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第一章 脱出

お話をお伺いしたいのですが

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 妹・理恵が突如失踪した翌朝、理恵の部屋で俺達三人が集っていた。

「あいつはとことん我が家の恥だな!」

「……」

 昨夜窓から逃げ出した理恵に、父・清吾が憤慨する。娘を心配するそぶりなどまったく見られない。
 そもそもが逃げ出さずにはいられないほど酷いことをしたという自覚はないのだろうか。多分ないな。
 さっきから俺が父を睨んでいることにも気づいてないようだ。

「こんなことが知られたら大問題だぞ。最低限の人員で捜索する。健吾と真琴も協力してもらうぞ。学校には病欠と言っておく。幸いあと数日で夏休みだからな」
「そんな、もう体面を気にしている場合ではないでしょう?」

 さすがに母は娘の無事を心配しているようで焦っていた。

 最近はそうでもないが、両親は仕事柄何日も家を空けることが多かった……
 もしかしたら理恵の父親は他にいて、しかも父はその事実を知っているのかもしれないな。
 もちろん何の根拠もないけど、それが非現実的と思えないほど、父の態度は常軌を逸している。いや、普通ならよしんば赤の他人だとしても、多少なり心配しそうなものだが……

 両親が言い合う中、俺は父に協力するふりをしながら隙を見て捜索届を出そうと考えていた。
 ……もっとも、その必要は全くなかったようだけど。



「船橋さーん、いらっしゃいますかー」

 表が俄かに騒がしくなり、三人で玄関に出て扉を開けると数人の警察官が待ち構えていた。用件は俺がなんとなく想像していた通りのことだった。

「理恵さんはご在宅でしょうか」

 明らかに行方不明になったという事実に基づいての質問だった。

 俺達が動かなくとも警察沙汰になることぐらいは想定こそしたが。
 だけど、おかしい。あまりにも早すぎるのでは。
 夜の間に何が動いていたのだろうか。

 両親から部屋に閉じ込められて供述を妨害されたが、すぐに脱出して警察に駆け込み、俺の知る限りの情報を全て暴露してやった。こうなった以上隠す理由などないからな。

 理恵が両親から日々罵倒されていたことについては、小中学生時代の同級生や先生達の証言から裏付けが取れ、二人は留置所に拘束された。
 言葉の暴力に傷害罪が適用できる可能性が高いようだ。

 一方で、警察は家出と誘拐の両面から理恵の足取りを追っていた。
 目撃情報や痕跡は明らかな見間違いや、「箒に乗って空を飛ぶ女の子を見た」などのイタズラやデマ情報を除けば全くのゼロだったそうだ。

「箒に乗って逃げた」……ねえ。
 妹は魔女か何かか。
 いやもう、いっそそうであればどれだけ良いか。
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