もあんな風になりたいって……大好きな人を親父みたいに全力で愛したいって思った」
「素敵ね……」
きっとゼノアは、伯爵のような愛情深い旦那様になるのだろう。
少し意地悪なところもあるが、かっこよくて、優しくて、頼りになる人だ。きっと、いつか来るその時は……隣には私じゃない誰かがいるんだろうーー
そう想像して、私は唇を噛み締めた。
「……なぁ、俺たちが初めて会った時のこと、覚えてるか?」
唐突にゼノアは私に尋ねた。
初めて会った時、不機嫌そうにしていた彼の姿が今でもはっきり思い出せる。
「ふふっ……めんどくさそうにゼノアが木の上から降りてきたっけ。居眠りを邪魔されて怒ってるみたいだったわ」
「ち、違う! あれは……照れてたんだ……。
ずっと気になってたクレアと初めて話したから」
「……え?」
ゼノアは何を言ってるんだろう? 私たちはあの日まで会ったことないはずなのに。
私の不思議そうな顔を見て、ゼノアはバツが悪そうに頬を掻いた。
「実はあの日が初めてじゃないんだ。
毎日のようにクレアはあの場所で泣いてたろう?」
「そうだけど……まさか、いたの?」
「木の上にな」
……グズグズと泣いてるのを見られてたなんて。
穴があったら入りたい気分だ。
「やだ、恥ずかしい……」
私が顔を覆って下を向くと、ゼノアは優しく頭を撫でてくれた。
「最初はよく泣く弱い奴だと思ったよ、毎日飽きもせず泣いてばかりいてさ。
……でも、そのうち目で探すようになって、気付いたら目を離せなくなってた。いつも一生懸命で、あんなに泣き虫なのに人前では涙も嫌な顔一つ見せないで……すげぇ根性あるなって思った」
「……必死だっただけよ。いつだって泣きたかった。
でも……ゼノアが私に声を掛けてくれた時は泣いちゃったじゃない。人前で泣いたのは初めてだったのよ」
そう……ゼノアには最初から遠慮なくぶつかっていけて……。
彼なら受け止めてくれるってどこかで感じていたのかもしれない。
「俺は嬉しかったけどな。
俺の前では泣けるんだと思ったら……可愛いなって」
「そうなの? そんな顔してなかったわ。
時代遅れのメガネまでくれちゃってさ」
「ははっ。確かに。眼鏡屋で一番ダサいやつを選んだからな」
「あれ? ……あれは、拾ったってーー」
ゼノアは気まずそうに目を逸らした。
「もしかして……私のために買った物だったの?」
じっとゼノアを見つめる。長い沈黙の後、降参したように彼は口を開いた。
「…………はぁ~、そうだよ。クレアのために買ってきたものだ」
「なんで?」
「クレアはさ、可愛すぎるんだ」
「は?」
「クレアを見てたからわかった。クレアが可愛かったから他の侍女は嫉妬して強くあたったし、男共も下心を持って近づいてきた。だから、ダサい眼鏡でもプレゼントすりゃ周りの見る目も変わるかと思ったんだ。それに……」
ゼノアの顔がほんのり赤く染まる。
その横顔に胸が高鳴る。
「……俺だけがクレアの可愛さを知ってれば良いと思った。他の男になんて、クレアの可愛い顔なんて見せたくなかった。
……こんな卑怯なことする奴だって知って、幻滅したか……?」
「い、いや……驚いてる、だけで……。
もしかして、私が怖いって噂を流したのってーー」
「他の男を近寄らせたくなかったからなんだ……ごめん」
大きな身体で、しょぼくれてる。
私には感謝しかないのに。方法はどうであれゼノアが私を悪意から守ってくれたことは事実なんだから。
それでも不安げに肩を落とす姿を見ていたら、なんだかおかしくなってくる。
「……ふ、ふふっ! あははっ!!」
「なっ……こっちは真剣にーー」
私は微笑んで、彼の手に自分の手を重ねた。
そっと指を絡ませる。少しでも彼を近くに感じたい。
「ありがとう、ゼノ……」
「クレア……」
じっ……とゼノアの黒水晶のような瞳を覗けば、そこから熱が感じ取れる。その視線だけで、私の胸は熱くなり……もう溢れ出す想いを止めることなんてできなかった。
「初めて会った時から、貴方は私の特別だった。
……私は最初から貴方のことが好きだったんだわ」
ゼノアは驚いたように目を見開く。
しかし、すぐに焼けつくような視線を返してくれた。
「……あぁ、俺も好きだ」
ゼノアは、私を強く抱きしめる。
本当はこのタイミングで好きなんて伝えるのは卑怯だとはわかっていた。ゼノアは伯爵位を継がなきゃいけなくて、私のそばにはいられなくなる。
私が気持ちを伝えれば、ゼノアが板挟みになることはわかっていたけど、伝えずにはいられなかった。結局私は一番自分が大切な卑怯者だった。
「ごめん。……ごめんね、ゼノ」
「なんで謝るんだよ? 俺は嬉しいぜ?
ずーっと、この言葉を待ってたんだから」
ゼノアは私の頬に手を滑らせ、愛おしそうに私を見つめ、笑いかけてくれる。普段は見せないその笑顔に喉の奥がキュッとなる。
苦しい。ゼノアが愛おしくて、苦しい。
でも、嬉しくて堪らない。私の抱えてる強い想いがゼノアの中にもあると思うと、全身が甘さで、むず痒くなる。
いつの間にか、私の視界は涙で滲んでいた。
「クレア、もう一回言って?」
「好き……私、ゼノアが好き」
ゼノアは嬉しそうに目を細めて私を見つめると、優しくキスを一つくれた。
「クレア、すげぇ可愛い顔してる。
顔を赤く染めて、涙目で、俺のことを好きで堪らないって顔」
「だって……好きだもの……」
私はみずからゼノアに顔を寄せる。
……私たちはキスをした。
最初は二人の唇を確かめるような優しいキスを。次第にどちらからともなく舌を絡ませ合った。
飽きるほどのキスをした後、唇を離した時には、私もゼノアも頭から身体の芯まで熱くなっていた。
この流れで抱いてくれるものと思ってたのに、ゼノアは何かに耐えるように眉間に皺を寄せて、私の身体に手を伸ばそうとしなかった。
やっぱりさっきの伯爵の話で、私と交わることに抵抗を感じたのだろう。
私はそっと彼の胸を押して、離れようとした。
だが、彼はびくともしない。私は結局ゼノアの腕の中から動けずにいた。
「ゼノ、離して……」
「ごめん、クレア……」
その後に続く言葉はわかっている。もうこれ以上私と共にいられないというんだろう。私は必死に涙を堪えて、その続きを待った。
「……昨日も今朝もあんだけ抱いて……
もうこれ以上は無理させないって決めてたのに。
ダメだ、嬉しくて……我慢できない」
「へ?」
予想外の言葉に唖然とする。
「やっぱりダメか? 身体きついなら、今日は我慢する」
「いや……私は大丈夫だけど……」
私が俯くと、ゼノアはぐしゃっと私の髪を乱した。
「親父の言ったことなんて、気にしなくていい。
やり方なんていくらでもある。俺は馬鹿だけど、何を諦めちゃいけないかくらい本能でわかる。クレアを諦めたら、俺は一生後悔する。親父もいつかはわかってくれる。後継が欲しいなら、俺とクレアの子を作ればいい」
「でも……私はーー」
一人を選べないと、言いかける私の手を取り、ゼノアは少し寂しそうに笑った。
「わかってる。
……団長と、ルゥシャにもちゃんと伝えてやれよ?」
「……い、いいの?」
「あぁ、団長とルゥシャなら、な。他の奴はダメだぞ?」
「ありがとう……。ごめんなさい、私ーー」
溢れた涙をゼノアが拭ってくれる。
「だから、謝るなって。クレアは何も悪くない。生きるためには三人に愛される必要があるんだから、三人好きになってくれて良かった。むしろ一人だけを好きになる方が何かと危険だ。
……もう謝るな。クレアはいつも頑張りすぎだ」
「……ありがとう。大好き」
私は真っ直ぐゼノアの瞳を見て、言った。
すると、彼はニヤッと悪い笑みを見せた。
「いいな、それ。もっかい聴かせてくれよ……」
「きゃっ!」
ゼノアは軽々と私を持ち上げ、自分の上に跨らせる。
私はゼノアと視線を絡ませる。
「好きだ、クレア」
そう言われて、また子宮がドクンと疼く。
蜜口からは、さんざん注ぎ込まれた精液がツーっと溢れる。
「うん。私も……好き」
私がゼノアにキスを落とすと、それが合図のようにゼノアが私の身体を弄りはじめる。胸に手を当て、優しく揉まれるだけで、私からは悦びの声が零れる。腰をさわさわと撫でられるだけで、ピリピリと腰回りに快感が響く。
ゼノアの一つ一つの動きが、私を愛していると伝えているようで、嬉しくて堪らない。今だけは全てを忘れて、この優しさに溺れていたかった。
グッと胸元の生地を下げて、ゼノアは私の胸を露にすると、舌先で乳首をクルクルと刺激し始めた。
「あぁんっ♡」
私は耐えられず、ゼノアの頭を抱いた。もっと……もっと強く、激しく彼を感じたかった。ゼノアは夢中になって、乳首に吸い付く。
「あっ♡はっ♡乳首とれちゃう♡♡」
「気持ちいいくせに。
その証拠にすごい愛液の匂いがするぞ……ここから」
ゼノアがスカートの下に手を侵入させ、溢れる泉に手を伸ばす。
ぴちゃ……
「あぁ……♡」
指を添えられただけなのに、卑猥な水音が響く。
私の蜜口は蠢いて、その指を奥に引きずりこもうとする。
「指でいいのか?」
「あっ♡ん♡やらぁ♡♡
ゼノの硬くておっきいので、奥まで擦ってぇ♡♡」
「エロすぎ」
ゼノアはベルトを外し、ズボンと下着を下ろすと、その陰茎を露にした。ビクビクと震えて、先っぽは光っている。
私の頭は、ゼノアと繋がることでいっぱいだった。
スルッと下着を取り払うと、私はスカートをめくり上げて、蜜口で陰茎の先にキスをした。
ぱくぱくと私の蜜口は、ゼノアの陰茎に悦んで吸い付く。
「そのまま。腰、おとして」
「はぁっ……♡ん♡♡」
私はゆっくり腰を落としていく。
ゼノアの陰茎が徐々に私に侵入していくのがわかる。
私の膣道は、その形を記憶するように隙間なく陰茎に纏わりついた。
「気持ちいいな……っ」
「ぅん……♡ゼノ……、ゼノ♡♡好き……好きだよっ♡♡」
「……っ。悪い、ちょっと我慢できない」
どちゅんっ!!
「ああ゛ーっ♡♡」
ゼノアはぐっと、下から陰茎を奥深く突き刺した。
私の脳裏には星が飛び散る。
私はビクビクと快感でおかしくなった身体をゼノアに預けた。
「クレア、これだけでイったのか?」
身体を揺すられ、下からコンコンコンと打ち付けられる。
「あ゛っ♡あ゛♡ああ゛っ♡」
「やばすぎ。でも、クレアにも動いてほしい」
甘えるように頭を撫でられ、首筋や頭にチュッと優しいキスを贈られれば、私もゼノアのために頑張りたくなってしまう。
私はゼノアの肩に両手を置くと、身体を上下に動かした。
「あっ♡はっ♡はっ♡んっ♡」
リズミカルに動けば、それを甘い甘い視線でゼノアが見つめる。
「クレア、綺麗だ……っ」
「好きっ……好きよっ、ゼノ♡♡♡」
「俺も……っ! 愛してる、クレア」
まるでうわ言のように、私たちは「好き」と「愛してる」を贈り合った。今まで言えなかった分を埋めるように。
「あっ♡ゼノ♡♡もぉ……私ーーっ」
「あぁ、イこう。一緒に……っ!」
ドクドクドク……
「あっ……♡」
私たちは隙間なく、身体をぴったりとくっつけた。
このまま一つになれたらどんなに幸せだろうと思う。
……でも、離れなきゃ。ゼノアはああ言ったけど、これ以上はーー
一緒にいられない。
私はゼノアの肩に顔を埋めて、泣いた。
応接室には私とゼノアだけが残された。
ゼノアは何も言わず、俯いていた。
どれくらい経っただろうか……。
すっかり紅茶が冷めた頃、私は口を開いた。
「……ゼノアのお母様はどんな方だったの?」
ゼノアは、顔を上げて、ゆっくりと話し出す。
「……優しい人、だった。身体が弱くて、ベッドに横になってばかりだったけど……。
小さな頃の俺は一日の出来事を母さんに報告するのが日課でさ。それを母さんはいつも笑いながら聞いてくれた……俺の頭を撫でながら。一緒に遊ぶことなんて出来なかったけど、それでも俺は母さんが大好きだった。……きっと親父も」
そう話すゼノアの表情は柔らかくて、お母様と過ごした時間があたたかなものだったことが伝わってくる。
「そう……伯爵は奥様のことをとても大事にされてたのね」
「あぁ……。親父は政略結婚でうちの家に入った婿だったけど、二人はすごく仲が良かったよ。母さんを見つめる親父は本当に幸せそうで……母さんも親父を心から愛してた。
俺もあんな風になりたいって……大好きな人を親父みたいに全力で愛したいって思った」
「素敵ね……」
きっとゼノアは、伯爵のような愛情深い旦那様になるのだろう。
少し意地悪なところもあるが、かっこよくて、優しくて、頼りになる人だ。きっと、いつか来るその時は……隣には私じゃない誰かがいるんだろうーー
そう想像して、私は唇を噛み締めた。
「……なぁ、俺たちが初めて会った時のこと、覚えてるか?」
唐突にゼノアは私に尋ねた。
初めて会った時、不機嫌そうにしていた彼の姿が今でもはっきり思い出せる。
「ふふっ……めんどくさそうにゼノアが木の上から降りてきたっけ。居眠りを邪魔されて怒ってるみたいだったわ」
「ち、違う! あれは……照れてたんだ……。
ずっと気になってたクレアと初めて話したから」
「……え?」
ゼノアは何を言ってるんだろう? 私たちはあの日まで会ったことないはずなのに。
私の不思議そうな顔を見て、ゼノアはバツが悪そうに頬を掻いた。
「実はあの日が初めてじゃないんだ。
毎日のようにクレアはあの場所で泣いてたろう?」
「そうだけど……まさか、いたの?」
「木の上にな」
……グズグズと泣いてるのを見られてたなんて。
穴があったら入りたい気分だ。
「やだ、恥ずかしい……」
私が顔を覆って下を向くと、ゼノアは優しく頭を撫でてくれた。
「最初はよく泣く弱い奴だと思ったよ、毎日飽きもせず泣いてばかりいてさ。
……でも、そのうち目で探すようになって、気付いたら目を離せなくなってた。いつも一生懸命で、あんなに泣き虫なのに人前では涙も嫌な顔一つ見せないで……すげぇ根性あるなって思った」
「……必死だっただけよ。いつだって泣きたかった。
でも……ゼノアが私に声を掛けてくれた時は泣いちゃったじゃない。人前で泣いたのは初めてだったのよ」
そう……ゼノアには最初から遠慮なくぶつかっていけて……。
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「俺は嬉しかったけどな。
俺の前では泣けるんだと思ったら……可愛いなって」
「そうなの? そんな顔してなかったわ。
時代遅れのメガネまでくれちゃってさ」
「ははっ。確かに。眼鏡屋で一番ダサいやつを選んだからな」
「あれ? ……あれは、拾ったってーー」
ゼノアは気まずそうに目を逸らした。
「もしかして……私のために買った物だったの?」
じっとゼノアを見つめる。長い沈黙の後、降参したように彼は口を開いた。
「…………はぁ~、そうだよ。クレアのために買ってきたものだ」
「なんで?」
「クレアはさ、可愛すぎるんだ」
「は?」
「クレアを見てたからわかった。クレアが可愛かったから他の侍女は嫉妬して強くあたったし、男共も下心を持って近づいてきた。だから、ダサい眼鏡でもプレゼントすりゃ周りの見る目も変わるかと思ったんだ。それに……」
ゼノアの顔がほんのり赤く染まる。
その横顔に胸が高鳴る。
「……俺だけがクレアの可愛さを知ってれば良いと思った。他の男になんて、クレアの可愛い顔なんて見せたくなかった。
……こんな卑怯なことする奴だって知って、幻滅したか……?」
「い、いや……驚いてる、だけで……。
もしかして、私が怖いって噂を流したのってーー」
「他の男を近寄らせたくなかったからなんだ……ごめん」
大きな身体で、しょぼくれてる。
私には感謝しかないのに。方法はどうであれゼノアが私を悪意から守ってくれたことは事実なんだから。
それでも不安げに肩を落とす姿を見ていたら、なんだかおかしくなってくる。
「……ふ、ふふっ! あははっ!!」
「なっ……こっちは真剣にーー」
私は微笑んで、彼の手に自分の手を重ねた。
そっと指を絡ませる。少しでも彼を近くに感じたい。
「ありがとう、ゼノ……」
「クレア……」
じっ……とゼノアの黒水晶のような瞳を覗けば、そこから熱が感じ取れる。その視線だけで、私の胸は熱くなり……もう溢れ出す想いを止めることなんてできなかった。
「初めて会った時から、貴方は私の特別だった。
……私は最初から貴方のことが好きだったんだわ」
ゼノアは驚いたように目を見開く。
しかし、すぐに焼けつくような視線を返してくれた。
「……あぁ、俺も好きだ」
ゼノアは、私を強く抱きしめる。
本当はこのタイミングで好きなんて伝えるのは卑怯だとはわかっていた。ゼノアは伯爵位を継がなきゃいけなくて、私のそばにはいられなくなる。
私が気持ちを伝えれば、ゼノアが板挟みになることはわかっていたけど、伝えずにはいられなかった。結局私は一番自分が大切な卑怯者だった。
「ごめん。……ごめんね、ゼノ」
「なんで謝るんだよ? 俺は嬉しいぜ?
ずーっと、この言葉を待ってたんだから」
ゼノアは私の頬に手を滑らせ、愛おしそうに私を見つめ、笑いかけてくれる。普段は見せないその笑顔に喉の奥がキュッとなる。
苦しい。ゼノアが愛おしくて、苦しい。
でも、嬉しくて堪らない。私の抱えてる強い想いがゼノアの中にもあると思うと、全身が甘さで、むず痒くなる。
いつの間にか、私の視界は涙で滲んでいた。
「クレア、もう一回言って?」
「好き……私、ゼノアが好き」
ゼノアは嬉しそうに目を細めて私を見つめると、優しくキスを一つくれた。
「クレア、すげぇ可愛い顔してる。
顔を赤く染めて、涙目で、俺のことを好きで堪らないって顔」
「だって……好きだもの……」
私はみずからゼノアに顔を寄せる。
……私たちはキスをした。
最初は二人の唇を確かめるような優しいキスを。次第にどちらからともなく舌を絡ませ合った。
飽きるほどのキスをした後、唇を離した時には、私もゼノアも頭から身体の芯まで熱くなっていた。
この流れで抱いてくれるものと思ってたのに、ゼノアは何かに耐えるように眉間に皺を寄せて、私の身体に手を伸ばそうとしなかった。
やっぱりさっきの伯爵の話で、私と交わることに抵抗を感じたのだろう。
私はそっと彼の胸を押して、離れようとした。
だが、彼はびくともしない。私は結局ゼノアの腕の中から動けずにいた。
「ゼノ、離して……」
「ごめん、クレア……」
その後に続く言葉はわかっている。もうこれ以上私と共にいられないというんだろう。私は必死に涙を堪えて、その続きを待った。
「……昨日も今朝もあんだけ抱いて……
もうこれ以上は無理させないって決めてたのに。
ダメだ、嬉しくて……我慢できない」
「へ?」
予想外の言葉に唖然とする。
「やっぱりダメか? 身体きついなら、今日は我慢する」
「いや……私は大丈夫だけど……」
私が俯くと、ゼノアはぐしゃっと私の髪を乱した。
「親父の言ったことなんて、気にしなくていい。
やり方なんていくらでもある。俺は馬鹿だけど、何を諦めちゃいけないかくらい本能でわかる。クレアを諦めたら、俺は一生後悔する。親父もいつかはわかってくれる。後継が欲しいなら、俺とクレアの子を作ればいい」
「でも……私はーー」
一人を選べないと、言いかける私の手を取り、ゼノアは少し寂しそうに笑った。
「わかってる。
……団長と、ルゥシャにもちゃんと伝えてやれよ?」
「……い、いいの?」
「あぁ、団長とルゥシャなら、な。他の奴はダメだぞ?」
「ありがとう……。ごめんなさい、私ーー」
溢れた涙をゼノアが拭ってくれる。
「だから、謝るなって。クレアは何も悪くない。生きるためには三人に愛される必要があるんだから、三人好きになってくれて良かった。むしろ一人だけを好きになる方が何かと危険だ。
……もう謝るな。クレアはいつも頑張りすぎだ」
「……ありがとう。大好き」
私は真っ直ぐゼノアの瞳を見て、言った。
すると、彼はニヤッと悪い笑みを見せた。
「いいな、それ。もっかい聴かせてくれよ……」
「きゃっ!」
ゼノアは軽々と私を持ち上げ、自分の上に跨らせる。
私はゼノアと視線を絡ませる。
「好きだ、クレア」
そう言われて、また子宮がドクンと疼く。
蜜口からは、さんざん注ぎ込まれた精液がツーっと溢れる。
「うん。私も……好き」
私がゼノアにキスを落とすと、それが合図のようにゼノアが私の身体を弄りはじめる。胸に手を当て、優しく揉まれるだけで、私からは悦びの声が零れる。腰をさわさわと撫でられるだけで、ピリピリと腰回りに快感が響く。
ゼノアの一つ一つの動きが、私を愛していると伝えているようで、嬉しくて堪らない。今だけは全てを忘れて、この優しさに溺れていたかった。
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「あぁんっ♡」
私は耐えられず、ゼノアの頭を抱いた。もっと……もっと強く、激しく彼を感じたかった。ゼノアは夢中になって、乳首に吸い付く。
「あっ♡はっ♡乳首とれちゃう♡♡」
「気持ちいいくせに。
その証拠にすごい愛液の匂いがするぞ……ここから」
ゼノアがスカートの下に手を侵入させ、溢れる泉に手を伸ばす。
ぴちゃ……
「あぁ……♡」
指を添えられただけなのに、卑猥な水音が響く。
私の蜜口は蠢いて、その指を奥に引きずりこもうとする。
「指でいいのか?」
「あっ♡ん♡やらぁ♡♡
ゼノの硬くておっきいので、奥まで擦ってぇ♡♡」
「エロすぎ」
ゼノアはベルトを外し、ズボンと下着を下ろすと、その陰茎を露にした。ビクビクと震えて、先っぽは光っている。
私の頭は、ゼノアと繋がることでいっぱいだった。
スルッと下着を取り払うと、私はスカートをめくり上げて、蜜口で陰茎の先にキスをした。
ぱくぱくと私の蜜口は、ゼノアの陰茎に悦んで吸い付く。
「そのまま。腰、おとして」
「はぁっ……♡ん♡♡」
私はゆっくり腰を落としていく。
ゼノアの陰茎が徐々に私に侵入していくのがわかる。
私の膣道は、その形を記憶するように隙間なく陰茎に纏わりついた。
「気持ちいいな……っ」
「ぅん……♡ゼノ……、ゼノ♡♡好き……好きだよっ♡♡」
「……っ。悪い、ちょっと我慢できない」
どちゅんっ!!
「ああ゛ーっ♡♡」
ゼノアはぐっと、下から陰茎を奥深く突き刺した。
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「クレア、これだけでイったのか?」
身体を揺すられ、下からコンコンコンと打ち付けられる。
「あ゛っ♡あ゛♡ああ゛っ♡」
「やばすぎ。でも、クレアにも動いてほしい」
甘えるように頭を撫でられ、首筋や頭にチュッと優しいキスを贈られれば、私もゼノアのために頑張りたくなってしまう。
私はゼノアの肩に両手を置くと、身体を上下に動かした。
「あっ♡はっ♡はっ♡んっ♡」
リズミカルに動けば、それを甘い甘い視線でゼノアが見つめる。
「クレア、綺麗だ……っ」
「好きっ……好きよっ、ゼノ♡♡♡」
「俺も……っ! 愛してる、クレア」
まるでうわ言のように、私たちは「好き」と「愛してる」を贈り合った。今まで言えなかった分を埋めるように。
「あっ♡ゼノ♡♡もぉ……私ーーっ」
「あぁ、イこう。一緒に……っ!」
ドクドクドク……
「あっ……♡」
私たちは隙間なく、身体をぴったりとくっつけた。
このまま一つになれたらどんなに幸せだろうと思う。
……でも、離れなきゃ。ゼノアはああ言ったけど、これ以上はーー
一緒にいられない。
私はゼノアの肩に顔を埋めて、泣いた。
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