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7、喪失
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儀式のようだ、と、思う。
「手足をついて口だけで咥えろ」
ローブを脱いで全裸で、床に這ってペニスを咥える。
足枷に鎖一つ増えたこと以外はあまりにも昨夜と同じで、不思議な心地になる。味も匂いも昨夜と同じで、昨夜より薄く感じられて、どこかで入浴したのか、それとも自分が慣れただけだろうかと内心首を捻る。
次第にやり方が理解できてきて、丹念に舌を這わせてみて、よく反応を示す箇所を集中して舐める。同じところばかり舐められるのは面白くないらしく、髪を掴んで頭を揺すられ、唾液の中を泳がせるようにしながら口の内を擦りつける。
「ゥッ」
深く押し込まれてえづきそうになり、噛みそうだと、慌てて口を開く。垂れる涎と混ぜるように啜って咥え直し、唇でつくる輪を狭めて吸い上げる。
「そのままじゃ入んねえンだよ。喉で飲み込め」
押し込まれるのを受け入れようとして、男のやるのと上手く噛み合わず息が乱れる。飲み込む、飲み込む、と、考えながらしゃぶり、ああ飲み込むのか、と不意に合点がいって、嚥下する要領で喉の奥に引き込む。
当たり前にそれ以上入らず、逆にするよう喉から押し出して、もう一度試し、理解する。
これをやらせたいのか、と、飲み込み、吐き出す動きを繰り返せばあからさまに大きくなり、自分の口を使ってあの動きを模しているのが分かる。
「上手いじゃねえか。いい子だな」
頭を撫でられて、死ぬほど消沈する。
不意に引き抜かれ、顎を掴まれ男の顔を見る。斜めに吊った口角を見ながら、瞬き。
「その面、」
しまった、と、顔を背けて隠すところに、ベッドに上がって四つん這いになれと、聞こえた言葉に立ち上がる。シーツの上に手足をつきながら、また、不思議な心地が蘇る。
尻を掴まれ穴と周りを揉み解され、昨夜より容易く息が上がる。もう、心地良いと言う他ないそれに、顎を引いて耐え。
「、」
指を入れられるのが、昨夜より早い。その理由を考えまいと、目を伏せる。次第に、どういう風にされているのか、自分がどうしているのか曖昧になってくる。
「……、」
指が繰り返しそこを擦って抜き挿しされる感覚に、つきたくなる肘を堪え、少し屈めてシーツに額を擦りつける。クスと小さく笑う吐息が聞こえて、肩が跳ねる。
何を笑われたのか、知りたくない。
身体が勝手に、動く。身が捩れて、逃れるよう前に出ようとすると強く引き戻され、シーツを握り締める。
「…、…、」
ゆっくりと掻き混ぜられ、顎が浮く。振り返って確かめたい。否、何も確かめたくない。腰から下の感覚が甘く曖昧で、しきりにぼうっとする。
「あっ、……ッ、ンゥ……」
指を引き抜かれたと思った途端に、入れ替わりのように勃起したペニスを挿入されて、思わず上げた声を慌てて噛み殺す。
「っ、、…ッ、ク、……、…ふ…」
じっくりと押し込まれる感触が。
「…、…、」
男が止まった隙を使うように、上がる息を押し殺し、宥める。息が整いかけたところで引かれ、背が反る。
「……!」
ゆっくり、否、昨夜よりは速い。出入りし始めるそれは単調で、同じところが同じように繰り返し擦れて、腹の中が熱い。屈するように肘を折ってシーツを抱き、顔から胸まで擦りつける。
「いや、だ……」
堪らず上げる声に、聞こえたのが笑う息で、歯噛みする。
「そうかよ」
「っ、待っ!…ッ」
言い訳のしようもなく勃起したペニスを握られて、顔に血が上る。腫れた熱を、それより温度の低い掌で包まれるのに、息が抜ける。
「ま、待、あ、っ、…ッ、ァ、……ま、頼、…っ」
扱かれると、ただ握られているより掌の感触が強い。勃起が増して重さを増すペニスが、包皮を薄くして敏感になっていく。他者から施される手淫は当たり前に善くて、腰が揺れる。
自分が動くせいで、腹の中に男の逸物が動き回る。
「は、…ぅ、ッ、ン、ゥ、……ハ、だめ、駄目だ、…頼む、からっ」
懇願するほど、それが聞き入れられないことを分かる。押さえつけられ、尻を犯されながら、初めて射精した。
その上で腹の中に出され、文字通り打ちひしがれる。
それでも、目を覚ますと朝で、眠っている鬼、否、アギレオの向こうに見える室内は牧歌的だ。呆然としたまま、身だけは起こして、昨朝と同じように出て行く長身を見送る。
見送ってからまたベッドに身を横たえ、しばらくぼんやりしても、矢張り起き上がってローブを羽織る。
どこへ行く気もなく、水を飲もうか考えながら、カウチソファに腰を下ろす。窓が近くて、ふと思いついて寝そべってみれば、窓に切り取られた空が見える。少しうとうとして、目を覚ますと空の色が少し違い、日が高くなっている。
立ち上がって窓に近寄り、外を眺める。見える範囲には建物らしいものはなく、疎らな低い草が少し広がり、木々が近い。不意に、少し離れたところにロープを渡した支えが立っているのを見つけて、洗濯物を干すのか、と思い当たり。あの男が洗濯してそれを干しているところを想像して、音も無く少し笑った。
その夜は、また最初の夜と同じように、口淫を命じられた後に寝台の上にあがり、今度は陰茎には触れられず、達することのないまま後ろだけ犯された。
けれどひどく乱れたような気がして、身を横たえ、眠る男の顔を眺めながら茫洋とする意識に任せる。
身悶え撓む背を、掌を擦りつけるようにして何度も撫でられ、その感覚にひどく困ったのが、やけに記憶に残っている。
知らしめられているところまでは分かるのに、何を知らしめられているのかが掴めない。そっと、恐れるように手を伸ばして、褐色の頬に触れる。少しだけ肌を撫でて、また手を引いた。
台所から椅子をひとつ借りてきて、寝室の窓辺に置いた。
窓は台所にもあるが、閉じたままの窓掛を開いてみる勇気はない。寝室を背にして木立に向いた窓辺に行儀悪く肘をつき、見るともなく、緑が揺れるのを目に触れさせておく。硝子越しに木の葉が風にさやぐのが聞こえる。そのさなかに鳥の鳴き声が時折混じり、合間にカタカタと、こちらは窓の鳴る音。それから、耳を澄ませばもう少し遠く、人々の話し声らしきも。
目を閉じて耳を傾けながら、境の森へ行く夜に、振り返り見た灯りを思い出す。壁一枚向こうに、ヒトが暮らしているらしい。ほんの数日前の自分と同じように。
それが全て、残虐さだけでできた鬼だったらマシだったろうかと考えて、馬鹿馬鹿しい、と、目を開いた。
ぼんやりしている内にまた夜が来て、アギレオが戻ってきただけで狼狽えている自分に狼狽える。
命じられてもいないのに寝台の傍に立ち、それに気づいたアギレオに無言で見つめられ、やり場をなくす。
「あの…」
「なんだ」
「……分からない……」
「なんだそりゃ」
近付かれる足音がやけに鮮明で、足元から辿るようにその顔を見上げる。ローブの留めに手が掛かり、解かれて顔を背ける。剥がれて落とされ、身を晒せばいっそほっとして。床に這えと言われるのを待って顔を上げる自分を、どこか遠くで訝しむ。
「ベッドに上がれよ」
「…分かった」
困惑しながら寝台に上がり、仰向けに寝ろ、と言われて、一瞬動けなくなる。けれどそれに従わない内に次はないようで、やはり困惑しながら、身を返して仰向けに背を着く。想定外に無防備で、褐色の顔から目が離せなくなる。
口でさせる時のように寝台に腰掛けるのを見守り、伸びてくる手に顎を掴まれて、なんだか眉が下がる。
「お前な」
少し皮肉っぽく、片頬で笑っている顔を見上げ、言葉の続きを待つ。
「いつまでそうやって、強姦されてる面でいるつもりだ?」
思いがけない言葉はけれど、確実に何かに刺さって、目を瞠る。答えようと口を開くが、言うべきことが決められず、言葉が出ない。
「お前がやるっつったんだろう」
「あ、ああ…」
中身のない声が、ただ漏れる。
「"確かに言った"だっけ?」
覚えている。覚えているが、やはり二の句は次げず、顎を掴んでいる手に、手を重ねる。緩む手指を握り、考えを纏めようと、視線を外してうろつかせ。
「………すまない、」
「ああ」
「……女に……なったことがなくて…」
ブホッと盛大に噴き出すのが聞こえて、顔を向けられない。耳の先まで熱くなって、確かめなくても赤くなっているのが自分で判る。
掻き上げて退けるように髪を撫でられ、目だけようやく向け。そのまま顔の向こうに手が着かれ、影が差して。近付いてくる顔が、どうするのかは解る。
目を閉じて唇を受けるだけで、少し息が浮く。擦りつけられ、やんわりと吸われて、啄んで返す。淡く唇を開いて、その吐息をすくうように少し吸う。吐息が混じり、啄み合い、擦りつけ合う唇から、顔だけでなく全身が熱い。
唇が離れて、身を起こすアギレオを目で追う。服を脱ぎ始めるのを見て、少し目を伏せ。そういえば、今まではいつ脱いでいたかも知らない。まだ4日目とはいえ毎晩見ている筈の身体を見つめ、脱ぎ終えてこちらを向くのに、また目を逸らす。
先と同じようで、けれど今度はそのまま、手でなく腕を置くよう顔を寄せられ、迎えるように目を向ける。
「口開けて、舌出してみせろよ」
言われた通りに舌を出して、羞恥心で少し目眩がする。どうしてそんなに人を辱めるのが巧みなのか、意味が分からない。
「ぁ…」
舌に舌で触れられ、声が零れる。
「ぁ、ぅ……ン…」
舌同士を絡ませ合い、時折角度を変えて甘く唇を噛み合い、擦りつけ合う。口の中に入ってくる舌をしゃぶって啜り、独特の重みのある柔らかさを味わう。恐れるように今度は自分から差し出せば、彼の口の中に招かれ、唇と舌で捏ねられる。
他人の匂いだった唾液が混じって分からなくなり、口の中に溢れて飲み込むのにひどく喉が鳴る。
「は……ァ、……ふ、」
腿に触れる掌が肌をじっくりと捏ね回しながら上がり、腰骨を丸めるように撫でられて、少し、勝手に身体が捩れる。
舌が離れて遠退く唇が、そのまま顎を滑り首筋をなぞって降り、腰から脇腹へと上がってくる掌と近付くのが不安で、シーツを掴む。喉をしゃぶられながら胸を掴んで揉まれ、上がる息が少し苦しい。
胸の肉を寄せるように掴んだ手指が窄まり、乳首をつまむ。妙な感じしかしないそこが、けれど、つまんで捏ねられ、指の腹で擦られ、感覚が変わっていく。手と顔が一瞬離れ。
「あっ」
舌で濡らされ、声が出る。
尖らせた舌先で弾くように弄られ、腰の裏が痺れる。広くした舌に舐め上げられて、背が浮き。
「ぁ、ぁ、……ふ、…ン、…ん、ぁ、」
胸を離れて腹を撫で下りる手が、逸れるように腿の内側へ揉み込み、勝手に膝が離れてしまう。けれど足の付け根を揉まれるだけで、脚の間に届かないのがもどかしく、腰が時折浅く跳ねる。
腿から膝にゆっくりと擦って下りる手に、片足、それから逆の膝と、大きく、あからさまに脚を開かされて、目を開いた。
ああ、今度は犯されるのではなく抱かれるのだと、分かる。
「手足をついて口だけで咥えろ」
ローブを脱いで全裸で、床に這ってペニスを咥える。
足枷に鎖一つ増えたこと以外はあまりにも昨夜と同じで、不思議な心地になる。味も匂いも昨夜と同じで、昨夜より薄く感じられて、どこかで入浴したのか、それとも自分が慣れただけだろうかと内心首を捻る。
次第にやり方が理解できてきて、丹念に舌を這わせてみて、よく反応を示す箇所を集中して舐める。同じところばかり舐められるのは面白くないらしく、髪を掴んで頭を揺すられ、唾液の中を泳がせるようにしながら口の内を擦りつける。
「ゥッ」
深く押し込まれてえづきそうになり、噛みそうだと、慌てて口を開く。垂れる涎と混ぜるように啜って咥え直し、唇でつくる輪を狭めて吸い上げる。
「そのままじゃ入んねえンだよ。喉で飲み込め」
押し込まれるのを受け入れようとして、男のやるのと上手く噛み合わず息が乱れる。飲み込む、飲み込む、と、考えながらしゃぶり、ああ飲み込むのか、と不意に合点がいって、嚥下する要領で喉の奥に引き込む。
当たり前にそれ以上入らず、逆にするよう喉から押し出して、もう一度試し、理解する。
これをやらせたいのか、と、飲み込み、吐き出す動きを繰り返せばあからさまに大きくなり、自分の口を使ってあの動きを模しているのが分かる。
「上手いじゃねえか。いい子だな」
頭を撫でられて、死ぬほど消沈する。
不意に引き抜かれ、顎を掴まれ男の顔を見る。斜めに吊った口角を見ながら、瞬き。
「その面、」
しまった、と、顔を背けて隠すところに、ベッドに上がって四つん這いになれと、聞こえた言葉に立ち上がる。シーツの上に手足をつきながら、また、不思議な心地が蘇る。
尻を掴まれ穴と周りを揉み解され、昨夜より容易く息が上がる。もう、心地良いと言う他ないそれに、顎を引いて耐え。
「、」
指を入れられるのが、昨夜より早い。その理由を考えまいと、目を伏せる。次第に、どういう風にされているのか、自分がどうしているのか曖昧になってくる。
「……、」
指が繰り返しそこを擦って抜き挿しされる感覚に、つきたくなる肘を堪え、少し屈めてシーツに額を擦りつける。クスと小さく笑う吐息が聞こえて、肩が跳ねる。
何を笑われたのか、知りたくない。
身体が勝手に、動く。身が捩れて、逃れるよう前に出ようとすると強く引き戻され、シーツを握り締める。
「…、…、」
ゆっくりと掻き混ぜられ、顎が浮く。振り返って確かめたい。否、何も確かめたくない。腰から下の感覚が甘く曖昧で、しきりにぼうっとする。
「あっ、……ッ、ンゥ……」
指を引き抜かれたと思った途端に、入れ替わりのように勃起したペニスを挿入されて、思わず上げた声を慌てて噛み殺す。
「っ、、…ッ、ク、……、…ふ…」
じっくりと押し込まれる感触が。
「…、…、」
男が止まった隙を使うように、上がる息を押し殺し、宥める。息が整いかけたところで引かれ、背が反る。
「……!」
ゆっくり、否、昨夜よりは速い。出入りし始めるそれは単調で、同じところが同じように繰り返し擦れて、腹の中が熱い。屈するように肘を折ってシーツを抱き、顔から胸まで擦りつける。
「いや、だ……」
堪らず上げる声に、聞こえたのが笑う息で、歯噛みする。
「そうかよ」
「っ、待っ!…ッ」
言い訳のしようもなく勃起したペニスを握られて、顔に血が上る。腫れた熱を、それより温度の低い掌で包まれるのに、息が抜ける。
「ま、待、あ、っ、…ッ、ァ、……ま、頼、…っ」
扱かれると、ただ握られているより掌の感触が強い。勃起が増して重さを増すペニスが、包皮を薄くして敏感になっていく。他者から施される手淫は当たり前に善くて、腰が揺れる。
自分が動くせいで、腹の中に男の逸物が動き回る。
「は、…ぅ、ッ、ン、ゥ、……ハ、だめ、駄目だ、…頼む、からっ」
懇願するほど、それが聞き入れられないことを分かる。押さえつけられ、尻を犯されながら、初めて射精した。
その上で腹の中に出され、文字通り打ちひしがれる。
それでも、目を覚ますと朝で、眠っている鬼、否、アギレオの向こうに見える室内は牧歌的だ。呆然としたまま、身だけは起こして、昨朝と同じように出て行く長身を見送る。
見送ってからまたベッドに身を横たえ、しばらくぼんやりしても、矢張り起き上がってローブを羽織る。
どこへ行く気もなく、水を飲もうか考えながら、カウチソファに腰を下ろす。窓が近くて、ふと思いついて寝そべってみれば、窓に切り取られた空が見える。少しうとうとして、目を覚ますと空の色が少し違い、日が高くなっている。
立ち上がって窓に近寄り、外を眺める。見える範囲には建物らしいものはなく、疎らな低い草が少し広がり、木々が近い。不意に、少し離れたところにロープを渡した支えが立っているのを見つけて、洗濯物を干すのか、と思い当たり。あの男が洗濯してそれを干しているところを想像して、音も無く少し笑った。
その夜は、また最初の夜と同じように、口淫を命じられた後に寝台の上にあがり、今度は陰茎には触れられず、達することのないまま後ろだけ犯された。
けれどひどく乱れたような気がして、身を横たえ、眠る男の顔を眺めながら茫洋とする意識に任せる。
身悶え撓む背を、掌を擦りつけるようにして何度も撫でられ、その感覚にひどく困ったのが、やけに記憶に残っている。
知らしめられているところまでは分かるのに、何を知らしめられているのかが掴めない。そっと、恐れるように手を伸ばして、褐色の頬に触れる。少しだけ肌を撫でて、また手を引いた。
台所から椅子をひとつ借りてきて、寝室の窓辺に置いた。
窓は台所にもあるが、閉じたままの窓掛を開いてみる勇気はない。寝室を背にして木立に向いた窓辺に行儀悪く肘をつき、見るともなく、緑が揺れるのを目に触れさせておく。硝子越しに木の葉が風にさやぐのが聞こえる。そのさなかに鳥の鳴き声が時折混じり、合間にカタカタと、こちらは窓の鳴る音。それから、耳を澄ませばもう少し遠く、人々の話し声らしきも。
目を閉じて耳を傾けながら、境の森へ行く夜に、振り返り見た灯りを思い出す。壁一枚向こうに、ヒトが暮らしているらしい。ほんの数日前の自分と同じように。
それが全て、残虐さだけでできた鬼だったらマシだったろうかと考えて、馬鹿馬鹿しい、と、目を開いた。
ぼんやりしている内にまた夜が来て、アギレオが戻ってきただけで狼狽えている自分に狼狽える。
命じられてもいないのに寝台の傍に立ち、それに気づいたアギレオに無言で見つめられ、やり場をなくす。
「あの…」
「なんだ」
「……分からない……」
「なんだそりゃ」
近付かれる足音がやけに鮮明で、足元から辿るようにその顔を見上げる。ローブの留めに手が掛かり、解かれて顔を背ける。剥がれて落とされ、身を晒せばいっそほっとして。床に這えと言われるのを待って顔を上げる自分を、どこか遠くで訝しむ。
「ベッドに上がれよ」
「…分かった」
困惑しながら寝台に上がり、仰向けに寝ろ、と言われて、一瞬動けなくなる。けれどそれに従わない内に次はないようで、やはり困惑しながら、身を返して仰向けに背を着く。想定外に無防備で、褐色の顔から目が離せなくなる。
口でさせる時のように寝台に腰掛けるのを見守り、伸びてくる手に顎を掴まれて、なんだか眉が下がる。
「お前な」
少し皮肉っぽく、片頬で笑っている顔を見上げ、言葉の続きを待つ。
「いつまでそうやって、強姦されてる面でいるつもりだ?」
思いがけない言葉はけれど、確実に何かに刺さって、目を瞠る。答えようと口を開くが、言うべきことが決められず、言葉が出ない。
「お前がやるっつったんだろう」
「あ、ああ…」
中身のない声が、ただ漏れる。
「"確かに言った"だっけ?」
覚えている。覚えているが、やはり二の句は次げず、顎を掴んでいる手に、手を重ねる。緩む手指を握り、考えを纏めようと、視線を外してうろつかせ。
「………すまない、」
「ああ」
「……女に……なったことがなくて…」
ブホッと盛大に噴き出すのが聞こえて、顔を向けられない。耳の先まで熱くなって、確かめなくても赤くなっているのが自分で判る。
掻き上げて退けるように髪を撫でられ、目だけようやく向け。そのまま顔の向こうに手が着かれ、影が差して。近付いてくる顔が、どうするのかは解る。
目を閉じて唇を受けるだけで、少し息が浮く。擦りつけられ、やんわりと吸われて、啄んで返す。淡く唇を開いて、その吐息をすくうように少し吸う。吐息が混じり、啄み合い、擦りつけ合う唇から、顔だけでなく全身が熱い。
唇が離れて、身を起こすアギレオを目で追う。服を脱ぎ始めるのを見て、少し目を伏せ。そういえば、今まではいつ脱いでいたかも知らない。まだ4日目とはいえ毎晩見ている筈の身体を見つめ、脱ぎ終えてこちらを向くのに、また目を逸らす。
先と同じようで、けれど今度はそのまま、手でなく腕を置くよう顔を寄せられ、迎えるように目を向ける。
「口開けて、舌出してみせろよ」
言われた通りに舌を出して、羞恥心で少し目眩がする。どうしてそんなに人を辱めるのが巧みなのか、意味が分からない。
「ぁ…」
舌に舌で触れられ、声が零れる。
「ぁ、ぅ……ン…」
舌同士を絡ませ合い、時折角度を変えて甘く唇を噛み合い、擦りつけ合う。口の中に入ってくる舌をしゃぶって啜り、独特の重みのある柔らかさを味わう。恐れるように今度は自分から差し出せば、彼の口の中に招かれ、唇と舌で捏ねられる。
他人の匂いだった唾液が混じって分からなくなり、口の中に溢れて飲み込むのにひどく喉が鳴る。
「は……ァ、……ふ、」
腿に触れる掌が肌をじっくりと捏ね回しながら上がり、腰骨を丸めるように撫でられて、少し、勝手に身体が捩れる。
舌が離れて遠退く唇が、そのまま顎を滑り首筋をなぞって降り、腰から脇腹へと上がってくる掌と近付くのが不安で、シーツを掴む。喉をしゃぶられながら胸を掴んで揉まれ、上がる息が少し苦しい。
胸の肉を寄せるように掴んだ手指が窄まり、乳首をつまむ。妙な感じしかしないそこが、けれど、つまんで捏ねられ、指の腹で擦られ、感覚が変わっていく。手と顔が一瞬離れ。
「あっ」
舌で濡らされ、声が出る。
尖らせた舌先で弾くように弄られ、腰の裏が痺れる。広くした舌に舐め上げられて、背が浮き。
「ぁ、ぁ、……ふ、…ン、…ん、ぁ、」
胸を離れて腹を撫で下りる手が、逸れるように腿の内側へ揉み込み、勝手に膝が離れてしまう。けれど足の付け根を揉まれるだけで、脚の間に届かないのがもどかしく、腰が時折浅く跳ねる。
腿から膝にゆっくりと擦って下りる手に、片足、それから逆の膝と、大きく、あからさまに脚を開かされて、目を開いた。
ああ、今度は犯されるのではなく抱かれるのだと、分かる。
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