星に牙、魔に祈り

種田遠雷

文字の大きさ
上 下
68 / 74

65、言の葉が掬う心

しおりを挟む
 なにが、と、言われずとも分かって。拳を取り戻し、赤くなる顔を隠す。ろくに慣らされてもいないのに、そこはアギレオのすることを欲して、蠢いているのが自分でも知れ。
 馬鹿、と、詰りながら、腕を伸ばして頭を抱き寄せ、その首筋に顔を隠して。
「最初くらい……優しくしろ、馬鹿者…」
 返答のようにズッと更に押し込まれ、小さく零れる悲鳴をアギレオの肌に押しつけ。
「なるほど? 最初くれえな?」
 無遠慮な動きだが、勝手な風ではなく。己の腹の中に馴染ませるよう、じっくりと擦らせているのは分かる。
 熱に溶けるよう、アギレオの形に動いていくのが悦くて、尚強く、少し腕をずらして抱き締め。
「っ、どう、せ、……ふ、…我慢、できなく、なる…っ」
 なるほど、と笑いを孕む声が若干癪に障るが。
 足を離させられ、腕を解かれ。
 指を絡ませて両手を両手とも握られ、頭の横に縫い止められて、真っ直ぐに顔を見下ろされるのに、眉が下がる。
 そのまま腰を使われ、足を下ろして安定した身の中心、その深くへと淫靡に熱を漕がれて。
 見つめ合ったままの顔に見られていると分かるのに、たまらず、引き結ぼうとする唇が開いてしまう。
「――…っ、……ぅ、ふ、……ふ、くっ」
 声を殺して吐息に浮かし、こらえるせいなのか、身に駆け巡るような熱悦は早く。
 単調なほど、ただじっくりと、疼く尻の孔に熱く濡れたペニスを出し入れされるのが、どれほど善いのかを思い知る。
 足に力を込めて尻を浮かせ、腹の中の善いところを刺激するよう、腰を使い。
 そうしながら、見つめ合うアギレオが次第に眉を詰め、双眸を撓めて時折大きくつく息を震わせ。己は己で、じっとしておられず身を捩っては、互いに感じ入る顔を見、見せていることに高揚して。
「ぁ、アギ、レオ、」
 もう駄目だと言えぬ代わりに、眉を下げて頭を振り。
 思いがけず、俺もだと表情薄く頷かれて、喜びに身が震える。
 我が身を使ってペニスを仕上げるよう、アギレオの動きが速くなり。抱きつこうと動かしかけた手は、留められたまま許されず、脚を上げて忙しない腰に絡みつかせ。
 声を殺したまま、互いに獣のように浅い息ばかり絡ませて。
 アギレオが息を詰めるのに合わせ、身を開いて待ち構える。
「――ァア、……クッ」
 珍しい喘ぎ声に、胸が震える。
 声と共に腹の中に精を吐かれる熱さに、熱望の成就めいて頂を極め。
「……ぁ、ぁっ」
 絶頂は長く、ようやく両手の自由を許され、先に果てたアギレオを抱き締めながら、身の震えに任せた。
 抱き合ったまま長い息を繰り返し、収まっていく呼吸に浮く胸を、汗ばむ肌に擦りつけ。
「アギレオ…」
「…ン?」
「好きだ、アギレオ……」
 果てて白んだ頭と、溶けて失せたような身体の中心に、核のように残る思い。
 他者と触れ合えばいつでも、多くはこぼれていくような心を、残らず掬い取られるこれを、なんと呼ぼうか。
 恋人でも、伴侶でも、夫婦でも、本当は足りないのだ。
 言葉は足らず。けれど、その言葉と、言の葉を裏切らぬ行いが、あふれる心を掬って。
 涙が出るほど、幸福だった。
 よいしょ、とばかりに身を起こすアギレオを、見上げる。
 まなじりと頬を指の腹で拭われ、片寄らぬ頬笑みをたたえた、アギレオの顔が見える。
「俺もだ。お前を好きだぜ、」
 寄せられる額に、額を擦りつけ。
「ハルカレンディア、お前を愛してる」
「っ、」
 胸が詰まって。また涙が溢れる。
「後ろからしてもいいか、ハルカレンディア」
 抜群の効果で、涙が引っ込んだ。
「何故……お前は……そう、…そうなんだ……」
 押しつけ合うような額と胸から震えが伝わって、笑っているのが分かり、口惜しい。
「駄目か」
 けれど。
 笑ってしまう。そういうところも好きだと思えるのが、忌々しい。
「駄目ではない…」
 引き抜かれて上げそうになる声をこらえ、促されて四つん這いに手足をつき。
「……っ、」
 腰を掴まれて身構える尻に押し込まれ、声を殺す。
「んぅ…、」
 互いの体液で散々濡れた挿入は滑らかで、反り返ったペニスが肉筒の内にこすれるのが、たまらない。
「…、っ、……、、」
 手足に力を込めて、先よりも荒々しく出入りする抽送に身を委ね。
「ンっ、……ふ、ぅゥ…」
 繰り返し性腺を轢き潰され、小さく迸る絶頂に胴震いしても、穴を犯す激しさは衰えず。腕を支えていられなくなって、肘をつき、寝具に額を擦りつける頃には、己のペニスからもタラタラとゆるい滴りが落ちる。
「ぁっ、…ぃゃ……」
 頂の上に留まってしまう快感を持て余して、無為に小さく頭を振って。
「ァぐッ!?」
 ドン、と、内側から突き飛ばされたような衝撃に、声が濁った。
 なにを、と、振り返ろうとする耳の先に、噛みつかれ。ひどく深く押し込まれて、震えがあがる。
「……ハル。…奥まで入れてえ…、……ちっと、…ひどくしてもいいか…」
 思いがけず、追い詰められたように掠れて低い、押し殺すような声に、心臓が跳ねて。
「お、奥、奥は…、足が、立たなく…」
 なにより、本当は、あの感覚は少しこわい。
「……、…させてくれ。…なあ。……今夜は、加減してやりたくねえ…」
 強請るというには、強かな。ひとに強要し慣れた悪辣の声は、ひどく艶めいていて。
 好きにしていい、と口にするのが怖くなるほど誘惑的で、頷くだけで答え。
「――っ、」
 ズッ、と弾みをつけるよう長く引く感触に、肩が浮く。
 ズブッと、腹の奥で音が聞こえたかと思うような、深い衝撃。
「ゥくッ、ぃイ、……ッあ、ア゛、ア゛ア゛」
 その手前ほど慣れない奥を一突きされるたび、身が崩れていくかと思うほど、強烈な感覚を。
 けれど当然、一度で終わるはずなく、繰り返し、繰り返し壊される。
「ヒぃ、い゛、、んィっ、ぃゥッ、――ふグ、」
 身体中の、穴という穴から、体液が漏れ出ていく気がする。身の末端のすべてが火照り、絶頂が常態になるようで。
「あ゛あ゛、は、あ゛ー…、あ゛ー…、」
 おかしい、と、ふいに、遠くで思い浮かぶ。喘ぎとも呼べるかどうか、垂れ流すばかりのみっともない声も遠く。
 ひどく腹の深いところを、破るよう突き刺しては引く、そんなところまで入られたことがない。
 アギレオのペニスを根まで受け入れたことは何度もあるのに、そんなところを犯されたという覚えがない。
 お前、なんだか大きくなっていないか?と問えば、俺もそう思う、とあっさり答えられ、やはりそうかと腑に落ちたような。そんな会話を交わせているはずがないのに、そう納得して、奇妙だということは分かる。
 馬鹿なことを考えているような頭から、時折不意に身体感覚にまた呼び戻され、尻の中から腹の深いところまでをみっちりと満たして弄ばれる、抉るような快楽に恍惚とし。
「あ゛ッ!」
 その、自分でも初めて知るような深みに留まられ、アギレオが息を詰める気配に、鳥肌が立つ。
「あっ、ぁ、ぁ、……あッ、ああぁ…」
 身の深くに射精されて、絶頂しながら抱いた感覚は、ほとんど諦念のような気怠さだった。
「あっ?」
 入ったままのような感覚がするのに、仰向けに裏返され、また突き刺されて目を剥く。
 感覚が狂ってしまっているのが、どこか遠くで恐ろしい。
「あうっ、ひぁッ、ぃや、も、いや、アギレオ、アギ、奥、おく、いや、も、やめ、」
 尻を持ち上げられて、腹から二つに折るよう押し込まれ、大きく開かされた足が宙に浮く。
 執拗に犯されているそこ以外、己の身体を見失うような感覚に、もがいて寝具を掴み。
「ン…? いいぜ、なら、…ゆっくり突いてやるよ」
「あっ♡」
 トン、と柔く着地してから浅く押し込み、粘るように引く動きに、甘い痺れが脳天まで伝う。
「あ♡、あっ♡ あ、なに、なにして、うんッ♡」
「ハ……すげえ声……気持ちいいか…」
「いっ♡ ぁ、あぅ♡ んぃ、んヒ♡ はっ♡、あ♡、だめ♡、アギ♡、アギレオっ、あ♡あ♡あ♡、あ、イク、あ♡、またイッちゃ…っ♡」
「……ッ、…いいよ、…好きなだけイケよ…」
 笑う声が、甘ったるい。
「はあっ、ぁ、っ、んッ、んぅゥゥ…っ♡」
 身体中を満たしてとろけさせる絶頂感に喘ぐ頬に、淡く牙が食い込むほど噛みつかれ。
「ハル……すげえ可愛い…」
 あっ、と、思わずまた声を上げる。
 グッと、奥へ押しつけられ、予感に震え。
「だめだ、…今、待て、まだ、あっ! あンっ♡」
 まずい、駄目だ、と、溶けきった下から理性の声が聞こえるのに。
「は、ぁ、ああ、…ァ、中ぁ…♡ なかに…♡」
 奥がもう、あふれるというより、重く詰まっている感覚すらする。
 震えながら絶頂を重ねて、思考がもつれ絡まる。
「お前…俺が出すとイクよな…。中に出されっと気持ちいいのか…」
 掠れて笑う気怠い声が、色めいて聞こえ。
 手で探って、おぼつかなく指でアギレオの顔を撫で回しながら、頷く。
 腹の中で射精される感覚は、強くはないのに、深く充実するような性感があっていつも少し極めてしまう。
「アー…全然収まらねえ。…もう一回していいか」
 もう、どこか分からぬアギレオの肌に顔を擦りつけ、慌てるよう懸命に首を横に振って。
「だめだ……に、妊娠しそうだ…」
 ハハッと声を上げて笑うアギレオに、密かな怒りすらある。
「いいじゃねえか。しちまえよ」
「よ、よくない…」
「産ませてやるよ。ほら、脚開け。ちゃんと育ててやっからよ」
「あっ、あ、だめ、駄目だ、」
しおりを挟む
web拍手 by FC2
感想 5

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

転移した体が前世の敵を恋してる(旧題;砂漠の砂は海へ流れ)

せりもも
BL
ユートパクス王国で革命が起きた。貴族将校エドガルドは、王への忠誠を誓い、亡命貴族となって祖国の革命政府軍と戦っていた。エイクレ要塞の包囲戦で戦死した彼は、ユートパクスに征服された島国の王子ジウの体に転生する。ジウは、革命軍のシャルワーヌ・ユベール将軍の捕虜になっていた。 同じ時間軸に転生したエドガルドは、再び、王の為に戦いを続けようと決意する。手始めに敵軍の将軍シャルワーヌを亡き者にする計略を巡らせる。しかし彼の体には、シャルワーヌに対する、ジウ王子の激しい恋心が残っていた……。 ※革命軍将軍×異国の王子(亡命貴族) ※前世の受けは男前受けで、転生してからはけなげ受けだったはずが、どんどん男前に成長しています ※攻めはへたれで、当て馬は腹黒、2人ともおじさんです ※伏線、陰謀に振り回され気味。でもちゃんとB(M)Lしてます [表紙]Leonard,ai

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...