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鹿島陽那の章

わなこれ

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これは、平凡な女子高生であるヒナこと鹿島陽那が学校から帰る途中の出来事。





七月十日。
夕陽に照らされた空の下、あまり人通りのない住宅街を足早に歩いていると、ふと野良猫と目があった。


「ふにゃ~」


というか、ずっとこっちを凝視してた。そりゃ高確率で目もあうだろうさ。
見たこともないような綺麗な毛並みの白猫で、思わず見とれてしまう。


「お~、おいでシロ~」


勝手に名をつけた上、特に意味もなく手を伸ばして呼び寄せると、まっすぐこちらに向かって来た。
どうしよ、本当に来るとは思わなかった。

そう思っていたら、シロ(仮名)は私の目の前でダンスを始めた。
えっ何?猫って突然踊るの?

と思ったらすぐに尻餅をついた。無茶しやがって……

思考が追い付かずフリーズしていたら、なんとシロは私のかばんを漁り始めた。


「わっ、ちょっと!?」


不測すぎる事態に私は対応が遅れ、その間にシロはペンケースを地面にたたきつけていた。


「やめて!壊れちゃう!」


私が慌ててペンケースを取り上げると、今度はノートを加えて引っ張り出してきた。

そうか、わかったよ。
ペンと紙を使って何かを伝えようとしているんだ。


「書きたいの?」


私が言うとシロはおとなしくなって、頷いた。
よかった。言葉が通じるみたいだ。

ノートを開いて地面に置き、シロにペンを持たせようとすると、ぽろりと取り落とした。
ああ、どうやら猫の手はペンを持つように出来ていないみたい。
これを借りたいぐらい忙しい状況ってあるんだね。

シロは悪戦苦闘の末、両手を使ってペンを操っていた。
そしてついにノートにペンを走らせる。

《わナこレ


わなこれ?


猫に平仮名は難しかったらしく、ここまで書いたところで横線を引いて書き直した。
妙に几帳面だなあ。

今度はカタカナで挑戦。
当然猫の手なのでかなり下手な字だけど、これなら充分解読できそうだ。


《ワタシ サキ ダヨ♪》


微妙に余裕あるなこいつ。


……って。サキ?

サキというのは、私の幼馴染、高階美咲(16)で間違いないだろう。
幼稚園時代から中学までずっと仲良しで、別の高校に進学してからも交流は続いたけど、最近は忙しさから少し疎遠気味になってきていたけどね。


「なるほど、お前は本当にサキなのか。ふむ、些か信じがたい事だが……だとするとなんで猫になってんの?」


《呪ワレタ〇 呪イトクタメ キス シテ》


マジか。
まあ猫が文字を書いてるのを目の当たりにしてしまった今、呪いの存在が嘘とも言い難いな。

余談だけど、「〇」ってのは句点じゃなくて感嘆符を可愛く書こうとしたらしい。


「キス?私がすればいいの?」


シロは頷いた。

キスしようと抱き上げるとサキはなんと手を伸ばして抵抗し、腕からすり抜けていった。

「えぇ……?」


なぜ逃げる!

サキが走り去るのを見て追いかけると、適度に距離を空けて走っていく。


「待ってー!」


逃げているというより、私をどこかに連れて行こうとしているのだろうか。
いいだろう、どこまでもつい……てい……く……

角を一つ曲がった先のシャッターの下りた店とマンションの隙間に入り込むサキ、息を切らしながらも、なんとか後を追う私。
猫って……速いんだね。

サキが立ち止まる。そしてその先にあったのは……


「これ、サキの制服?」


サキは頷く。

ああそうか。
猫に変身した今のサキは裸なのか。
それなら場所を考えて解呪しないといけない。
路上に全裸の猫がいるのは問題ないけど全裸のJKはまずいもんね。

では、今度こそ解呪の儀式をしてあげよう。
私はサキを再び抱き上げてキスした。

すると……


ポンッ!


と可愛い破裂音が聞こえたと同時に煙のようなものが白猫を包みこみ、ゆっくりとその身体が膨張していった。

……どうでもいいけど、その演出なんかおかしくね?

数秒後、目の前の白猫は予想通りすっぽんぽん美少女に変化していた。


「にゃあああっ!?」

「鳴き声は猫のままなんだね」

「違うよっ!なんでこんなとこで解呪するのさ。ふええ、早く服を!」


人目につかないところとはいえお外で解呪したのはまずかったらしい。


「ごめんよ、とにかく早く服着て。後ろ向いてるから」

「見てもいいから着るの手伝って!ちょっぱやで!」


そんなこと言われてもまぶしくて直視できませんよ?
……とか言ってる場合じゃなく、無事に服を着せてあげることができました。そして、最後に下着を手に取る。


「では最後にぱんつをはかせてあげるねぐふふ」

「貸して、それは自分ではける」

「そう……(´・ω・`)」



その後私達は気まずさとか何とかあって挨拶もそこそこに別れ帰路についたのだった。


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