星に牙、魔に祈り

種田遠雷

文字の大きさ
上 下
46 / 74

43、鬼の霍乱

しおりを挟む
 腰を離されて手が浮き、触れ足りなくて背を抱き寄せる。少なくとも冷たくはない。
 粗雑に下着ごと下衣を下ろされ、解放されて跳ね上がる勃起の、揺れが止まるのも待たずに握られ、浮いた腰が食卓にぶつかった。
「あっ? あっ、ァっ、アギレオ、なにを、そんな、」
 忙しない手淫しゅいんで追い立てられるのが急で、快楽と焦りが混じるのを扱いかねて、身をよじる。
「ぁッ、あっあっ、あ、何故、アギ、――ッぅ!」
 上衣に這い込む手が乳首をつねり、右の乳首とペニスの性悦がつながるのをきっかけに、全身が連鎖するよう次々に快感を呼び起こし。
「は! ぁ、……痛…」
 追い立てられる陰茎は容易く、戸惑いながらも拒む理由がなくて、まるでとどめだとでもいうよう、首筋に噛みつかれて射精してしまう。
 しびれるような深い痛みに身を逃がしながら、食い荒らされたような心地で、食卓に片手をついてもたれかかって。
「なんだお前…、なあ、アギレオ、」
「今かよ。後でいいだろ」
「うわ!」
 手首を引き、逆の肩から裏返すようにして食卓の方を向かされ。
「なッ…!?」
 足で軽く押しのけ脚を開かされ、迷いも遠慮もなく、指を入れられる。
「は…!? な、ッん」
 どう用意したのか、薄いぬめりをまとった指が手早く穴の入り口を往復し、感じやすい肛門をそんな風に擦られる抗いがたい悦さに、思わず背を丸めてしまう。
「はっ、あっ、あっ、」
 食卓に腕をついて身を支え、やまぬ快感に尻をもだえさせ。
「はあ…っ」
 入り口の狭さを一通り解して濡らされ、抜けた指に一息つこうとした目を、衝撃に瞠る。
「ァ、グ…ッ!」
 まだとろけぬそこへ突き刺された怒張は充分に太く、強張りを残したまま犯された入り口はズキズキと脈打ち。休ませ馴染むのを待つこともなく、巧みさばかりで腹の中をすぐに擦り始める抜き差しに、戸惑うような肉筒が引きつれて感じる。
「っ、ぅ、、ン、ゥ、く…、」
 彼に寄り添いたいと思う心も、味を覚えた性悦を情交からすすろうと足掻く身体も、唐突さについていけず。
 まるで獣のような動きでそれを進めるアギレオの律動は、情熱的だがどこか単調で。乱暴さの中にも合い乗る間を見つけるのは、身体の方が早い。
 無理な動きにも、次第に互いを思い出すよう、こすれ合うそこは熱を持ち、うるみをにじませ溶け始める。
「…ぅ、ん、…ンっ、……、ふ、ゥゥ…」
 次第に快楽に塗り変わっていく感覚の中にも、尻の穴には最初の異物感が残っているようで、苦しい。
 狭さをいとうよう脚を開いて、身を乗り出し、食卓の上に膝を上げて尻を拡げる。
 意を得たようアギレオが滑らかに動けば善くなって、腕を屈めて食卓に額をすりつけ、息を抜いた。
 食卓に抱きつくようにして身を支え、心許なさをあやすように、次第に満ちていく快楽をしゃぶる。
 指を食い込ませるように掴んで尻を抉っているアギレオの、息づかいに耳を傾け、その呼吸に己の息を合わせれば、より深く身が崩れる。
「んぅッ!?」
 ようやく馴染んでひたろうとするところに、突然引き抜かれ、声が出る。
「うん!?」
 肩を掴まれ腰に手が回り、と、思った途端に容易く裏返され、アギレオを見上げて目を丸くする。
 背の固い感触、アギレオの向こうの天井を見れば、食卓の上に仰向けに寝かされたのだと遅れて理解が及び。
 額から頬を撫でられ、そちら側の目を思わずつむった。
「……痛かったな、…悪ぃ」
 その憔悴したような顔に、手を伸ばし。頬を包んで耳まで撫でて。行儀悪く、脚を絡ませて抱き寄せて。
「…近頃、少し妙だな、お前。調子が悪いのか?」
 返答がなく、見つめ合ったと思った時間は、短く。
 アギレオの背に絡めた脚を、手をやって緩められ、うん?と瞬いたところに、再び挿入されて、息が跳ねる。
「んぅゥ!?」
 唇を塞がれ、牙を引っかけられては、それを癒やしでもするかに今度は舐められ、唇がわななく。
「あっ、ぁ、ァ、あア、、あっ。あ、アギレオ、ぁ、そこ、そこ、好きだ、すき、」
 上手く快楽に沈めないもどかしさを名残らせていた身体に、今度は甘やかすようにたっぷりと悦いところを弄られ、声さえ崩れて。
 ハル、と、掠れて押さえられた声が、耳に入るのが遠い。
「……ハル、…ハル、っ、どうにもならねえ…」
 お前が欲しい、と、押し殺すよう呻く低い声が耳朶に触れて。
「は――、ぁ、ん、ンぅ!」
 ゾクゾクゾクッ、と、怖気のような震えになって快感が全身に這って満ち、こらえきれず膨らみ爆ぜるよう、腹の深いところが絶頂する。
 アギレオがあえぎを殺している声が、聞こえて。たまらない。
 浅いところで射精され、熱い感触が生々しい。
 それを掻き混ぜて植え付けるよう、そのまま、まだ突き上げ、熱く萎えぬ剛直で何度も何度も内側から扱かれ、そのたび身の内の深いところが濡れて、足の間からぬるいものが溢れるように感じる。
「は、ァ、ぁ、…ぁぅッ、」
 また首筋に噛みつかれて、腑に落ちたような気になる。
 それで噛まれているのかと、思えば、たまらずまた身は震え。
 アギレオのしたがるようにと身を動かしながらも、己自身も押さえがたく、退けられても動かされても、また腕や足を深く絡みつかせて。
「アッ、…ぁグ…!」
 どろどろと溶けてしまったような腹の奥に突き刺され、目の前が真っ赤になって、真っ白になり、極まる快楽と共に流れ落ちていく。
 その中心に男の精を放出される熱い湿りに、陰茎の先から何かがしとどに垂れる。
「は、……ぁぁ、…ぅゥ」
 短い間を置いて繰り返し、首や肩を噛まれ。
 そのまま引き裂いたっていい、と、まだ声は出せず腹の内で甘ったるく呟いた。
 けれど、ブツッ!と、嫌な音が肌から伝わって聞こえ、思わず目の覚めるような痛みに、反射的に逃れようと身体が動いて。
 咄嗟に掴んだアギレオの肩が飛び退くように離れ、浮いた手を戻して、ぬるい感触が伝っている首筋に触れる。
 驚愕、と、呼ぶようなアギレオの表情に気を取られながらも、明らかに流血している首筋を探り。傷の位置を確かめ、指に着いた己の血を確かめる。
 危うい場所を深く傷つけられ、まずいかと焦った胸を、ひとまずは撫で下ろした。
 凍り付いたようなアギレオに、大丈夫と伝えるように頷きを重ね。
「平気だ、大きな血管を裂いてはいない。血の色も濃い、押さえているだけですぐに止まるはずだ」
 アギレオの目が下に逸れる。
 大丈夫、と声を掛けながら、伸ばしかけた手が血で汚れているのに気づいて、手を引き逆の指を伸ばす。少し、予想外なほど呆然と、己の傷を見ているアギレオの頬を包み、撫でてやる。
「…――」
 傷口を指で押さえられ、額を寄せられ目を伏せる。悪かった、と、沈むような声に、大丈夫、と何度でも繰り返して答え。
 清潔な布で噛み傷を手当され、寝台に寝かされた。
 眠れるものか、と思ったのが、アギレオが台所を片付けている物音を聞いている内に、うとうととして。もう少しは経った後だろう、目を覚ますと、すっぽり覆うように抱き寄せられ、ぬくぬくと布団も掛けられて。
 明日は話ができるだろうか、とおぼろに思い浮かべながら、そのまま朝まで眠りに身を委ねた。

 勝手にまとめられた身の回りの品を見ては眉間を寄せ、片付けでもしているような振りをしているが、単に落ち着かないのだろう、うろうろと寝室を歩き回っては物を動かしたり戻したりしているアギレオを見る。
「どういうことだ」
「どうって言うほどのこともねえよ。落ち着くまでしばらくってだけだ、レビんとこでも行ってろ」
「何故だ」
 アギレオが、話をしながらもこちらを向かないことも気に入らない。
「何故ってこともねえだろうよ。次も当たり所がいいとは限らねえだろうが」
 次、当たり所、と一瞬考え、ああと首に巻かれた布を思わず指で触れる。確かめるまでもない、布を少し滲ませたが、もちろん血は止まっている。
「何が危険かは分かったのだから、それは私が気をつけていれば済むことだろう。出て行く理由などない」
「ハ? ハア?」
 突然つかつかと歩み寄られ、見上げる間に押し倒されて、さっき起きたばかりのシーツに仰向けに、両手首を頭の横で縫い止めるアギレオを強く見上げる。
「避けられなかったらどうすんだよ? 間に合いませんでしたじゃ遅えだろうが」
 こんなことで、ほらみろとでも言うつもりなのだろうか。頭を振って応じず。
「お前も気をつければいい。気持ちが高ぶって噛みつく程度のこと、二人で、」
「いやそんなもんじゃねえんだよ」
 深く寄せられる褐色の眉間に、こちらの眉も寄ってしまう。
 これだ、という。気に掛かっていたことの真相を待ち。
「……お前の、……においが…」
 苛立っていたような混色の瞳から、精彩が失われ、けれどすぐに見えなくなる。
 噛みつくように、けれど歯は立てず唇を吸われ、舌を差し入れられて、口を開く。匂い?と内心首をひねる。水浴びは毎夜欠かしていないのだが。
「……ハル、」
 ハル、と呼ぶ声が切ない。
 唇から顎へ、首筋へと唇が這い下り、両手で手繰って脚を開かされる。
 深く短い吐息を混じらせ、辛うじて性急さをこらえているような張り詰めた愛撫に、肌は震える。
 せっかく巻いてくれた布も、指と歯でむしり取られ。
 邪魔だとでもいう風、乾いた血を舐め取り、また歯を立てられるのに、首を動かし危うい位置を避ける。脈打つ場所をどうしても傷つけたいというわけではないようで、かわせばかわした場所に噛みつかれ。
「…ッ!」
 けれど、やはり肌を裂くほど深く牙を立ててくる。
「…苦しいのか?」
 どうにもならない、と、呻いたような声を思い出す。
 首や肩に噛みつく頭を抱いて、あやすように髪を撫でてやった。
しおりを挟む
web拍手 by FC2
感想 5

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

転移した体が前世の敵を恋してる(旧題;砂漠の砂は海へ流れ)

せりもも
BL
ユートパクス王国で革命が起きた。貴族将校エドガルドは、王への忠誠を誓い、亡命貴族となって祖国の革命政府軍と戦っていた。エイクレ要塞の包囲戦で戦死した彼は、ユートパクスに征服された島国の王子ジウの体に転生する。ジウは、革命軍のシャルワーヌ・ユベール将軍の捕虜になっていた。 同じ時間軸に転生したエドガルドは、再び、王の為に戦いを続けようと決意する。手始めに敵軍の将軍シャルワーヌを亡き者にする計略を巡らせる。しかし彼の体には、シャルワーヌに対する、ジウ王子の激しい恋心が残っていた……。 ※革命軍将軍×異国の王子(亡命貴族) ※前世の受けは男前受けで、転生してからはけなげ受けだったはずが、どんどん男前に成長しています ※攻めはへたれで、当て馬は腹黒、2人ともおじさんです ※伏線、陰謀に振り回され気味。でもちゃんとB(M)Lしてます [表紙]Leonard,ai

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...