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1.始まり
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ずちゅ……ずちゅ……
パンパンパン……
部屋の中には卑猥な水音と、身体を打ちつけ合う音が響く。
私は後ろからゼノアに挿入され、身体を揺さぶられていた。
「あっ、ん……ふぅっ、ゼノっ、あぁんっ♡
はっ、やらぁ……っ! おかっ、しくなるぅ……っ♡♡」
「いくらでもおかしくなればいい……だろっ!!」
パチュンッ!
「あぁっ♡」
ゼノアはその猛々しいモノをより一層深く突き挿した。背筋を這うようにビリリと快感が走り、自分のものとは信じられないような嬌声が上がる。
「ひゃあぁんっ♡ らめっ、おくらめぇ……っ♡♡」
「はぁっ……、イイの間違えだろ?
ルゥシャも、クレアは奥を突くと、悦ぶって言ってたぜ。
……それとも、あのガキは良くて俺は駄目なのか? あ?」
グリグリ……
ゼノアが私の奥を容赦なく刺激する。
交わりの最中に他の男性の話を出すなんてひどい。
……せめて今だけは、ゼノアのことだけ考えていたいのに。
「はぁ……ん、ち、ちがっ……!
だって、またっ……すぐっ、イっちゃうからぁ♡♡」
そう言っているのに、ゼノアの抽送は止まらない。
どんどんと快楽の波が高くなっていくのが分かる。
「くっ……イけよ……っ」
「やぁ……っ! ゼノ、ゼノも一緒にぃ!!」
「馬鹿っ! そんな締めたら……っ!!」
「ああぁんっ♡♡♡」
私は快楽の波に飲まれた。
私がイったのと同時に子宮にドビューッと勢いよくゼノの子種が流し込まれる。本日二回目の射精にも関わらず、それを感じさせないほどの勢いと量だ。
「はぁ……はぁ……。クレア……最高っ……」
そう褒められて、不覚にも胸がキュッとなる。
すると、出したばっかりだと言うのに、ゼノは背後から私の胸を揉み始めた。
「あん……っ♡ もぉ……ねぇ、ゼノーー」
「分かってる、もっと欲しいんだろ?
今、喜んで締めつけたもんな。
……次に団長が挿れる時まで残るぐらい、俺のでいっぱいにしてやる」
確かにゼノアの陰茎は、まだ硬度を保っていた。
でも、違う。私は、一旦休もうと言いたかったのだ。
それなのにゼノアは私の言葉の意味を理解できないどころかまた他の男性の名前を出した。今度はアレス様だ。
私は文句を言ってやろうと振り向いて口を開こうとした。
が、すぐさま噛み付くように情熱的なキスをされる。
頭が白くなるような気持ちの良いそのキスに翻弄され、結局私は文句の一つも言えないまま、再び嬌声を響かせることになった。
◆ ◇ ◆
ここはシャルサンテ王国。四年前に大改革があったものの、今は国王陛下の良政のおかげで、国内も安定している平和な国だ。
私、クレアはここでナージャ王妃殿下付きの侍女をしている。十五の頃から王宮侍女として働きはじめ、今は五年目の働き盛り。素晴らしい王妃様に仕えることができるこの仕事が私は大好きだった。
常に仕事に支障が出ないよう髪は乱れなく一つのお団子でまとめ上げ、王妃様の品格を落とすことのないよう背筋を伸ばし、眼鏡の奥から目を光らせる。そんな姿が私の日常だ。少し仕事に熱心すぎるとよく言われるが、私はこれでいい。王妃様のお役に立つことが私の幸せなのだから。
そんな私の日常が大きく変わったのは、ある事件のせいだった。
その日は王妃様が庭でお茶会を開いた。何事もなく茶会が終わり、王妃様が参加者を見送ろうと王宮の門近くまで来て、門が開いたところで、一瞬の隙をつき不届き者が王妃様に向かって術を放ったのだ。
それに気付いた私は咄嗟に王妃様に覆い被さった。
背中に突き刺さるような衝撃が走ると同時に、身体が燃えるように熱くなる。
「クレアッ?! クレア!!」
遠くで王妃様が私を呼ぶ声がする。
しかし、その声はどんどん遠くなる。反対に身体が燃えるように熱く、疼く。肌に擦れる服の刺激さえ、痛いくらいで今すぐこの場で服を脱ぎ捨てたくなる衝動に駆られる。そんなことしてはいけないと思うのに、熱に浮かされた頭は朦朧として正常な思考を奪っていく。
目の端で、術を放った男が衛兵に取り押さえられ、叫びながら連行されて行くのが見える。そして、騎士服を着た一人が私に駆け寄る姿もーー
しかし、そこで私の記憶は途切れた。
何となく覚えているのは、焼けるような身体の熱さと疼き、誰かが私の名前を繰り返し愛おしそうに呼ぶ声……そして、感じたことのない快感だった。
次に気付いた時には王宮の貴賓室のベッドの上に、たった一人……一糸纏わぬ姿で私は横たわっていた。
少しすると、同僚のセーラが私の服を持って訪ねて来た。彼女は不憫そうにこちらを見るだけで何も説明してくれなかった。何がなんだか分からぬまま促されついて行くと、そこは謁見室で王妃様だけではなく陛下までいらっしゃった。
何かとんでもないことをしてしまったのではと緊張しながら、お二人に礼を取る。陛下が険しい顔をしながら、私に座るよう促した。
「クレア、よく来てくれた。
……早速だが、事件のことは覚えているか?」
「……はい。途中までなら覚えております。
門が開いた瞬間、不届き者が王妃様を狙って、何か術を放ちました。私は咄嗟に王妃様に覆い被さり……それからは、身体がとても熱くなってーー」
そこから先は話せなかった。意識が朦朧としていたとは言え、快感を感じたなど私の夢の中の出来事かもしれないのだ。私はそのまま口を噤んだ。
「そうか……覚えているのはそこまでか……」
陛下は気まずそうに視線を落とす。王妃様はお腹を手を当てながら、下を向いていたが、顔を上げた。その瞳には涙が滲んでいる。
「クレア……。助けてくれて、ありがとう……!
そして……本当にごめんなさい」
大好きな優しく美しい王妃様。
お守りできたなら本望だ。
「王妃様……私は当たり前のことをしたまでです。
王妃様がご無事で本当に良かったですわ。それに私も何ともーー」
「いや。実は君の身体には、今……呪いがかかっているんだ」
私の言葉を遮って、陛下が言った。
呪い……という恐ろしい言葉に一気に居心地が悪くなる。
「の、呪い……ですか?」
「あぁ……落ち着いて聞いてほしいんだが……
あの術者が放った呪いは、男の……精液を受けなければ生きられない呪いなんだ。今の君の生命力の源は、男から放たれる精液となった。しかも、一人では駄目なんだ。複数人の精液をこれから定期的に受け続けなければならない」
信じられないような話に声の一つも出せない。
まだ男性と一度も交わったことがないのに、これから誰かと身体を重ねなければならないなんて……
「勿論、解呪についても調べさせている。君はナージャを守ってくれた恩人だ。必ず解呪法を見つけ出したいと思うが……しばらくは最低でも二日に一度、男の精液を受け続けることでしか、生きることは出来ない」
そんな……娼婦みたいな生活、出来ない。
でも……死にたくなんてない。
やっと、自分の居場所が見つかったと思ったのにーー
両陛下の前で泣く訳にはいかない……けれど、前が滲んで仕方なかった。私は下を向いて、唇を噛み締める。
ふわっとピーチローズの香りが漂ったかと思うと、私の隣に王妃様が座って、背中をさすってくれた。
「クレア……ごめんなさい。辛いわよね。
泣いていいのよ」
「王妃……様。う、ううっ……!」
私は王妃様が大好きだ。結婚なんかせず、ずっと王妃様のお側にいたいと思うくらいには。
王妃様を守れたことに何一つ悔いなんてない。けれど……これからのことが不安で堪らなくて、死というものがこんなに近くにあるのが信じられなくて、私は涙を止めることができなかった。
少し泣かせてもらい、ようやく頭がスッキリしてきた。
こうなったら覚悟を決めるしかない。この王宮で培われた精神力を今こそ発揮すべき時だ。
お優しい王妃様のことだから……きっと私のことで心を痛めているに違いない。これ以上、王妃様に心配をかける訳にはいかないと、私はハンカチでぐいっと涙を拭った。
「陛下、王妃様……大変失礼致しました。
私はもう大丈夫です。こうなったら娼館に身を落としてーー」
「駄目よっ!!」
王妃様が声を荒げ、私は思わず身体を震わせた。王妃様が声を荒げるところなんてら初めて見た。それに続いて、陛下も私を落ち着かせるようにゆっくりと話す。
「クレア。其方は恩人だと言っただろう?
あの術をナージャが受けていたら、我が国の未来が潰えていたかもしれないんだ。それを防いだ其方をそんな所に私達が落とすはずないだろう」
つい先日、判明したばかりだが、王妃様は陛下の子を身籠っていた。ご結婚されてから、丸三年……ようやく実った子宝だった。確かにこの呪いを受けて、頻繁に男性と交わることになれば、流産の可能性は高くなる。それ以前に王妃様が陛下以外と交わるなんてあってはならないことだ。
「では、どうやって……」
男性の精液を受け続けられる場所なんて娼館以外知らない。
自分から男性を誘うなんて、もっと無理だ。
「後宮を使うといい」
「後宮……ですか?」
「えぇ。あそこはもうずっと使われていないけれど、建物は綺麗に残っているわ。クレアと複数人の男性が暮らすにはちょうど良いと思うの」
「ですが……」
現在の後宮は、先代の王が作った立派な建物だった。
先代は、陛下の叔父にあたる人物なのだが、長年の悪政をしき、国庫を貪り、民衆を苦しめた。その結果、四年前、現陛下によって、倒される。
その先代の全盛期に建てられたのが後宮なのだが……一介の伯爵令嬢である私がここの主になるなんておかしい。あそこは陛下のものだ。
私の不安を払拭するように陛下は力強く言った。
「この三年間、ナージャの側にいたから分かるだろうが、私には彼女だけだ。他の女性を娶る気はない。王宮に私たちの部屋はあるから、私が即位している間、後宮に用はない。私が良いと言っているのだ、遠慮せずに使いなさい。これは命令だ」
陛下からこう言われては断れるはずもない。
「……ありがとうございます。でも、男性はーー」
「君の希望があれば別だが、誰でも良いと言うのであれば私たちの方で見繕っている。ナージャからはクレアが特別想っている男性はいないと聞いているが、どうかね?」
「……はい。特におりません。陛下に選んでいただけるのであれば、その方々に協力していただこうと思います」
私がそう言うと、陛下は微笑んだ。
「良かった」
「大丈夫よ、クレア。私もしっかり選んで、話もしたわ。
変な騎士なんて一人もいないから」
「騎士?」
「あぁ。今回は衛兵を取りまとめている騎士団のミスだからな。騎士団長自ら、何でもやると言ってきた。だから、この件に協力してもらうことにしたんだ。騎士は駄目だったか?」
一瞬、あの憎たらしい顔が頭に浮かぶが、私はそれを振り払うように首を横に振った。
「い、いえ……そんなことは」
「良かった。ついでにもう三人は決まっているんだ。
複数人の男性と言ったが、厳密には三人以上の精液が必要でね。
呪いについて知る者によると、理想は五人と言っていたが、誰か追加して欲しい奴はいるか?」
「いえ! ……さ、三人で結構です」
私の呪いに巻き込まれる人なんて少ない方がいいに決まってる。
大体、王宮では「堅物女」と揶揄される私を抱くなんて罰みたいなものだ……業務じゃなきゃやっていられないだろう。
私が言えた義理ではないが、今回協力してくださる方々には賞与でも与えた方が良いとさえ思う。
「そうか? まぁ、途中で増やしたい者がいれば言うといい」
そんなことをしたら、本当に後宮になってしまう。大丈夫だと思うが、絶対に男性に溺れるような自分になりたくない……
私はその後、呪いについての説明を受け、今回協力してくれる男性陣が待つという後宮に向かった。
パンパンパン……
部屋の中には卑猥な水音と、身体を打ちつけ合う音が響く。
私は後ろからゼノアに挿入され、身体を揺さぶられていた。
「あっ、ん……ふぅっ、ゼノっ、あぁんっ♡
はっ、やらぁ……っ! おかっ、しくなるぅ……っ♡♡」
「いくらでもおかしくなればいい……だろっ!!」
パチュンッ!
「あぁっ♡」
ゼノアはその猛々しいモノをより一層深く突き挿した。背筋を這うようにビリリと快感が走り、自分のものとは信じられないような嬌声が上がる。
「ひゃあぁんっ♡ らめっ、おくらめぇ……っ♡♡」
「はぁっ……、イイの間違えだろ?
ルゥシャも、クレアは奥を突くと、悦ぶって言ってたぜ。
……それとも、あのガキは良くて俺は駄目なのか? あ?」
グリグリ……
ゼノアが私の奥を容赦なく刺激する。
交わりの最中に他の男性の話を出すなんてひどい。
……せめて今だけは、ゼノアのことだけ考えていたいのに。
「はぁ……ん、ち、ちがっ……!
だって、またっ……すぐっ、イっちゃうからぁ♡♡」
そう言っているのに、ゼノアの抽送は止まらない。
どんどんと快楽の波が高くなっていくのが分かる。
「くっ……イけよ……っ」
「やぁ……っ! ゼノ、ゼノも一緒にぃ!!」
「馬鹿っ! そんな締めたら……っ!!」
「ああぁんっ♡♡♡」
私は快楽の波に飲まれた。
私がイったのと同時に子宮にドビューッと勢いよくゼノの子種が流し込まれる。本日二回目の射精にも関わらず、それを感じさせないほどの勢いと量だ。
「はぁ……はぁ……。クレア……最高っ……」
そう褒められて、不覚にも胸がキュッとなる。
すると、出したばっかりだと言うのに、ゼノは背後から私の胸を揉み始めた。
「あん……っ♡ もぉ……ねぇ、ゼノーー」
「分かってる、もっと欲しいんだろ?
今、喜んで締めつけたもんな。
……次に団長が挿れる時まで残るぐらい、俺のでいっぱいにしてやる」
確かにゼノアの陰茎は、まだ硬度を保っていた。
でも、違う。私は、一旦休もうと言いたかったのだ。
それなのにゼノアは私の言葉の意味を理解できないどころかまた他の男性の名前を出した。今度はアレス様だ。
私は文句を言ってやろうと振り向いて口を開こうとした。
が、すぐさま噛み付くように情熱的なキスをされる。
頭が白くなるような気持ちの良いそのキスに翻弄され、結局私は文句の一つも言えないまま、再び嬌声を響かせることになった。
◆ ◇ ◆
ここはシャルサンテ王国。四年前に大改革があったものの、今は国王陛下の良政のおかげで、国内も安定している平和な国だ。
私、クレアはここでナージャ王妃殿下付きの侍女をしている。十五の頃から王宮侍女として働きはじめ、今は五年目の働き盛り。素晴らしい王妃様に仕えることができるこの仕事が私は大好きだった。
常に仕事に支障が出ないよう髪は乱れなく一つのお団子でまとめ上げ、王妃様の品格を落とすことのないよう背筋を伸ばし、眼鏡の奥から目を光らせる。そんな姿が私の日常だ。少し仕事に熱心すぎるとよく言われるが、私はこれでいい。王妃様のお役に立つことが私の幸せなのだから。
そんな私の日常が大きく変わったのは、ある事件のせいだった。
その日は王妃様が庭でお茶会を開いた。何事もなく茶会が終わり、王妃様が参加者を見送ろうと王宮の門近くまで来て、門が開いたところで、一瞬の隙をつき不届き者が王妃様に向かって術を放ったのだ。
それに気付いた私は咄嗟に王妃様に覆い被さった。
背中に突き刺さるような衝撃が走ると同時に、身体が燃えるように熱くなる。
「クレアッ?! クレア!!」
遠くで王妃様が私を呼ぶ声がする。
しかし、その声はどんどん遠くなる。反対に身体が燃えるように熱く、疼く。肌に擦れる服の刺激さえ、痛いくらいで今すぐこの場で服を脱ぎ捨てたくなる衝動に駆られる。そんなことしてはいけないと思うのに、熱に浮かされた頭は朦朧として正常な思考を奪っていく。
目の端で、術を放った男が衛兵に取り押さえられ、叫びながら連行されて行くのが見える。そして、騎士服を着た一人が私に駆け寄る姿もーー
しかし、そこで私の記憶は途切れた。
何となく覚えているのは、焼けるような身体の熱さと疼き、誰かが私の名前を繰り返し愛おしそうに呼ぶ声……そして、感じたことのない快感だった。
次に気付いた時には王宮の貴賓室のベッドの上に、たった一人……一糸纏わぬ姿で私は横たわっていた。
少しすると、同僚のセーラが私の服を持って訪ねて来た。彼女は不憫そうにこちらを見るだけで何も説明してくれなかった。何がなんだか分からぬまま促されついて行くと、そこは謁見室で王妃様だけではなく陛下までいらっしゃった。
何かとんでもないことをしてしまったのではと緊張しながら、お二人に礼を取る。陛下が険しい顔をしながら、私に座るよう促した。
「クレア、よく来てくれた。
……早速だが、事件のことは覚えているか?」
「……はい。途中までなら覚えております。
門が開いた瞬間、不届き者が王妃様を狙って、何か術を放ちました。私は咄嗟に王妃様に覆い被さり……それからは、身体がとても熱くなってーー」
そこから先は話せなかった。意識が朦朧としていたとは言え、快感を感じたなど私の夢の中の出来事かもしれないのだ。私はそのまま口を噤んだ。
「そうか……覚えているのはそこまでか……」
陛下は気まずそうに視線を落とす。王妃様はお腹を手を当てながら、下を向いていたが、顔を上げた。その瞳には涙が滲んでいる。
「クレア……。助けてくれて、ありがとう……!
そして……本当にごめんなさい」
大好きな優しく美しい王妃様。
お守りできたなら本望だ。
「王妃様……私は当たり前のことをしたまでです。
王妃様がご無事で本当に良かったですわ。それに私も何ともーー」
「いや。実は君の身体には、今……呪いがかかっているんだ」
私の言葉を遮って、陛下が言った。
呪い……という恐ろしい言葉に一気に居心地が悪くなる。
「の、呪い……ですか?」
「あぁ……落ち着いて聞いてほしいんだが……
あの術者が放った呪いは、男の……精液を受けなければ生きられない呪いなんだ。今の君の生命力の源は、男から放たれる精液となった。しかも、一人では駄目なんだ。複数人の精液をこれから定期的に受け続けなければならない」
信じられないような話に声の一つも出せない。
まだ男性と一度も交わったことがないのに、これから誰かと身体を重ねなければならないなんて……
「勿論、解呪についても調べさせている。君はナージャを守ってくれた恩人だ。必ず解呪法を見つけ出したいと思うが……しばらくは最低でも二日に一度、男の精液を受け続けることでしか、生きることは出来ない」
そんな……娼婦みたいな生活、出来ない。
でも……死にたくなんてない。
やっと、自分の居場所が見つかったと思ったのにーー
両陛下の前で泣く訳にはいかない……けれど、前が滲んで仕方なかった。私は下を向いて、唇を噛み締める。
ふわっとピーチローズの香りが漂ったかと思うと、私の隣に王妃様が座って、背中をさすってくれた。
「クレア……ごめんなさい。辛いわよね。
泣いていいのよ」
「王妃……様。う、ううっ……!」
私は王妃様が大好きだ。結婚なんかせず、ずっと王妃様のお側にいたいと思うくらいには。
王妃様を守れたことに何一つ悔いなんてない。けれど……これからのことが不安で堪らなくて、死というものがこんなに近くにあるのが信じられなくて、私は涙を止めることができなかった。
少し泣かせてもらい、ようやく頭がスッキリしてきた。
こうなったら覚悟を決めるしかない。この王宮で培われた精神力を今こそ発揮すべき時だ。
お優しい王妃様のことだから……きっと私のことで心を痛めているに違いない。これ以上、王妃様に心配をかける訳にはいかないと、私はハンカチでぐいっと涙を拭った。
「陛下、王妃様……大変失礼致しました。
私はもう大丈夫です。こうなったら娼館に身を落としてーー」
「駄目よっ!!」
王妃様が声を荒げ、私は思わず身体を震わせた。王妃様が声を荒げるところなんてら初めて見た。それに続いて、陛下も私を落ち着かせるようにゆっくりと話す。
「クレア。其方は恩人だと言っただろう?
あの術をナージャが受けていたら、我が国の未来が潰えていたかもしれないんだ。それを防いだ其方をそんな所に私達が落とすはずないだろう」
つい先日、判明したばかりだが、王妃様は陛下の子を身籠っていた。ご結婚されてから、丸三年……ようやく実った子宝だった。確かにこの呪いを受けて、頻繁に男性と交わることになれば、流産の可能性は高くなる。それ以前に王妃様が陛下以外と交わるなんてあってはならないことだ。
「では、どうやって……」
男性の精液を受け続けられる場所なんて娼館以外知らない。
自分から男性を誘うなんて、もっと無理だ。
「後宮を使うといい」
「後宮……ですか?」
「えぇ。あそこはもうずっと使われていないけれど、建物は綺麗に残っているわ。クレアと複数人の男性が暮らすにはちょうど良いと思うの」
「ですが……」
現在の後宮は、先代の王が作った立派な建物だった。
先代は、陛下の叔父にあたる人物なのだが、長年の悪政をしき、国庫を貪り、民衆を苦しめた。その結果、四年前、現陛下によって、倒される。
その先代の全盛期に建てられたのが後宮なのだが……一介の伯爵令嬢である私がここの主になるなんておかしい。あそこは陛下のものだ。
私の不安を払拭するように陛下は力強く言った。
「この三年間、ナージャの側にいたから分かるだろうが、私には彼女だけだ。他の女性を娶る気はない。王宮に私たちの部屋はあるから、私が即位している間、後宮に用はない。私が良いと言っているのだ、遠慮せずに使いなさい。これは命令だ」
陛下からこう言われては断れるはずもない。
「……ありがとうございます。でも、男性はーー」
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「……はい。特におりません。陛下に選んでいただけるのであれば、その方々に協力していただこうと思います」
私がそう言うと、陛下は微笑んだ。
「良かった」
「大丈夫よ、クレア。私もしっかり選んで、話もしたわ。
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「騎士?」
「あぁ。今回は衛兵を取りまとめている騎士団のミスだからな。騎士団長自ら、何でもやると言ってきた。だから、この件に協力してもらうことにしたんだ。騎士は駄目だったか?」
一瞬、あの憎たらしい顔が頭に浮かぶが、私はそれを振り払うように首を横に振った。
「い、いえ……そんなことは」
「良かった。ついでにもう三人は決まっているんだ。
複数人の男性と言ったが、厳密には三人以上の精液が必要でね。
呪いについて知る者によると、理想は五人と言っていたが、誰か追加して欲しい奴はいるか?」
「いえ! ……さ、三人で結構です」
私の呪いに巻き込まれる人なんて少ない方がいいに決まってる。
大体、王宮では「堅物女」と揶揄される私を抱くなんて罰みたいなものだ……業務じゃなきゃやっていられないだろう。
私が言えた義理ではないが、今回協力してくださる方々には賞与でも与えた方が良いとさえ思う。
「そうか? まぁ、途中で増やしたい者がいれば言うといい」
そんなことをしたら、本当に後宮になってしまう。大丈夫だと思うが、絶対に男性に溺れるような自分になりたくない……
私はその後、呪いについての説明を受け、今回協力してくれる男性陣が待つという後宮に向かった。
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