挿話彩色/「この奇妙なる虜」小話つめ

家に置いておいたエルフが蛹になった

　また勝手に椅子を動かして窓辺に座っているなと思っていたら、朝毎夜毎にもやもやした何かをまとって増やし、声を掛けてもうとうととして、今朝は遂に、奇怪な、だが見慣れた形の大きな塊になっていた。
　淡い黄緑色の動かぬ化け物を見下ろしながら、誰かが、エルフというのは動物というより植物に近いと言っていたのを思い出す。

　仕事も放り出してカウチに腰掛け、一日それを眺めていたら、次第に萎れてきた。

　日光に負けているんだろうかと、水も与えず助けてやりもせず、みるみるしぼんでいくのを見守る。
　さすがエルフ、変わった死に方だと思って見ていて、ふと、気がつく。ヒトの形になり始めている。
　なるほどそういえばそういう姿勢だったなと、片方の踵だけを椅子に掛けて片方は垂らし、少し窓に寄り掛かった形の薄黄緑を眺め。

　日が落ち始めて、森の陰になりがちな窓の色すら変わる頃にふいに、パキ、と小枝を踏みつけたような音がする。
　音の正体を探して立ち上がり、植物だか動物だかもあやしい、傲慢な化け物の様子を窺う。

　緑色の背中が、割れている。

　ズル、ズル、ズルズル、ズルズルズルルルルルルルルルル、と、背筋が勝手に総毛立つような粘着質な音を立てて、割れ目を広げながらクシャクシャの何かが幾らでも出てくる。そのまま脱げていく葉色の膜がズルズルと床に滑り落ち。
　気味の悪いやつだと笑いながら、これでもまだ生きてるのかと呆れる。

「　　　　　　　　」

　バチャッ、と、卵を落とした時のような音を立てて、気味の悪いクシャクシャが垂れ下がる。

　また朝が来て夜が来て、クシャクシャが広がり始めて、それは透き通った玉虫色の翅で、そういえば一度蛹になったなと思い当たる。
「乾くまで待ってくれ」
　窓に凭れるように頭を伏せているくせに、指を伸ばしたのが見えたのか、ようやく声を出したのに、少し考えてから尊重してやる。


　何か言おうとしたところで目が覚めた、と伝えたら、「寓意だな」と面白がるように笑われ、なるほど、と腑に落ちた。