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小野寺初穂という人物
しおりを挟む私はもうあまり旅行できる日数も残されてなくて、帰りがてら東京や埼玉に寄り道したりお土産を買ったりしながら家に帰り着いた。
家に帰ると母さんは上機嫌で、私の旅の話をじっくりと聞いてくれた。
無事に旅行を終えてからしばらく経った頃のこと。
部屋を片付けていると、アルバムにはさまっていた一枚のレシートが落ちてきた。
江の島のレストランのものだった。店の名前と電話番号が一部消えてしまっていた。
店の名前なんだったかな?
いったん気にし始めると妙に落ち着かない私は、思い切って初穂ちゃんに聞いてみることにした。
久々にお話がしたかったというのも、もちろんあるけれど。
さっそく、廊下にある電話機で、初穂ちゃんの家の番号にかける。
すると、電話に出たのは、大人の男性の声だった。お父様かな?
相手の人:はい。小野寺です。
私:あのすみません、高橋と申します。以前初穂さんにお世話になったものですが……
相手の人:えっ……?私は初穂の兄の勝明ですが……それはいつのことでしょうか
勝明さんは驚いていた。というのも、初穂ちゃんは二十五年前、十四歳のときに病でこの世を去ったという。
それじゃ、私が会った初穂ちゃんって誰なの?
私も戸惑いながらもなんとか事情を説明して相談した結果、次の休日に勝明さんに会うために横須賀へ行くことを決意した。
土曜日学校から帰ると、新幹線で大宮に行き一泊して日曜日の朝に勝明さんの(そして初穂ちゃんが住んでいた)お宅を訪問した。
奥さんと二人の幼い子供達も歓迎してくれて賑やかなご家庭だった。
子供達の相手をしながらお茶を頂いた後、車に乗せてもらって初穂ちゃんのお墓に向かった。
車中で勝明さんは初穂ちゃんについて話しを続ける。
「初穂は江の島が好きで、家族でよく遊びに行ったんだよ。私と初穂はそのことでよくケンカになったな」
「まあ……」
奥さんもこの話は初めて聞いたようで微笑んでいた。この後、勝明さん夫妻はあまり話す機会がなかったというお互いの昔話に花を咲かせていた。
それはそうとして……やっぱり私が会った初穂ちゃんは地縛霊だったのか。
新しい言葉や有名人などを知らないこと、情報が古いのに妙なところに詳しくて歩き慣れていること、そして突然の別れ……そう考えるといろいろと辻褄があってしまう。
「江の島に運命の人を求めて二十五年もの間立ち止まっていたなんてなあ。地縛霊なんて信じがたい話だけど、もう間違いなさそうだ。彰子さん、最後に貴方に会えてあいつもきっと幸せな気持ちを胸に旅立てたことでしょう。本当にありがとう」
私は初穂ちゃんを想いながら、墓前に花を手向けた。
どうか安らかに……
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