湖畔の妖精

壬玄風

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クリキャン

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 それからもデイキャンプに登山、学園祭などでデートを重ね友情を深めていく正一と奈々。やがて季節は過ぎて行く。



「クリキャンしようよ」

「クリキャン?クリスマスのキャンプ?」

 奈々は正一にクリスマスイブのキャンプを提案する。

「そうだよ。24日の昼から翌日にかけて長いお祭りを楽しもうと思ってるんだ」

 正一は奈々の魅力的な提案に浮かれつつ、少しためらいも感じている。
 キャンプとはいえ、まだ正式につきあっていない奈々と二人で一夜を明かすことに、心の隅で迷いを生じていた。

「ああ、たぶん君の心配していることについては何も問題ないよ」

 奈々の発言に、正一は奈々がそう言うのなら……と、さっそく計画をすすめることになった。


 24日の朝、奈々は車に乗って正一の自宅近くの待ち合わせ場所にやってきた。正一は荷物を車に詰め込み自身も助手席に乗り込む。

 (奈々さんが車を運転する姿はシュールだな……)

「正一君、何か失礼なこと考えてないか?」

「気のせいだよ」


 昼過ぎに目的地に到着し、二人はのんびりとテントの設営などに取り掛かった。
 それが終わると、ほとんど休む間もなく奈々は正一を誘い展望台に向かう。

 小さな展望台からは街並みを一望でき、しばらくの間二人は柵に体重を預けたまま言葉を交わさずに鑑賞していた。
 やがて、奈々は身体を起こして正一に向き直る。

「正一君」

 正一も奈々と向かい合わせに立つ。

「うん」

「君に言わなければいけないことがあるんだ。ずいぶん待たせて申し訳なかった」

「奈々さん……」

 静かに緊張が高まる中、奈々はゆっくりと口を開いた。

「私も正一君を愛しています。おつきあいしてくれますか?」

「はい。喜んで」

 二人は長く溜めこんだ感情が、今ゆっくりと発露する。

 ふたつの影がひとつになり、優しく離れた。


 夕暮れが近づいて来た頃、正一と奈々は目的地のひとつである温泉にたどり着いた。

 正一が男湯に向かおうとすると、奈々が引き留めた。

「待って正一君、こっちだよ」

「え?」

 奈々が指さす先は、貸し切りのエリアだった。奈々は正一には内緒で予約していたのだった。

「やっぱりこっちのほうがいいでしょ?」

「うん……ちょっとびっくりしたけどね」


 脱衣所に入ると、正一が少し手間取っていた。
 奈々が恋人になったことと関係があるのか、身体を見られるのが少し恥ずかしくなっていた。

「あれー?意識しちゃってるのかな?」

 奈々がニヤニヤしているが、彼女も心持ち縮こまっていた。

「奈々さんこそ身体隠しちゃってどうしたの?」

「私はほらシャイだから」

「そうですか」


 二人はなんだかんだで温泉に入り、並んで満天の星空を眺めていた。


「いろんなことがあったね。正一君と出会ってまだ五ヶ月なのに、ずっと昔の事みたいに思えるよ」

「俺も、奈々さんのおかげでいろんなことが経験できた。奈々さんに出会えて本当によかったと思ってるよ」

「私こそだよ。これからも一緒にいろんなこと経験していこうね」

 二人は手を取り合い、再び口づけを交わした。





END

~~~~~

お読みいただきありがとうございました!



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